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大規模で行う不耕起有機栽培を広める、ひいては地球環境を改善するために。手段としてのビールづくりに取り組む「RIKKA」の“小さな挑戦を積み重ねる”歩み方

やりたいことを見つけたとき。叶えたい夢ができたとき。

実現までの道のりが険しかったり、現実からかけ離れていると思えたりするときほど、考えて考えて計画的に物事を進めようとするものです。

たしかにそれも立派な方法のひとつ。ですが、もしかしたらそんなに難しく考え込まず、もっとシンプルに捉えてもいいのかもしれない。

RIKKA LLC.(以下、RIKKA)の鈴木將之さんと菅野小織さんに話を聞いたとき、そんなのびのびとした考えが生まれるのを感じました。

2人で大麦の不耕起有機栽培、そしてビールづくりに取り組むRIKKA。はじまりは、鈴木さんの「農業で地球環境を良くしたい」という思いでした。

挑戦の場としたのは、大規模農業が盛んな農業大国、北海道・十勝。大規模で行う不耕起有機栽培を広めるため、経験や知識のなかった世界に飛び込み、歩みを進めています。

RIKKA グリーンズ

2025年7月20日、よく晴れた日曜日。青空の下、浦幌町の大麦畑で地元生産者によるイベント「麦畑レストラン」が開かれました。

地場食材をたっぷり使った料理と共に振舞われたのは、RIKKAが手がけた浦幌町産大麦100%使用のオーガニックビール。

これまで道内のブルワリーに醸造を委託したり、醸造免許を取ってからは町外産の大麦を使ってビールをつくることはあったものの、原料である大麦を不耕起有機栽培で育てるところから、製麦、醸造、お客さんに届けるまでを自分たちで行ったのは今回が初めて。活動を始めてからの7年間を、鈴木さんは「何も考えず勢いだけでやってきた」と振り返ります。

鈴木さんの言う「考えていない」とは、一体どういうことなのでしょう。「3畝の畑に種を蒔いてしまったところから始まった」というRIKKAのこれまでを辿りながら、思いを巡らせました。

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鈴木將之(すずき・まさゆき)
RIKKA LLC.代表
静岡県出身。子どもの頃に遊んでいた砂浜が地球温暖化の影響で侵食されてしまったことに衝撃を受け、以来環境問題に関心を持つ。2019年に大麦の不耕起有機栽培を始め、2021年4月にRIKKAを創業。札幌でアウトドアアパレルメーカー「パタゴニア」に勤めながら不耕起有機栽培で育てた大麦を使い、ビールづくりに取り組む。

菅野小織(かんの・さおり)
RIKKA LLC.副代表
宮城県出身。鈴木さんとは仙台市のマクロビレストランで働いていた頃に知り合う。2011年の東日本大震災を機に、家族と共に北海道へ移住。その後、豊浦町で地域おこし協力隊をしていた頃に鈴木さんと再会し、RIKKAの活動をスタート。ビールづくりから派生する居場所づくりにも強い関心を寄せる。

農業で気候危機を緩和する。その手段としてのビール

長年アウトドアアパレルブランド「パタゴニア」に勤める鈴木さん。2013年に仙台から札幌の店舗へ異動になり、以来札幌市内で暮らしています。ビールをつくろうと思い立ったのはそれから数年が経った2018年のことです。

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鈴木さん 不耕起有機栽培をやりたかったんです。ビールづくりはその目的を果たすための手段でした。

きっかけとなったのは、「パタゴニア」で販売されている「ロング・ルート」という名のクラフトビール。

「一杯のビールで、地球を救う」というコンセプトのそのビールに、子どもの頃から環境問題や気候変動に関心を持ち、「自分にできることはないだろうか」という思いを抱いてきた鈴木さんは衝撃を受けたと話します。

そのビールの壮大なコンセプトの所以は、原料の穀物を「リジェネラティブ(環境再生型)農業」という農法で栽培していること。

農地環境の肥沃度を維持し、次世代に健全な土壌を継いでいくことを目的としたリジェネラティブ農業。FAO(国際連合食糧農業機関)によれば、そのひとつに挙げられるのが、畑の土を極力耕さない「不耕起栽培」。耕さないことで土壌の有機物を増やし、より多くの炭素を貯留するため、大気中の二酸化炭素の放出を減らす、つまり温室効果ガスの削減につながるとされるこの農法を知ったことで、農業とは無縁の生活を送ってきた鈴木さんの人生は大きく舵を切ることになります。

