「土を耕さないで農業ができるって、どういうこと?」「農業が気候変動の原因にもなってるって、本当?」リジェネラティブ・オーガニック農法(以下、RO農法)のことを知って、疑問に思った学生たちが、どろんこになって答えを探しつづけています。その現場に足を運び、実践を通して見えてきたことを聞いてみました。
向かったのは、自由学園那須農場。学校法人自由学園が所有する、耕地面積約33ヘクタールの農場です。主に酪農教育ファームとして職員による酪農業が行われている農場の一角が、学生たちによるRO農法のフィールドになっています。

この牛さんたちが食べる草も、RO農法で栽培する計画が!
牛舎から出てきた牛たちからの歓迎を受けながら歩いていると、遠くから元気な声が聞こえてきます。声の主は、草が生い茂った畑で汗を流す学生と先生たち。あまりに楽しそうに、そして一生懸命に作業をしているので、ややためらいつつ、「ちょっとお話を…」とお声がけしました。
農業で温暖化!?パタゴニアの冊子で知った衝撃
まずお話をお聞きしたのは、自由学園の高等部で校長を務める佐藤史伸先生と、大学にあたる最高学部で特任教授を務める、自由学園環境文化創造センター次長の鈴木康平先生。汗をぬぐい、水分を補給していただいて、インタビューがはじまりました。

自由学園 高等部 佐藤史伸校長。もとは体育の先生!
RO農法とは、農薬や化学肥料を使わず、土をなるべく耕さないようにして、健康な土壌の構築を促す農法です。土壌生態系の機能を高めることで従来の農法より多くの炭素を貯留できるので、気候変動の抑制につながるとされています。
自由学園がRO農法に取り組むきっかけとなったのは、アウトドアブランドであるパタゴニアの冊子でした。
佐藤先生 毎年送ってもらっていたパタゴニアの冊子の2018年版に、本気で環境に取り組むという宣言とともに、RO農法の認証制度をつくると書かれていたんです。えっ、農業?と。まさか農業が気候変動に影響を与えているとは思いもよらなかったので驚いたんですね。単純に、植物を植えて育てることは環境にいいことだと思っていたので。自由学園は創立以来、食を大切にしてきました。自分たちで作物を育てて料理をして食べる、そして出たごみは肥料にするという循環は意識していたんですけど、作物を育てるという段階で、もっとできることがあるのかなと。
しかし、何ができるだろうか…としばし考え、いざ動き出そうとしていたタイミングで新型コロナウイルスの感染が拡大。先生たちは、その対応に追われることになりました。やがて、2021年になり、パンデミックが落ち着きだした頃、パタゴニアに勤務している卒業生から連絡がありました。
佐藤先生 「先生、たしかRO農法に関心をもってましたよね?」と連絡がきたんですよね。リサイクルやリユースに関するイベントが開かれることになって、そこでいち早く、RO農法で育てた原材料でつくられたアパレル商品を販売するのでぜひきてくださいと。
さっそくイベントに足を運び、RO農法で育てたコットンでつくられたTシャツを手にした佐藤先生。もう商品ができるところまできているのかとまた驚き、パタゴニアでROのプロジェクトリーダーを務める木村純平さんを紹介してもらうことに。
佐藤先生 木村さんにRO農法についていろいろお聞きしたところ、まずは実践してみることを勧められました。東久留米にある自由学園の南沢キャンパスには畑があるからです。私は校長という立場ですが、すでに教育のために使われている畑を急にRO農法の場にする権限はありません。かつて教育農場として使われていた那須農場であれば可能性はあるかもしれないと動き出しました。

草刈りに収穫、種まきに調査と、畑にいる間は大忙し
まだまだ情報も、なにより実践が少ないRO農法
栃木県の那須塩原にある自由学園那須農場は、多くの児童、生徒、学生、そして職員の手で開拓された1941年創設の農場です。那須農場は、100年あまり前から「生活即教育」という理念を掲げる自由学園で体験を通した教育の場として長らく使われていたのですが、2011年に起きた東日本大震災による福島第一原発の事故の影響で、生徒や学生の立ち入りができなくなっていました。
佐藤先生 2021年になって、ようやく除染が進んで放射線量の数値も問題がないことが確認できるようになりました。それで、保護者の許可があれば生徒や学生が立ち入っていいという状況になったんですね。まずは、口に入らない綿でやってみようかということになり、和綿の栽培から取り組んでみては、ということになりました。そこが実践の始まりですね。
実践に向けての学習は、当時始まったばかりの探求の時間を使って行われることになりました。佐藤先生が当時高等部の3年生で農業に関心があった生徒たちにRO農法のことを話したところ、ぜひ取り組んでみたいという反応があり、5人のメンバーでの探求が始まりました。

