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「家族」にまつわるリスクは自分たちだけで抱えなくていい。不安や不調を自分の”外にひらく”生存戦略とは

こんにちは。編集部インターンのくみちゃんです。greenz.jpでは現在、山中散歩さんが「ほしい家族をつくる」という連載をしています。

山中さんの探究心から始まったこの連載は、記事を通していろいろなかたちの家族がいることを知る機会になっていて、読者のみなさんにとって誰かとともに生きることを考える一助となっているだろうと想像しています。

今回はスピンオフ企画として、家族当事者への取材ではなく、家族を支えるケアサービス提供者への取材を通して、「家族」について考えたいと思います。

私はgreenz.jpでインターンをする一方、普段は看護師として地域医療の現場で働いています。病院の中では「患者さん」だった人も、暮らしの中では「病いを持った◯◯さん」として生活している。本人やご家族の暮らしに寄りそうと、実にさまざまな家族の関係性が見えてきて、まれに、家族の閉鎖性や排他性のすすんだ先にある老老介護や関係性の希薄さに遭遇することがあります。

これまで、日本では戦後日本型循環モデル(※)の中で、「家族」にはたくさんのことが求められてきました。夫婦のきずなを育む、子孫を残す、子どもを育てる、教育を与える、女性や子ども・病者を守る、働く、消費する、余暇を楽しむ、文化・倫理観・財産を引き継ぐ・・・。

(※)戦後日本型循環モデル・・・戦後、仕事の領域における雇用労働の拡大、家族の領域における「近代家族」化の進行、教育の領域における進学率の上昇などが同時に急速に起こった結果、前述の3領域が堅牢で一方向的な矢印で結合した。未成年は教育の領域に(いい成績を)、成人男性は仕事の領域に(いい仕事を)、成人女性は家庭の領域に(いい教育を)、といわれるような年齢と性別による役割分業が明確となった。結果、そこからこぼれ落ちると非正規雇用、教育格差の拡大、支えのない孤独な個人の増加、形骸化した家族の親密性などがみられるようになった。
引用元書籍:本田由紀『社会を結びなおす』を元に筆者注釈

そんな背景がある上に、社会構造が変わらぬまま個人の働き方や暮らし方がどんどん変わり、未婚率の上昇、核家族化、少子高齢化が課題だと叫ばれるように。以前よりも「家族」に求められることは増え、役割を果たす難易度が一段と高くなっているようにも思えます。

先ほど、「家族」が担ってきた役割のひとつに「女性や子ども・病者を守ること」を挙げましたが、これは家族ひとりひとりの心身の健やかさが保たれるにはどうしたらいいかを考えることとも言えます。しかし、その多くを妻や母親である女性が1人で担ったり、家族だけで抱えて奮闘していることが現状。”自分たちだけでなんとか頑張れよ”以外にどうすることができるのだろう。もしも共に歩む人がいてくれたら。

そんな自分のモヤモヤを抱えていたところ、福岡県で「フレンドナース」という家族を支えるサービスを展開している団体があることを知り、「一般財団法人ウェルネスサポートLab(通称ウェルサポ)」代表の笠淑美(りゅう・よしみ)さんらにお話しを伺いました。

笠淑美(りゅう・よしみ)

笠淑美(りゅう・よしみ)

九州芸術工科大学環境設計学科在学中に父親の余命宣告を受け、十数年にわたる闘病生活を看護師とケアマネージャーの妹に支えられながら「自分らしく健康的に社会参画すること」に励む。約10年、ランドスケープ・コミュニティデザイン業務に従事する中で、豊かなコミュニティ作りは豊かな人づくりが大切だと実感し、その後フリーランスの立場で「女性のウェルビーイングな働き方」についてのアドバイスと関係性を研究し、2020年ウェルネスサポートLab代表理事に就任する。

家族が担ってきた役割を外から支えて見えるもの

フレンドナース」は、看護師や保健師らがLINEを使ってチャットサポートをするオンラインのサービスです。ほかにもオフラインで自宅への訪問や、通院の付き添い、日常生活のサポート、終活サポートなど、これまで「家族」が担ってきた役割を支えてくれることが特徴です。また、健康経営に関心の高い企業の福利厚生という一面もあります。

