greenz.jp読者のみなさんは、何らかのかたちでNPOに携わってる人が多いのではないでしょうか? しかし、安定した運営や情報発信、仲間の集め方に悩みをもつ人も多いのでは?
そんななか、2018年4月に立ち上がったのが、今回ご紹介するオンラインサロン「NPO未来ラボ」。NPOの未来を考えることをテーマに、認定NPO法人「D×P」代表理事・今井紀明さんが立ち上げました。
認定NPO法人「D×P」理事長、「NPO未来ラボ」代表。1985年札幌生まれ。立命館アジア太平洋大学卒。高校生の時、イラクの子どもたちのために医療支援NGOを設立。その活動のために当時紛争地域だったイラクへ渡航。現地の武装勢力に人質として拘束され、帰国後「自己責任」の言葉のもと、日本社会から大きなバッシングを受ける。対人恐怖症になるも、友人らに支えられ復帰。通信制高校の生徒が抱える課題に出会い、親や先生から否定された経験を持つ生徒たちと自身がバッシングされた経験が重なり、若者を支え「ひとりひとりの若者が自分の未来に希望を持てる社会をつくりたい」と、2012年にNPO法人「D×P」を設立。
2015年、認定NPO法人になり、現在年間約1,000名の通信制・定時制高校生と関わる。大阪、京都、神戸、札幌で事業展開。高校生の就労をサポートするほか、高校生の起業や仕事づくり、クラウドファンディングの支援もしている。
危機感と期待から生まれた「NPO未来ラボ」
日頃、今井さんは認定NPO法人「D×P」の代表理事として、通信制高校・定時制高校の高校生をサポートする事業を展開しています。2012年に「D×P」を立ち上げて以来、「D×P」は全国で初めて通信制高校・定時制高校で正規の授業を受け持ったNPOとなり、総計4,000名を超える高校生に多様なオトナとの関わりを通じて高校生が人とのつながりをつくるプログラムを届けてきました(greenz.jpの過去の記事はこちら)。
NPOの第一線で活躍してきた今井さんが、「NPO未来ラボ」を立ち上げることになったのは、SNSでオンラインサロンの盛り上がりを見て関心を持ったことがきっかけだったと振り返ります。
幻冬社の編集者である箕輪厚介さんが運営する「箕輪編集室」という編集や映像、デザインなどクリエイティの実践の場となっているプラットフォームがあります。
月額5,940円の会員費用で、僕が知った当時はメンバー数が1,000名を超えていたんですね。メンバーがお金を支払って、オンラインサロンの活動にコミットしている様子をSNSで見て、僕たちの発想が根底から変わりそうだと思いました。
オンラインサロンとは、会費制のWeb上で展開されるコミュニティ。2012年頃から活発な動きを見せるようになり、現在、専門性の高いサロンから趣味のサロンまでさまざまなテーマのオンラインサロンがあり、盛り上がりをみせています。
また、当時NPO界隈でオンラインサロンを立ち上げている人がいなそうだったことも、今井さんの背中を押しました。
早速、Twitterでこのアイデアを投稿したところ、「おもしろそう」、「入りたい」との声があったのだとか。好感触を得た今井さんは、思いついてからわずか1週間後に「NPO未来ラボ」をスタートさせました。
NPOに関するオンラインサロンといっても、切り口はさまざまあったはず。今井さんはどうしてNPOの未来を考えることをテーマにしたのでしょうか。
理由は3つあります。まずNPOのメディア機能が弱いことに危機感を覚えたから。素晴らしいプログラムや事業を展開しているNPOでも、情報発信ができていないことでクローズドになっている部分が多く、活動実態が正確に伝わっていません。そのため、NPOに関心がない人にも関心をもってもらえるよう、関係者以外を混ぜていく必要があると思いました。
次に、10代、20代に刺さるコンテンツをつくれていないこと。SNSをしていると、若い世代にNPOの情報が全然届いていないことがわかりますし、活躍する若手NPO経営者は少なくなっています。担い手がいなくなると日本の未来がないと感じたため、NPOに価値を感じてもらえるコンテンツづくりが必要だなと。
最後が10代、20代の若手と一緒にNPOの未来について考えたいと思ったからです。僕自身がNPO経営をする中で、経営ノウハウも業界のことも、もっと若手のうちから考えていいのではないかと思うからこそ、そうした場を提供したいと思いました。
2018年2月、「NPO未来ラボ」は15名のメンバーと共にスタート。2019年4月時点で、メンバーは73名まで伸び、NPO職員3割、民間企業の社員4割、起業家3割の構成比率になっています。
