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コンポストには環境への意識を高めていく力がある。生ごみ堆肥で土と人をつなぐ「LFC」たいら由以子さんが目指す“半径2km圏での栄養循環”

「この空芯菜、もらっていくね。いつもありがとね。」

玄関先に「ご自由にどうぞ」と置かれたバケツの中から、空芯菜を手に、ご近所さんが笑顔で帰っていきます。

ガーデンで栽培している野菜が使いきれないときは、地域におすそわけ

ここは福岡市東区の住宅地にある一軒家。家庭の生ごみを堆肥化するコンポストの普及活動を行う「ローカルフードサイクリング(以下、LFC)」の拠点です。端境期の晩夏にもかかわらず、庭にはヘチマ、シソ、ナス、ツルムラサキ、ルッコラ、ローズヒップなどがいきいきと育っていました。これらは全て、敷地内でつくられたコンポスト堆肥を用いて栽培されたもの。

1階に広がる畑の一部。2階のベランダにもルーフトップガーデンが広がっています

「年間150種類ほどの野菜やハーブを、コンポスト堆肥で育てています。今夏は猛暑で大変でしたが、ヘチマやゴーヤのグリーンカーテンで暑さをしのぎつつ、ゴーヤは60円の苗から300本以上が収穫できました」と、ガーデンを案内してくれるのは代表のたいら由以子(たいら・ゆいこ)さんです。

ルッコラガーデンにコンポスト堆肥を撒くたいらさん

「コンポスト」は、今や多くの人が耳にする言葉。ダンボールや設置型のコンポストを使って、実践している方もいるのではないでしょうか。家庭ごみの90%を占めると言われる水分の多い生ごみを、私たちは普段、ゴミ袋で廃棄していますが、輸送時や焼却時などその処理段階ではCO2が排出され、環境負荷がかかります。つまり、コンポストが広がることはCO2を削減し、気候変動の対策にもつながるのです。

たいらさんがこの活動を始めたのは、今から30年ほど前。人と微生物がコラボして、日々の生ごみを堆肥化するというアクションの積み重ねが、やがて環境再生の実現や人びとの健康につながっていくといいます。

現在は、LFCとその前身であり1997年から続く「特定非営利活動法人循環生活研究所」の活動を両輪に、2024年秋には新たに「循環型コミュニティガーデン協会」を設立。コンポストと、それを活用するコミュニティガーデンを入口に、自然環境が持つ多様な機能と人の営みをつなぎ、自然と人間の豊かな共生を目指しているたいらさん。その活動の原点、背景にある思いを伺いました。

食の大切さがつないだコンポストとの出合い

たいらさんがコンポストに意識を向ける前、私たちにとって栄養の源である水と食の大切さに気づく大きな出来事がありました。

たいらさん 大学では栄養学を学んでいたので、栄養の知識はありましたが、卒業後は大阪の証券会社で忙しく働き、身体のことを考えずにお腹を満たしていたこともよくありました。転機が訪れたのは28歳のとき。父が病気になり余命3ヵ月と宣告されたんです。

深いショックを受けたたいらさんに、友人が勧めてくれたのが玄米菜食の「食養生」でした。

たいらさん 食養生について書かれた1冊の本を入院中の父に渡したところ、一晩で読み終え、『家に帰る』と言ってくれたんですね。私はすぐに福岡に戻り、父の食事を担当することにしました。

父親の命を預かるプレッシャーを感じつつ、無農薬の野菜を手に入れようと市内を車で走り回ったそうですが、今ほど専門店も多くなく、身の回りには農薬や化学肥料をたくさん使った栄養価の低い野菜しかないことに気づき愕然とします。そこで自らも畑を耕し始め、食材集めに苦労しながら看病にあたりました。しばらくすると、黒ずんでいた父親の顔色が驚くほど健康的に変わったといいます。

たいらさん 父はその後、状態が改善して2年間一緒に過ごすことができたんですね。散歩できるようになるまで元気になっていく姿を見て、食べるものが私たちの体をつくっているんだと強く実感しました。ちょうどその頃、私は第一子を出産したこともあり、食への思いはより深まっていったんです。

この経験を通じて、食と健康のつながりを痛感したたいらさんが次に注目したのが、母親であり、のちに「循環生活研究所」を共に立ち上げた波多野信子(はたの・のぶこ)さんが実践していたコンポストでした。

