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「リジェネラティブデザイン」で、社会と私たち自身もすこやかさを取り戻す。グリーンズ共同代表・植原正太郎と編集長・増村江利子に聞いた、環境再生を探究する理由

今年で18年目に突入したグリーンズ 。
これまで「ソーシャルデザイン」をひとつの大きなキーワードとし、WEBメディアや書籍をとおして「こんな社会をつくりたい」と提案し続けてきました。

社会課題を自分ごととして捉え、小さくてもアクションを起こし続けること。そこからまた新しい価値が生まれるようなプロジェクトやビジネスを模索していくこと。
どんなに絶望的な状況に思えても、グリーンズのそんな呼びかけが、希望の光になった人も多いのではないでしょうか。私もその一人です。

「ソーシャルデザイン」という言葉はすっかり世の中に広がり、「ソーシャルデザイナー」として活動する人や、社会課題に積極的にアプローチする人も増えてくるなか、グリーンズは新たなフェーズに移ろうとしています。

2023年には、合言葉を「いかしあうつながり」から「生きる、を耕す。」にリニューアル。同時に目指すべき方向のひとつとなるキーワードを新たに設けました。

今、グリーンズが社会に働きかけるアクションとして、僕たち自身が心からやりたいことってなんだろうと考えたとき、「リジェネラティブ (環境再生型)デザイン」を大きなキーワードとして掲げたいと思いました。

自然環境を再生させながら、社会はもちろん、私たち自身もすこやかさを取り戻していく。そういった仕組みづくりを大きなムーブメントにすることにグリーンズ が貢献できたらと。

こう語るのは、グリーンズ共同代表の植原正太郎(以下、正太郎)と編集長の増村江利子(以下、江利子)。

なぜ今、「環境再生」を目指すのか、そして今後社会にどんな働きかけをし、どんな社会をつくろうとしているのか。グリーンズの次なるステージを引っ張っていくふたりの対談をお届けします。

植原正太郎(うえはら・しょうたろう)
グリーンズ 共同代表。
88年生まれ。いかしあう社会を目指すNPOグリーンズですこやかな経営と事業づくりに励む。2021年5月に熊本県南阿蘇村に移住。暇さえあれば釣りがしたい二児の父。
増村江利子(ますむら・えりこ)
greenz.jp 編集長。
国立音楽大学を卒業後、Web制作、広告制作、編集を経てフリーランスエディターとして活動。2017年に東京から長野県諏訪郡に移住。三児の母として、犬二匹、猫三匹とともに、9坪程度の小屋でDIY的暮らしを実践中。

サスティナビリティだけではもう解決できない
環境再生は諦めないための手段

正太郎 「環境再生(リジェネレーション/regeneration)」は、去年くらいから少しずつ国内でも語られるようになった気がしますよね。言葉としてはもっとずっと前からあって、特にアメリカでは10年以上前から環境分野における一つのキーワードとしてありました。

生成するという意味を持つ「generation」に「re」が組み合わさることで、「再生」という意味を持ちます。日本語で訳される場合には、「環境再生」と訳される事が多いです。すでにさまざまな分野で使われていますが、その意味を大きくまとめると「人が自然に手を入れながら、環境を再生する」ことなんですよね。

江利子 そうだね。近年、サステナビリティという言葉の下でさまざまなアクションが行われているけれど、もうそれだけでは解決できない局面まできていて。それでも諦めないための手段が「環境再生」だと思っています。

正太郎 できる限り環境に対するネガティブなインパクトを減らして、人類がこの地球で暮らし続けられることを目指しているのがサステナビリティ。2050年までに実質的に炭素を出さないカーボンニュートラルな状態を世界が目指しているけれど、現在進行形で環境破壊や気候変動による生態系の変化が進んでいて、カーボンニュートラルを達成する2050年までに地球は壊れてしまうんじゃないかとも言われています。

サステナビリティの取り組みはもちろん必要不可欠ですが、ネガティブなインパクトをなるべく減らすだけでは不十分で、むしろ僕たちが積極的に環境を良くしていくような生き方や社会の仕組みをつくらないと、結局僕たちの文明も存続できないんじゃないかと。サステナビリティが環境負荷ゼロを目指すならば、環境再生 はポジティブなインパクトを目指していく取り組みです。そんな中で今、世界中で環境再生に大きな注目が集まっているんですよね。

「環境負荷不可ゼロ社会」を目指すサステナビリティに対し、環境再生は環境に対しポジティブなインパクトを目指す(上図は、「Range of sustainability approaches (Developed from Bill Reed, 2007 [10])」を参考にgreenz.jpが作成したものです)

