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3歳から12年間。人が自由になっていくプロセスを、どっぷり味わい尽くす。学校ではない「 」へと変態し続ける軽井沢風越学園で、幼稚園スタッフという名の“真剣な遊び仲間”募集! #仲間募集

この求人のグリーンズジョブでの募集期間は
2022年9月18日(日)をもって終了いたしました。

ただただ、いまというときを楽しみ味わい尽くす素のままの笑顔。
大人が見過ごしてしまうようなものに面白さを見つけて没頭する横顔。
「なぜ?」が尽きることなく、あくなき探究を続ける後ろ姿。

幼児期の子どもたちを見ていると、「このままずっと変わらないでいてくれたらいいのに」なんて思うことがあります。もちろん、大人の身勝手な戯言。でも一方で、誰もが「うん、うん」と頷いてしまう本心でもありますよね。

人を育てるのは、システムや思想ではなく、他者や自然との関わりです。子どもたちが幸せないまを生きるためには、自らの力で自由になっていくためには、私たち大人はどのように関わっていけばいいのでしょうか。

このような答えのない問いを追いかけ続ける大人たちが今、軽井沢に集結しています。

軽井沢風越(かざこし)学園(以下、風越学園。2020年に開校した私立の幼小中混在校で、3歳から15歳までの子どもたち約290人とともに、50人(2022年7月現在)のスタッフが働いています。そして開校から3年目を迎えたいま、主に幼稚園の子どもたちと過ごす新たなスタッフを探しているのだとか。通常必要とされる幼稚園教諭免許に関しては、子どもの育ちに関心があり、子どもに関わる仕事に携わった経験のある方であれば必須ではないそう。

チャイムも鳴らず、決まった席もなく、校則も一斉テストも通知表もない風越学園。「学校」という概念をゼロから捉え直すように日々変わり続ける風越学園でスタッフとして働くとは、一体どのようなことなのでしょうか? この学園で一番小さな幼児期の子どもたちに関わる、その大きな意味とは?

2022年6月末、私は夏の日差しが照り付ける風越学園へ。子どものとなりで、いまを生きる4人のスタッフの言葉を通して、その世界を覗き見てみましょう。

「どんな子どもにも幸せな子ども時代を過ごしてほしい」
軽井沢風越学園の現在地

「新しい普通の学校をつくる」と掲げて教育に携わる方々が意気投合し、学校づくりへ向けて動き始めたのは、2016年頃のこと。これからの公教育のモデルとなるような学園の設立を目指し、3年以上の準備期間を経て2020年4月、長野県北佐久郡軽井沢町に「軽井沢風越学園」は誕生しました。

軽井沢駅からバスで25分ほど。緑豊かな2.2万坪の広大な敷地内にある風越学園の校舎。隣接する森も学びのフィールドとして大いに活用されています。名前の由来は、西側にある風越山、軽井沢風越公園から。写真の背景に見えるのは雄大な浅間山

これまで当たり前だった学校像を、ゼロから捉え直していこうとする風越学園。そのコンセプトやカリキュラムについては前回の記事でもご紹介しました。

学びのコントローラーを子どもが持つこと、テーマについて深く探究するプロジェクト学習など数多くの特徴がありますが、今回は私が改めて取材させていただき、感じ取った大きなふたつの“風越らしさ”をここでご紹介したいと思います。

風越学園のロゴ。デザインのベースになっているのは、浅間山と風越学園の校舎の形、そして本を開いたときの形。12本の線は、風越学園で過ごす3歳から15歳までの12年を表しています

まずひとつ目の“風越らしさ”は、「混在校」という言葉に象徴される”まざる”というあり方です。

幼稚園から中学校まで、3歳から15歳という12年間の学び場であり、一般的には“一貫校”と呼ぶところを敢えて“混在校”という言葉を使用していますが、そこに風越学園の強い意志が表現されています。

子どもたちが所属するのは同学年からなる「クラス」ではありません。年少~9年生(中学3年生)までの異年齢構成の「ホーム」、年齢の近い学年毎の「ラーニンググループ」。子どもたちは複数のコミュニティを居場所とし、学習形態ごとに学びのグループを流動的に変化させていきます。

実際に学園に足を踏み入れると、“まざる”情景を垣間見ることができます。この日は「マイプロジェクト」というプロジェクト学習の一環で校庭に小さな田んぼをつくっている8、9年生の姿が。幼児も小学生も興味津々といった様子で集い、子ども同士の関わりが生まれていました

“まざる”のは、年齢だけではありません。子どもたちの個性も、学びと遊びも、屋外と屋内も、学園の中と外も、出入り自由なかたちで混ざり合っている。そんな風通しの良さが、“風越らしさ”と言えそうです。

校舎から校庭へ自然につながる設計になっているため、いつでも出入り自由。特に幼児は、荒天でなければ外で過ごすことが大半だそう

そしてもうひとつ、私が強く感じている“風越らしさ”は、子どもも大人も学び手であり、学校のつくり手であるということにあります。

毎月1回開催される「かざこしミーティング」という場には、幼児から中学生、スタッフも全員が集い、学園のあり方について自由に対話します。対話を通して新しいプロジェクトが生まれたり、学びの環境づくりにいかされることもあるのだとか。