「半径2km圏での栄養循環」を目指して

たいらさん 母からの手習いでいざコンポストを始めてみると、ごみは減るし野菜はよく育つし、この循環はすごいなと思ったんです。

たいらさんの実家は海辺の近くの砂地の土地で、作物が育ちにくい環境にあったといいます。ところが信子さんは、60年ほど前から生ごみを土に埋め、堆肥化することを実践していました。

たいらさん 当時、プラスチック製のコンポストが出ていたものの、説明書通りにやってもうまく堆肥化できず、母の持ち前の好奇心に火がついたんですね。彼女は負けず嫌いで、小さい頃から観察好き、虫好きでした。そこで、どうやったら虫の侵入を防げるかという課題感から、 Tシャツを帽子状に縫ったものをかぶせるなど実験を重ねていって、ついにはダンボールコンポストのキャップを発明したんです。

ダンボールコンポストのキャップ(写真左)は、循環生活研究所のオンラインショップで現在も販売中(画像提供:NPO法人循環生活研究所)

この発明は全国に広がり、現在でも多くの家庭で利用されているといいます。身近なところにコンポストの先生がいると気づいたたいらさんは、「誰でも簡単にできる」コンポストの開発を始めます。そのときから目標に掲げていたのが「半径2km圏での栄養循環」の実現です。

室内には夢を実際に叶えるために、LFCのコンセプトやビジョンがあちこちに掲げられていました

たいらさん 半径2km圏内は、物事を自分ごととして捉えられる範囲。日常的にコンポストを使い、自分でつくった堆肥で野菜を育てたり、市民農園のような地域の畑や農家さんのところに堆肥を持って行き、そこで栽培された野菜と交換できたり、料理を味わえる共食の場があったり……。誰でも参加できる循環システムがあって、それが広がっていけば、持続可能な社会が実現できると気づいたんです。その日はもう眠れないほど嬉しくて。10年後には、半径2km圏内での循環が広がっている景色を想像して、活動してきました。

オフィスの壁面には、たいらさんが描いた半径2km圏内で「山・川・里・海」が循環する絵も

NPO設立から起業への道

子育てとコンポストの開発を両立させながら、1997年にNPO法人「循環生活研究所」を立ち上げた、たいらさん。「社会的な活動をしていくためには組織づくりが大切」との思いで、アメリカでの研修参加なども重ねながら、コンポストから始める循環生活の普及活動を続けていきます。

活動資金を集めるために出版した書籍『ダンボールコンポストの本』は、今では10万冊以上を売り上げるほど。当時販売していたダンボールコンポストの売れ行きも順調でしたが、NPOの活動については理解してもらえないこともあったといいます。

たいらさん 20年近くNPOの活動を続け、コンポストの販売だけでなくアドバイザーの人材育成もやっていたので、周りからよく『すごいね』って言われるようになったんです。でも、当時はまだ、助成金を申請しようとしても、生ごみを捨てずに堆肥化することで環境にはたらきかけるという見えないインフラのことを面接官に理解してもらえませんでした。それが悔しくて火がついたんですね。論文まで何本か書いて、環境教育学会や廃棄物学会に出て発表もしました。くじけそうになった時期もあるけれど、母に似て燃えるタイプなんです。

活動の基盤が整い、周知されていったことで、市の講座やセミナーの依頼が増えていきます。コンポストのやり方で困っている人に対してはボランティアでサポートを行いながら、草の根の活動を続けました。コンポストが徐々に人びとに広がっていくことに手応えを感じながらも、直面したのが忙しさと人手不足の問題でした。

たいらさん 出張講座が年間300回を超えるようになると、忙しくて自分の食生活がままならなくなってしまいました。コンポストを通じて健康的な暮らしを広めたいと思っているのに、自分の食事が疎かになってしまって。これでは本末転倒だと感じたんです。

同時期に、商業ベースに乗せたプロジェクトで大きな赤字を出してしまい、「これはもう、どこかで収益が出る仕組みをつくり、人員も増やさなきゃと思った」というたいらさん。起業を決意する大きな転機となりました。

この頃はちょうど、都市部の生活者がもっと手軽にコンポストに取り組める方法を模索していた時期でもありました。都市部では、コンポストの普及率が依然として低いのが現状です。その理由として「匂い」「虫の発生」「スペースの問題」や、「堆肥の使い道がわからない」といった声が多く聞かれます。たいらさんは、これらの問題を解決するため徹底的に研究を重ねました。日常生活から出る調理くず、茶殻などの生ごみや落ち葉など40種類以上の地域生物系廃棄物でいろいろな組み合わせを試し、匂いや虫の発生を抑えた新型コンポストを考案していったのです。

