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「どんな風につくったエネルギーを選ぶのか?」のその前の話をしよう。「いとしまシェアハウス」志田浩一さんが語りかける「つくることを体験すると、つかうことに意識的になれる」エネルギーのこと

「どんな風につくったエネルギーで暮らしたいですか?」

2011年に発生した東日本大震災。原子力発電所の事故を受けて、このキーワードを意識する人も多くなったのではないでしょうか。

これからご紹介する福岡県糸島市の「いとしまシェアハウス」も、2012年、震災をきっかけに千葉県から糸島に移住した志田浩一さん畠山千春さんが立ち上げたコミュニティ。「食べ物、エネルギー、お金(仕事)の自給」をコンセプトにしたコミュニティの暮らしぶりや想いは2017年にgreenz.jpの記事でお届けしました。(記事はこちら

前回の取材から5年たった今。「いとしまシェアハウス」は、暮らしを営む場所から5km圏内の山の上に開発を予定されている風力発電所の課題に直面、困惑していました。

約344ヘクタール(東京ディズニーランド約7つ分)山を開き、全長159mの巨大風車を8~10基設置するという今回の計画。

「いとしまシェアハウス」の発起人、志田浩一さんはいいます。

再生可能エネルギーへのシフトは大賛成ですが、そのプロセスが地域の暮らしを脅かしたり、自然破壊するのであれば、原子力発電や化石燃料など往来のエネルギー問題と同じ構造を繰り返しているように感じます。

エネルギーの課題に“こうしたらいい”というベストな解決策はまだないと思いますが、再生可能エネルギーだから「何でもあり」ではなく、エネルギーがつくられる過程について学び、この問題を自分ごととして考えてくれる人が増えてくれたら嬉しいです。

「ベストな解決策」がないからこそ、もう一度脱炭素社会、再生可能エネルギーの方向に大きく舵を切る前に、私たちは何を知り、どんな未来を描きたいのかをgreenz.jpの読者の方々と考えてみたい。そんな思いで10年目の春を迎えるいとしまシェアハウスを再び訪れました。

シェアハウスに流れるゆったりとした時間を想像しながら志田さんのことばを受け取ってみてください。

(記事の最後に感想フォームをご用意しました。あなたの声をぜひ届けてください。)

志田浩一(しだ・こういち)
いとしまシェアハウス発起人・コミュニケーション料理人。
東京「パクチーハウス」にて料理長を務めたのち、千葉で農業、養鶏、酪農、山梨で農業、狩猟を学ぶ。2012年糸島市にパートナーの畠山千春さんと移住、いとしまシェアハウスを立ち上げ、運営。狩猟免許も取得。日本で唯一のオンドルデザイナーでもある。

都会と田舎をつなぐシェアハウス

2017年の取材から5年。まずは進化し続ける「いとしまシェアハウス」の現在地を詳しくご紹介しましょう。

趣きのある佇まいが印象的ないとしまシェアハウス。現在、住人を募集中です。

建坪85坪の敷地に建つ、リノベーションした古民家が主な生活の場所。志田さんとパートナーの千春さん、娘の凪ちゃんに加え、常時6名ほどが滞在可能で、約1〜2年ほどで住民は入れ替わっています。

現在も「食べ物、エネルギー、お金(仕事)の自給」をコンセプトに、田植えや、みつろうを使ったワークショップなど、体験型イベントを中心に暮らしをつくることを提案しています。昨今は自分たちが実践する「暮らしをつくる」を体感できる「暮らしのDIYキット」の販売も手掛けているそう。

養蜂の傍ら、古くなった巣(みつろう)でラップをつくるキットなどもネット販売中

単に田舎暮らしを体験するためのシェアハウスではなく、都会と田舎をつなぐ拠点であることも「いとしまシェアハウス」の意味であり価値だと志田さん。都会に住んでいる人へシェアハウスや、イベントを通して里山とつながる機会を提供するほか、足を運ぶことができない人にも、「暮らしのDIYキット」で「つくる」という体験を届け、つながりを生み出します。

また、現役の大工さんが自分の技術を提供すると同時に糸島暮らしも体験できる、「大工インレジデンス」を2018年に始動。シェアハウスの電力の一部を賄う太陽光パネルを設置し、エネルギーの自給もパワーアップ。

