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それでも彼女は希望を歌う。気候変動に立ち向かうアフリカを、音楽とともに描く映画『グレート・グリーン・ウォール』

アフリカ大陸を横断する8000kmにも及ぶ地域に植林する。そんな壮大なプロジェクト「グレート・グリーン・ウォール(The Great Green Wall)」が、2007年から進行中です。

これは、砂漠化が進み、気候変動の影響を強く受けているサヘル地域に食料や経済的機会を提供する可能性を秘めた、まさにアフリカン・ドリーム。映画『グレート・グリーン・ウォール』は、一人のミュージシャンがその夢を追いかけて旅をする音楽ドキュメンタリーです。現代のアフリカが置かれている過酷な現実とそれでも人々が抱き続ける希望、そして音楽の力を、映画を通して感じてください。

アフリカの印象を更新する。紛争や難民、気候変動、そして希望

あなたはアフリカにどんな印象を抱いていますか? 地理的に遠いため旅行などで足を運んだ人も少なく、日本では多くの人がメディアを通じたイメージでアフリカを認識しているのではないでしょうか。

1980年代、エチオピアなどは厳しい干ばつ見舞われ、たくさんの人が飢餓に瀕しているニュースは日本でも広く報じられました。栄養失調でお腹が大きく膨らんだ子どもの写真は、強烈に私の頭に残っています。

「BAND AID(”Do They Know it’s Christmas?”)」や「USA for AFRICA(”We are the World”)」といった大物アーティストによるチャリティが実施され、アフリカの飢餓問題が広く注目を集めたのもこの頃です。

それから数十年を経た21世紀の現在、大量の情報がものすごいスピードで世界中を駆け抜けるようになりました。世界のあちこちで起きるさまざな事柄がリアルタイムで飛び交うなか、アフリカと聞いて、ほとんどの人がパッと答えられるような重大なニュースはあまり思いつかない気がします。

『グレート・グリーン・ウォール』は、いま改めてアフリカについて思いを巡らせる機会になりました。

そこには、紛争の犠牲になった幼い少女や、職を求めて生まれ故郷を離れざるを得ない若者がいます。

厳しい現実があるとき犠牲になることの多い女性の問題があり、長く厳しい旅を強いられ、未知の国で暮らさざるを得ない難民の問題があります。

そして日本ではぼんやりと捉えられがちな気候変動は、アフリカでは確実に暗い影を落としています。

けれども、この映画が語るのはアフリカの希望。「グレート・グリーン・ウォール」は、気候変動に立ち向かい、希望を生み出す計画であるとともに、希望の象徴でもあります。ですからこの映画は、アフリカの現実を伝えつつ、希望の存在を確信させてくれるのです。

アフリカの希望を彩っているのが、作品中で生み出される音楽の数々です。旅の途中で各地のミュージシャンとともにつくり出される楽曲は、ラップやヒップホップといった耳なじみのあるサウンド。J-POPしか聴かない人の耳にもすんなり入ってくるメロディです。アフリカと音楽というキーワードから、伝統的な打楽器を中心としたサウンドをイメージしていると意外に感じるかもしれません。

民族楽器を取り入れつつも、民族音楽やワールドミュージックと括ることはできない楽曲たちは、良くも悪くもグローバリゼーションの影響を受けており、急速に発展を続けているアフリカのひとつの側面を如実に語っているとも言えるでしょう。音楽も現在のアフリカの姿を映し出し、観客に伝えてくれるのです。

アフリカの時代を信じて未来をみつめる眼差しは強く、美しい

旅の水先案内人となるのは、マリ出身のミュージシャン、インナ・モジャ(Inna Modja)です。初めて彼女の存在を知る人も、映画が始まってすぐ、彼女が豊かな音楽的才能と深い人間性を兼ね備えた魅力的な人物であることを感じ取るでしょう。

映画は、彼女がアフリカを横断しながら各国のミュージシャンたちと楽曲を制作し、ライブを重ねていく姿を映し出していきます。現在のアフリカに存在する厳しい現実に触れ、被害者や支援者に出会い、ときに涙する彼女ですが、常に前をみつめ、音楽と人の持つ力を信じ続ける姿は凛と美しく、芯の強さを感じさせます。

そんな彼女の強さの裏には、幼少時のある経験が存在していることが伝えられるシーンがあります。詳しく語られることはなく、わずか数秒ですが、それだけに言葉で語り尽くせない重い事実が伝わります。アフリカの一部の地域に現在でも残っている風習の“犠牲者”という表現を彼女はよしとしないかもしれませんが、希望を見つめる眼差しの強さからは、痛みを乗り越えた者の強さがにじんでいるように感じました。

彼女は、「“アフリカの時代”が来ると私は言うけど笑わないで」と歌い上げます。

発展途上国、今ではグローバルサウスという言葉で語られることの多いアフリカの国々。モジャをはじめ、登場人物の多くがフランス語を話していることからも、ヨーロッパの国々によって植民地とされていた歴史の影響は明らかです。

そんな中、いつか来る“アフリカの時代”。
アジアの島国に住んでいる身としては、可能とも不可能とも想像がつきませんが、それが地球の新しい未来を切り開くものになるであろうとは感じます。

現時点では、人類がどこまで気候変動を抑えることができるか先行きは不透明で、2030年までに1憶ヘクタールの土地を回復させるという「グレート・グリーン・ウォール」のゴールはまだまだ遠くにあります。

それでも、壮大なプロジェクトに世界中から80億ドル以上の資金が集められ、植林は続けられています。希望は現在進行形で進んでいるのです。そのたくましさを、モジャに案内されているようなそんな体験を、ぜひ公開日であるアースデイに、劇場でどうぞ。

(編集:丸原孝紀)

– INFORMATION –

映画『グレート・グリーン・ウォール』

監督・脚本:ジャレッド・P・スコット 製作総指揮:フェルナンド・メイレレス他
出演:インナ・モジャ、ディディエ・アワディ、ソンゴイ・ブルース、ワジェ他
配給:ユナイテッドピープル
2019年/イギリス/92分/ドキュメンタリー
© GREAT GREEN WALL, LTD

https://unitedpeople.jp/africa/