都市型コンポストでの起業を考えたとき、循環生活研究所のメンバーと、環境省の人から同時に紹介されたのが、株式会社ボーダレス・ジャパン代表・田口一成さんでした。

ボーダレスジャパンは、福岡市を拠点に「社会の課題をみんなの希望に変えていく」をミッションに、貧困、差別、環境問題など各分野で挑戦する起業家が互いを支え合い、ノウハウを共有するソーシャルベンチャーの集合体。これまでに世界13カ国、50事業を生み出してきました。

LFCバッグ型コンポストの誕生

「社会課題を解決し、いい未来を共に創る起業家」の一員としてボーダレスジャパンから創業支援を受け、2019年に起業したたいらさん。都市型コンポストの開発・販売・普及を行う事業の屋号として名付けたのは「ローカルフードサイクリング(LFC)」という言葉。

たいらさん ローカルフードサイクリングとは、「地域で食べ物が循環する」という意味です。語尾にingをつけたのは、地域の人々が自ら循環を生み出し、自転車で回れる距離を意識しているから。ロゴマークの中心には鶏のイラストを配置しました。これは、野菜で循環が可能になった次の課題として、タンパク質の問題が出てくると思ったからです。いずれは田舎や都会の屋上で鶏を飼う時代が来るかもしれない、そんな思いを込めています。

試作を重ね、発売後も現在までに20回以上の改良を施しているLFCコンポスト

そして、これまでのユーザーのあらゆる声に耳を傾け、改良を重ねて形にしたのが、このバッグ型LFCコンポストです。スタイリッシュでコンパクトなバッグは、基材入りで約2kgと軽量。持ち運びも簡単なことから、多くの人の関心を引き、これまで10万世帯以上の人たちが利用し、なんとフランスでも展開されています。

たいらさん コンポストを途中でやめてしまう人へのアプローチも考えました。虫が入りにくく、ワンタッチで操作できて狭いスペースでも楽しくできるファッション性のあるスタイルに。半径2kmでできる栄養循環の実現を目指してきましたから、コンポスト堆肥をつくったら、地域のマルシェにそのまま持って行って、農家さんのつくった野菜と交換できる仕組みをつくろうと思ったんです。

バッグの外側は国内のペットボトル・廃プラスチックからつくったリサイクル素材を使用。非水タイプのファスナーと内袋の縫製を工夫することで、匂いを少なくし虫の侵入を極力防ぎます。生ごみを混ぜる基材には、分解を進めて堆肥化しやすい天然素材が入っています。

バッグの中にコンポスト基材をセットすれば、その日からスタート。「生ごみを入れる」「軽く混ぜる」「フタをする」を約2ヶ月繰り返し、3週間ほど熟成させると、栄養たっぷりの堆肥に姿を変えて、土に還ります。

生ごみが価値のある資源に。「いい堆肥は、色が濃くてしっとり。鶏糞と同じくらい肥料としての栄養素を豊富に含んでいます」とたいらさん

たいらさん このコンポストには生ごみ由来の炭素や炭が含まれています。微生物は水分や栄養、隙間にある酸素によって活性化し、生ごみを分解します。できた堆肥は植物の根に栄養を供給し、野菜の成長を助けてくれる。土壌の健康にもよく、結果的に私たちの健康にもつながる好循環が生まれるんです。

起業当初は、受注から配送まで一人で行っていたたいらさん。販路はSNSだけでスタートしましたが、初日に注文が殺到、一時的に受注ができない事態にもなりました。それにもかかわらず、バッグ型コンポストの魅力は口コミで広がり、4ヵ月目には黒字化を達成します。

コンポストを始めた人からの感想で多いのは、「部屋から生ごみの匂いがしなくなった」という声。

たいらさん 1日1分でできるので、『こんなに簡単なら早く始めればよかった』という声が多く寄せられます。さらに、捨てるごみが30〜40%減るので、ゴミ袋の使用量も減り経済的なメリットも感じられます。そこから意識が高まり、捨てるごみが半分以下になる人も多いんですよ。

CO2の排出だけでなく、本来なら輸送や焼却、ビニール袋購入にかかっていたコストを70%も削減できるというコンポスト。過去に行った実証実験では、4年間で10万人がコンポストを実施した結果、生ごみは4,000トン以上、CO2は2,000トン以上削減できたという結果が出ています。