食住の提供と大工技術の提供を交換する「大工インレジデンス」。3人の大工さんの力で大規模な太陽光パネルの取り付けも実施しました 写真提供:いとしまシェアハウス

こちらも大工インレジデンスで納屋をリノベーションしたゲストルーム。キッチンも併設されおしゃれ! のひとこと 写真提供:いとしまシェアハウス

木材は近隣から頂いたものを使用。大工技術と志田さんのセンスのコラボレーションが生み出した空間です 写真提供:いとしまシェアハウス

もうひとつ、エネルギーを自給する仕組みとして韓国式床下暖房「オンドル」もご紹介しましょう。

1日1回5本ほどの薪を焚くだけで床からじんわり暖かいというこのシステム。志田さんが韓国で出会い魅了され、職人さんに弟子入り。技術を学んだのち、シェアハウスに導入したというから驚きです。日本ではまだ10箇所ほどしか導入している場所はないんだとか。

)床下をあけ、レンガや土で迷路を組み、そこをゆっくり煙が通ることでじんわり心地よい暖かさがうまれるという仕組み

「いかに薪を使わないか、という木材が豊富ではない韓国の国柄から生まれたものなんです。小さなエネルギーを最大に生かすところが魅力ですね」と志田さん

シェアハウスの住人たちが自給する、だけではない。
都会との接点の場であり、大工インレジデンスのように自分の可能性を試すことのできる場であり、つくることを通じて、暮らすことを体感する場ーーそれが「いとしまシェアハウス」です。

日陰を利用した椎茸栽培も

2年ほどで入れ替える養鶏場の鶏を受け入れて飼育。ハウスで第2の人生を歩んでいます

みんなが豊かに暮らすためのエネルギーのこと

ここからは志田さんのインタビューをお届けします。

糸島に移住し、シェアハウスを立ち上げ10年目。
自身も震災をきっかけにエネルギーの自給について考え続け、そして実践し、その学びを多くの人に広げるワークショップやイベント、さらには企業も参加できる仕組みづくりも手掛けてきました。

自分たちの手の中で暮らしをつくり、それを伝え、広める。
そんな糸島の暮らしの中で、シェアハウスの目の前にある県境の山に風力発電所ができるという知らせがきたのは2020年のことだったそう。率直にどう感じたのでしょうか。

驚いたし、戸惑いました。

自分の家のすぐ上に150mを超える風車が10本くらい建つらしいと。風景も悪くなるし威圧感もあるだろうなと思いました。

風力発電から出る低周波音が原因とみられる健康被害も多数報告されていると聞きます。直接的な因果関係は証明されていませんが、本当に健康に与える影響がないのか、近隣で暮らす者として安全性が気になります。ここは5kmよりもっと近いので、まるでここに人が住んでいないかのような計画だと感じました。

環境への負荷も不安を感じていると志田さんは続けます。

今回建設される風車の耐用年数は約20年です。

その20年の発電のためだけに、地域の人たちが先祖代々守ってきた山を切り開く。風車が壊れてしまえば、そこに残るのは役目を終えた広大なコンクリートの建物だけです。20年後の未来を想像したとき、この発電方法は果たして「持続可能」なものだといえるでしょうか。一度壊した生態系を再生させるには、その何倍もの時間がかかります。

火災事故が起きたときの体制も万全とはいえません。今回発電所が計画される唐津市、隣接する糸島市には高さ35mのハシゴ車が1台ずつしかなく、山奥にある150mもの風車で火災が発生した場合、どうやって消火活動をするのか疑問が残ります。

落雷や暴風、経年劣化などによる火災は世界中で起こっていて、2017年には唐津市の風力発電所でも火災事故が発生しています。防災対策もあやふやな状態で計画を進めることにも、不安を感じています。

佐賀県唐津市が請け負う風力発電計画ですが、県境の山のすぐ隣は糸島市。現状は保安林になっている場所が含まれているため災害対策の課題もあり計画は止まっているそう

風力発電所を建てる工程まで環境にダメージがあることも、実は多くの人はあまり想像できていないんですよね。

150メートルの風車を建てるために、地下を何メートル掘るのか、そこにある水脈に影響はないのか。僕らは山の湧き水で暮らしているので、もしなんらかの影響で水脈が枯渇すればここでは暮らしていけません。

また、約60mもある風車の羽部分を運ぶため、道路の拡張も必要です。山をコンクリート舗装すると、舗装した箇所へ水が集まって鉄砲水につながり、ひいては地滑りが起こる可能性もあります。

ここは歴史的に見ても土砂災害の多い地域です。近年は気候変動の影響で大雨が増え、台風の季節は毎年避難しなければいけなくなりました。今回の計画で土砂災害を防ぐ保安林が伐採されれば、さらに土砂災害が増えるのではと不安に感じています。