2022年3月に開催された第20回かざこしミーティングの様子。最初の頃はスタッフが担当していたファシリテーターも、回を重ねるうちに8、9年生の有志が担うようになったのだとか(画像提供:風越学園)

また、ウェブマガジン「かぜのーと」で子どもへのインタビューを発信したり、日常のなかで湧き上がってきた子どもの疑問に寄り添ったり、子どもの声から学び、学校づくりに積極的にいかす一貫した姿勢を感じ取ることができます。

また、大人が「教える」のではなく「学ぶ」、つまり、子どもと同じように大人も変化・成長していくというあり方は、いわゆる「先生」像が覆されるようですが、まさにいま、それが起こっています。この点についてはこの記事の後半で、スタッフの方々の声から感じ取っていただけると思いますが、子どもも大人も、何かを変えたりよくしたりすることが実感として感じられる場所であり、それが12年間継続できるということが、最大の“風越らしさ”だと私は感じています。

あらゆる場面において風通しよく“まざる”こと。
子どもも大人も、つくり手であり学び手であること。

こういった日々の営みを通して風越学園が抱いているのは、「どんな子どもにも幸せな子ども時代を過ごしてほしい」という願い。そしてそれを叶えるために、「自由な学校ではなく自由になるための学校」をつくろうとしています。

「幸せな子ども時代」や「自由になる」ということを考えたときに、大事なのは幼児期からの育ちです。ここからは、今回スタッフ募集の対象となる幼稚園に焦点を当てて見ていきましょう。

「12年間の育ち合い」と「野外活動」をベースに、
子どもたちから発せられたものでつくられる。
軽井沢風越幼稚園の日常

風越学園に幼稚園があることは知られていても、単独で紹介されることはあまりないかもしれません。でもこの学園における幼稚園の存在は、とても深く大きな意味を持っています。

まずは幼稚園スタッフの遠藤綾(えんどう・あや)さん(風越ネーム:あや)に、約60人の子どもたちが在籍する幼稚園の特徴や概要についてお話を聞きました。

遠藤綾さん。前職は山形県鶴岡市の「やまのこ保育園」の園長で、greenz.jpの記事にも2度ご登場いただきました。現場歴の長いベテランさんと思いきや、現場でどっぷり子どもたちと過ごすのは実は風越学園が初めてで、「やっと子どもと暮らす人になれた」とも

遠藤さん 一番大きな特徴は、やはり3歳から12年間一緒に育ち合う環境があるということです。幼小、小中の一貫校はあっても、幼小中は珍しいですよね。幸せな子ども時代を考えたときに、幼児期からずっと子どもたちが成長していくプロセスを一緒につくっていくということが大事だと捉えています。

幼稚園から小学校へ、小学校から中学校へ、というステップにおいて、違和感や困難を感じ取る子どもたちは多いそう。特に「幼小接続」における課題感については、幼児教育に携わる方々からよく耳にします。小学校から保育園や幼稚園に、「文字が読めるようにしておいてください」といった要望が届き戸惑うこともあるそうです。

その解決策については、「幼児期がどんな時間だったらいいのだろうと考えないとなかなか見えてこない」と遠藤さん。では遠藤さんはどのような幼児期なら幸せだと考えているのでしょうか。

遠藤さん 幼児期の子どもたちは、たっぷり時間をかけてさまざまなものと出会うなかで自分と出会っていく、そんな時期だと思いますので、一人ひとりのペースとタイミングを待てる環境があることが大切だと思っています。

取材時、「アイスクリーム屋さんだよ」と言って粘土を小さくちぎり続ける作業に没頭していた幼児。彼なりの探究を、近すぎず遠すぎない距離で見守るスタッフの姿が印象的でした

遠藤さん いままさに概念を獲得しようとしている、柔らかい時が幼児期だと思うんですよね。たっぷり体験するなかで言葉になる前の何かを掴んでいて、その掴んでいるものがじわじわ蓄積して、いつか「その子の言葉」になっていく。

例えば「ゼロって何か?」って考えるだけでもすごく面白い。世界に出会っていく大事な時期なので、その出会いの時間をたっぷり味わえるといいなと思うんです。

小中学校へと連続的に遊びから学びへとつながっていく、その原点となる体験をたっぷりできるのが野外での活動。これが、風越幼稚園のもう1つの大きな特徴です。

風越学園は、「すぐ隣に森があって、少し行けば川もあって、登れる山もあるので、外の活動環境としての選択肢が幅広い」と遠藤さん。お弁当も庭や森で食べ、一日中外で過ごすことも多いと言います。

(画像提供:風越学園)

「なぜ野外活動?」という問いに対し、遠藤さんは、「大人が準備する要素が強い屋内環境での保育に比べて自然はより複雑で多様で刻々と移り変わっていくため、その変化を子どもが捉え、子どもが捉えたことから遊びが生まれていくということが起こりやすい」と語ります。さらには、「これは完全に私個人の意味合いですが」と前置きして、こう語りました。     

遠藤さん これからの時代を生きていく子どもたちのことを思うときに、直面しているさまざまな事態に対して、これまでと同じ仕組み、考え方では対応できないのではないかと感じています。これまで人間がつくり出してきた論理の力も大切にしながら、それとは異なる、ありのままで混沌に満ちていて、ときに不合理でもある自然から学ぶべきときがきているのではないかと。人間同士とも、人間以外ともつながりを感じられる、そんな感覚が育っていくということが、とても大切なんじゃないかという気がしています。