玄関前には、この場所で堆肥化した生ごみの量を記録

バッグ型の手軽さに加え、LFCコンポストの魅力はそのサポート体制。購入後、わからないことがあれば社内の専門家「コンポストアドバイザー」にLINEで質問でき、写真を送るなどしてアドバイスをもらえる個人伴走の仕組みが整っています。

たいらさん ユーザーがつまずくポイントには、メールやLINEで対応しています。多い時は月に2,000人ほどをサポートしています。わかりやすい説明を大事にしているので、スタッフが一人ひとり手作業で返事をするのが、私たちのやり方です。

たいらさんは「忙しい日々の中でも、自分の生活圏で取り組めて効果を実感できることが自信につながっていく」と考え、アプローチし続けています。ユーザーからの情報を収集し、改良に反映していくとともに、LFCに共感し一緒に活動を行う「エコアンバサダー」の協力も得ながら、LFCコンポストの輪は広がっています。

コンポストと同じ素材のプランターを栽培用の土とセットで販売。自宅でできた堆肥を同梱の土と組み合わせ、気軽にベランダ菜園に取り組むことができる

自分の気持ちを耕すことから始まる環境再生

コンポストのメリットはごみが減ることだけではありません。生ごみを分解する過程を体験することで、都市部のベランダでも「自然とつながっている感覚」を得られるといいます。

たいらさん ベランダで、1日1分でできるエコロジーです。混ぜていると、日に日に生ごみが減っていくのがわかるので、微生物がいて分解してくれている循環を感じられるし、バッグの中はまるで小宇宙みたい。自分がその生態系の一部だと実感できるようになっていくんです。すると、スーパーで野菜を手に取るときも、生産者や季節に思いを馳せるようになり、視点や行動が変わってきます。コンポストには意識を変える力があるんです。

30年の活動を経た今だからこそ、たいらさんはコンポストの可能性と教育効果を確信しています。

たいらさん 統計によれば、今後世界の3分の2の人が都市部に住むようになります。都市部は大量の廃棄物を出しますが、生ごみという資源は豊富です。それを各家庭で堆肥化して都市部で2〜3ヶ月循環させ、その後農家と連携して自給を高める。そうした発想や行動につなげていくことができると思います。まずは自分たちの気持ちを耕すことから始めたいですね。

ベランダでコンポストを始めた都市生活者にとっての課題は、堆肥の使い道です。個人が地域や生産者とつながることで、環境に優しい循環の仕組みや社会的な課題の解決策が見えてくると、たいらさんは考えています。

たいらさん 自宅でプランター栽培をしても堆肥が余って困る人が出てくるので、堆肥の回収会を定期的に行っています。集まった堆肥を農家さんに安心して使ってもらうことも、私たちの使命の一つなんです。

堆肥の回収会のようす

現在、LFCコンポストには約10名の提携ファーマーがいます。自宅のLFCコンポストでつくった堆肥を送ると3ヵ月後にその堆肥で育てた野菜が届くというキャンペーンやイベントも行っています。

たいらさん 農家さんも美味しい野菜ができると喜んでいて、堆肥が足りないくらいなんですよ。高齢化やさまざまな問題で、生産者が自分で堆肥をつくれない現状があります。それを家庭でのコンポストと農家の手仕事として復活させる、この二本軸を増やしていきたいと思っています。

スタッフと一緒につくって食べるという社食のランチにも、庭で採れる瑞々しく元気な野菜がたくさん!

コンポスト堆肥から美味しい野菜が育つ喜び。その体験を通じて、ユーザーも生産者も、その価値を再認識するのです。

コミュニティガーデンの普及を目指して

家庭でのコンポストと農家の手仕事を増やす取り組みを続けながら、たいらさんは「半径2km圏の栄養循環」へとつながる次のビジョンとして、2024年秋、全国の仲間とともに「循環型コミュニティガーデン協会」を立ち上げました。

たいらさん この活動では、生ごみや落ち葉などの資源を循環している全国のコミュニティガーデンに認定を出して、興味を抱いた人が視察に行きやすいようにサイトで紹介していきます。これから始めたい人向けには学びの場も準備して、最新事例の共有も定期的に行う予定です。

