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【レポート】世界を変える“デザイン”とは?本当の可能性を考えてみる

greenz/グリーンズ conference bop design

好評のうちに終了した「世界を変えるデザイン展」。greenzでもご紹介したように、世界総人口の約70%を占めるといわれる発展途上国に暮らす貧困層の人々に対して、「デザインは何ができるのか?」という可能性を探るイベントです。
今回は5/16(日)に行われた2つのカンファレンス「エマージング・マーケットにおけるデザインの可能性」、「デザイナーができること─DESIGN CAN CHANGE THE WORLD」から、実際に発展途上国に住む人びとの生活を変えている2名のデザイナーの活動を知り、現状の課題、そして今後の“デザイン”の可能性について考えてみたいと思います。

エマージング・マーケットにおけるデザインの可能性

スピーカーは、実際に発展途上国の人々のための様々なプロダクトを創り出しているデルフト工科大学D4S(Design for Sustainability)プログラム助教授のJan Carel Diehl(以下ジャン氏)。
ジャン氏はまず最初に、「BOP市場(*注)は大きな可能性に満ちており、教育者として、デザイナーとしてプロジェクトに関われることを幸せに思っている。今後BOPに対して何ができるのか、より多くの人に考えてほしい」と述べています。

(*注)BOP(Base of the Pyramidの略)、所得別人口構成のピラミッドの底辺層を指す。世界人口の約7割に相当する約40億人が、年間所得3000ドル未満の収入で生活しており、その市場規模は5兆ドルに上ると言われる。BOPビジネスとは、企業が途上国においてBOP層を対象にビジネスを行いながら、生活改善を達成する取組のことである。慈善事業ではなく、持続可能性のある本業のビジネスとして行う点において、CSR活動をさらに発展させたものと言える。(経済産業省ウェブサイトより)
greenz/グリーンズ Jan  Delft
それでは、いくつかのジャン氏が手掛けたプロジェクトの中から、昨年カンボジアのKamworksと共同で開発した「Moonlight」の事例を取り上げて、BOP市場に向けたデザインのポイントをまとめてみます。
まず、カンボジアでは人口の大部分が日常生活において電気へのアクセスが不可能な農村部に住んでおり、使用している灯油ランプは現地の人にとって用途・コスト・安全性などのニーズを満たしていない、という状況がありました。そんな中で、ジャン氏のチームは4ヵ月間現地に滞在し、実際に現地の生活を肌で感じ現地の人々とコミュニケーションを取りながらプロダクトのコンセプトを練っていきます。必要条件は、以下のポイントを満たしていること。

  • 暗い室内での作業、夜間の外出など幅広い用途に対応する
  • 低コストで十分な光が得られる
  • 継続して現地で製造が可能
  • そして、何度もプロトタイプを作って現地の人々に使ってもらい、そのフィードバックを下記のようにデザインに反映させることを繰り返しました。その結果、誕生したのがMoonlightです。

  • どんな時でも身に付けられ作業中も手で持つ必要のない“首に掛ける”デザイン
  • ソーラーパネル、LED、充電池を組み合わせ、昼間の充電で夜間の3時間充分に発光可能
  • 低コストでシンプルなつくりなため、現地で継続して製造可能なサステナブルデザイン
  • ちなみに、現地では月明かりが神聖なものとされているため、“Moonlight”と名付けられたそうです。

    greenz/グリーンズ moonlight1 greenz/グリーンズ moonlight2

    さて、みなさんはこのプロダクト、どう感じましたか?私は正直、「なるほど!」と思いました。現地で本当に必要とされているのは、極端なハイテク製品なんかではなく、現地で生きるための本当のニーズを満たしてくれて、かつ現地で製造可能なサステナブルデザインなのです。
    ジャン氏は強調します。

    発展途上国に暮らす人々のためのデザインは、現地の人と密接にコミュニケーションを図り、本当に何が必要とされているのかを理解する必要があります。そのためには、時間もコストもかかります。国や企業からの支援や現地企業やNGOとの協力も必要になるでしょう。ビジネスとしては確かに難しい面も多いですが、ニーズは確実に存在し、大きな可能性を秘めているのです