草の間に苗があるのがRO農法。草刈りの生徒から「間違い探しじゃん!」という悲鳴が
佐藤先生 探求学習がカリキュラムとして組み込まれたタイミングだったというのは非常によかったですね。それまでは、生徒の自主的な取り組みは授業が終わった後の時間に限られていましたから、どうしても中途半端になったり、頓挫してしまったりすることも多かったように思います。那須農場での活動は土日になるのですが、授業の中で準備ができるので現場でそれぞれがサッと行動できるんです。
実践に向けて那須農場のスタッフと調整をしている間に、学生たちはRO農法について学びを深めていくことになりました。土壌に炭素を固定するとか、有機物で土壌を豊かにして作物を育てるといった効果はわかっていたものの、世界で実際にどれくらい普及しているのか、どれくらい温室効果ガスを削減できるのかなど、実践の前に基礎知識として知っておくべきことがたくさんあります。
佐藤先生 2021年の段階では、インターネットで「リジェネラティブ・オーガニック農法」と検索しても、ほとんどヒットしませんでした。まず、日本の研究はほぼない。英語で調べると英語の文献が少し引っかかるくらい。それで、パタゴニアの木村さんに、福島大学に当時いらした金子信博先生や茨城大学の小松﨑将一先生を紹介していただいて伺ったり、朝日新聞で耕さない農業の取材をされていた石井徹さんという記者の方に日本の状況を聞いたりしました。
生徒と一緒に学んでいくうちに明らかになってきたのが、日本ではRO農法はほとんど行われていないということでした。そして、有機農業に取り組んでいる人たち同士でも、自分たちのやり方へのこだわりが強く、横の連携があまり行われていない傾向が見えてきました。
佐藤先生 やはり自分たちが実践していく中で、必要だと思った知識を幅広い人たちから学んでいくのがいいんだろうなあという話になりました。2021年はまだ感染症対策が必要な時期だったのでオンラインが多かったのですが、みんなで興味があることを調べて発表しあったり、外部の方のレクチャーを受けたりするなどして知識を増やして、実践への準備を重ねていきました。

ちょっと掘ってみると、団粒構造になった土にミミズさんも(写真提供:丸原歩)
探求から実践へ。中学生から大学生までが土にまみれて試行錯誤
そして2022年。高等部だった生徒が自由学園の大学部にあたる最高学部に進学したタイミングで、環境文化創造センターの鈴木康平先生が学生たちの学びのサポートに入ることに。同センターは、環境に関わる教育・研究および社会活動を推進する目的で 2018年に発足。環境に関わる学びの意義を現代が抱える問題を見据えて体系化し、自由学園の社会的な学びを側面から支援する活動を行っています。
鈴木先生 高校のときからRO農法に取り組んできた学生から、これまで探求してきたことを最高学部でも継続したいと相談があったんです。いま社会で気候変動が大きな課題となっていますよね。RO農法の実践というのは、自由学園なりの気候変動教育の一環となるかもしれないと思いましたね。その頃からメディアでも、農業や土と気候変動を絡めるさまざまな活動が目に入ってきていましたし、実践に向けた動きもはじまっていることを知って、学生と一緒に学んでいこうという気持ちになりました。
感染症対策の行動制限が緩やかになったこともあり、2022年には那須農場での実践も本格的に動き出すことになります。学生たちのフィールドとなったエリアは、かつて農場の人たちが食べる野菜を育てるために、生徒や学生たちが耕作をしていた畑でした。原発事故のあと、放射線量が下がるまでマルチングされて草が生えない状況だったのですが、調べてみると炭素量はしっかり蓄えられていることがわかりました。