空を飛んでいる鳥が風車に当たることは想像できるけど土の中、山からの水が流れつく海のことまではわかりにくいのに、その説明はないんです。

2020年、糸島市で建設を反対する市民からオンライン署名がはじまり、今も続いているのが現状だと志田さん。

そもそも海外の再生エネルギーの成功例みたいなものを、日本でやろうとすることに無理があると僕は思っています、環境が違うので。ヨーロッパでは街と平地の距離がある場所を活用して自然エネルギーをやっていると聞いていますが、日本は各地に里山が多く、そこには人が住んでいるんですよね。そう考えると日本で風力発電をすることって難しいなと感じます。

自然エネルギーは歓迎ですが、みんなが豊かに暮らすために必要なエネルギーをつくろうということだと思うので誰かの犠牲の上に成り立つのは意味がないですよね。

海と山に囲まれた糸島の風景。今回の計画を受けてみんなで考えるウェブサイト「唐津^糸島の山の未来を考える会」も立ち上がったそう  写真提供:いとしまシェアハウス

暮らしをつくる、あるもので暮らす。いとしまシェアハウスが10年間、小さくても自分たちで実践し、それを学びとして人に伝えてきた取り組みと、今回の大きなエネルギーを生み出すために風力発電所が生活圏に建設されるという課題。

対照的なようですが、志田さんは「良いか悪いか、ではない」と言います。

自然エネルギーが悪いわけではなく、様々な側面を知ることとそこにいる人の暮らしを想像することが大事だと当事者になって思うんですね。

ここに住んでいない人でも、想像して、声をあげることはできる。声をあげるってことはつまり自分ごとにするということ。「電気を使っているからしょうがないよね」と声をあげることをためらう人もいますが、まずは自分ごとにしてみると電気の使い方さえも変わると思います。

つくることを体験すると、つかうことに意識的になれる。エネルギーを自分ごとにするヒント

まずは自分ごとにすること。例えば、田んぼでお米をつくる体験をすると、真夏の草取り、稲刈りから稲を束ねて稲架(はざ)に掛ける手間と労力を実感し、農家さんとおいしいお米の有り難さに気づくように。自分が使うエネルギーのことをもっと多くの人が自分ごとにするヒントはどこにあるのでしょうか。

僕は根本的に教育に課題があると感じてます。

今は答えがまずあり、そこへの一本のルートを導き出す教育しかしていないけど、本当に大事なのは、答えが合っているかではなく、興味がわいて、もっと観察して深めていけるかですよね。興味、好奇心を向上させる教育が必要なのではと思います。

自分ごとにするには、自分でつくる、生み出す必要もあるけど、今、気持ちや生活に余裕がない人が多い中でそれって大変ですよね。自分でなにかやってみようという気持ちが芽生える隙間もなかなかないというか。結果、お金という対価を払いエネルギーを消費するだけになり、自分ごとになっていかないんだと思います。

でも、そもそも、エネルギーも、使う量が少なければつくる量も少なくていいわけです。つくるの大変だし(笑)

自分でつくるのか、それとも使う量を減らすほうが楽なのかを考えると、自分に必要な分を意識するようになり、エネルギー利用の効率がよくなります。必要だからつくる、楽しいからつくる、明確に見えてくるとどう使うかにフォーカスしていける。そういう好奇心の芽生えを社会全体で大事にできたらいいですよね。

好奇心をもつことで自分ごとになる。
その想像の種を、いとしまシェアハウスはずっと発信し続けていると志田さんはいいます。

耕作放棄された棚田をいとしまシェアハウスで管理。オーナー制度で貸し出し、みんなで作業する体験プログラムを実施しています。シェアハウスのコンセプトに賛同する都会の企業などもオーナーに。食べ物をつくるというひと本来のエネルギーを取り戻す場所でもあります。棚田のオーナー募集はこちら

ソーラーパネルを取り付けたつけたときに、大きな蓄電バッテリーをつけることもできたのですが、そうすると住人はコンセントをさすだけで電気が使え、自分ごとにならないと思いました。なので小さなパネルをひとり一人に持ってもらうことにしたんですね。みんな、天気が良いと布団とパネルを干すんです。

パネルを手にして、その日の天気を考慮しながら、自分が使う電気量を考える。雨が3日降ったらもうスマホ充電できない、みたいな。

住人に貸し出している20wのソーラーパネル。自分で貯めたエネルギーでスマホやバッテリーなどを充電。自分に必要なエネルギー量を体感し、自分ごとにしてもらう学びの道具だそう