鈴木さん 農業で気候危機を緩和できる可能性がある。だったら、自分にどこまでできるかわからないけれど、「不耕起栽培」っていうのをやってみて、気候危機が「危機」じゃなくなればいいなと思ったんです。

ここで気になるのが、ビールの原料である大麦を栽培することにした点。不耕起栽培をしたかったのなら、育てる農作物は大麦でなくとも良いはずです。

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鈴木さん 調べていく中で、世界の温室効果ガス排出量の約4分の1は一次産業に由来している(※1)ことがわかって。

大麦は穀物の中で、世界で4番目に生産量の多い作物(※2)。温室効果ガスの排出に大きな影響を与える農業の分野で、世界中で生産されている大麦の不耕起栽培を実現することができたら、地球環境の改善につながるのではと思いました。

それにお酒って、みんな好きじゃないですか。農家さんにとっても育てた作物がビールになるのは、やりがいにつながるのではないかなと。別に日本酒やワインでも良かったのかもしれないけれど、僕はビールを手にみんなでワイワイするあの雰囲気が好きだったんです。

※1 IPCC第5次評価報告書 第3作業部会報告書 図SPM.2より
※2 国連食糧農業機関(FAO)が示した2020年の統計データより。大麦の穀物生産量はトウモロコシ、小麦、水稲につぐ世界第4位となっている

3畝の小さな大麦畑から。大規模農業を目指し、辿り着いた十勝・浦幌町

不耕起栽培で育てた大麦でビールをつくる。それも、やるならより環境負荷のかからない無農薬、無化学肥料で育てようと「不耕起有機栽培」の実践に向けて動き出した鈴木さん。2019年春、大麦を栽培するための畑を探し始めます。

そこで力を貸してくれたのが、古い友人であり豊浦町(※)の農政課で地域おこし協力隊として働いていた菅野さんでした。

※北海道の西側・胆振地方に位置する町。札幌からは車で2時間ほど。

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菅野さん 知り合いの農家に声を掛けて、豊浦町の有機農家の畑の一部を借りたんです。畑と畑の間の3畝ほどのスペースで、大麦の有機栽培に挑戦するところからはじめました。

元々人が集まる場づくりに興味を持っていたという菅野さん。「手伝っているうちに、気づいたらビールづくりに携わることになっていました」と笑顔を見せます。

菅野さん 関わり始めたら、その先も気になるじゃないですか。RIKKAのビールで人と人が笑顔でつながる未来を見てみたいと思ったんです。

以降、さらに広い農地を求めて、道内さまざまな市町村を回り、協力してくれる農家や自治体を探すようになった2人。行く先々で実際に大麦の有機栽培を行ったり、収穫した大麦でビールを委託醸造したりと歩みを進めていく中、次第に目を向けるようになったのが、北海道の東部に位置する十勝地方。その背景には、RIKKAのキーワードとなる「大規模農業」がありました。

鈴木さん 栽培を始めて2年目になった頃から、少しずつ規模感というものがわかってきて、大規模でやるべきだと感じるようになったんです。ビールをつくるために最低限の収量を確保する必要があるし、何より地球環境に与えるインパクトを考えると、より広い面積で不耕起有機栽培をできるようにしたい。大規模農業と言ったら、やっぱり十勝だなと。

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どこまでも続く大麦畑。十勝ではよく見られる風景

農家1経営体あたりの耕地面積が45.7haと、全国平均の20.8倍、全道平均の1.5倍を誇る十勝(※)。大型の農業機械を活用しながら広大な農地で畑作を行う「大規模農業」が盛んなこの地域に、2人は栽培の拠点を移すことを考え始めます。

※北海道十勝総合振興局「2023 十勝の農業」より、令和2年時点の値

そんなとき知人に勧められたのが、十勝地方最東端の町、浦幌町でした。2022年、2人は浦幌町の市街地近くの畑を借り、大麦の不耕起有機栽培を試験的に始めることに。その数ヵ月後にはブルワリーの建設準備のため、菅野さんが移住を果たします。

何年もかけて道内各地を見て回っていたわりに、十勝に目を向け、浦幌町に出合ってからほとんど即決と言っていいほどのスピード感で拠点を移してしまった2人。決め手を尋ねると、「そこまで考えてなくて。なんとなく良さそうだったんですよね」と鈴木さん。菅野さんも「空気感でね」と頷きます。

