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「ぬくもりのあるコミュニティ」が生むソーシャルインパクト。北海道・厚真町を起点に「地域の困りごと」を解決するミーツ代表・成田智哉さんに聞く、共助でつながるまちづくり

核家族化が進む現代。仕事のため、やりたいことのため、地元を離れて暮らしている人も多いと思います。かくいう私も、祖父母や親はそれぞれ違う県で暮らしており、顔を合わせるのは年に数回。困りごとを相談されてもほんの少ししか手伝うことができません。

今はまだ元気な祖父母だけれど、免許を返納したら? 何か大きな災害が起きたら? 最近はお年寄りを狙う強盗のニュースも増えていて、不安な気持ちになることも。もっと会いに行けたらと思うものの、自分の仕事や生活もあり、なかなかそうはいきません。同じような葛藤を抱えている人も多いのではないでしょうか。

そんな中、北海道の厚真町で、地域住民同士が助け合う「共助型困りごと解決プラットフォーム」を構築している人がいると聞きました。

「地域の中に、頼れる孫のような存在がたくさんいたらいいですよね。僕たちのサービスが地域全体に広がっていくことで、厚真町全体が『厚真家』という一つの長屋家族のようなコミュニティを育んでいくイメージです。」

そう語るのは、ミーツ株式会社代表の成田智哉(なりた・ともや)さん。ミーツ立ち上げ以前は、トヨタ自動車で人事の仕事に携わり、最終勤務地はブラジル。大企業に勤め、一度は世界を見てきた成田さんが、なぜ人口4,300人ほどの厚真町で共助のまちづくりに取り組み始めたのでしょうか。厚真町で始まっていること、共助によるまちづくりの先に見据えている未来についてお話を聞きました。

成田智哉(なりた・ともや)
1988年生まれ。北海道千歳市出身。東京大学文学部歴史文化学科卒業後トヨタ自動車に入社、ブラジル支社を経て独立。帰国後、北海道厚真町にて「境界を越えて世界をかき混ぜる」をコンセプトのマドラー株式会社を設立し、共助型困りごと解決プラットフォーム「Meets Community」や 北海道の挑戦と応援の循環を作る「ほっとけないどう」などを企画運営。北海道経済コミュニティ「えぞ財団」団長。

地域の困りごとを解決していく共助のプラットフォーム

成田さん ミーツは、「困りごと」を抱えている「ユーザー」と、依頼を手伝ってくれる「パートナー」をつなぐ会員制のプラットフォームです。ご近所付き合いの延長線のようなかたちで、地域の困り事を解決していく仕組みを構築しています。

まず、日常生活の中で困りごとが発生したユーザーが、電話かLINEを使いミーツに依頼をします。すると、ミーツのオペレーターが「困りごと」をシステムに入力してデジタル化し、パートナーとつなぎます。

(イラスト提供:ミーツ株式会社)

たとえば、「病院に行きたいけれど足がない」と困っているユーザーと、「通勤のついでに車を出せる」というパートナーとのマッチングが成立。依頼を引き受けたパートナーは、依頼完了後に困りごとの内容やユーザーと話したことをまとめた「おたより」をミーツに送ることで、送迎距離分の実費とおてつだい分の報酬が得られる仕組みです。

困りごとをきっかけに新たな出会いがつくられる。コロナ禍の最中のスタートしたサービスでありながら、地域内での孤独・孤立に対しても一定の成果につながった(画像提供:ミーツ株式会社)

できる人からしたらちょっとしたことでも、困っている人にとってはどれも大きな課題。ミーツを介して地域の中でその両者がマッチングし、助け合うことができるのです。

成田さん モビリティの領域で「MaaS」(Mobility as a Service)という言葉がありますが、僕らは「まちづくり as a Service」で地域課題を解決していこうとしていて。「困りごと」が「人との出会い」に変換されることで、会話や刺激が生まれていく。

たとえば実際に、隣の集落で暮らすお二人がミーツで出会い、お手伝いついでに話をしたらそれぞれの息子と娘が同じ学校に通っていて、昔付き合っていたことが分かり、そこから思い出話に花が咲いたらしいんです。そんな偶然が生まれることも愛おしいですよね。

パートナーと一緒にカーペットを選ぶユーザー(画像提供:ミーツ株式会社)

たしかに、そういった出会いや会話が生まれていくことは、わかりやすく目に見える効果はないかもしれませんが地域の活性化につながりそうです。すると、成田さんは「いえ、目に見えますよ」と続けました。

(資料提供:ミーツ株式会社)