今ある自然を利用させてもらいながら、ともに生きる仕組みをつくる
世界で起きている環境再生のムーブメント

正太郎 環境再生に向けた世界の動きを語る上で、「リジェネラティブ(環境再生型)農業」は一番大きな取り組みではないでしょうか。特徴的なのは“耕さない農業”(=不耕起栽培)であること。

実は、一般的な耕す農業では、雨が降ると一気に土が流されてしまい、耕作できる面積がどんどん減っているんです。そうすると人間の食料を生産する上で非常にリスクが高く、持続可能ではないわけです。

一方でリジェネラティブ農業は、できるだけ耕さないことと緑肥、被覆作物で覆うこと(カバークロップ)で、土壌の微生物が豊かになり、雨が降っても流れにくい土壌に改良できたり、土壌の流出も防げる。さらに土中の炭素も固定でき、生産量も上がる。1980年代にアメリカの有機農業の研究機関「ローデル研究所」が提唱したこの動きは、今世界のスタンダードになりつつあります。

不耕起栽培がなぜ「環境再生」なのか、そして私たちの食の未来をどう変えるのか、福島大学食農学類教授で『ミミズの農業改革』著者・金子信博さんにインタビューした記事もぜひお読みください)

正太郎 例えば、ネスレは2050年までに気候変動の影響でコーヒーの生産地が半減してしまうことを予想し、生産地の自然環境を再生させながらコーヒーを生産する方法にシフトしようとしています

ただ、現在進行系のリジェネラティブ農業にはすでに問題点も生まれています。とにかく耕さずに炭素固定できればいいという考えで、従来通り農薬や化学肥料をたくさん使用したり、遺伝子組み換え作物を育てたりと、生態系の観点からは本質的ではない動きも広まっているんですね。そのカウンターの動きとして、パタゴニアなどが「リジェネラティブ・オーガニック認証」をつくり、真の環境再生型の農業を実践する生産者を支える取り組みをしています。

江利子 私が農業の観点で「環境再生とはこういうことか!」とまざまざと知ったのは、アフリカの伝統農法の「ムグンガ農法」と呼ばれるものです。大地がカラカラに乾燥して、農地の劣化が深刻なアフリカで、肥料を与えなくてもトウモロコシの生産量が3倍近くになる方法を見つけ出したんです。それは、ムグンガと呼ばれるアカシアの木の下でトウモロコシの生産をすること。ムグンガの葉には窒素が含まれていて、枯葉が土壌を改良するから、樹冠の下でトウモロコシを育てると生産量が上がる。ムグンガは無料の窒素源として機能してくれて、高騰する化学肥料を買わずに済むわけです。防風林としても機能するし、暮らしで使う薪や建材にもなって、雨季には土壌侵食も防ぎます。

これまで私たちは森林を伐採して抜根し、畑や田んぼをつくってきたけれど、今ある自然を利用させてもらいながら、ともに生きる仕組みをつくることが、次のステージなのではないかなと。

正太郎 そうですね。

気候変動の分野では、ポール・ホーケン氏の書籍『リジェネレーション』は衝撃的でしたね。気候変動を終わらせるためには「すべての行動と決定の中心に生命をおく」という考えが中心にあります。これまでの経済活動は、金融資本を意思決定の中心に置いた取り組みです。GDPや経済成長を追い求めた結果、今の地球の状況になってしまっている。僕たちは自然環境、生態系に生かされていることを前提に、あらゆる経済活動や暮らしを考えるときに生命を中心に置いてアプローチしていこうよ、と呼びかけています。

江利子 『ドローダウン』から始まって、さらに気候変動を終わらせるための具体的な手段として『リジェネレーション』が出版された。私たちにできるアクションはなんだろうと、何度も手に取りました。

『リジェネレーション[再生]–––気候危機を今の世代で終わらせる』(山と渓谷社)この本の出版化にたりクラウドファンディングを敢行し、現在もその考え方を広める活動をする一般社団法人ワンジェネレーションの共同代表・久保田あやさんとgreenz.jp編集長・増村江利子との対談記事もぜひご一読を!

現代の暮らしによって忘れてしまった、
かつての自然との関わりを取り戻していく

江利子 私は、環境再生に期待できる要素は、気候変動の軸だけではないと思っていて。自分たちの生き方をも変えたいと思っているんですよね。

正太郎 国内でも環境再生に向けた取り組みをする人が増えていますが、僕は土中環境』の著者である高田広臣さんの活動に、「これこそ今まさに現代人が身につけなければならない考え方だな」と、本当に感銘を受けました。

土の下では水が流れ、空気が流れ、目に見えない動きによって生態系の循環が生まれ森林のすこやかさが育まれている。そのすこやかさを保つために日本人がずっと里山に関わり続けて培ってきた伝統的な活動を改めて評価し、高田さん自身も日本中の山に入って伝統的なアプローチによって環境再生をしています。