直感に従って浦幌町へとやってきたその決断は、果たして大正解だったよう。2人が大麦の不耕起有機栽培を行ってくれる協力者を探していることを知った町内の農家、山田史弥さんが「一緒にやりたいです」と、手を挙げてくれたのです。

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浦幌町の農家、株式会社アサヒアグリアクションの山田史弥さん。「もともと自分の畑の土を良くしたい、持続可能にしたいという思いからリジェネラティブ農業に興味を持っていたんです。それに地元産のビールなんて、そうそうないじゃないですか。面白そうだなと思い、声をかけました」

こうして2024年春、山田さんが有機栽培を行っていた農地の1区画、およそ1haの畑で大麦の不耕起有機栽培がスタート。「大規模で行う不耕起有機栽培」への大きな一歩を踏み出しました。

知識や経験がなくたって。社会人院生として栽培方法を研究した2年間で得たこと

時は少し遡り、浦幌町へ拠点を移すのとほぼ同時期の2023年春、鈴木さんはリジェネラティブ農業を学ぶため、福島大学大学院の門を叩きます。

聞けば、このとき既に札幌と250km離れた浦幌を行き来する日々を送っていたのだそう。そんな中でさらに大学院に通うだなんて、なかなか決断できることではないように思いますが、曰く「考えるよりも行動するタイプ」の鈴木さんに迷いはなかったようです。

鈴木さん 行き詰まっていたんでしょうね。それに、農家さんたちに「不耕起有機栽培をやってみよう」と思ってもらえるよう、対等に話せる知識や技術を身につけたかったんです。

師事したのは、食農学類の教授(当時)で、グリーンズにも度々登場している金子信博さん(現在は福島大学を退任)と准教授の渡邊芳倫さん。2人のもと、鈴木さんはリジェネラティブ農業の基礎を学びながら「温室効果ガスを低減するための不耕起有機栽培」をテーマに研究を行うことに。浦幌町内に30平方メートルほどの試験圃場を設け、そこで得た経験や知見を実際の栽培圃場にいかそうと試みました。

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浦幌町の市街地近くに借りていた畑を試験圃場に設定。「耕起・不耕起」「マルチの実施・実施なし」など区画ごとに栽培方法を変え、合計8区画分の地温や土中の水分量、作物の生育状況などを測定し、比較を行った(画像提供:鈴木將之さん)

札幌での日々の暮らし、そして浦幌でのRIKKAの活動の傍ら研究に打ち込んだ2年間を、鈴木さんはこう振り返ります。

鈴木さん 農業の経験や専門的な知識がほとんどない状態で大学院に入って、最初は授業に全然ついていけなくて。その中でもやってこれたのは、既成概念がなかったからなのかなと思います。素人視点で思いついたことをなんのしがらみもなく提案することができたんです。それを先生方は尊重してくれた。「それなら、この文献が参考になるよ」「こういう結果が出たら、それが証明できるよね」と導いてくれました。

「研究を研究だけで終わらせてはもったいない。実際に現場で役立ってこそ」との考えの持ち主である金子さんと渡邊さん。現場での不耕起有機栽培の技術確立のため、大学院を修了した今でも浦幌の栽培圃場を訪れたり、RIKKA主催のイベントで登壇したりと、鈴木さんに惜しみない協力をしてくれているのだそう。

途方もない量の計測作業や2年で結果を出すことの難しさなど、研究の厳しさに直面しながらも、「同じ志を持つ仲間に恵まれ、人脈も広がり、栽培方法を確立するきっかけとなる2年間でした」と話す鈴木さん。しみじみとしたその口ぶりから、学生生活が厳しくも充実した日々であったことがうかがえました。

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それまで歩んできた道と全く異なる分野での挑戦。鈴木さんの話を聞いていたら、未経験であろうと自分の「やりたい」にまっすぐ挑戦することへの勇気を分けてもらったような気がした

不耕起栽培を行う農家を増やすため。播種機のレンタルで、挑戦しやすい環境づくりに取り組む

浦幌町で活動を始めて4年。RIKKAのビールの原料生産を担う山田さんの大麦畑は2年目を迎え、その面積は1haから2haに。「将来的には7、8haまで広げていきたい」と山田さんも手応えを感じている様子です。さらに、山田さんの他にも大麦の不耕起有機栽培に取り組む農家が現れるなど、不耕起有機栽培の輪はRIKKAを起点に少しずつ広がりをみせています。