    デザイナーができること─DESIGN CAN CHANGE THE WORLD

    続いて、全世界で様々なプロジェクトを推進するSprout Design所属のIlona de Jongh(以下イローナ氏)による講演では、“デザイン”という概念や考え方について、大きな可能性を感じるものでした。

    greenz/グリーンズ Ilona bop

    イローナ氏が考える“デザイン”とは、単にものをデザインすることではなく、社会をデザインすること。社会の様々な問題に対する解決策を生み出すことで、人々の生活を改善し、サステナブルな社会を実現する手段としての“デザイン”なのです。
    そのために、常にオープンマインドで、様々な道筋から“創造”することを心がけることが大切であり、製品をつくることに囚われがちな“デザイナー”という肩書きは、むしろ必要ないと言います。あらゆる分野とコラボレーションして、新しい解決策を探っていくことこそが必要なのです。

    その象徴的な事例が、Project H Designと共に設計した「Learning Landscape」。途上国の子供たちに算数を教えることを目的に創られたデザインです。

    タイヤの廃材を正方形の砂場に等間隔に埋めて、それぞれのタイヤに数字を付けることで10種類の算数ゲームができるもの。
    イローナ氏はウガンダに単身で入り、現地の授業を実際に体験することで、難しいハイテクは解決策にならないことを知りました。そして、どこにでもあるタイヤの廃材を用いて、どこでも簡単に作れるシンプルな解決策を生み出したのです。
    このLearning Landscapeはウガンダで導入された後、ドミニカやアメリカのノースカロライナなど、十分な教育が受けられないその他の貧困地域に拡大しました。そして、先生たちが独自にアレンジし、算数だけでなく地理にも応用されているそうです。

    イローナ氏は、“教育”を貧困に苦しむ社会に解決策を生み出すための重要な要素と捉えています。

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    飢えている人に魚を与えれば、その日の食事を与えられます。でも、釣りの仕方を教えれば、長期的な解決策を与えることができます

    明かりを必要としている人にランプを与えればそれで良いのか?“明かり”であれば、家の構造や太陽光の採り方を教えることで解決する場合もあるのではないか

    つまり、大切なポイントは、サステナブルな“解決策”を創り出すことなのです。
    そのためには、やはり常にオープンマインドな姿勢で、様々な分野の知識を融合させる視点が必要だと強調しています。このような視点は、BOPに向けたデザインのみならず、今後あらゆる“デザイン”にとって必要となるのではないでしょうか。

    最後に、両氏の講演を聞いたうえで、日本の取り組みはどうだろうかと考えてみます。
    現在、国や企業においてもBOPビジネスに対する注目度は高まってきていますが(経済産業省)、未だ体制が整ったとは言えません。また、デルフト工科大学のように、教育段階から国際的な視点と“デザイン”の概念を結び付けて学生に発信している環境も少ないでしょう。産・学・官の連携はどうでしょうか。

    BOPに向けた取り組みを持続可能なものにするために、あくまでも“ビジネス”として成立させる必要があります。しかし、BOPを単に“市場”と捉えて、生半可な意志で参入すべきビジネスではありません。現地で培われてきた生活文化に大きな変化を及ぼすことを理解し、どうすれば責任を持って持続的に取り組めるのか、多くの解決すべき問題があります。

    イローナ氏がもっとも強調した点は、社会をデザインするために“貢献の心”を持つこと、利益だけを追求するものではないということです。2年くらいで見返りを求めず、忍耐力も必要です。コツコツと重ねた試みによって賛同者が増え、大きな流れになるかもしれません。そして、そうした活動は必ず企業にとってすばらしい財産になると言います。

    もし、本当に問題を抱える人びとのニーズを理解し、解決策を提供するようなデザインが生まれれば、それは、大きな価値を生むことになるはずです。まさに、世界を変えることができる“デザイン”ではないでしょうか。
    イローナ氏ははっきりと言いました。

    デザインは世界を変えられると信じています

    私たち一人ひとりが、本質的な“デザイン”の価値と、その大きな可能性について考えてみるべき時代です。
    幸いなことに、当展の様々なプロダクトや今回の2名のデザイナーの活動、そして多くの来場者の真剣なまなざしから、大きな希望を感じることができました。

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    次回は6/6(日)に開催されたワークショップ「日本が世界にできること・Part1 ~残り90%の人々が本当に日本に求めているデザインと技術~」の模様をお伝えします。

    ジャン氏・イローナ氏の活動を見る