この前、森で草を刈っている音を聞いた3歳の子が「ちいさい木はきらないでほしい」って話してくれたんですが、その子はちいさな木と自分とを分けずに、お友達と同じように想いを寄せているんですよね。そういう人間以外の生きているものとのつながりを感じられることを大事にしたいなぁって思いますし、そういう感覚が野外活動の中で育まれていくのではないかと考えています。

(画像提供:風越学園)

「12年間の育ち合い」と「野外活動」をベースにした風越幼稚園の活動は、大人が決める要素を最小限に、子どもたちから発せられたもので動き始めます。

子どもたちは登園すると、それぞれ活動グループ単位で集まって「今日何をしたいか」を話し合い、そのなかで活動が決まっていきます。あるグループは森で探索をし、また他のグループはラボ(風越学園内にある創作活動用のスペース)で創作活動を楽しみ、ときには田んぼや川へ出かけることも。お腹が空いたらそれぞれの場所でお昼を食べて、食べ終わったらまた遊び、帰宅時間前にまた集いが始まる。そんな1日のサイクルが繰り返されています。

集いは野外で開催されることがほとんど。月曜日は幼稚園児60人全員、火曜、木曜、金曜日は年齢ごと、水曜日は異年齢のホーム、といったかたちで、集いの単位は曜日によって変化。月ごとのお誕生日会は、最終週の月曜日に開催されます(画像提供:風越学園)

子どもたちの声を取り入れた保育スタイルは他の園でも見られますが、他園の経験を経て風越学園に合流した遠藤さんは、「ここまで大人からの発案を慎重にするとは」と驚かされたと語ります。

遠藤さん スタッフは、子ども一人ひとりにどういうアンテナが立っているかを本当に慎重に見ています。例えばいま、年中さんはモグラやミミズといった土のなかの生き物に関心があるんですが、ひとりだったり何人かの子の関心がみんなに紹介されて、そこから活動が始まるということが日常的にとても多くて。大人の発案から始まることはかなり少なく、行事も基本的にはありません。

アズマモグラやヒミズに出会ったことから子どもたちに湧き起こった土のなかの生き物への関心。それを起点に、大人は虫眼鏡や顕微鏡を差し出したり、モグラの絵本を読んだり。子どもたちが関心のあることをちょっと深く探究できる環境をつくり、子どもたちの熱が向かう先を注意深く見守ります。遠藤さん自身も他のスタッフの様子を見て、声がけや差し出し方を学ぶことも多いのだとか(画像提供:風越学園)

行事があるとすれば、それは子どもが起点となったもの。「夏祭りをやりたい」といった子どもたちの声から行事的なものがつくられていくそう。そういった生成的に生まれてくるものを拾い上げ、集団で楽しむ遊びという形で継続していくのが、風越学園的な行事のあり方です。

社会や未来に対する大きな挑戦の担い手になる。
遠藤さんの「風越学園で働くということ」

集団を見ながらも個の関心にもしっかりと寄り添い、拾い上げる。ひとつひとつの点を線としてつなげ、活動へとつなげていく。そういった子どもとの関わりを日々丁寧に繰り返しているスタッフは、決して「教える人」ではないように思えます。私がそう伝えると、遠藤さんは「そう思います」と応答し、こう続けました。

遠藤さん 「ジェネレーター」という表現もよく聞きますが、子どもたちと一緒につくっていく感じが7、8割くらいでしょうか。残りは、言葉や道具を添えたりすること。子どもの発想は一人ひとり本当に面白いので、毎回「そうきたか!」という発見があって、私自身の世界も広がっていきます。

小学校1〜2年生との関わりも深く、遊びも学びもごちゃまぜになっているところに関われる面白さもありますね。

さらに風越学園のスタッフは、学園づくりそのものにも携わります。「ブランチ」という仕組みがあり、幼小中の枠組みを越えて、それぞれの関心に合わせて所属することができます。遠藤さんが所属する「自然・科学ブランチ(野外環境と活動を考えるチーム)」のほか、プロジェクトを考えるブランチ、スタッフのウェルビーイングを考えるブランチ等、ジャンルもレイヤーも多岐にわたりますが、子どもと向き合うこと以外に、このような役割があることは風越学園のスタッフの大きな特徴であり魅力と言えるでしょう。

一方で、整理されたマニュアル的なものがまだ整っていない状態であるため、「仕事する上で難しさを感じることもある」と遠藤さん。

遠藤さん 組織的にはベンチャー気質が強く、整理されていなかったり、あえて整理していないところもあると思います。ですのでここで働くなら、このカオスな感じを楽しめることや、困ったときに誰かに頼ったりできることが大事になってくると思います。チームで考える、チームでつくるということも大事にされているので、みんなでつくっていくプロセスを面白がってもらえると嬉しいですね。

