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原爆投下後の長崎で、3人の看護学生は何を見て、何を考えたのか。映画『長崎ー閃光の影でー』を観て改めて考える、生きることの意味

命はいつ尽きるかわからない。そうわかってはいても、多くの人がこのまま人生が続くことに疑問を持たずに生きているのではないでしょうか。でも、死がすぐ隣にある極限状態に置かれたら。きっと生きることの意味や重さは大きく変わることでしょう。1945年夏、原爆の被害者の看護にあたった看護師たちがいました。その手記をもとにした映画『長崎ー閃光の影でー』は、核兵器がもたらす悲劇を描きつつ、人が生きることの痛みと尊さを伝えてくれる作品です。

原爆の悲劇をどう描くか。多くの人に観てほしいという一番の願い

物語は、田中スミ、大野アツ子、岩永ミサヲの3人の日本赤十字の看護学生が、空襲による休校のために大阪から長崎へ帰省するところから始まります。戦時下とはいえ、それぞれに青春のひとときを過ごし、いまを謳歌する3人。スミは淡い恋の予感に心を震わせ、ミサヲは父親と共に礼拝に足を運んで自らの信仰心をみつめ、アツ子は看護婦への夢にひたむきに向かっていました。

原爆投下前の長崎では、彼女ら3人のように、誰もがそれぞれの人生を生きていました。そこに、1945年8月9日11時2分、広島に続く2度目となる原子爆弾が投下されます。

©2025「長崎―閃光の影で―」製作委員会

原爆がテーマの作品といえば、漫画『はだしのゲン』を思い出す人がいるかもしれません。『はだしのゲン』は、ストーリーだけでなく、漫画という表現スタイルを存分に活かし、多くの人に強い影響を与えました。生々しい、ときに禍々しいほどの絵柄は強烈なインパクトを残し、子ども心に眠れなくなるほどの恐怖をおぼえたものです。

この映画のように実写で原爆の被害を描くにあたって、現代の技術をもってすればリアリティを追求することも不可能ではありません。原爆をテーマにした作品を製作することを発表しているジェームズ・キャメロン監督は、その場にいて目撃するかのような映像を追求しようとしていると報道されています。同時に、これまでのキャリアで最も儲からない映画になるかも、とも言及しており、原爆被害の実態を伝えることの難しさを感じさせます。

原爆の惨状をどこまで再現するかは、『長崎ー閃光の影でー』の制作陣も頭を悩ませたところ。結果、「多くの人に観てもらえることを優先しました」と、松本准平監督は語っています。

投下後の焼け野原も、ぼろぼろの救護所も、死体も負傷者も、リアリティを追求して表現し尽くそうとするのでも、過剰にドラマチックに描くこともないのが、本作の特徴的な演出となっています。主人公たちの心の動きが素直に伝わってくるようで、原爆が人間にもたらす影を心で受け止め、深く、深く考えることができる。そんな作品になっています。登場人物一人ひとりの眼差しや息遣いを、ぜひ劇場の大きなスクリーンで感じていただきたいです。

©2025「長崎―閃光の影で―」製作委員会

この極限状態に置かれた3人がどう生きるのか。そこが、この作品で何より描かれているところ。たくさんの命の儚さを前にし、さらに家族の死まで受け入れるしかなく、自分も死んでしまいたいと自暴自棄になることもあれば、死の充満する病院でかすかな希望に出会い、生きなければいけないと絶望から立ち上がることも。

大人の歪な振る舞いや人生の不条理に直面するなど、通常の青春ではありえない経験を経て、それでもなお前を向いて生きようとするまっすぐな姿は、荒れ果てた被爆地において、眩しくさえ見えました。

80年目の夏。忘れてはいけない過去を振り返る

この映画をプロデュースした鍋島壽夫さんは、過去にも原爆を取り上げた映画『TOMMOROW 明日』を手掛けています。これは、井上光晴の小説『明日 一九四五年八月八日・長崎』をもとにした、原爆投下までの24時間を描いた作品でした。その後、「原爆投下後を描いてみたい」と考えた鍋島さんが監督としてふさわしいと考えたのが、自身も長崎出身で、被爆3世である松本准平監督です。

©2025「長崎―閃光の影で―」製作委員会

『長崎ー閃光の影でー』の土台には、反戦、反核のメッセージがしっかりと据えられています。映画を通して、原爆によって悲惨な最期を遂げる人たちの姿を見て、原爆が使用されたことへの憤りを感じるかもしれません。それは自然な感情です。ただ、そこで忘れてならないのは、加害者としての日本です。

敗戦が濃厚になっても、事実を国民に知らせることなく、戦争を続けたこと。そもそもアジアから太平洋の島々までたくさんの国々を侵略したこと。戦争へと突き進み、さらに真珠湾を攻撃したこと。日本軍が、民間人を含むたくさんの犠牲を生んだこと。こうした歴史は、決して忘れられてはなりません。

©2025「長崎―閃光の影で―」製作委員会

映画には、「あと一週間早く負けていたら」という台詞が出てきます。8月15日、終戦を迎えた日の出来事です。8月6日、広島に原爆が投下されてすぐ降伏していたら。6月23日、沖縄で日本軍の組織的な戦闘が終わった時点で降伏を決めていたら。歴史に“もしも”をとなえてもしかたのないことですが、同じ過ちを繰り返さないために、道を過った事実を忘れることなく、引き継いでいかなければならないのです。

近年、排外的な考えがますます世の中に広がり、日本人だけがよければいいという威勢のいい言葉を耳にする機会が増えました。戦後80年を迎えるこの夏、この映画をきっかけに、当時何が起きていたのか、なぜそんなことが起きたのか、考えを深める機会を多くの人が持つことを願ってやみません。

©2025「長崎―閃光の影で―」製作委員会

普段は、戦争のことや原爆のことを特に考えないという人も、この80年目の夏は、ほんの少しだけでも過去を振り返ってみてはいかがでしょうか。『長崎ー閃光の影でー』には、3人の少女たちが懸命に生きている姿があります。

(メイン写真:©2025「長崎―閃光の影で―」製作委員会)
(編集:丸原孝紀)

– INFORMATION –

映画『長崎-閃光の影で-』
 

7月25日(金)長崎先行公開 / 8月1日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか 全国公開
原案:「閃光の影で-原爆被爆者救護 赤十字看護婦の手記-」(日本赤十字社長崎県支部)
監督:松本准平
配給:アークエンタテインメント後援:長崎県 長崎市 公益財団法人 長崎平和推進協会
2025年/日本/日本語/109分/カラー/アメリカンビスタ/5.1ch/映倫G