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地元と世界を変える「小さな地球」! 山口県長門市の高校生のアツい想いから始まった、アクアポニックスによるベンチャー創出プロジェクト。

地球温暖化 × 漁師の高齢化 = 漁獲高の減少
ということは、これまで地域を支えてきた第一次産業の衰退…?

子どもの頃から新鮮な魚を食べて育った高校生たちは、自分たちの手でこの現状をなんとかしたいという思いに駆られました。

リサーチを重ねると、漁獲高の減少がもたらす影響は、自分たちの住む地域にとどまらないことに気づきました。

世界では人口が増加し、同時に都市化も進んでいます。自然豊かな地方の人口が減少することで、肉や野菜が採れなくなり、食糧難が起こることが危惧されるのです。特に魚の需要は高く、宗教上の理由で肉食を避ける地域もあることから、漁獲高の減少は世界規模で憂慮すべき問題だと気づいたのです。

漁業全体で考えると、温暖化に加えて、マイクロプラスティックなど海洋ゴミの問題も重なり、天然の魚を獲る漁業の拡大はなかなか見込めないという現状もあります。ところが養殖産業は思うように伸びていません。コストの問題が重くのしかかるのです。

「ならば自分たちが、いつでもどこでも、どんな条件でも魚が育つ夢のシステムを作って、世界中の地域を活性化させて、課題を解決しようじゃないか!」
この熱い思いが、世界初のアクアポニックスシステムを生み出そうとしています。

今日は、将来ベンチャー化を目指す高校生のプロジェクトをご紹介します。

冷却装置を自作する高校生

“Think globally, act locally”

大津緑洋高校は、山口県の長門市という小さな町にあります。教室の窓からは青く美しい日本海を眺めることができ、部活動が終われば夕陽が海に沈んでいきます。童謡詩人、金子みすゞの故郷でもあります。

古くから盛んだった漁業が衰退しているという現状を知った高校生。多くの生徒の家庭が、漁業や海に関係する仕事に就いていて、自分のこととして危機感を持ちました。

英語部や生徒会による国際交流も盛んなため、生徒たちは地域と世界がつながっていることを実感しています。SDGsの目標にも掲げられる気候変動の課題は、カナダやロシアの高校生たちとも意見交換したことがあるトピックです。

そこで、メンバーたちは、海水温上昇に対応すべく、「冷却」にテーマを絞りました。
というのも、現状の陸上養殖は、大規模な施設と消費電力が環境に負荷をかけています。コストもかかり、採算が採れないことから、思うように普及しないというわけです。

「つまり、自分たちの力でイノベーションを起こせば、愛する地元だけではなく世界をも変えるのでは…?!」ふつふつとした思いから、プロジェクトが始動しました。

アクアポニックスで食卓に革命を起こしたい

「アクアポニックス」は、魚の飼育と野菜の栽培を両立する、理想とも言える循環型養殖システムです。以前のgreenz.jpに掲載された記事でも取り上げられていました。魚のフンや餌の残りを植物プランターに循環し、その根で吸収して水の浄化を行うわけです。つまり、魚の飼育水はそのまま植物の栄養分になる、まさに地球の相似系と言えるシステムです。

しかし、アクアポニックスで飼育されている多くの魚は、ティラピアやナマズなどの淡水魚。普段あまり口にすることのない魚ばかりだと感じた高校生が着目したのは、世界的人気を誇る「サーモン」でした。しかしサーモンは、18℃以上では生きられないため、養殖のハードルが高い魚です。温暖化の進む現在では、温度管理が難しく、特に飼育が難しいとされています。

山本教授にアイデアをプレゼン

でも、人工的で閉鎖的な飼育空間で飼育するアクアポニックスなら、温度管理もできるかもしれない!

高校生たちは、以前から交流のあった名古屋大学工学研究科パワーエレクトロニクス研究室の山本真義教授にアイデアをプレゼンテーションしました。

自動車や航空機で蓄積したエレクトロニクスの研究を飼育水の冷却に応用し、高校と大学のコラボレーションが実現!エレクトロニクスのプロたちとだからこそ、電力に頼らない物理現象を用いた冷却方法を考案できます。大型の装置を使わず、自然由来のエネルギーを活用した、「海がなくても、世界中どこでも、養殖できるシステム」を実現する探究活動が加速していきました。

自作の水槽で「イクラ」ができた!さらに、山口県で有名なあんな魚も…!?

高校生たちは自力で水槽を試作して、飼育を始めました。そして2020年になんと、様々な冷却方法のコンビネーションにより、サーモンが夏を乗り切ることに成功。さらに驚くことに、狭い水槽ながら、サーモンがイクラを生産。

2021年に入って、山口県を代表する魚である高級魚トラフグの飼育も開始し、順調に育っています!トラフグのアクアポニックスとなると他に例がなく、これによりあらゆる魚が飼育できる夢の水槽の完成を目指しています。生徒の言葉で言うと、このシステムは「小さな地球」。まさにSDGsの考え方に沿ったシステムです。

自分たちで設計し水槽を試作

生産したイクラ

ベンチャー化で未来を創りたい

発足当初は片手で数えられる人数から始まったプロジェクト活動が、現在は45人にまで増え、研究規模も拡大しました。大学のほか、企業からも声がかかるようになり、さまざまな研究材を提供してもらうまでに発展しています。

現在、クラウドファンディング「READYFOR」でプロジェクトを公開中で、資金を集めながらより多くの方々に活動を知っていただき、応援してくださる皆様と一緒にこのプロジェクトを成功させたいと考えています。近い将来、大学のサポートを得ながら、高校生と地元企業がタッグを組んでベンチャー化を実現し、新産業の創出を目指しています。

陸上養殖システムの開発を進めながら、地元で育った若者が将来働きたいと思う魅力的な産業も創り上げる。このことにより、何より大切な「人」を育てることができます。私たちは、4年前から日本財団との協働により、プロジェクトの成果を地元小学生に伝える活動をしています。養殖魚を使った商品活動も行いながら、小学生の豊かな発想力に感激しています。参加者からも好評を頂き、高校生になったらぜひプロジェクトに参加したいという声も聞きます。

私たちがビジョンとして掲げる、気候変動による食糧難の解決を実現するために、地域のみんなで知恵を振り絞り、楽しみながらプロジェクトを作り込んでいます。高校生を中心としたベンチャーの設立は、もうすぐそこです。

仲間の輪が広がっていくプロジェクト

「地方の衰退を何とかしたい」―子どもたちの思いから生まれた「夢の陸上養殖システム」は、理想的な21世紀型食料生産システムを生み出す、大きな可能性を秘めています。

私たちはこのムーブメントを、全国に展開し、仲間の輪を広げていくことを目標に、行動を続けます。

生月彩花(いけづき・あやか)

生月彩花(いけづき・あやか)

山口県出身、熊本大学大学院教育学研究科を修了後、山口県立大津緑洋高校教諭として本プロジェクトに携わっている。

この記事はグリーンズで発信したい思いがある方々からのご寄稿を、そのままの内容で掲載しています。寄稿にご興味のある方は、こちらをご覧ください。