子どもも大人も、あらゆる場面で話し合いの文化が育っています

開校3年目。風越学園は「まさにいま、全ての要素がちょっとずつよくなっていくプロセスのなかにいる」と遠藤さん。

遠藤さん 例えば「風越の個別支援ってどういうかたち?」「評価ってなんだろう?」といったことをすべて問い直して、その要素をひとつずつ確かめ合っているプロセスのなかにいます。ここにいる子どもたちにとっての最良を、みんなで必死に考えている感じ。

幼稚園としては、9年生までの子どもたちを視野に入れた個別支援がどうあるべきかという議論に参加することで、「じゃあ幼児期はこんなことを大事にして過ごせたらいいね」ということも見えてくる。それは他ではなかなかできないことだと思います。

また、12年間のつながりを大切にする学園だからこそ、給与体系は全スタッフ一律です。子どもと同様に「大人の幸せ」も大切にする空気もあります。

今回の幼稚園スタッフ募集においては、特に表現分野と野外環境づくりに関心の高い方を求めているそう。そして一般的に必須とされている幼稚園教諭免許も、取得の意思があれば現在保持していない方でも応募可能だと言います。

遠藤さん 野外での保育や、その中での子どもの育ちに関心があるということ、子どもに関わる仕事の経験があることは必須条件と考えていますが、今回はそれに加えて、表現や野外環境づくりに関心の高い方に来ていただけるととても嬉しいです。

「表現」についてはたとえば描画や身体表現、アートや工作への関心ですね。「野外環境づくり」は、いま野外環境を循環が目に見えるようなかたちにしようとしているところなので、畑や田んぼなど自然のつながりをデザインすること、さらに子どもたちとそれらをつなげていくことに面白さを感じられる人であると、ありがたいです。

幼稚園教諭免許に関しては、取る意志があれば大丈夫です。小学校教諭免許を持っていて幼稚園に関心のある方にもぜひ応募していただきたいですね。

藤の花が咲く5月に、藤の花を子どもたちと採取して、色水づくりから描く活動へ。同じ活動をしているように見えて細かく見るとそれぞれに異なる関心へ向かっています。表現活動を通して、子どもたち一人ひとりが多様な世界に出会っています(画像提供:風越学園)

2022年度から、パーマカルチャー デザイナーの四井真治さんをパートナーに迎えて「いのちのつながりプロジェクト」が発足。子どもたち、保護者と共にこの場所にある資源を見つけて、それらをつなげる取り組みをスタートさせています(画像提供:風越学園)

「風越学園で働くということ」それは遠藤さんにとっては、「社会や未来に対する大きな挑戦の担い手になる」ということだそう。

遠藤さん スタッフは全体で50人、幼稚園スタッフは9人ですが、いま集まっているメンバーといま集まっている子どもたちとで、「この学園をどうしたらいいんだろう?」と話し合いながら一つひとつつくり上げていくという、この場所でしかできないことに日々挑戦しています。

地域や社会、さらには地球という規模のことも、ここで起きている挑戦の地続きにあるような気がするんです。苦しいことも楽しいことも全部、ここで起きていることが未来の社会をつくっていく、そんなふうに思ってるんですね。だから、これからの社会に向けた大きな挑戦だということが、風越学園で働く最も大きな魅力だと思っています。

「遠藤さんが好きな場所」をうかがい、浅間山を見渡せるテラスで行ったインタビュー。丁寧に紡がれる遠藤さんの言葉は、意外に暑い軽井沢の夏の空気の中でも爽やかに響き渡りました

失敗も繰り返しながら、試され続ける感覚を楽しむ。
幼稚園スタッフの「風越学園で働くということ」

風越学園における幼稚園の位置付けや幼稚園スタッフの役割が見えてきたところで、ここからは、「風越学園で働く」ということを、さまざまな経歴を持つスタッフの方々の視点を交えてさらに深掘りしていきたいと思います。

幼稚園スタッフの坂巻愛子(さかまき・あいこ)さん(風越ネーム:あいこ)と、昨年まで幼稚園・小学校スタッフとして働き、今年度から3〜4年生を担当するようになった片岡利允(かたおか・としみつ)さん(風越ネーム:とっくん)に登場いただき、お話を伺っていきます。

片岡さん(左)と坂巻さん(右)は、昨年まで2年間、ともに幼児と関わり試行錯誤を積み重ねた間柄。元公立小学校教員の片岡さんと、森のようちえんで経験を積んだ坂巻さん。遠藤さんによると、「ふたりそれぞれの意見が重なることで、視点が立体的になっていく」とのこと

坂巻さんは、幼稚園勤務歴15年。千葉県我孫子市の私立幼稚園を経て、2015年に軽井沢町を拠点とする「森のようちえん ぴっぴ」で4年間活動した後、風越学園の設立を機にここで働くことを決めました。その動機について、坂巻さんはこう語ります。

坂巻さん 千葉の幼稚園のときから、外で保育をすると私自身が喜んでいたんです。子どもたちも表情が違っていて、体ごと子どもと出会えると言いますか、自分に素直でいられて。「森のようちえん ぴっぴ」に行ってからも、子どもがそのまま生きているな、子どもの世界がここにあるなって感じていて。この世界を守っていきたいと思ったときに、その先の小中学校にもこの世界がある学園ができるって聞いて、「はい!」って手を挙げた感じでした。