江利子 そうだね。例えば、上下水道が整ったことで私たちはたくさんの恩恵を受けているけれど、かつて田舎の集落では、水を自分たちで引いてくるところからしなければいけなかった。そこには、水そのものへの感謝や畏敬の念があるし、自分たちだけでなく、次の代まで水が飲めるように保守・保全をしてきたわけです。そのために、用水路だけでなく、水源のある森全体をみて必要なメンテナンスをしてきた。私たちは本来、そうした自然とともに生きるためのスキルを持っていたはずなのに、暮らしが近代化したことによって、それらを忘れてしまっていることを高田さんは教えてくれますね。

かつての薪炭林(しんたんりん)のように、薪(たきぎ)や炭の原料となる木材を採取させていただくけど、感謝は決して忘れない。オーバーユースの時代もあったけれど、反省をして、みんながそれぞれ必要な分だけを使わせていただくという配慮によって、社会が持続していく。暮らしそのものを昔に戻すことは難しくとも、人間中心ではなく、自然の営みのなかに人間を置く、かつての考え方を取り戻して、現代においてできる実践を積み重ねていくことが、大事なのではないかなと。

正太郎くんが住んでいる阿蘇の草原も、人が手を入れることで1万年にわたって環境を維持してきたわけだよね。

正太郎 まさに。阿蘇の草原は国内最大で、2万ヘクタール以上もの面積があります。毎年人間が火を入れて草原を燃やすことによって維持していて、土壌分析を行うと縄文時代から行われていた習慣らしいんです。草原に火を入れるって環境破壊なのではないかと思うけど、それによって多様な昆虫や動植物が生息できるようになったり、炭素を土中に固定して気候変動対策の面でも大事な役割を果たしていたり。

人が自然環境に手を入れることで、周りの生態系にもポジティブな影響を及ぼす、その関わりに、実はずっと取り組んできたんですよね。かつてやっていたことをもう一度再開するだけではなくて、現代だからこそできるアプローチはなんなのかを模索し始める時代に入ったのかな、と。

僕たちが環境再生的な存在になれたら、この社会は続いていく。
それは「これでいいんだ」の積み重ねにある

江利子 ちなみに、正太郎くんが環境再生に注目したきっかけには、何がありますか?

正太郎 僕自身、サステナビリティについて勉強をし始めたのが約5年前、娘が生まれたことがきっかけでした。仮に2100年まで娘が生きたとして、2100年の地球ってどうなっちゃうんだろう、危機的な状況なのではないかと思って。

学びを深める中で、これまでの人類の文明が滅びた理由を振り返ってみると、ほとんどが周辺の自然環境を破壊し尽くした結果自分たちも滅びるということを繰り返していることに気がつきました。過剰な耕作をしたり、エネルギーが必要だからといって周りの木を切り尽くし、それでも足りないから遠くの山まで切り裂いた結果、土砂が流出して河川が氾濫するようになったとか。

結局人類って、自分たちの文明のために自然破壊を繰り返し、エネルギーを過剰に使うことによって滅んできたということが相似形のように今につながっているんです。かつての文明はその地域だけで発展していたので、滅んだとしても他の自然環境はまだ残されていたけれど、グローバル社会においては全てがつながっていて、環境破壊が世界で同時に起きているのが大きな問題だと思っています。

正太郎 じゃあ解決するには?と考えた時、これまで人間が環境を破壊することによって文明が滅んできたのであれば、逆に人間が環境を再生することによって文明は続いていけるかもしれないと思うようになったんです。僕たちが環境再生的な存在になるのであれば、この社会は続くだろうし自然との共生も実現するのではないか。このテーマを探究したいと思った土台はそこからです。

江利子 なるほど。私は環境再生というテーマに出会うまで、環境問題は個人で立ち向かうには大きすぎる課題だと思っていました。でも数年前から、そんなことないと思い始めたんだよね。例えば川の流れが滞っていて、水がちゃんと流れていないことで濁っている場所があったとき、そこにある石の向きをほんの少し人間の手で変えてあげるだけで、水がすっと流れ始める。

「これでいいんだ、石の向きを変えてあげるだけでよかったんだ」って。これは誰にでもできるし、このちょっとした積み重ねなんじゃないかと思った時に、そこに大きな希望をみたんです。

正太郎 生物多様性が高まったり環境が再生されていくように人間が振る舞えるのであれば、それ以上にハッピーなことってないですよね。すごく大きなスケールで取り組まなくても、自分の家の庭でもいい。そのくらいのスケールから取り組めるという点も、環境再生の大事な要素だと思います。