地域をつなぐ手段として、たいらさんはコミュニティガーデンの活用と普及について長年構想を温めてきました。

たいらさん 2016年に福岡のアイランドシティでコミュニティガーデンプロジェクトを始めたんですが、畑への関心からやってくる人が多かったんです。コンポストだけだとなんだか難しそうと感じる人も、ガーデンとセットなら参加しやすいんだなって。活動を通じて、生ごみの減容率やコミュニティ行動の広がりなどを数値化してみて、可能性は大きいと感じました。

アイランドシティのコミュニティガーデンでは、自宅でつくったコンポスト堆肥と野菜を交換。小学生向けの「半農小学生講座」も開催(画像提供:NPO法人循環生活研究所)

また、全国のコミュニティガーデンに派遣できるよう、コンポストアドバイザーの体制も整えてきました。

たいらさん NPO立ち上げ当初から人材教育を視野に入れ、アドバイザー育成用の教育シラバスをつくってきました。現在、循環生活研究所で150人、LFCで60人ほどのアドバイザーが活動中です。地域や目的に合わせてアドバイザーを派遣できます。

その活動は海外にも広がり、モンゴルをはじめアジア5ヵ国でモデル事業を展開しています。国内外さまざまなタイプの教育農場で試作や実証を行ってきた中には、不登校や非行少年を対象にしたプログラムもありました。現場の様子を見続けながら、感じるのは「やっぱり土に触れる活動はすごい!」ということ。

たいらさん 誰ともしゃべらない不登校の子が、1年経つと誰よりも上手に畑を耕せるようになり、自然の力、食べ物の力を実感しました。畑だと他人の顔を見ないで作業ができるし、経歴も経験も全く関係ないんですよね。コミュニティの再生に有機物をマッチさせるのはすごくいいなと思っています。

また、高齢化が進む地域でもコミュニティの再生に一役買っています。

たいらさん 福岡市の高原地区というところで、 20年以上コンポスト講座を続けているんですが、引きこもりのお年寄りが地域に増えてきているんですね。そこで、自治会の依頼でコンポストを通じた畑の活動を導入したところ、地域活動に関心のなかった人が畑づくりに入ってくるんです。地域に風穴が開いて横串を刺せたんですよ。

そこにあったのは、土いじりに巧みな高齢者が地域の若者に野菜づくりを教えている姿。コンポストを通じて新しいつながりが生まれる風景でした。地域の荒れた庭や畑をコミュニティガーデンにして、小さなコミュニティを回すという取り組みを継続してきた中で、高齢の人たちの喜びや、若い人たちと畑の相性のよさを見ることができたのは、未来への希望だといいます。

たいらさん 都市部では住民同士のコミュニケーションが希薄だと言われますが、コミュニティガーデンがその橋渡しになると信じています。今、福岡市・天神のビルの屋上にもコミュニティガーデンを広げているんですが、屋上緑化でのヒートアイランド対策やCO2削減といった環境保全、そして人と人がつながるコミュニティの形成というように、自然が持つ機能、力をいかして社会的な課題を解決していく「グリーンインフラ」がかたちになってきているのを感じるんですね。2030年には、そうしたグリーンインフラを支えるグリーンジョブに携わる人が1万人ぐらいに増えて、循環しているといいなと思っています。

まだ見えないグリーンインフラの未来図について、軽やかによどみなく話すたいらさんの言葉には、30年という活動の継続と努力、成果に裏打ちされた力強く、しなやかな信念が感じられました。

家庭でできるコンポスト、生産者や地域とつながってコンポスト堆肥を活用していくコミュニティガーデンやファーム。生ごみの堆肥化という個々の小さな一歩の積み重ねとそれをいかした仲間づくりは、やがて半径2km圏で人びとの心身の健康を支えながら、栄養の循環を活性化し、気候変動抑制にも寄与していく。たいらさんの話を聞いていると、LFCコンポストで始めるアクションは、環境再生への確実な一手になると感じられるし、ユーザーが増えるたびにその循環の輪が広がっていく景色が鮮明にイメージできます。

1粒の種から300以上の実をつけたゴーヤのように、環境への意識や暮らし方について考える人が一人、また一人と増えていったら……。グリーンに溢れる優しい未来を想像しながら、コンポストバッグを持ち帰りました。

(撮影:重松 美佐)
(編集:村崎恭子、増村江利子)

– INFORMATION –

今回取材した「LFCコンポスト」が、モンゴルの土壌再生と豊かな暮らしを実現するプロジェクトのためのクラウドファンディングを実施中!詳しくはこちらをご覧ください。