サービス立ち上げのきっかけは、笠さんが大学生の時に遡ります。父親が余命宣告を受けるという経験を通して、父親の健康が自分の健康の一部であることを強烈に感じたことが原体験になったといいます。

サポートの対象としているのは働く世代の方々です。なぜならその世代の方々が子育てや親世代の介護に関わることが多く、健康的な暮らしを送ることのハードルが高いから。

人は誰かに気づかってもらってはじめて心のうちをつぶやくようになり、その結果自分の身心の状態を自覚できるようになっていくのだと思います。もっと気軽に不安や不調をつぶやけるような社会だといいのですが。

と、頼ってもらいやすく、近しさを感じられる工夫を意識し同じウェルビーイングを目指す同士として、ともに人生を歩む気持ちで接していると話す笠さん。

長年の不安や不調が病気につながることがあるにもかかわらず、大人になった私たちは育つ過程で”相談すること”を学んでいないため、それを無自覚のまま置き去りにしてしまうことがほとんどです。また、子どもたちも、不安や不調はあっても親や学校にも言えない状況もあり、社会全体に不安や不調を気軽に言えない空気が漂っています。

サービスをする中で、時にはネガティブな態度や発言に出会うこともあるというフレンドナースのみなさん。そういう時は特に意識してコミュニケーションをとっていると言います。

一見ネガティブな発言や態度の裏に隠れている、その方の人生の大切なものや痛みについて、時間をかけて丁寧にコミュニケーションを重ねます。そうするうちに、本来の悩みを吐露したり、家族や友人の相談をされるような関係性になっていくこともあります。

フレンドナースではサービス利用者のうち、約10%の人が自分の親に対する直接の見守りサービスも希望され、体調やご様子の報告、認知症の疑いがある方の受診相談、自宅でのお看取りのサポートなども行います。

病気で入院した親が退院する際、本人と家族の両方から不安な点を聞きとった上で自宅で生活ができるように調整したり、本人が家族に迷惑をかけるからと、ケガしたことを伝えないでいる場合には家族にお伝えするように後押しすることもあるのだそう。

良好な家族関係を築いていても、多少のコミュニケーションの行き違いや遠慮はあります。療養中の方は身心にゆとりが持てず、自己中心的な言動をすることも少なくありません。近しい関係だからこそ言わなくてもいいことを言ってしまった時に、療養中の方とケアする家族の間に入って、お互いの想いをお伝えすることもあります。フレンドナースの役割は調整役というかキューピット役ですね。

ここまで主に働く世代を対象にしてきたチャットサービスですが、今年度は実証実験として女子高生へのチャットサービスも始めるそうです。これまでの活動で、女性の場合、初潮の頃から不安・不調期がはじまり、高校生になる頃にはすでに痛みや不安・不調を我慢する傾向があることがわかってきており、チャットでコミュニケーションをとりながら若い世代の身心のサポートをしていきたいと話していました。

不安も不調も困りごとも抱えて、この社会を生きていく

笠さんらへの取材を終えて、自分が抱えている不安や不調、痛みや嘆きのようなものを、もっと気軽に話せる機会や場がたくさんあったらいいのにと思いました。そして、「家族」の役割とされているものも自分たちだけで抱え込まず、困りごとの相談をきっかけに家族のような関係性が始まることがあってもいいですよね。

お互いへの思いがあるからこそのコミュニケーションのすれ違いや遠慮は、当事者同士だけで解決できないこともあるでしょう。ライフステージによっても悩みが変化していく中で、信頼して相談できる第三者と関係性を築いておくことも安心につながるのではないでしょうか。

誰かに気にかけてもらって自分の身心の状態に気づく。不安や不調をそのままにしないでよりよく付き合えるようになる。その先にー。あわよくば、自分の周りの誰かへ「あなたのことを気にかけているよ」と眼差しを向けられるようになる。そんな循環の輪が広がるといいなと思いました。

(Text: 山崎久美子)
(写真:一般財団法人ウェルネスサポートLab、unsplash)
(編集・校正協力:メディコス編集講座のみなさん、GCC、グリーンズ編集部/インターンのみなさん)