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「僕たちは絶滅するの?」気候変動と種の絶滅を止める旅に出た若者二人を追うドキュメンタリー映画『アニマル ぼくたちと動物のこと』

気候変動が悪化の一途をたどり、生物多様性の破壊が進む現在の地球。その未来に不安を感じながらも、何をすべきか、何ができるのか、考え込んでいる人も多いかもしれません。映画『アニマル ぼくたちと動物のこと』では、二人の若者が世界中を旅しながら、地球が抱える問題を解決するためのヒントを探ります。

人間の暮らしと動物の命、その両方を守るには?

世界中を旅するのは、動物保護と気候変動問題に取り組む16歳のベラとヴィプラン。二人は抗議行動やデモ、ストライキを実践している環境活動家です。遊ぶことに夢中の青年時代を過ごした大人たちには、彼らが貴重な10代の時間を環境活動に費やすことは理解し難いかもしれません。

けれども、この40年間で脊椎動物の個体数はすでに60%以上減少し、地球の平均気温は産業革命前と比較して、2023年には1.48℃の上昇を記録しました。二人が大人になり、子どもを育てる頃には、スキューバダイビングをしても海中でサンゴが見られないどころか(海水温度の上昇により世界的にサンゴの白化が進んでいます)、魚よりプラスチックごみが多い状態になっているかもしれません。そんな未来をリアルに想像できてしまう若者にとって、環境を守る活動は将来の自分たちを守る活動にほかならないのです。

©CAPA Studio, Bright Bright Bright, UGC Images, Orange Studio, France 2 Cinéma – 2021

二人は、学者などの専門家、活動家や政治家など、さまざまな人たちに出会い、現状を知って知識を深めながら解決のための道筋を探っていきます。生物多様性が破壊され、気候変動が悪化する背景には複雑な問題が絡み合っており、その解決には幅広いアプローチが考えられます。

たとえば近年、サンマやイワシといった庶民の食を支える魚が不漁で、高騰するといったニュースを目にすることがあります。海水温度の上昇など、いくつかの要因がありますが、乱獲もそのひとつ。私たち人類は、海に生息する魚を根こそぎ獲るほどの技術を手にしているのです。

二人はヨーロッパで活動する海洋保護団体の設立者と出会い、欧州議会に漁業を規制するよう働きかける現場に足を運びます。議会の中には環境問題に関心の高い政治家もいますが、企業の利益を守ろうとするロビイストの働きによって、法律は簡単には変わりません。二人は、解決策を実行に移すために社会を変えること、そしてそのためには戦略的に働きかけて政治を変えることが必要だと学びます。

©CAPA Studio, Bright Bright Bright, UGC Images, Orange Studio, France 2 Cinéma – 2021

人間は生き物を狩ったり、獲ったりするだけではありません。生き物が絶滅に瀕したり、個体数が減少する一方で、人里にクマが出没したり、シカやイノシシが農作物を荒らしたり、人間の側が被害を受けることがあります。生き物の命を守りながら人間の生活を維持することは、それぞれの暮らす領域が近くなればなるほど困難になっているのです。

そんな問題に取り組む生物学者に会うために、二人はフランスへ。そこでは、羊を放牧している畜産農家とオオカミとの共存を図るために、サーモグラフィなどの科学技術を用いたオオカミの生態調査が実施されていました。被害をもたらすオオカミを殺処分するという短絡的な解決方法ではなく、人と動物が共生する道を探ろうとしているのです。そういった試みにおいて、科学的な手法が重要な役割を果たしていることも注目したいポイントではないでしょうか。

二人のように行動できなくても。あなたにもできることがある

環境問題について知識を深める二人の旅は、同時に彼らの成長物語でもあります。現実の残酷さに直面したり、新たな道筋に希望を感じたり、さまざまな場面で知らないことに目を見張り、難しい表情で考え込み、ときには涙ぐみ、くるくると表情を変えながら全身でこの旅を体感する二人。自分たちと同様に環境や生き物を守るために、世界中でたくさんの人たちが多様な取り組みをしていることを知っていくのです。

声をあげ行動を起こしながらも、焦りや不安を感じずにはいられなかった二人が、旅が終わる頃には一回りも二回りも大きく成長。新たな知識や体験を通して、希望ある将来を自らつくっていこうとする強さを得ていくように見えました。

©CAPA Studio, Bright Bright Bright, UGC Images, Orange Studio, France 2 Cinéma – 2021

ただし、残念ながら私たち人類が直面している問題は、簡単に解決できることではありません。二人の探求と活動はこれからも続き、撮影後の今も続いていることでしょう。それは現在、地球に生きるすべての人、特に先進国で暮らす大人が背負うべき課題であることを忘れてはなりません。先進国の豊かで便利な生活は、温室効果ガスを大量に排出してきた/いる科学技術なしには成立しえないからです。世界中を旅した二人のように、私たちも問題を知り、行動を起こしたいものです。

二人が世界中で出会った人たちの中で、インドでビーチクリーンを続けてきた弁護士のアフロズ・シャー氏の活動が特に印象に残りました。彼は、プラスチックごみでいっぱいだった海岸をきれいに掃除するだけではなく、プラスチックの漂着を防ぐ活動も行い、数年をかけた末に、もとの美しい海岸を取り戻すことに成功したのです。

©CAPA Studio, Bright Bright Bright, UGC Images, Orange Studio, France 2 Cinéma – 2021

さらに彼は、使い捨てプラスチックの使用を減らすための活動を始めました。2022年にはインド全土で使い捨てプラスチックの使用が禁止になり、使い捨てプラスチック問題は大きな転換を迎えています。海岸を掃除するという地道な行動から始め、多くの人を巻き込む活動に広げながら、使い捨てプラスチック問題の根本的な解決に結びつけていった彼の行動力には目を見張るものがあります。

彼は二人に、「行動しなければ、言ってはいけない」と伝えます。環境を守ろうと口にするのであれば、行動が伴わなければならないと。非常に厳しい、ストイックなもの言いではありますが、活動の先頭を切って実践し続けてきただけに、説得力のある言葉でした。

©CAPA Studio, Bright Bright Bright, UGC Images, Orange Studio, France 2 Cinéma – 2021

環境問題について何かしよう、何か言おうなんて、やっぱりハードルが高いと思われるでしょうか。けれども、この映画を劇場で観ることも、行動への一歩になるのではないでしょうか。流れて来た情報を、さらに右から左へ流すだけではなく、「こんな映画を観て、こんな風に感じた」と、自ら考えたことを積極的に人に伝えるのも、実践のひとつ。今、パソコンやスマホの向こうでこの記事を読んでくださっているあなたにもすぐにできる行動として、劇場へ足を運んで、スクリーンの前で二人の旅を追体験することをご提案します。そこから、あなた自身の新しい旅がはじまるかもしれません。

(編集:丸原孝紀)

– INFORMATION –


映画『アニマル ぼくたちと動物のこと』
2024年6月1日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー


監督:シリル・ディオン
出演:ベラ・ラック、ヴィプラン・プハネスワラン、ジェーン・グドール 他
撮影:アレクサンドル・レグリーズ 編集:サンディ・ボンパー
プロデューサー:ギヨーム・トゥーレ、セリーヌ・ルー他
原語:英語、フランス語
原題:ANIMAL
配給:ユナイテッドピープル
105分/フランス/2021年/ドキュメンタリー
https://unitedpeople.jp/animal/