自由学園 環境文化創造センター 次長 鈴木康平先生
佐藤先生 最初は、1アールのエリアではじめて、少しずつ圃場を広げるようにしていきました。まず秋にライ麦を植えて、春に倒して雑草が生えにくいようにするところから。学生たちは普段は東久留米のキャンパスで学んでいて、那須農場で作業ができるのは月に1回の週末に限られます。そんな中で、どういう作物を育てて、何を検証していけばいいのか、試行錯誤しながらやってきた感じですね。これはうまく行かなかったな、これをやってみよう。その繰り返しで学んでいる感じです。
那須農場でのRO農法では、以下の4つの点を大切にしています。
土を耕さずに不耕起で農作物を栽培する。それによって土壌がもともともっている構造を壊さず、肥沃な土をつくり出す土壌生物たちのすみかを保ち、土壌の流出を防ぐ。草刈りは、作物を傷つけないように考案された専用刈込機で行う。
<土を覆う>
主作物の休閑期に露出する地面を覆うように被覆植物を植える。それによって風や水による土の流出を防ぎ、雑草の発芽を抑える。刈ったものは天然の肥料として活用する。
<多様性を高める>
作物の根には、浅い根、深い根、ひげ根、直根や、炭素固定するもの、窒素固定するものなどさまざまな種類がある。それぞれが土地の健康に役立つので、さまざまな作物を栽培することで、多様性による生態系の強化を図る。
<化学肥料や農薬を使用しない>
化学肥料や農薬を使うと、土壌中の環境バランスが崩れる。土壌動物や微生物が有機物を無機物に分解し、作物が吸収するという生態系の循環が阻害されてしまう。そのため、畑の周囲に生えている竹からつくる竹炭などを肥料に活用する。

畑では、いろんな虫たちが作物とともに生きています
2022年は、春に草刈りと不耕起で和綿の種を植えるところからはじまり、秋にライ麦の種を条播き,ちどり播き,散播きの3つの方法で蒔きました。2023年には育ったライ麦を踏み倒し、大豆、枝豆、サツマイモ、シソと、育てる作物を増やしていくことに。少人数で月に1度という活動でも、芋類と豆類はそこそこの収量が獲れたことから手応えを得たメンバーは、それからもさまざまな手法で幅広い種類の作物の栽培に取り組んでいます。
佐藤先生 学生たちは、得られた結果をさまざまなところで発表しています。学園内でも、最高学部の学生が中等部、高等部の生徒に向けて発表する機会があるのですが、そこで「自分たちも探求のテーマとして取り組んでみたい」という生徒が増え、いまでは中等部から最高学部まで、合わせて20名くらいの生徒や学生での活動に広がっています。最初はなんだか面白そうというところから参加して、畑でみんなと学んでいくうちに農業や食、環境について探求する道に進む、なんていうこともありますね。

土から育てたニンニクは、収穫するよろこびマシマシ
教育機関として、RO農法のこれからにできること
まだ前例が少ない農法だけに、学生たちは全国各地の実践者や研究者のところに足を運び、そこで得た知見を試してみる、ということを繰り返しています。
佐藤先生 最高学部のカリキュラムはリベラルアーツをベースにしていて、学生たちが興味を持ったことを自主的に深めていけるシステムがあります。他の大学や教育機関で聴講生のようなかたちで学ぶ時間を取ることが認められていたり、社会的な活動をされているところに飛び込んで学ぶことに対して研究費のサポートをしたりといった仕組みですね。那須農場にもいろんな方に来ていただいて貴重なアドバイスをいただけるのは本当にありがたいですね。

ライ麦は種がある穂先をとってから倒したり刈ったりします
先生たち自身もいろんなところに足を運び、話を聞いているうちに、教育機関としてRO農法に取り組む意義というものが見えてきたと語ります。
佐藤先生 仕事として農業に取り組んでいると、どうしても収量や収益を重視しなければいけなくなりますよね。RO農法は日本ではまだ手法が確立していませんから、なかなか試しづらいというところがあるのかなと思います。その点、教育機関はプロセスを通して学びを得ることを目的として、さまざまなトライアルができます。営農されている方と連携して、自由学園のフィールドで学生たちといろいろチャレンジして、検証して、その結果を共有していく。まだ事例が少ないRO農法に教育機関が取り組む意義は、そこにあると思います。
鈴木先生 RO農法は、まだ最適な答えが見つかっていない方法だというところに、教育機関が取り組む意義を感じます。社会的な課題を自分の足元から受け止めて、解決に向けて取り組んでみる。実践してみて、答えが見えなくても試行錯誤するというプロセスが学びにおいては大切だと思うんですね。やってみると思ったようにうまくいかないことも多いんですけど、やってみることの中に、かけがえのない学びがあります。その瞬間瞬間、いろいろ考えて自分で発見していく時間に価値があるんです。