リジェネラティブデザインカレッジ開講
同じ志を持った仲間が集まり、
ムーブメントをおこしていくための起点になりたい

正太郎 環境再生に正解のアプローチはまだなくて。まだまだ多くの実践やチャレンジによって開いていかなければならない。そのためにまずは学ぶこと、そして全国の同じ志を持った仲間と出会うことが大切なのではないかという思いから、「リジェネラティブデザインカレッジ」を3月から開講することにしました。

江利子 私たちが考えた「リジェネラティブデザイン」という言葉の定義は、自然環境の再生と同時に、社会と私たち自身もすこやかさを取り戻す仕組みをつくること。デザインと聞くと、大きく何かを変える方向に意識が向きがちだと思うけれど、小さな変化をたくさんつくることをやっていきたい。

正太郎 プログラムには大きく3つの要素があります。一つ目は気候変動、リーダーシップ、食、農、コモンズ、海、都市といったさまざまな分野から第一線で活躍するゲストをお呼びし、実践から環境再生を学ぶ講義。二つ目は千葉県の日向の森、東京都の高尾山、福島県の二本松市に赴き、自身の体を動かしながら五感で自然を学ぶフィールドワーク。そして三つ目は参加者同士がお互いの対話を通じて、自分はどう生きたいのか、どんなチャレンジをしたいのかを言語化するゼミです。

正太郎 あくまでもラーニングコミュニティというところを大切にしていて、講師も生徒も関係なくお互いに学び合う共同体になりたいと思っています。ただ話を聞くだけではなく、自分自身のビジネスや暮らしを通じて、本当に一人ひとりが再生の担い手になってほしい。仲間とともに探究し、さまざまな手法を学びながら僕たちの生き方の価値観はどうあるべきなのかを問うような、そんな場にしていきたいと思っています。

江利子 環境再生について多角的に学べることが大きなポイントですね。環境再生をこれから学びたいという人にとっては、これ以上ないプログラムになっていると思います。私も全日参加予定です!

正太郎 何よりも仲間と出会えて一緒に切磋琢磨できるというところが最大の価値だと思っていて。同じ志を持った仲間が集まってつながりを生み出すことが、ムーブメントを起こしていくための起点になります。このカレッジが、その最初の場所になったらいいな、と。

答えがないからこそ可能性しかない
リジェネラティブの探究の先にグリーンズが目指す未来

正太郎 環境再生の探究の先に、「こんな社会になったらいいな」というイメージはありますか?

江利子 繰り返しになるかもしれませんが、決して大きすぎる課題ではないということを言いたくて。今、私たちが目の前で直面している気候変動ですら、私たちの振る舞い次第でいい方向に持っていけるはずなんです。けれど、その振る舞いがたくさんの人に伝わらないと、地球環境はどんどんネガティブな方向に進んでしまう。

先ほど例に挙げたような、「石の向きを変えるだけで水が流れていく」ことに気づいてみんなが実践ができたら、この世界は確実に変わっていく。私が環境再生の探究の先にほしい社会は、そういった気づきをもとに、一人ひとりが何かしらの実践に向き合っている社会です。それこそが、「生きる、を耕す。」というタグラインに込めた、生き方です。人間は環境を壊すこともできてしまうけれど、再生する担い手にもなれる。その担い方を、みんなで学んで、広げていく。そんな未来にグリーンズ が貢献できたらいいなと思っています。

正太郎くんは、どんな未来を想像していますか?

正太郎 僕は純粋に、自然と関わる生き方にみんながワクワクできるようになったらいいなと思っています。僕自身、南阿蘇村に暮らしつつ、近所の畑で去年は不耕起栽培にチャレンジしたり。そういう生活って単純に楽しいしワクワクするんですよね。自分自身が土に手を入れることで、生き物や微生物にとって豊かな状況がつくれて、それが自分にちゃんと美味しい野菜として返ってくるような体験って、本来人間に備わっている喜びだと思うんですよ。

環境再生は、現代のフロンティアだと思います。誰も答えを持ち合わせていないからこそ可能性しかない。

そういうことに心踊る人たちが、「リジェネラティブデザインカレッジ」やグリーンズの周りに集まって、一つの共同体となり、社会を変えていけたらいいなと思っています。

(撮影:山中散歩)
(編集:村崎恭子)

– INFORMATION –

\受講生募集中/環境再生を学ぶスクール「リジェネラティブデザインカレッジ」が始まります!

自然環境の再生と同時に、社会と私たち自身もすこやかさを取り戻す方法を学ぶ5ヶ月間のプログラム。(募集締切:3月10日)

グリーンズ共同代表・植原正太郎と編集長・増村江利子は、キックオフ講義「気候変動×Regeneration」に登壇予定です!

スクールの内容やお申し込みについての詳細は、Webサイトをご覧ください。

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