自らが農家として不耕起有機栽培を行うのではなく、この農法を広める立場として歩みを進めてきたRIKKA。その根底には「不耕起有機栽培の農地面積を増やす」という狙いがあります。

農地面積を増やすとはつまり、大規模で行う不耕起有機栽培に挑戦する農家を増やすこと。その一助として、2人が仲間と共に始めようとしているのは、不耕起栽培用の播種機のレンタルです。

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山田さんの農場で使用している不耕起栽培用の播種機。写真は播種機に種を入れているところ(写真提供:鈴木將之さん)

不耕起有機栽培を広大な畑で行うには、農法に適した農業機械や資材を用意する必要があります。とはいえ、初期投資のことを考えるとなかなか踏み出せない農家も少なくありません。そんなハードルを下げることができたらと、鈴木さんは話します。

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鈴木さん 小規模で不耕起有機栽培をやっている方々はいますが、僕は広い畑で機械を使って効率よく行うやり方を広めたい。そのためには、農家さんに真似してもらえるよう、大規模での不耕起有機栽培に挑戦しやすい環境づくりが重要だと思っています。

人の行動を変えるって、難しい。だから、まずは飲んでくれる人を増やしたい

不耕起有機栽培に取り組む一方、RIKKAの活動に欠かせないのがビールづくりです。

これまで道内の企業に委託醸造を行ってきたRIKKAですが、2025年1月に醸造免許を取得したのと同時にブルワリーを始動。大麦の栽培からお客さんに届けるまでの全工程を自分たちで行えるようになりました。

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浦幌町の市街地にあるブルワリーには、製麦から醸造までを行う機械が揃う。機械を購入する資金を集めるため、2023年にはクラウドファンディングを実施。272人からの支援が寄せられた

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大麦を発芽させてできたモルト(麦芽)。日本ではほとんどのビールメーカーが海外から輸入したモルトを使用しているという

鈴木さん なんにも考えず、ただ「不耕起有機栽培をやりたい」という気持ちだけで進んできたので、ビールづくりに関してはやりながら考えていく感じでしたね。最初なんて、ビールをつくるのにどのくらいの量の大麦が必要なのかわかっていなければ、モルトの存在も知らなかったんですよ。

そうした日々を経てついに完成したのが、冒頭でご紹介したクラフトビール。これを鈴木さんは「いろいろなことがいえるビール」だと話します。

まず化学肥料・農薬不使用のオーガニックビールであること、次に国産、それも不耕起有機栽培で育てた浦幌町産大麦を使っていること、そして原料の生産から、製麦、醸造、お客さんに届けるまでを一貫して手がけていること……。たしかに、こうして思いつくまま挙げただけでも盛りだくさんです。

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地域原料を使うことには、二酸化炭素の排出量を抑えるメリットもあると鈴木さん。「日本でつくられるビールの9割は海外産の原料を使用しているので、船や飛行機を使って原料を調達する必要があります。それに対し、RIKKAのビールの原料はブルワリーから車を15分走らせた大麦畑から運んでくるだけで手に入る。環境負荷を最小限にすることができるんです」

これを踏まえ、鈴木さんが注目しているのは、お客さんへの売り方、伝え方です。

鈴木さん 人によって刺さるポイントは違うので、イベントの趣旨や集まる人たちの興味関心に合わせて、訴求の仕方を変えてもいいんじゃないかと思っています。RIKKAのビールはそれができる。一部分を強調して売り込んでもそれだけの人にしか刺さらないので、それはもったいないなって。

その言葉の背景には、イベント出店時にお客さんの声を聞く中で感じた、手に取ってもらうことの難しさや活動に共感してもらうことの大切さがあるようです。

鈴木さん もちろん、RIKKAのビールを通して環境問題や気候変動に興味を持ってもらえたらうれしいですが、それだけで人の行動を変えるって、難しい。僕の最終的な目的は、地球環境を改善すること。飲んでくれたらその一歩になるわけだから、飲んでくれる人を増やしたいと思っています。まずはね。

地球環境も、農家を取り巻く状況も良い方向へと変えていきたい

3畝の畑に種を蒔くところから始まったRIKKAの歩み。「大麦レストラン」が開催された7月20日は、その歩みが新たな段階に入った記念すべき日であるといえます。

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「大麦レストラン」にて。イベントを共に主催した仲間と乾杯