学生たちを支えながら、自分たちも楽しんでいるという先生方
天候に左右されたり、土壌の環境は目に見えなかったりと、予測ができないことが多い中で、中等部から最高学部まで幅広い年齢の人間同士がそれぞれ役割をもちながら試行錯誤を繰り返す…。感受性が豊かな時期にRO農法に向き合うことは、単に地球環境についての学び以上のものを人生にもたらす可能性を秘めていると先生方は語ります。
本当かな?面白そう!どれだけ学んでも、正解がない
先生たちにお話を聞いている間も畑で活動していた学生たち。どんな様子だろうと見に行ったところ、予定していた作業は一段落した様子。そこで学生たちの声も聞いてみよう、ということで声をかけてみました。
話を聞かせてくれたのは、最高学部4年生の丸原歩さん、同じく4年生の山田周太郎さん、最高学部1年生の白石晴奈さん、高等部3年生の綱島遼さん、高等部1年生の青野隆史さん。
まずは、RO農法の実践にスタート時から関わっている最高学部4年生の2人に、そのきっかけをお聞きしました。

最高学部4年 山田周太郎さん
山田さん 自分はもともと農業に関心があって、慣行農業についても知っていました。だから、RO農法のことを聞いて、経済的にも環境的にもいいなんて、そんな都合がいい話あるわけないだろうと、最初は疑問に思ったんです。でも、もしできるなら、そっちの方がいいじゃんと思って調べてみよう、やってみよう、という気持ちになりました。
丸原さん 耕さないで野菜ができるというのは、まったくイメージが湧きませんでした。だから、どうやったらできるんだろうと思ったのが最初ですね。きれいに耕された畑で、草抜きもこまめにして、毎朝水やりしてっていうのが農業だと思っていたので、そうじゃない農業があると聞いて面白そうだなあと思ったのがきっかけです。

最高学部4年 丸原歩さん
彼らが取り組みを始めた2021年は、まだまだリジェネラティブという発想も、RO農法もあまり知られていませんでした。そこから5年間、実践を通して何かわかったことはあるのでしょうか。
山田さん いろんな現場で事例を見て、「あ、本当にできるかもしれない「と思ったところもありましたが、実際に現場で向き合ってみると、うまく行かないことも多かったですし、これがベストだというわけでないということを痛感しました。やっていくうちに感じたのは、これは手法というより「考え方」なのかも知れないということ。RO農法をされている方を何人も訪ねたんですけど、みなさん手法が全然ちがう。だから自分たちも、手法自体にこだわるというより、何を大事にするかという、「考え方」を意識するようになりました。これまでの慣行農業も含めて、考え方を変える必要があるなと。
丸原さん 自分たちで実践したことからはもちろんですけど、いろんな農場を見学して、RO農法に取り組んでいらっしゃるたくさんの方とお話して学ばされることも多かったです。学べば学ぶほど、正解がないのだなと。取り組み始めたときは、これがRO農法だといえる形を目指していたのですが、試行錯誤してくうちに、自由学園オリジナルのRO農法のあり方を模索するようになっていったような気がします。
農業のあり方に向き合ったら、ものの見方が変わった
RO農法の実践は、農業についての学びだけではなく、ふだんの暮らしやものの見方の変化ももたらしたとみなさんは語ります。

最高学部1年 白石晴奈さん
白石さん 私は高等部2年の夏休みに1か月くらい那須農場でアルバイトをしていて、那須に行けるのならということで高3からRO農法のグループに入ったんですけど、実は畑は好きじゃなかったんですよ。中等部のときは学校で畑作業が週1回あって、それがとても苦手で。でも、通い続けていると畑が好きになりました。それで、前はその辺に生えている草を単に「緑の葉っぱだ」くらいに思っていたのが、一つひとつ、色も形も違うんだということに気づくようになって、ぐっと意識が高まりました。

高等部1年 青野隆史さん
青野さん 環境のことを考えて農業に取り組む活動をしているからか、買い物をするときに「どこでつくられたんだろう」と気にすることが増えました。たとえば、お菓子をつくるためにレモンを買おうとなったとき、外国産と国産があったら、国産にしようかとか。あと、雑草についての見方も変わりましたね。実際に耕さずにそこそこの収量が獲れたりする作物もあることがわかったので、雑草をきれいに除いた畑を見ると、雑草も良い働きをしているのになあと思うこともあります。