幼稚園スタッフの坂巻愛子さん。子どものことを話し始めたら止まらず、子どもたちの世界に一緒に入り込む姿は「本当にすごい」と片岡さんも絶賛。野外で歌うことが好きで、現在ギターを練習中。風越学園の剣道部員という一面も

一方で片岡さんは、新卒から4年間、奈良県の公立小学校で教員をしていました。「すごく充実した時間だったし大好きな学校だった」とのことですが、4年目に以前から接点のあった岩瀬直樹さん(現:風越学園校長)から声をかけてもらったことをきっかけに、風越学園に合流しました。

片岡さん 僕は直感で動いてしまうタイプなので、家族にも事後報告でした(笑) 当時の校長には考え直してくれって突き返されましたが、真剣に話したら「わかった、応援するわ」って言ってもらえて。

最後の年は6年生の担任でしたが、僕も今年でこの学校を卒業すると伝えると子どもたちが泣いて僕も泣いちゃいました。4年目で、仕事にも慣れてきてやれることも見えてきたタイミングでの急な出来事だったので、なんの計画もなく来ちゃったという感じです。

昨年まで幼稚園・小学校スタッフで、今年から3〜4年生を担当している片岡利允さん。「かざこしミーティング」を子どもたちとともにつくるなど、ファシリテーションや学びの場づくりが得意。シンガーソングライターで、放課後にライブラリーの一角がステージとなる「ライブライブラリー」で歌うことも

経歴も動機も違う2人が出会い、ともに働くようになって2年半。お互いにとって、一体どんな日々だったのでしょう。

坂巻さん 2年間たっぷり一緒に外にいて、とっくん(片岡さん)は、子どもの世界にたっぷり入って、答えのないことを「どうなんだろう」って子どもと一緒にいてくれているなーって思っていました。心地よく一緒に過ごさせてもらって、ありがたいな、良い時間だったなって。

片岡さん 僕にとっては、小学校の先生として当たり前になっていた感覚がいっぱいあることに気づかされた2年間で、あいこさん(坂巻さん)の問い返しにハッとすることの連続でした。子どもの世界を外側から見るんじゃなくて、その子に入り込んでその子自身が見ている世界を見ようとするんですよね。

これまでも子どもを中心に授業をやってきたと思っていましたが、それでも、丸ごとその子の心の動きまでは見られていなかったなって。いまも「あいこさん(坂巻さん)だったらどんなふうにこの場面を見ているのかな」ってなんとなく意識しています。

片岡さんの言葉に「またまた〜」と坂巻さんは笑います。片岡さんはじめ多くのスタッフに頼りにされている坂巻さんは、風越学園で12年間子どもたちがまざる環境に身を置くようになって、いま何を感じているのでしょうか。

子どもたちと関わっているあいこさんの姿を「スイッチが入っている」と片岡さんは表現します

坂巻さん 幼稚園で働いていたときから、この先どんな風に育つんだろうって想いはずっとあったんです。子どもが自分のペースで、自分でいろいろなものに意味付けしながら学んでいく日々が大きくなっても続いたら、それこそ面白いコミュニティや社会ができていくんじゃないかなって。

ここで小学1〜2年生の子まで身近で見るようになって、「わかりたい」って気持ちがどんどん大きくなるんだなって気づきました。そういった探究心や意欲を受け止めて保障する時間や空間、関係性や環境が大事なんだろうなと思っています。

校舎の中心にある圧巻のライブラリー。坂巻さん曰く「流石にこんな本はないだろう!」と思う本まで揃っているのだとか

約3万冊がずらりと並ぶライブラリーをはじめとして、ラボや隣接の森など、活用できる場がたくさんある風越学園。遊びから学びへとつなげていく環境づくりも、子どもの関心に合わせて本を差し出すなど、これらの場を活用することでスムーズに行えそうです。

そんなことを考えながら私が思わず口にした「遊びと学び」という言葉に対して、「それについては嫌と言うほど話し合ってきた!」と片岡さん。ふたりそれぞれの想いを聞きました。

坂巻さん 私は幼児はみんな学んでいると思っています。「これはこんなふうに動かすとこうなるんだな」とか、何かに出会って体感して意味づける。そうやって得ていくものすべてが学びだと思っているんです。それが「今度はこうやってみよう」って、次につながっていくんですよね。

片岡さん 子どもたちは遊びのなかで学んでいるし、学んでいると思ったらめちゃくちゃ遊ぶように過ごしているときもあるし。

例えば作家の時間(一般的には国語の授業のなかで行う文章を書く時間)で使っている作家ノートに子どもたちが書いている感じは、自由帳に落書きしている雰囲気と全く同じように見えることがあって。そう見えたときに、この人たちが遊んでいるのか学んでいるのかなんてどうでもいいなって思ったんです。

たとえば2年生のグループがアウトプットデイ(学びの成果を子どもたち自身が表現する場)に向けて足湯をつくったときも、ちょうどいい温度を知るために何度も何度も温度計で水温を測っていて。それって理科の勉強そのものなんですよね。段階的に遊びから学びにいくと言いますが、「本当にそうか?」って思って。

素足を入れてちょうどいい温度を調べる子どもたち。遊びと学びが同時進行で進んでいます(画像提供:風越学園)