成田さん 僕たちは、誰がどんな組み合わせで会っているのか、コミュニケーションの量や出会いのつながりを全部データ化し、「見える化」しています。たとえば、ミーツを使い始めた頃は月に2回しか外出していなかったAさんが、月に8回も外出するようになっただとか、それによって病院にかかる頻度が減り、代わりに温泉に行くようになったなど、定量的な変化と効果が全て分析できるんです。

話相手が増えて元気になって、病院に行く回数が減って代わりにスポーツジムに通って友人もできたとなったら、医療費が削減されて、地域の経済は潤うでしょう。そうやって、このまちでみんなが元気に暮らし続けられるような世界観をどうつくっていくかが僕たちのチャレンジです。

ローカルに必要なのは、モビリティではなくコミュニティ

ミーツの仕組みや狙いがわかったところで、なぜ成田さんがミーツを立ち上げたのか、どうして厚真町を選んだのかを聞いていきます。

成田さんの出身は、北海道の千歳市。成田さんは、大学進学で北海道を離れ、大学卒業後はトヨタ自動車に就職した。国内の事業部では人事を担当し、最後の勤務地はブラジル。現地で30歳を迎え、自分の事業を立ち上げようと日本に帰国した

成田さん 僕は元々は北海道の田舎生まれなので、10代の頃は「広い世界に行きたい」と思っていました。でも、実際に行ってみたら広い分、浅かったんです。結局、何者にもなれなかった。次は、狭くていいから深くいこうと決めました。

成田さんの在籍していたトヨタ自動車は、「モビリティカンパニー」を掲げ、自動運転車の開発・実用化を目指すチャレンジを進めています。成田さんは、モビリティの大切さを感じつつも、「人の暮らしはそんなに合理的なものじゃないはずだ」という疑問も感じていました。

ミーツの応援団には住民の方々も多く関わる(画像提供:ミーツ株式会社)

成田さん テクノロジーがこれだけ発達している世の中ですが、結局アナログなリアリティは無視できない。みんな口ではいいことを言っていても、結局ほとんどの人が田舎に住んだこともないし、ローカルのリアリティも知らないわけです。

交通、福祉、教育、介護、どんな課題だろうと、机上の空論で的に最大公約数の方程式を導き出すだけでは何も変わらない。社会課題をテクノロジーで解決しようとする動きもありますが、仮に自動運転の車が完全に実用化されたとして、地域のおじいちゃんおばあちゃんの課題は本当に解決できますか? と。本当に必要なのは、支えてくれる手だったりするわけですよね。

人口4,300人のリアル、4,300通りのストーリー

2019年1月、成田さんが参加したLVS2018の集合写真(画像提供:ミーツ株式会社)

退職後、起業プランを練りながら全国各地のローカルの現場を訪れた成田さんの中に、「地域に必要なのはモビリティではなくぬくもりのあるコミュニティだ」という仮説が生まれていきます。そんな中、成田さんは人の縁から厚真町の取り組みを知りました。厚真町では、2016年から起業家人材を育成する事業を推進していたのです。

成田さん 厚真町は、2018年の胆振東部地震で大きな被害を受けましたが、それを乗り越え「厚真町ローカルベンチャースクール」を復活させました。厚真町を舞台に、新しい価値創造にチャレンジする人を発掘・育成するこのプログラムに挑戦してみたらどうかと紹介されたんです。

厚真町の人口は約4,300人。人口減少が進み、高齢化率は38%。交通インフラが衰退していく中で、免許返納や身体の不調により地域で移動する足がない高齢者の方が増えていることが課題でした。

そこで成田さんは、現在のミーツにつながるモビリティ事業の提案を行って採択され、厚真町からチャレンジを始めることとなったのです。

厚真町は札幌から車で1時間半、新千歳空港からは35分の距離にあり、交通アクセスに恵まれた立地にある。広大な森林・平地を持つだけでなく、海にも面していることから、農業、林業、水産業などの一次産業が盛ん(画像提供:ミーツ株式会社)

厚真町で活動をしていくにあたり、成田さんが掲げてきたのが「DXの二乗(泥臭い×DX)」です。

成田さん DXだなんだという前にまずは泥臭いことが大事だと。社会福祉協議会さんに挨拶に行って、「こんなことがやりたいんです」とお話したり、地域の民生委員のおじいちゃんおばあちゃんに挨拶に行き、実際に困りごとを教えてもらい、一緒に手伝ったりすることから一歩ずつ信頼を獲得していきました。また、地域交通の課題を扱うにあたっては国との調整も必要でした。厚真町、北海道、国土交通省と、行政の垣根も超えて地道なアプローチを進めていきました。