オンラインとオフラインでNPOの未来を考える
「NPO未来ラボ」の活動内容は、オンライン上では主にメンバー限定で加入できるFacebookの非公開グループから、リアルに対面するいわば“オフライン”の活動にまで及びます。
Facebookグループでは、メンバーの自己紹介や雑談スレッドなどがあります。僕がNPOの資金調達や広報についてコラムを投稿することもありますね。
また月1回、東京か大阪で定例会を開催。メンバーと直接会い、近況のシェアやゲストを招いての勉強を実施し、関係性を深めています。
またこれまでオンライン上で、資金調達にまつわる事業相談会を実施。ほかにもメンバーのやりたいことを積極的に応援しています。
事業相談会はオンラインツールZoomを使って行なっています。100人まで同時通話できるので、とても便利ですね。事業の方向性に相談に乗ることもあれば、投資家を紹介することもありますよ。
メンバーは20代が多いので、立ち上げ資金を集めるのにクラウドファンディングを応援することもよくあります。僕も「NPO未来ラボ」だけで、数十万円寄付しました。
それ以外にはZoomをつないで開催するオンライン飲み会や、オフ会などメンバー発案のイベントも積極的に開催しているそう。写真からも、とても楽しそうな様子が伝わってきますね。
業界を超えたコラボレーションから生まれるもの
NPOの未来を考えるオンラインサロンだからといって、NPOで働く人だけにメンバーが限定されないことも「NPO未来ラボ」の特徴です。先にも述べたように、73名のメンバーの内訳は、NPO職員3割、民間企業職員4割、起業家3割。企業で働きながらNPOに関わりを持ちたい人や、NPOと連携した事業開発をしたい起業家などがメンバーとして関わっています。
立ち上げたときは、メンバーがこれほど多様になるとは考えていませんでした。 NPO関係者以外の人がたくさん集まってよかったですし、おもしろいコミュニティになったと思います。
そう考えるのは、メンバーに多様性があることで、オンラインサロンの魅力をより引き出す形になっているからです。
オンラインサロンでは、他のNPOや企業、インフルエンサーとコラボレーションしやすいんです。NPOに関わる人の中には、取り組む分野の人としか関わってはいけないと思っている人もいるのですが、オンラインサロンは個と個の関係性が深い分、コラボレーションの敷居が低く、「一緒にやろう」と声をかけやすい。一個のNPOだけではできないことにも、気軽にチャレンジできます。
実際「NPO未来ラボ」を立ち上げてから1年の間にも、コラボレーションはたくさん起こっています。
スタートアップやベンチャー系のオンラインサロンとイベントを共催したり、「宇宙兄弟」や「働きマン」など人気漫画を生み出している編集者・佐渡島庸平さんが主宰しました。
2019年5月には、「NPO未来ラボ」主催で起業家やインフルエンサー、編集者などさまざまな職業のゲストをお迎えし、働き方や人生が「かわる」きっかけづくりのための「かわるフェス」を開催。大阪で数百人規模のイベントを実現しました。
NPOの透明性が上がれば、理解者も増える
「僕たちの発想が根底から変わりそう」との期待感から「NPO未来ラボ」を立ち上げて、約1年。メンバーにも今井さんにも、変化があったと話します。
全部が「NPO未来ラボ」のおかげではなく、一つの通過点に過ぎませんが、メンバーが起業したり新規プロジェクトを立ち上げたりすることが、いくつもありました。先ほどお話ししたクラウドファンディングで資金を集めて、経済的に困窮している子どもたちにプログラミングを教えるスクール「CLACK(クラック)」をスタートしたメンバーもいます。
「NPO未来ラボ」を通じて出会ったNPOへ転職したメンバーもいるのだとか。
定例会に呼んだゲストのNPOに転職が決まったメンバーもいますし、メンバーが勤めるNPOに転職が決まった人もいます。NPO界隈の採用にはすごく貢献していると思いますよ(笑)
また今井さん自身も、大きな気づきを得ていました。
NPOは社会に良いことをやっているんだろうけど、あまり信用していないという人が多いですし、そもそもNPOを知らない人もいます。つまり、胡散臭いんだなとわかって(笑) だからもっとフラットにNPOのことを知ってもらう取り組みが必要だと思いました。
「NPO未来ラボ」をやっていることで、「NPOを身近に思えるようになった」、「楽しそう」、「ラフにやっているんだな」と思って声をかけてくれる若者が増えました。立ち上げから1年は実験でしたが、そうした反応があると、やって来てよかったなと思います。