「遊びか学びか?」といった問いに対して、子どもたちとの関わりやスタッフ間の対話から、「なんとなく掴んできた!」と感じたり、「本当にそうかな?」とスタートラインに立ったり、行ったり来たり。そんな大人たちの探究を片岡さんは「風越っぽい」と表現します。そしてそれは「幼稚園の人たちと一緒にいるからこそ、これまでの学校の当たり前として流してきていたものを問い直せるし、学び続けていられる」とも。坂巻さんもその感覚は共有しているようです。

坂巻さん ここでは「学びとは?」っていうところから考えられるんです。当たり前じゃないことが自然のなかでは起きていて、幼児期から自分たちの解を出そうと突き詰めようとする体験をたっぷりして、そういう子たちが大きくなっていったときに、自分だけじゃない相手の心地よさも体で感じている。そんなことも学べる場所だと思います。

片岡さん ここでは目の前の子どもに対して「どう関わったらいいかな? 教えたほうがいいかな? いや、ちょっと待てよ」みたいなことをその場で即興でやっていることが多いかもしれません。

学び続けているというよりは、試され続けているという感じですね。子どもは変化し続けていくし、それを感じ取りながらまた考えていくっていうライブ感が本当にすごいんです。子どもたちに教わることも多くて、以前に比べてすごく素の自分でいられる感覚もあります。

片岡さんの「試され続けている」という表現に「わかる、私と向き合うって感じだよね」と応答した坂巻さん。「試されている」と感じる状況はプレッシャーと受け取る人もいると思いますが、2人はとても楽しそうです。

片岡さん 僕はめっちゃ楽しむ人です(笑) 幼稚園スタッフと話していると、すぐ脱線したりもするけど、そこも含めて面白がるというか。どんな状況になっても、それをよりワクワクできる方向に考えていけるので、だいぶ励まされている部分がありますね。

坂巻さん 間違えることもあって、子どもに「ごめんね、さっきの言い方違ってたね」って言うこともあるし、子どもの「あの姿を見られていなかったな」ってこともいっぱいあって。そんなときにあーだこーだ言えるスタッフがいっぱいいて、素直でいられることは本当にありがたいです。子どもたちも「この人まだ未熟なんだな」ってわかってもらえていると思う(笑)

片岡さん 僕が2年目に年長グループを他のスタッフと一緒に担当することになったときも、教室もなければ決められた枠もほとんどなくて、何をどうしていいかわからなかったんです。でも近くにモデルはいっぱいいて、一緒にやってくれる人もいて。いくらでも学べる環境にあるっていうのは、ありがたいですね。

どこまでもポジティブな2人に、敢えて大変な部分も聞いてみました。

坂巻さん 本当にいまは学校をつくっている最中で、どこかに答えがあるわけでもないので、ゆらゆら揺れていることが、正直ちょっとしんどいなぁと感じることもありますね。

片岡さん さっきも鳥が入ってきましたが(取材中、開いていた窓から本当に鳥が入ってきました)、いろいろなところからいろいろなものが入ってくる。変数が多すぎて、なかなか集中して積み上げていくことができなくて、僕自身もいっぱいいっぱいになってしまうこともあります。

でもゼロからつくっていくってそういうことなんだな、って。いままでチャイムとか教室とか時間割に守られてきた部分があって、そういうことを全部なしにしてゼロから子どもの育ちを考えていくっていう営みはすごく意味があって、同時に大変さもある。その感覚はずっとありますね。

面白さも大変さも踏まえた上で、最後に改めて「風越学園で働くということ」を2人に言葉にしていただきました。

坂巻さん 12年間、子どもがどんなものとつながって育っていくのかということを、じっくりと見ていきたいと思っているスタッフが多くて。そういう解のないところで、苦しいときもあるけど、じっくりを大事にしながら、スタッフもいろいろなチャレンジができる場所だと思います。私はチャレンジできています。

片岡さん 遊びもあるし学びもある。自由もあるけど不自由さもある。そういった矛盾を抱えたまま、「そもそも、いま大事にしなきゃいけないことって何なのだろうか」みたいなことをずっと考えている感じです。本当にずっと考えてる。

でも、ここで起こっていることのエネルギーがこの場の可能性であることは信じたいなと思うし、そういう自分でいたい。見失ったり苦しいと感じることもあるけれど、あてもなく歩いた先にどこに行き着くか、そこにワクワクを感じています。

日頃から対話を重ね、お互いに信頼しあっているように見えるふたり。ありのまま、素のまま、リラックスした雰囲気のなかでお話を聞くことができました

動きのなかにどっぷり浸かって、真剣に遊んでいる感じ。
理事長・本城さんの「風越学園で働くということ」

たっぷりと幼稚園スタッフのみなさんのあり方を感じ取ってきたこの記事の最後に、学校づくりの発起人で理事長の本城慎之介(ほんじょう・しんのすけ)さん(風越ネーム:しんさん)のインタビューをお届けします。開校から2年半の歩みのなかで感じ取ってきたものと現在地、この先に見据えている景色を共有していただきました。

理事長の本城慎之介さん。楽天株式会社の副社長を経て、2002年より教育の世界へ。2009年からは軽井沢町で「森のようちえん ぴっぴ」の運営と保育に携わり、軽井沢風越学園設立に至りました。野外活動を得意とし、子どもたちからも「しんさん」と親しまれる頼れる存在

