最初は耳を疑った。地球温暖化をテーマにしたドキュメンタリー映画が、アメリカで作られ、しかもヒットしているという。ほどなくして、映画好きのアメリカ人からの口コミ情報も入ってきた。
友人A 「並のホラー映画よりも怖かった!」
友人B 「このままじゃ地球がヤバいよー。俺、もうペットボトル買わないことに決めた」
普段は環境問題に関心など持っていない人たちの、この感想である。アメリカといえば、世界に名だたる「重度の石油依存症国」。CO2排出量世界一を誇るこの国で、支持されている映画とはどんなものなのだろうか。「これは見逃せないぞ!」というわけで、私はタイムズスクエアにある映画館に向かった。
映画の名前は、「An Inconvenient Truth」。「不都合な真実」という意味だ。主役は、クリントン政権で副大統領を務め、2000年の大統領選でジョージ・ブッシュに破れた政治家、アル・ゴア。環境派として知られるゴアは、選挙敗北後、地球温暖化に警鐘を鳴らす講演会を世界各地で行ってきたらしい。「An inconvenient truth」は、そのスライドショー形式の講演をそのままドキュメンタリー映画にしたものである。こりゃ退屈な映画の可能性もあるぞとあまり期待せずに座ったが、心配は無用だった。
- 公式ウェブサイト
- 公式ウェブサイトから画像をダウンロードできる
この映画のすごさは、その説得力だ。壇上のアル・ゴアは、グラフやマンガ、世界各地の映像なんかを織り交ぜながら、次々と事実を畳みかけてくる。いま地球で何が起こっているのか、なぜそんなことになったのか、そしてこれからどうなるのか。その説明が本当に分かりやすいのだ。もちろんユーモアも効いている(この映画、プレゼン技術を磨きたいビジネスマンは必見である)。
正直言うと、「絶滅しそうな動物がいる」などの情報そのものは、さほど目新しいものではなかった。しかし、バラバラだった知識が頭の中でつながり、リアルな危機感として迫ってくる感じは、まさに大画面ならではの体験だった。地球温暖化の現実をあまり知らなかった人にとっては、この映画が伝える「都合の悪い真実」は相当ショッキングなものだったようだ。氷河が溶けてマンハッタン島が沈むCGが映し出されたときには、客席から叫びに近い声がもれた。
- 「あなたにできる10のこと」が紹介されている
- すでに24万人が「この映画を観に行く」と署名した
印象的だったのは、1時間半ほどの映画の最後に流れた字幕だ。一人ひとりが実行できる具体的なアクションの数々が静かにスクリーンに映し出された。「エアコンのフィルター掃除をしよう」「洗濯物は、乾燥機を使わずに外に干そう」「冷凍食品は買わずに、地元の食べ物を食べよう」……。映画の内容以上に、クレジットがぜんぶ流れ終わる最後まで席を立たない観客の姿に私は心打たれた。
自分が変わること。人の行動を変えること。そのヒントが映画「An Inconvenient Truth」には示されていた。
残念ながら今のところ日本での上映予定はないようだが……と書いた後に、10月28日より「TOHOシネマズ六本木ほかにてロードショー決定」というニュースが入ってきた。公式ウェブサイトもできている。機会があればぜひ見てほしい一本だ。
「不都合な真実(An Inconvenient Truth)」公式ウェブサイト(日本語)
http://www.futsugou.jp/
「An Inconvenient Truth」の予告編(英語)
http://www.apple.com/trailers/paramount_classics/aninconvenienttruth/trailer/
「An Inconvenient Truth」公式ウェブサイト(英語)
http://www.climatecrisis.net/
近葉愛子(ちかばあいこ)
1978年大阪生まれ。東京で6年間テレビ番組の制作に関わった後、2006年渡米。現在はニューヨークで映像ディレクターとして活動中。
※編集部よりお知らせ
「不都合な真実」は(greenz.jpで取り上げたから?)全世界的な大ヒットと反響が大きいということで、急遽10月28日の全国5館での上映を延期し、上映館を拡大して、2007年の新春から全国ロードショー公開になりました。スバラシイ! greenzでも今後も応援していきます!