高等部3年 綱島遼さん
綱島さん 僕は将来、農家になろうと考えています。ただ作物をつくって売るだけではなくて、環境に配慮した農業がしたい。そのための一つの方法としてRO農法を学んでいます。でも、やってみて逆に、普通の農法についてあまり知らないなと思って、もっと知識を深めて、RO農法と比較したり、いまの一般的な農法を改善するなどの方法はないかを学んだりしたいと思うようになりました。畑で感じたことをベースに、勉強ももっとがんばろう、そんな気持ちになりました。
丸原さん 自然に対する見方がすごく変わりました。土壌改良の勉強をする中で、菌根菌や微生物のはたらきを知って、畑の作物だけではなく、その周りの木も実は根っこを通して共生しているということもわかってきて。見えない菌との共生が、見える自然の風景を形づくっているって面白いなと。暮らしの面では、自分たちは自然の恵みを受けているんだなという意識がとても強くなりました。恩恵を受けているからには、何か返すことができたらなと考えるようになりました。
山田さん 何より、草むらに対する見方が変わりましたね。今までは草が生えていると、草抜きをしなきゃ、きれいにしなきゃと思っていたし、「管理しなければいけない」という気持ちが強かった。でも、RO農法をやっていく中で、雑草に対して寛容になるというか、雑草があることで有機物が供給されたり、土が柔らかくなったり、益虫も来たりと、色々な効果があることを知りました。雨が降っても一気に水が流れていくこともないですしね。草と、何かうまく共存できる道はないかな、と考えるようになりました。雑草が「モブ」ではなく、嫌いじゃなくなった。雑草にも多様性があって、同じ雑草でもなんとなく個性や優しさがあるように感じるようになりました。

人生のそれぞれのフィールドで、みんなは何を実らせるのでしょう
自由学園でRO農法の取り組みを始めた最高学部の4年生は来年卒業することになりますが、実践を通した学びと挑戦は、これからも続いていくようです。
山田さん RO農法については、何がいいのか、なぜ取り組むべきなのかを、まだ十分に自分の言葉で説明できていないように感じています。だから他の人に広めたいと思ったときに、もっと正確に伝えて、もっと理解してもらえるように学びを深めていきたいです。日本では食については生産量を第一に考えることが多いですが、環境を重視する生産者がもっと増えていったらいいなと思います。そして、生産者同士でも、それぞれのスタンスで対立するのではなくて、もっと寛容に、それぞれの考え方を尊重していいところをお互いが採り入れていくようになるといいですね。消費者も、農業のさまざまなやり方を知った上で自分に合ったものを選択できるようになればと。
自由学園の取り組みについて言うと、いま最高学部は那須農場がメインのフィールドになっているので月に一度しか活動ができない。そうなると作物の成長を追いきれません。東京にある南沢キャンパスの畑も使って、色々な作物の生育を比較できるようになればさらに知識も増やせるのではと思っています。
丸原さん 自分は将来、直接農業に携わることはないと思います。なので、自由学園を卒業したら畑からは離れることになります。でも、RO農法を通して学んだのは、農業はもちろんですが、生き方とかライフスタイルの部分が大きいです。自然とフェアな関係で共生する社会を、どうやったら実現できるのか。それを、これから考えていきたいです。いまは第一次産業が、農業や漁業、林業など、分業化されていますが、実は、つながる部分も多いと思います。自然を大きな枠組みで捉えることで、もっといろいろな人に伝えられる要素があるはずですし、なんらかの引っ掛かりをつくることができるはずです。

収穫したてのニンニクの束が、ステキなリースに!
先輩の話を聞いていた後輩のみなさんの表情からは、いっしょに蒔いたRO農法へのチャレンジという種を受け継ぎ、芽吹かせ、大きく育てていこうという意思が感じられました。
農法としての歴史がまだ浅いRO農法は、探求を伴う学びの場と響きあうことで、これまでの農業では見られなかった文明のあり方へと私たちを導いてくれるかも知れない。インタビューを終えて冗談を交わしながら畑へと戻る学生たちの足取りから、自然とともに弾む未来の兆しを見たのでした。
(撮影:高橋ユカコ)
(編集:村崎恭子)