本城さん いまは、日々の動きのなかにどっぷり浸かっているという感じです。

2020年4月から学校が始まって、校舎に子どもがいてそこに大人との関わりが生まれて、当然子ども同士もどんどん関わっていって。校舎の周辺では保護者同士が関わって新しい動きがまちのなかでも生まれていたり。

僕の役割としてはマネジメントみたいなことをしなくてはいけないんだけど、その動きを学校として制御しようとすると、生きている感じが失われちゃうんじゃないかな、と感じていて。

本城さんが表現する「動き」とは。風越学園にはいま、「みんながイメージしている学校」とは違う情景があちこちに広がっています。保護者の発案で休日に学校のグラウンドにテントサウナを張って楽んだり、全国からやってきた18〜24歳の若者と風越学園の8年生、数名の保護者が参加する「風越みらいツクール」では、参加者の若者が寝袋を持ち込んで敷地内の好きなところで寝ていたり。

保護者から始まった大人が学ぶ・遊ぶプロジェクト「裏風越」。テントサウナを楽しむ「ととのうの向こう側へ」や、チェーンソーの使い方講座、音楽好きが集まる「楽器と遊ぼう」など、次々に企画が立ち上がっています(画像提供:風越学園)

そういった動きに対して、賛否両論さまざまな声が上がってくることは想像できます。でも本城さんはこうした動きにこそ面白さを見出しています。

本城さん 学校らしくあろうとする立場からみたら、それらは余計なことだし、しないほうがいいことです。子どもたちも大人も知っている学校のあり方のほうが落ち着くという気持ちもあると思います。

でも、意味とか目的とかがあるかとかは全く関係ないところでテントサウナみたいなことが行われていることの面白さがあるし、実際にどんどん生まれています。

一方で、「より学校になろうとする動きもある」と本城さんは続けます。

本城さん 「一斉にテストをやりたい」とか「ルールブックのようなものをつくろう」とか、みんながイメージしている学校になっていくような流れや動きが実際にある。そこに抵抗感を示すことが、僕のとても大事な役割だなと思っていて。

いま、僕ら大人が経験した、大人が知っている学校にどれだけ留まらないでいられるか、ルールで制御するか、それ以外のもので行動を整えていけるのか、といったことの狭間の大事な局面にいます。

「自分が関わるなら、みんなが知っている学校ではなく、見たこともないものに辿り着きたい」。設立当初に掲げていた「新しい普通の学校」というフレーズを語るのをやめた本城さんの現在の想いを実現するエンジンは、一体どんなものなのでしょうか。

本城さん 学園に対して、ずっと物足りなさがあったほうがいいなと思います。子どもも大人も、もっとこうしたいな、こうだったらいいのにな、という渇望感。それがたっぷりあると、いままでの学校にないものが生まれてくると思うんです。だからずっと70点というか、ずっと未完成でわちゃわちゃしていて安定しない。そういう感じであってほしいなと思いますね。

子どもたちの渇望感は、すでにあらゆるところで噴出しているといいます。ロシアとウクライナについて学びたいという要望があったり、運動会のようなスポーツフェスティバルをやりたいという声が出てきたり。それに対して大人はいいかダメかの判断をするのではなく、「乗っかる」かたちで関わっていくのだとか(画像提供:風越学園)

渇望感を持った子どもたちが提案してきたことに対してどう「乗っかる」かは、スタッフ次第。本城さん自身は、まるで即興劇のように子どもたちと関わっていくと言います。

スタッフのマニュアルも校則もチャイムやテストといったシステムもない分、大人の関わりが子どもに与える影響は通常よりも大きくなってくることは、坂巻さんと片岡さんの対話でも明らかになりました。なぜそこまで、システムをつくらないことにこだわるのでしょうか。

本城さん システムは人を考えなくさせるものです。効率性や効果は見やすくなりますが、人から何かを奪っていきます。風越のなかでもっともっと文化が成熟していくと、システムに守られた「正しい行動」ではなく、文化にフィットした「美しい行動」になっていきますよね。

いまはまだ属人的なものへ依存したカリキュラムになっている側面もありますが、文化に育っていったらいいな、文化ってどうやってできていくのかなと考えています。

校則もない風越学園。生活のなかで守ってほしいことをまとめた「生活ベース」をつくろうという動きがスタッフから沸き起こりましたが、本城さんは「ルールブックになって考えなくなっちゃわない?」と違和感を表明したのだとか。その後子どもたちとスタッフが対話を重ね、いまの風越学園に合った「道しるべ」をつくる動きへと変わっていき、その編集作業は子どもたち自身が担っているのだそう。写真は、かざこしミーティングでこの話題が出た際、子どもがプレゼンする様子(画像提供:風越学園)

ルールがなく、自分の興味関心に寄り添ってくれる大人と環境がたっぷりあるという意味では、子どもにとって風越学園は自由な学校なのかもしれません。でも本城さんは、「自由な学校ではなく自由になるための学校」だと強調します。

本城さん 自由って誰かから与えられるわけじゃなく、自分でつくり出していくものだと思っていて。いまここに自由があるわけではなく、自由を学んでいく、自由になっていく学園でありたいな、と。

では「自由になっていく」ためには何が必要なのでしょうか?