さらに成田さんは、「大きな変化を起こすのであれば、普通のまちから始めることに価値がある」と続けます。

成田さん 厚真町には、ラベンダー畑もパウダースノーもありません。でも、有名な観光地がないと地方創生ができないといったら、日本のほとんどの自治体が負け組じゃないですか。そうじゃないだろうと。厚真町は人口4,300人の小さなまちですが、逆に言うと4,300通りの人生に触れられる。観光資源はないけど、そこで暮らす人たちが観光資源自体となる可能性がある。

いろんな人たちが、いろんな取り組みをしている面白いまち。厚真町のそんなまちづくりのあり方に、成田さんは可能性を感じていました。

成田さんは、まずは地域の人々が集まれる場所をつくろうと、厚真町の若手メンバーと一緒になって「イチカラ」というコミュニティスペースを立ち上げた(画像提供:ミーツ株式会社)

成田さん 都会と田舎、ダイバーシティ&インクルージョンが進んでいるのはどっちだ? と僕は思っていて。田舎は、近い範囲の中に大工さん、農家さん、漁師さんもいれば役場の人がいて、起業家がいて、ごちゃまぜになっている。それはすごく豊かだし、僕の持つ知見やスキルを使ってさらに混ぜ合わせていけば面白い未来がつくれるはずだと感じています。

生活協同組合「コープさっぽろ」との協働で実現されていくこと

さらにミーツは、2023年7月にコープさっぽろの関連会社となりました。共助によるまちづくりを目指すミーツと、北海道最大の生活協同組合であるコープさっぽろがタッグを組むことで、何が実現されていくのでしょうか。

成田さん 僕は以前から、コープさっぽろさんの協同組合のあり方は本当に素晴らしいと思っていて。まさに共助の最先端ですよね。 みんなで出資して、社会性と事業性を担保しながら、社会のためにお金を循環させる仕組みが出来上がっている。

コープさっぽろは、道民の暮らしに役立つ事業を行うことを目的とする協同組合として、店舗、宅配の2本柱に加え、共済、夕食宅配、病院・スクールランチ事業、再生可能エネルギー電力の供給、葬祭場など、道民の生活に寄り添った多様な事業を展開しています。

成田さん コープさっぽろは生産・製造・物流・販売・データ、その循環。そして子育てから葬式事業までいわば「ゆりかごから墓場まで」というくらい「生活」に関わる事業に取り組んでます。2018年には、地域課題に取り組むために専務直轄の地域政策室が作られました。僕はその室長を拝命し、各自治体とも連携しながらセミパブリック領域としての矜持を持って北海道民のお困りごとを少しでも解消できるように活動を行っています。

(画像提供:ミーツ株式会社)

地域のリアルに向き合って事業を行っているコープさっぽろとミーツが協働することで、より広く大きなインパクトが生まれていきそうです。

成田さん コープさっぽろは、北海道全体で約250万世帯あるうちの約200万世帯が組合員になってくれています。この驚異的なネットワークを活かすことができれば、北海道にある179の市町村でミーツを展開できる可能性がある。 ミーツのサービスを使ってもらうことで、組合員さん同士の共助を循環させ、輪を広げていくこともできるはずです。

ゆるやかな助け合いから、地域全体を擬似家族のようなコミュニティに育てていく

こうして成田さんは、誰も知り合いがいないところから、厚真町内、そして北海道で同じ志を持つ仲間を増やしてきました。あらゆる人を巻き込み、かき混ぜることで実用化したミーツの取り組み。リリースから一年が経ち、まちにはどんな変化が生まれているのでしょうか。

成田さん ミーツはもともと、地域内のモビリティのあり方に注目してチャレンジを始めたのですが、実際に運用を始めてみたら、地域の困りごとというのは送迎以外にも無限大にあって。でも、ミーツの仕組みなら困りごと全般を解決できるぞと。「そんなこと?」と思うかもしれませんが、リアルな困りごとの何が多いって、「電球を替えられない」なんですよ。足が悪いから脚立に上るのが怖いと。

ユーザーには、「家族と離れて暮らしているため、今まで誰を頼ればいいかわからなかった」という高齢者の方が多いそう。

成田さん 子どもや孫たちはみんな札幌や東京など都会に出ているわけです。帰ってくるのは月に一回、下手したら年に一回だと。でもおばあちゃんたちは毎日病院や買い物に行かなきゃいけない、草刈りも雪かきもしなきゃいけない。かといって、毎回家族や親族に休みを取ってもらって呼び出していては、負担が大きくなってしまい続かないですよね。