鈴木さん 不耕起有機栽培に興味を持つ人や共通の趣味を持つ友人、お世話になっている人などいろいろなつながりの人が来てくれました。その人たちには、これまで言葉でしか僕のやっていることを伝えてこなかったので、実際にビールを飲んでもらったり、畑を見てもらったりして感想を聞けたのが良かったですね。

菅野さん 口にした瞬間のお客さんの声を間近で聞ける機会って、なかなかないですよね。何より、そういう声を聞いた生産者さんの喜ぶ顔が本当にうれしかった。山田さんがビールを手に「自分たちの畑で育てた大麦なんだ」と話しているのを聞いて、「こういうことがやりたかったんだ」と思いました。

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聞いているこちらまでうれしくなってくる温かな感想と共に教えてくれたのは、2人の中で大きくなりつつある農家に対する思いです。

鈴木さん 農業資材の高騰や農業従事者の減少、買取価格の伸び悩みなど、農家を取り巻く状況が年々厳しくなっているのを知って。その現状が少しでも良くなってほしいと考えるようになりました。たとえば、生産者の仕事が食べものをつくる大事な役目だということをみんなに知ってもらいたい。「大麦レストラン」を企画したのは、そういうことをしたかったからなんです。

「ちょっとおこがましいのですが」と遠慮がちに、鈴木さんは続けます。

鈴木さん 始めは大麦の栽培さえできればビールをつくれるのかと思っていたら、想像以上に各工程が専門的で、それぞれで途切れてしまうことが多くて。それをどうにかつなげようとすることで、農家が抱える課題など、見えてきた世界があるように思います。気候危機を緩和したいという思いは変わりませんが、今はもっと目の前のことに取り組んでいる感覚です。

今実現したいのは、農家さんに自身が農家であることの誇りやプライドを持ってもらうこと。そのために、たとえば現状のシステムを変えて、農家さん自身が作物の取引価格を決めることができたら、心持ちも変わってくると思っています。なかなか難しいですが、少なくともRIKKAのビールの原料となる大麦に関しては、僕らと取引価格の相談ができる。そうやってちょっとずつ、良い方向へ変わっていければいいなと思っています。

大きな目標に向かって、小さな挑戦を積み重ねる。ヒントは「考えすぎない」こと。

取材から数日後、鈴木さんから1通のメールが届きました。「車を走らせながらトウモロコシ畑を眺めていて、思い出したことがあります」と始まるメッセージに書かれていたのは、RIKKAのこれまでの歩み方です。

『フィールドオブドリームズ』という、主人公が自分にしか聞こえない声を聞き、トウモロコシ畑の中に野球場をつくる映画があるのですが、僕のやってきたこともそれに似ているなあと思いました。

地球環境を改善したいという大きな目標があって、そこに向かって行動していくと、とりあえずの目標が見えてきて。それをクリアするために行動するとまた目標がみえて、の繰り返しをやっている感じです。

大きな目標に向かって、小さな挑戦を積み重ねて。それでは、どうしたらその「歩み方」を実践できるのでしょう。思い浮かんだのは、取材中、鈴木さんが度々口にした「考えていない」という言葉です。

鈴木さん 僕はね、大体あまり考えていないんですよ。考えてばかりいると踏み出せないので、まずやってみてしまうんですね。その方がいいみたいです。

それはつまり、「考えすぎない」ということなのだと思います。もちろん、時間をかけてじっくり考えるのはとても大切な行為です。でも、思い立ったらまずは行動してしまうのもひとつの手。たとえばRIKKAの歩みが3畝の畑から始まったように、自分の手が届くギリギリの範囲で小さめの一歩を踏み出すところから。「動いてしまえば自ずと次のステップが見えてくる」と鈴木さんは話します。

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社会のシステムや地球環境など、とてつもないスケールの世界を相手に、「こうしたい」という思いを抱いたとき、その道のりのあまりの程遠さに、途方に暮れてしまうこともあるかもしれません。

そんなときはぜひ、RIKKAの歩み方を参考にしてみてください。ヒントは考えすぎないこと。きっと、肩の力がふっと抜けて、小さくもたしかな一歩を踏み出せるはずです。

(撮影:川畑泰成、竹田歩笑)
(取材協力:古賀詠風)
(編集:村崎恭子)