さらに、メンバーや今井さん自身にとどまらず、「D×P」にも好影響を及ぼしているのだそう。
「NPO未来ラボ」をきっかけに「D×P」のサポーター(寄付会員)が増えました。これは予想外でしたね。メンバーがサポーターになってくれる場合もありますし、「NPO未来ラボ」のイベントから「D×P」を知ってサポーターになることもあります。
また「D×P」の事業に関わってくれるメンバーもいます。生きる力をつくる事業部でシェアハウスを運営しているのですが、管理人を担っているのが「NPO未来ラボ」出身の二人です。ほかにも、「D×P」のボランティアスタッフとして活動に参加するメンバーもいます。
社会保障型NPOが、社会のセーフティネットになる
ここまで「NPO未来ラボ」の取り組みをご紹介してきましたが、実際オンラインサロンの収益はそれほど大きいものではありません。それでも今井さんが、NPO法人の代表として活動しながらオンラインサロンをつづけるのはなぜでしょうか。
約10年前、課題解決はNPOの専売特許でした。しかし企業はSDGsに取り組みはじめ、ベンチャーは課題解決をビジネスにしています。社会課題の解決に関心を示す10代、20代の若者にとって、NPOは選択肢の一つに過ぎなくなっています。多くの若者と出会いますが、ベンチャー寄りの人材が増えてきていることも肌で感じています。
その中で、NPOに何ができるのか? 僕は行政にも企業にもできないことをやっていくことが重要になると思っています。
今井さんは、「D×P」を例に詳しく教えてくれました。
通信・定時制高校の支援でいうと、生徒のサポートは先生だけでは物理的にも精神的にも厳しいという話を先生としています。そこで「D×P」では寄付を資金に、学校と連携して高校生のサポートをしています。行政面から話すと、高齢者の社会保障費がどんどん上がっているので、若者支援の予算はこれからも減り、十分な支援は行き届かないでしょう。
一方、企業はなかなか貧困世帯にアプローチできません。例えば学習面。低価格で利用できる学習アプリがありますが、家にWi-Fiがなくて利用できない子どもや、そもそもスマートフォンを持っていない子どももいます。僕たちがサポートしているのは、そうした子どもたちなんです。
行政にも企業にもアプローチできない領域は、確実にあります。そこにセーフティネットをつくる役割は、ますますNPOに求められるでしょう。
その上で、「NPOには2種類ある」と今井さんはつづけます。
「D×P」の事業は、月額1,000円〜のサポーターに支えられて運営されています。2017年度時点でサポーターは400名を超えています。
ひとつは10年前から主流だった課題解決型NPO。そしてもうひとつは「D×P」のような寄付で運営する社会保障型NPOの2種類です。
超少子高齢化で働き手が不足している今、これから公共はどんどん失われる時代になっていくでしょう。その時に、自分たちの生活圏内で何ができるだろう? と考えると、NPOの存在は改めて大切になるはず。今のうちにNPOを支える仕組みをつくらないと、日本は社会課題だらけになってしまいます。そうならないよう、NPOがリーダーシップを発揮して、セーフティネットをつくっていかないといけません。
それを担うのが、社会保障型NPO。「NPO未来ラボ」で10代、20代と関わっていると、社会保障型NPOで働く選択をする若者は、これから増えてくるんじゃないかと思いますね。
めざすのは、社会に開かれたNPO
最後に、これから「NPO未来ラボ」がめざす姿をうかがいしました。
日本と同じような課題を持っているアジアの国は、今後増えていくでしょう。現地の起業家とつながり、ノウハウの提供や、今後一緒に何かできないか探していきたいです。海外メンバーもいるので、うまく連携しながら進めたいですね。
そして、何よりもNPOをもっと身近に思ってもらえる取り組みをしていきたいです。オンラインサロンなので、ラフに、楽しくやれたらいいんじゃないかな。
世界中どこにいてもつながれるオンラインサロン。その特性を活かし、地域も組織も年代も超えたコミュニティが生まれたことで、NPOを取り巻く環境に少しずつ変化の兆しが見えはじめているようです。
さまざまな属性の人が参加する「NPO未来ラボ」だからこそ、固定概念にとらわれることなく、新しいアイデアと仕組みで、NPOをもっと身近なものにしていってくれるのではないでしょうか。
気になる方はぜひオンラインサロン「NPO未来ラボ」を覗いてくださいね。