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嫌われもののゴミ焼却施設が、スキーも楽しめる愛すべき山に。驚きの建設プロジェクトを生き生きと描く映画『コペンハーゲンに山を』

ゴミ焼却施設は生活になくてはならないものですが、ご近所にあってほしくないものでもあるかもしれません。でも、ドキュメンタリー映画『コペンハーゲンに山を』の主人公である山の形をしたゴミ焼却施設なら話は別です。なぜなら、スキー場やハイキングが楽しめる公園も併設されているのですから。

クリエイティブな力でもってゴミ焼却施設が魅力的な場所として建設される過程が描かれているこの映画。社会課題を解決するのは問題意識や使命感だけではないことを教えてくれます。

突飛なアイデアゆえに立ち塞がる壁に、更なるアイデアで立ち向かう

物語は、コペンハーゲンにある老朽化したゴミ焼却施設を建て替えるコンペの結果発表から始まります。勝ったのは、建築家のビャルケ・インゲルスでした。世界的に有名な建築家の彼は、突飛なアイデアでコンペを勝ち抜きました。それは、街の真ん中に建てるゴミ焼却場をクリーンな発電所にし、さらに施設そのものをスキーやハイキング、ランニングなどが楽しめる山にする、という荒唐無稽なアイデア。以前、greenz.jpでも計画段階の構想が記事として紹介されていましたね。

スキー場にするのですから、もちろん広大な斜面が必要です。そのために、「コペンヒル」と呼ばれるようになった“山”は、標高85m、全長450mとなりました。幅60mのゲレンデでは4つのリフトでスキーが楽しめます。これがデンマークの首都にある人工物で、さらにゴミ焼却発電施設だとは、なかなか想像できません。

この建設プランは高い評価を得て、大きな期待を込めて選ばれました。ただし、難関が立ちはだかるのはそこからです。いざ建築に取り掛かると、さまざまな問題にぶつかったのです。単なるインフラとしてのゴミ焼却施設ではないため、利用する人たちの安全面にも配慮する必要があります。それらはコスト増につながり、予算内におさめるための奮闘が続きます。

インゲルスたちはさまざまな工夫を凝らし、数々の難関を乗り越え、“山”を築き上げていきます。完成後は、スキーなどのスポーツを楽しむ人だけでなく、無料で入場できる公園にもたくさんの人が訪れるようになりました。観光客にも好評なうえ、教育施設として機能し、学校から生徒たちが見学に足を運んでいます。

この映画では、完成までの8年間という歳月が、あたかもビデオの早回しをするかのように51分間の映像に凝縮され、突飛なアイデアから“山”が誕生し、人びとに愛されるまでの過程を目にすることができます。

理想を描き、社会課題を乗り越えるクリエイティビティ

この映画のもとになったのは、建設の過程を記録した400時間にも及ぶ映像。「建設のプロセスを映画にしたら面白いのではないか」と、監督のところに記録映像が持ち込まれたところから始まりました。4時間におよぶミーティングを1台のカメラでひたすら撮影した映像などは使用せず、新たに“山”そのものをさまざまなアングルから撮影するなどし、ゴミ焼却発電施設を主人公とする映画として仕上げることとなりました。

そこでポイントとなっているのが音楽。ニコライ・リムスキー=コルサコフ作曲の交響組曲『シェヘラザード』が全編に渡って使用され、交響曲のように「1章」「2章」と映像も分けられています。オーケストラのドラマチックで躍動感あるサウンドは、巨大プロジェクトが進行するさまや壮大な建築物を美しく彩り、命のない“山”という主人公を生き生きと映し出します。

その音楽には、『プロジェクトX』で流れる「地上の星」(中島みゆき)のような効果はありません。この映画も『プロジェクトX』も、巨大プロジェクトを扱うドキュメンタリーという点は共通しています。けれども、この映画は熱い人間ドラマを描くのではなく、そういった一種の泥臭さよりも、クリエイティビティがもたらす力や変化そのものに焦点を当てているでしょう。

ゴミ問題を解決するために、といった社会課題に取り組む使命感からだけではなく、ユニークなアイデアに挑戦したい、実現させたいという、ものづくりに携わる人なら誰もが持つ欲求と、環境に配慮した都市や社会をつくりたいという未来への志向が、インゲルスらプロジェクトに関わる人たちを突き動かします。

その結果、この“山”は年間3万世帯分の電力と7万2000世帯分の暖房用温水を供給し、ゴミを処分するとともにエネルギー問題にも寄与することに成功しました。“コペンヒル”と呼ばれる施設はコペンハーゲンのランドマークに。コペンハーゲンは平坦な土地で、これまで市民は自分たちの街を見渡すことはなかったのですが、多くの人がこの“山”に登って自分たちの街を眺めることを楽しむようになりました。

この映画が、ゴミ問題に関心のある人に新たな解決策を提示してくれるのは確かです。けれどもさらに、建築家やデザイナーやコピーライターなど、デザインやアートの力を使って人や社会に影響を与えたり、課題を解決したり、新しい楽しみを生み出したり、といった意欲を持つ多くの人にインスピレーションを与えるのではないでしょうか。

この映画には、自分たちが求める社会や未来を自身のクリエイティビティでもって実現させたい、実現させられるんだ、という前向きな明るいパワーにあふれています。社会課題の現実を訴えるドキュメンタリー映画は多いかもしれませんが、それらとは一味違う『コペンハーゲンに山を』を、2023年最初に観る映画として選んでみてはいかがでしょうか。なんだか元気が出てきそうな気がします。

(Pictures: ©2020 Good Company Pictures)
(編集:丸原孝紀)

– INFORMATION –

コペンハーゲンに山を

2023年1月14日(土)シアター・イメージフォーラム他全国順次ロードショー

監督:ライケ・セリン・フォクダル, キャスパー・アストラップ・シュローダー
プロデューサー:カトリーヌ・A・サールストロム、キャスパー・アストラップ・シュローダー
出演:ビャルケ・インゲルス、ウラ・レトガー他
撮影:ヘンリク・ボーン・イプセン、ユッタ・マリー・イェッセン、キャスパー・アストラップ・シュローダー他
編集:ライケ・セリン・フォクダル
脚本:ライケ・セリン・フォクダル, キャスパー・アストラップ・シュローダー
音楽:ラスムス・ウィンター・イェンセン 原題:Making a Mountain
制作会社:グッドカンパニーピクチャーズ
配給:ユナイテッドピープル
2020年/デンマーク/51分