本城さん 他者との対話と自分自身との対話、そのどちらもやり続けることが、僕は自由になっていくということなんじゃないかと思っていて。自分自身とばかり対話していると、社会に適応できなくて不自由になっちゃう。でも社会とばっかり対話して自分自身を蔑ろにしていると、そこに合わせようとするだけで疲れちゃう。

自分自身というものと丁寧に対話し、社会とも丁寧に対話していく。そのことで自由になっていくんじゃないかと思っています。

インタビューはそれぞれの方の“一番落ち着く場所・好きな場所”で行いました。本城さんにとってはライブラリーの中心線上に机と椅子が並ぶスペース、通称「浅間軸」。窓越しに浅間山を見渡すことができる開放的な空間で心地よくお話を聞かせていただきました

本城さんの言葉で、風越学園がシステムに頼らずにあらゆる場面で対話を重ねている理由が見えた気がしました。子どもたちと同じように、風越学園もいままさに「自由になっていく」プロセスの真っ只中にいて、内部でも外部とも丁寧に対話を重ねているのでしょう。

そんないまにどっぷりと浸かって味わっている本城さんへのインタビューの最後に、やはりこの問いを投げかけてみました。「風越学園で働く」とは、一体どういうことなのでしょうか?

本城さん 真剣に遊びにくる感じじゃないでしょうか。遊ぶように仕事する、楽しむ、満喫する。「自己実現しよう」とか「人生かけて飛び込もう」って気負ってくると、いろいろなシステムに守られずに丸裸になったときに、力量を試される感じになって苦しいんじゃないかと思います。だから真剣に遊ぶ感覚で入ってくるのがいいんじゃないかなって。

仕事は成果や結果が出ますが、遊びはそのときを味わい尽くすほうが大事だと僕は思っていて。後先のことはあまり考えず、徹底的にその場を楽しむ、味わう、それがここで働くっていうことなんじゃないかなと思います。「こんなはずじゃなかった」と思っても、流れに乗っかってみるっていうのも大事で、それが子どもの波や流れを生み出すことにもつながるんじゃないかと思いますしね。

そうですね、僕は真剣な遊び相手がほしいです!

本城さん自身の役割について問うと、「風越のスタッフの中で一番遠くと深くを見ていく役割」との答え。それと同時に、「僕が面白いなと思うことを徹底的にやり続けることも大事」とも。実際に、宿泊型の企業研修をやってみたり、裏風越をやってみたり、やりたい授業をつくってみたり。理事長という役割に捉われずに動く本城さんのあり方が、また学園の空気をつくっているのだと感じます

学校ではない「 」になる

学校というものを根底から塗り替えていこうとする風越学園。取材を通して「ここまでだったか!」というのが私の正直な感想です。システムどころかクレド(行動指針)のようなものもなく、ずっと考え続けるなんて、並大抵のことではありません。なぜそこまでやるのか。その先に何をみているのか。最後に本城さんのこの言葉を贈ります。

本城さん 意外に早く、僕らが経験してきたような社会や価値観が崩れてくるんじゃないかと思っていて。

「会社は毎日行くもの」という概念が崩れたように、学校も、ある日は図書館にいて、ある日は畑にいて、それ以外は学校で、なんて学び方が当たり前になる日がもっと早く来るんじゃないかな、と思っています。一律の長期休みもやめて、「1年間いつでも60日来なくていいよ」ってしてもいいと思う。そのときのために、ここで子どもたちがどんな経験を積んでどんな環境をつくっていくといいのかなということは、いつも思っていて。

いまはまだ、いわゆる学校なんですよ。でも考え続けた先に、そうじゃない何かになる日がきっと来るはずで。学ぶ場所、遊ぶ場所、暮らす場所はあって、必ず子どもと大人がそこにいるということはベースとしてあるけれど、学び方や遊び方は従来の学校とはどんどん違ってくる。

そうすれば絶対、面白いことが生まれます。世の中やこのまちや地域に広がって、他の町でも、そこにいる人たちしかできない何かになっていって。そこまでのプロセスを一緒に面白がってくれる人に、ぜひ来ていただきたいですね。

長時間の取材にもあふれる笑顔でお付き合いくださったスタッフのみなさん。あたたかな言葉と時間を、本当にありがとうございました

学校ではない「 」に。それはもう、現在の風越学園で起こり始めていること。そこにあなたという存在がかけ合わさると、また違った「 」になる。そう考えると、ワクワクしてきませんか?

記事の冒頭で触れた「私たちは子どもとどう関わればいい?」という問いに立ち帰ると、そんなあなたのワクワクしている姿こそが、子どもたちに良い影響力として伝わるのではないかと私は思います。「自由になってほしい」と願うなら、それを言葉ではなく、あなた自身が自由になることで示す。逆に言えば、何かを子どもたちに伝えようとするとき、本当にはあり方でしか伝わらないのだと思うのです。

あなたはどんな「  」になりたいですか? 風越学園にどっぷり浸かって、その答えに至る探究のプロセスを味わってみるのもいいかもしれませんね。

校舎の入り口に掲げられた巨大なポスターには、子どもたちの多様な「 」が並んでいました。あなたは「 」になりますか?

(撮影:羽柴和也)
(編集:山中康司)

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