そこで成田さんが目指しているのが、かつての「長屋家族」の考え方です。同じ長屋で暮らす同士、子どもの面倒を見たり、ちょっとしたお願いごとを頼んだりと、ご近所同士で支え合うコミュニティが築かれていた時代を、テクノロジーの力で取り戻す。そんなビジョンが見えてきました。

ミーツのサービスを使い、定期的にスマホの使い方を教わっているユーザー(画像提供:ミーツ株式会社)

成田さん つながりをゆるやかに横に広げられたらいいよね、というチャレンジですね。ミーツのサービスが地域全体に広がっていくことで、厚真町全体が「厚真家」という一つの大きな擬似家族のようなコミュニティを育んでいくイメージです。

外から来た若者が地域に溶け込むきっかけにも

また成田さんは、パートナーにとってもスキマ時間で報酬が得られる以上の価値があると語ります。

パートナーに家のことを「おてつだい」してもらった後には、自宅で料理をご馳走しているというユーザーも。それぞれのパートナーの好き嫌いなどを必ず紙に記録しているそう(画像提供:ミーツ株式会社)

成田さん そもそも僕は、地域のおじいちゃんおばあちゃんたちのことを「助けてあげないといけない弱者」だとは思っていないんですよ。ただ、身体的な老化があることでできないことが増えたので、我々がお手伝いできますよ、という話。みんなベテランで、人生の先輩であると思っているんです。

あくまで得意分野が違うだけ。逆に、我々にできなくておじいちゃんおばあちゃんにできることだってたくさんある。

成田さん自身、ミーツを通じて、地域の人たちから陶芸や料理を習ったり、まちの歴史を教わったり、人を紹介してもらったりと、新しいことをたくさん教えてもらっているといいます。

成田さん また、厚真町には僕のような若い移住者が増えてきています。でも、移住者がいきなり地域に入り込むのはなかなか難しいですよね。その点、ミーツを使えば自然と地域の中につながりができる。だいたい、地域の祭りに参加したり、地元のカフェやスナックに行って誰かと喋ったりしないと地域で関係性がつくれないなんておかしな話じゃないですか。

そこまでのコミュニケーションは求めていない、という人にとっても、ちょっと手が空いた時にお手伝いするだけならやってもいいかも? と思えるかもしれません。また、成田さんは、いずれは若い人の「1時間だけ子どもの面倒を見てほしい」といった困りごとを、おじいちゃんおばあちゃんが助けてあげる、といった流れもつくっていきたいと考えています。

(画像提供:ミーツ株式会社)

成田さん 「お手伝い」を通じて、「あなたはどちらから来ているの?」「東京から移住してきたんです」「こんな場所に珍しいわね」みたいな話になって、「うちで採れた野菜持っていくかい?」とゆるやかなつながりが生まれると。誰かをお手伝いして喜ばれるのはやっぱりうれしいですし、移住者同士、同年代同士とはまた違うコミュニティに触れる楽しさや刺激もありますよね。

「地域の困りごと」を見える化したデータが、社会を変えていく

気になるのが、マネタイズの部分。自走していく仕組みをつくるためには、事業としての利益を生むことも必要なはずです。ミーツではどのように事業性を確立しているのでしょうか。

成田さん 現在ミーツでは、マッチングの手数料をはじめ、企業とコラボしたり、システムを活用いただくことでシステム利用料をいただいています。 たとえば、地域のリアルを知る視察研修をしたい、地域課題を知りたいという企業からのご相談や、地域に密着したいという旅行会社からお声がけいただくこともあります。

さらに、成田さんが今後狙っているのがデータの活用です。ミーツでは、「地域の困りごと」を見える化したデータを分析し、地域のリアルなニーズを求めている企業や自治体に提供し、よりよいまちづくりのために協働していくことを目指しています。

ミーツには、パートナーからの「おたより」に記載された「最近の体調」「困っていること」「もっと行政にこうしてほしい」「こんな話で盛り上がった」など、地域で暮らす高齢者の方が何に困っているかの情報が蓄積されている(画像提供:ミーツ株式会社)

成田さん GAFA(※)が唯一持っていないデータが何かというと、田舎のおじいちゃんおばあちゃんのデータなんですよ。なぜなら、ほとんどネットにアクセスしないから。「地域の高齢者がどんなニーズを持っているのか」というリアルなデータを持っているのが僕らの強みなんです。

さらに成田さんは、このデータは社会に大きなインパクトを起こす可能性を秘めていると語ります。

成田さん このデータを活用すれば、ただの直感やふわっとしたアンケート、議論のような空中線ではなく、科学的根拠に基づいて、まちづくりや政策の企画を行うことができる。ゆるやかに官・民と連携をして、「ミーツと一緒によりよい地域をつくっていきませんか?」と訴えかけていきたいんです。