薪はみんなで割って燃やして暖をとると、エネルギーの生み出し方や使い方がわかりやすいけど、電気はわかりづらいから、大きな仕組み、システムをどんどん小さくして、みんなの手元に持てるくらいにしているんです。
自分が使うエネルギーは自分でというコンセプトをいつも考えています。

もっと小さな単位で課題を小さくして考える

好奇心からあらゆることを自分ごとにする人を増やすために。

いとしまシェアハウスの実践は、「脱炭素問題・再生可能エネルギーのその前に」を改めて考える、まさにそんな取り組みだと志田さんのお話を伺い感じました。そんな志田さんが、その日々の暮らしから感じるこんなお話もしてくれました。

今、なんでも大きくなりすぎていると感じます。まず、日本という括りが大きい(笑) 僕らは、この集落単位で暮らしているので、「糸島市」というよりも、ここの集落に所属している感覚をもっています。それは集落という小さな単位が、自分たちが関係性を持てる限界だと、糸島にきて気づいたからです。

現代社会は、なんでも大きく捉えて効率化しているので、課題も大きくなってしまって見えづらい。だから、もう一回整理して小さい単位にしていかないと自分ごとにはなっていかないんです。

小さくしていくことで課題の解像度が上がるとともに自分ごとになる人が増えて結果解決していく社会、それがいいですよねと志田さんは笑います。

今、僕が暮らしをつくったり活動していることは、社会の課題に対しての自分なりの行動だと思っています。田舎でただ自給自足をしているわけではなくて、この暮らしを知ってもらうことが社会を少し耕す活動だと思っています。

エネルギーの課題も同じで、再生可能エネルギーをつくることだけに集中するのではなくて、例えば、蓄電所が地域ごとにあってもいいし、家ごとに蓄電するシステムに国や自治体が補助金を出してもいい。小さく蓄電できれば、少しくらい不安定な供給もしのげるのではと考えます。

「大きく、ばさっと解決したい!」だと、こんがらがってうまくいかない。それこそ、自然エネルギーをつくるために自然や里山に暮らす人たちの暮らしを壊すのは変だなと気付けなくなる。

解像度をあげて、小さな課題にまずフォーカスして、そこをもっといろんな企業だったり団体だったり都会でカジュアルに提示していけると未来は少しづつみんなに良い方向に進むのかなと思います。

選択肢があるという豊かさ

”これが一番良い”という答えはない。だからこそ、もう一度、エネルギーのことを考える。

最後に印象的だった志田さんの言葉をみなさんに贈ります。

庭につくったピザ窯はピザを焼くまで2時間かかります。なので、火をつけたら、まず鶏や猪を焼き、予熱でピザを焼き、さらに、パンやドライフルーツをつくります。電気やガスは、ボタンをピッと押して止めたら終わりだけど窯は前後の予熱、余力をあますことなく使える。それが僕には心地良いんです。

何が良くて何が悪いかではなくて、選択肢があることが豊かだと思います。選択肢があることを知ることからでも、未来づくりは始められるのかもしれませんね。

写真提供:いとしまシェアハウス

どんな風につくったエネルギーで暮らしたいのか、のその前に。好奇心をもって、選択肢を知り、自分ごとにしてみる。そこから見えてくるこれまでと違った光景が、自分らしい暮らしぶりにつながっていく。

いとしまシェアハウスはそんなことを教えてくれている気がします。

あなたの心にはなにが浮かびあがってきましたか?
ぜひ、声を聞かせてください。

今回話題にあがった糸島市と唐津市をまたぐ山系にて計画されている「(仮称)DREAM Wind 佐賀唐津風力発電事業」は、環境への影響を懸念し、計画の再考を求める声が市民団体などからあがっていることが、2020年秋から新聞などでも取り上げられてきました。

事業者からは事業計画における環境配慮書が公表されましたが、その内容について環境大臣も意見表明を行い、環境への影響を回避・十分な低減が出来ない場合には事業計画の見直しを行うよう求めています。(参考

環境に配慮するために推進される再エネ事業開発において、環境破壊が起こることは本末転倒です。しかし実際にはこうした事例は少なくないようです。

志田さんのお話にもあるように、エネルギーのことは、問題を大きな単位でみると他人事になってしまいます。
まずは自分で発電を体験してみること(つまり自分ごとにしてみること)で、自分なりの考え方ができてくるし、新たな気付きが生まれてくることを、志田さんは教えてくれました。

(Text: 生団連)

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(撮影:重松美佐)
(編集:福井尚子)