二日目のテーマは、「サステナブルな建築・都市」(井口浩氏、池上俊郎氏)、「ネイチャーテクノロジー」(赤池学氏、石田秀輝氏)、「サステナブルなライフスタイル」(マリア・シシリア・ロスキャボ氏、黒崎輝男氏)、そして「サステナブルな社会」(エツィオ・マンズィーニ氏、フランソワ・ジェグ氏)。この日は、「Massive Change」のトークに参加したため、途中からの参加となったが、いずれも「デザインの新たな意味や可能性を探る」という同じような理念を持っており、その共通点や相違点に思いをはせながら、興味深く聞いた。
ホームレスの誇りは本当のクリエイティビティ
会場に入ると、サンパウロ大学建築学科准教授で哲学家でもあるマリア・シシリア・ロスキャボ氏の講演だった。内容は、ホームレスの方々の創造性に可能性を感じている、というもの。
物質的な循環から外れた状況でいかにサバイヴするか、彼女は「彼らは『誇り』を持っている。それこそが本当のクリエイティブだ。」と言う。そのような創造性を社会に巧みに組み込んでいけるような、新しい社会システムがいま必要とされている。
- 講演後には様々な交流が行われる
ただ、彼女は「デザイナーは政策立案者ではない」ときっぱり言う。役割分担を明確にすることは重要な提言だ。
デザインの貢献できる範囲を把握し、デザイナーもアクティビストとして参画していくすることで、デザインの可能性は自然と広がっていくだろう。
マルチローカルな社会に向けて
そして、いよいよエツィオ・マンズィーニ氏が登場した。タイトルは「サステナブルな社会 〜 シグナル&ビジョン」。
まず会議の感想として提案や事例の多様性を指摘しながら、共通分母としての3つのポイントを挙げた。ひとつめは「ラディカル」、今までの生活様式を著しく変化させるほどのアイデアを生み出すためには、既存の箱から出る必要があるということ。そして、「クリエイティビティ」、社会の中で見つけられる創造性に気づき、活かすこと。最後に「マルチローカル社会」、グローバル化が不可逆的になった今、手の届く範囲としてのコミュニティの中でいかに生きるかということだ。
マンズィーニ氏は続ける。
「今必要なのは、社会的に学べるようなプロセスをつくり、社会をアクティブでインタラクティブなものにすることである。そのために経験から学び、『Promising Signal =(可能性のある信号)』に気づき、『ビジョン』を共有することが大切だ。そして、環境的かつ社会的に利益のあるクリエイティブなコミュニティを描こう。」
- 左:マンズィーニ氏 右:ジェグ氏
ネットワーク社会の中で、個人はマルチローカル社会の重要な結び目になっていく。もはや「スモールは、スモールではない」のだ。「サステナブル・エブリデイ」で示された時間を通貨とする「タイムバンク」、自宅を託児所として開放する「マイクロ託児所」、集団で楽しく通学する「ウォーク・バス」など、パブリックとプライベート、所有とオープンネスを巧みに織り交ぜたケーススタディは、オルタナティブなパラダイムを予感させるワクワクするような説得力を持っていた。
デザイナーとしての能力のすべてを挙げて 〜 サステナブルデザイン宣言!
この日のハイライトは、今日付けで採択された「サステナブルデザイン宣言」である。デザイナーのこれからの可能性がたくさん詰まった宣言を、以下すべて引用しよう。
『私たちは、デザイナーとしての能力の全てを挙げて、世界の人々が今後何世代にもわたって人間らしい生活を長く続けてゆくことができる、サステナブルな社会の実現のために寄与する。
一、私たちは、製品、施設、サービス、システム等のライフスタイルを通じて資源・エネルギーの消費を極力抑え、可能な限り環境に負荷を与えることがないようデザインする。
一、私たちは、公平と公正を重んじ、本当に必要なものを可能な限り多くの人々が利用できるようにデザインする。
一、私たちは、人々の歴史や風土を背景とする様々な価値観を認め合い、文化的多様性を尊重してデザインする。
一、私たちは、サステナブルな社会の姿を具体的な形として描き出し、デザインによって人々の心に働きかけることでその実現を目指す。
私たちはサステナブルな社会のイメージを多くの人々と共有するために、なるべく具体的な絵をたくさん描こう。そして、そうした社会を可能な限り早い時期に実現するために、到達地点に至るロードマップ作成に着手しよう。
2006年12月15日サステナブルデザイン国際会議 参加者一同』
今回の会議では、参加者はもちろん、名前は知っているけど直接話すのは初めてという、世界のサステナブルデザインのリーダー同士が、直に熱心に議論しあう姿が印象的だった。
強く感じたのは、かのヴィクター・パパネックが『生きのびるためのデザイン』で提言したCROSS-DISCIPLINARY(=もろもろの分野を貫いた視点)が、デザイナーにとっていよいよリアルな主題となったということだ。それはブルース・マウの言う、「分配、複数、コラボレーション」とも通じるだろう。デザイナーの可能性は、無限に開かれている。
「ここ一年、意識が変わってきているのを強く感じている」というマンズィーニ氏の直感をポジティブに共有しながら、できるだけオープンに、そして広い語彙を持って、手の届く範囲から取り組んでいきたい。