(資料提供:ミーツ株式会社)

現在ミーツは、ユーザーやパートナー、関わる人を着実に増やし、町内の約1割の世帯をカバーするようになりました。関わる人の数が増えていけば、助け合いの輪が広がるだけでなく、それだけのデータが集まります。
 

成田さん 小さなまちだといっても、億単位で税金が動いているわけですよね。でも、その使い道に住民はそんなにリアリティを持っていない。そこを、みんなで助け合う共助の仕組みをつくった上で、たしかなデータに基づいて「それでも足りないものは行政でお金を出してやりましょう」と判断していけるようになれば、「自分たちのまち」という意識に変わっていくと思うんですよ。

(※)GAFA(ガーファ) :Google、Amazon、Facebook、Appleの4つの米国のIT企業の頭文字をとった造語。インターネットを軸に、検索、ショッピング、ソーシャルネットワーク、アプリなどのプラットフォームを提供し、生活インフラとして人々の生活を支えているとされて。

思いをめぐらせることができる社会のあり方を目指して

ミーツは現在厚真町内のみで展開していますが、成田さんはゆくゆくは過疎化が進む日本全国の自治体でミーツを展開し、共助によるまちづくりを広げていこうとしています。最後に、改めて成田さんがミーツの展開の先に見据えている未来図についてお聞きしました。

成田さん 厚真町はかつて被災したまちであることから、ミーツの仕組みは防災的な役割も強いんです。僕は、「防災=備蓄」ではないと思っていて。「避難場所を確保しました」と言われても、そもそもそこまで行く手段がなかったりするわけですよ。それよりも、地域の繋がりを作ることも大事だと思っていて。

成田さんは、備えを万全にするよりも、いかに地域の人とつながりをつくって、「どこに一人暮らしのおばあちゃんがいるか」「どこに足を怪我しているお母さんがいるか」といった地域の人たちの暮らしぶりをみんなが理解していること大事だと考えています。

成田さん もちろん自助が最優先ですが、自分の身の安全と移動が確保できた時、ミーツの仕組みを使えば具体的に近くで誰が困っているのかを把握できる。でも、顔の見える関係性が構築されていれば、「大丈夫ですか。一緒に行きましょう」と声をかけあえることができるかもしれない。地域にそういう目線が生まれたらいいなという思いもミーツには込められています。

実際に、ミーツのリリース後に大きな地震が発生した際、ユーザーに一斉に安否確認の連絡をすることができ、迅速にサポートをすることができたそう。

成田さん 行政にも感謝されましたし、何より、「声をかけてくれただけでうれしかった」という声もあって。一人で暮らしている高齢の方だと、「誰も私のことなんて心配してくれない」と孤独を感じているんです。そこで、ミーツやパートナーさんからすぐに連絡がきて心強かったと。

やっぱり、一度でも顔を合わせて話をしていると、何かあった時に思いをめぐらせられるじゃないですか。一見したら小さなまちだけど、「ここにあの人が住んでいる、この人が住んでる」と分かっていれば、大丈夫かな、何かできることはないかな、となるわけじゃないですか。

そうして地域にゆるやかなつながりが生まれていけば、誰も取りこぼさないセーフティーネットになっていくはずです。

成田さん ミーツを毎週使う人もいれば、年に一回使う人もいていい。そうやって、4,300人が暮らすまちの中で、自分にできる範囲でいろんな人たちがいろんな助け合いをしたら、すごい組み合わせの数になりますよね。

東京は人口こそ多いですが、隣の家の人の顔すらわからない場合が多い。一方、田舎なら人が少ない分顔の見える関係が築けますし、「みんな知っている」という状態がつくりやすい。僕は今でも、世界を、日本を変えたいと思っていますが、まずは北海道で、まずは厚真町でミーツの事業をしっかり形にしていくことをやりきりたいです。

放っておいたら課題のままになってしまう地域の困りごとを、一つひとつ出会いのきっかけに変換していくミーツの取り組み。

これまで可視化されていなかったリアルな課題、そして、「ぬくもりのあるコミュニティ」から生まれるインパクトが目に見える形になっていけば、社会のあり方は変わっていくはずです。厚真町で起きた変化が、やがて自分の暮らすまちに、家族が暮らすまちに、そして日本中にも広がっていったら。そんな未来を想像すると、わくわくしてきませんか?

(撮影:山本悠介)
(編集:増村江利子)