バッグにいつもマイボトルを入れている、という人はどれぐらいいるでしょうか? いつでも飲みたいものが飲めて、節約にもなって、ゴミも減らせる。そんないいところばかりのマイボトルは確実に多くの人の間に広がってきているようです。
マイボトルをもっと便利に、そしてさらに多くの人が使いやすいようにし、さらに環境問題にも役に立つユニークなキャンペーンが、国際環境NGOのグリーンピースによって始まっています。いったいどんなキャンペーンなのでしょうか。
プラスチック問題プロジェクトリーダーの大舘弘昌さんと、広報の河津純子さんのおふたりに話を聞きました。
給水器、あったら便利じゃないですか?
現在、グリーンピースがおこなっているのは、「マイボトル給水器でペットボトルを減らそう TOKYOペットボトルフリー」というキャンペーン。東京都知事に、2020年までにマイボトル給水器を増設してもらうよう求めるキャンペーンです。
グリーンピースが調査会社に委託し東京都に住む1000人(20代から60代)に調査をしたところ、58.5パーセントの人が、マイボトルなどを所有していると答えました。
河津さん 女性では70パーセント以上の人が所有していると答えていますし、全体の55.2パーセントの人が週に2回は持ち歩いていると答えているんです。
マイボトルを持つ習慣は広がっているようです。ただし、マイボトルを持って外出していても、真夏など、帰宅前に空になってしまった経験はありませんか。せっかくマイボトルを持参していても、新たにペットボトルなどの飲み物を買うことになりかねません。
ペットボトルを買って飲んでしまえば、手元にゴミが残るだけです。
今、ロンドンやパリといった世界の大都市では、マイボトルで水を汲める給水器が増えています。たとえマイボトルが空になっても給水できるので、飲み物を買う必要はないというわけです。けれども、東京都の水道局が設置しているマイボトル給水器は有楽町にあるひとつのみ。
そこでグリーンピースは、マイボトル給水器を設置することで、マイボトルを活用し、使い捨てではなく、ゴミをできるだけ出さないライフスタイルを広げようとしています。
大舘さん 東京から始めて、日本国内に広めていきたいですね。都知事には、東京オリンピックパラリンピックのある2020年までに設置しますといった、具体的な宣言をしてもらいたいです。
マイボトル給水器が設置されれば、マイボトルを使用するのはもっと便利になるでしょう。マイボトルを使用するきっかけにもなるかもしれません。
大舘さん 普段マイボトルを使用していない人も、まずはこのキャンペーンに参加してみてほしいです。
プラスチック汚染はここまで進んでいる
国際環境NGOであるグリーンピースがマイボトルの普及をめざす大きな理由は、使い捨てプラスチックごみの問題が非常に深刻になっているからです。最近では、日本のメディアでも大きく報じられることが多くなってきました。
大舘さん 使い捨てプラスチックごみの問題が世界的に話題になったのは、ウミガメの鼻に刺さっているストローを抜こうとする、痛々しい動画が拡散されたのがきっかけのひとつです。
世界中の海に、人が使用した使い捨てプラスチックが大量に流れ、ウミガメやクジラ、ウミドリなどが被害に遭っているそうです。その現状を目の当たりにした人が立ち上がり始め、たとえばスターバックスでは、ひとりの店員の発案でなされた署名がきっかけになり、プラスチック製のストローを紙に切り替えるという発表もされました。
また2017年には、それまで日本から大量のプラスチックごみを輸入していた中国が、環境汚染などを理由に輸入禁止に踏み切りました。日本国内には処分しきれないプラスチックごみが溢れ出し、この問題は大きくクロスーズアップされるようになっています。
そんな中、スターバックスをはじめ、マクドナルドもプラスチック製のストローを紙に切り替えると決定し、H&Mもショッピングバッグを紙製に切り替え、有料化すると発表しました。
国内でも、環境省がレジ袋の有料化の義務づけを決定し、先日はローソンがアイスコーヒーを紙製のカップに入れることを検討していると発表するなど、さまざまな取り組みが次々に始まっています。
その一方で、ペットボトルの対策はなかなか難しいのが現状です。コンビニエンスストアや自動販売機ですぐに買えて、持ち運びもできるペットボトルはとても便利で、ついつい購入してしまいがち。
ただし、ペットボトルはちゃんとリサイクルに出しているから、という方も多いかもしれません。
大舘さん ペットボトルは、日本国内だけで年間227億本も消費されていて、仮にその1パーセントでも海に流れていればかなりの数になります。東京の荒川でゴミ拾いをして、一番見つかっているのもペットボトルでした。
さらに、リサイクル率が高い日本では、サーマルリサイクルと呼ばれる方法もリサイクルに含まれています。サーマルリサイクルとは、プラスチックを燃やすことで、そのエネルギーを有効利用するもの。循環しているわけではないので、世界ではリサイクルと言わないものが、日本ではリサイクルに含まれることで、使い捨てにしているという後ろめたさを軽減している側面がありそうです。
大舘さん ペットボトルからペットボトルへ、といったような、モノからモノへリサイクルする、マテリアルリサイクルと呼ばれるものは、プラスチックごみの20パーセント程度にすぎないんです。
これだけたくさんのペットボトルが販売されているということは、それだけ次から次へと作られ、捨てられているということです。そしてそれらの一部は確実に海へと流れ込み、生き物たちを苦しめ、環境を汚染していきます。
さらにプラスチックの厄介なところは、決して自然には還らないところです。
大舘さん 海に流れたプラスチックはどんどん劣化して小さくなっていきます。5ミリ以下になったプラスチックはマイクロプラスチックと呼ばれ、魚がえさと間違えて食べてしまったりします。東京湾で捕れるカタクチイワシの8割からもマイクロプラスチックが見つかっています。
魚の体内に入ったマイクロプラスチックが、そのまま食卓に上がれば、人間の体内に入る可能性も十分考えられます。
河津さん オーストリアのウィーン医科大学の調査では、日本人も含む人間の便から、マイクロプラスチックが出てきているという発表もありました。
使い捨てプラスチックによる海の汚染がここまで進んでしまった今、すぐにでも対策をとる必要がありそうです。その対策には、ポジティブな一面もあるといいます。
大舘さん 企業にとっては、これまでの使い捨てのビジネスモデルを見直すいい機会だと思います。飲み物を販売するにしても、ペットボトルではなく、デポジット制やディスペンサー式などもあるわけです。そこに新たなビジネスチャンスも生まれるはずです。
さまざまな企業が取り組み始めている今、ペットボトルに対する取り組みも飲料メーカーに期待したいところです。
できることからまずはひとつ、始めてみよう
もちろん私たち一人ひとりができる取り組みもたくさんあります。マイボトルを持つこともそのひとつ。ただ個人的には、荷物が重いときにマイボトルを持つのが大変に感じることもあるのが本音です。
大舘さん マイボトルが持てないんだったら、エコバッグを持つでもいいですよね。ライフスタイルは皆さん違うと思うので、自分に合った形をまずはチョイスすればいいと思います。
そんな大舘さんや河津さんはもちろんマイボトル愛用者。マイボトルのいいところ、好きなところを聞いてみました。
大舘さん 僕の場合は水とコーヒーとふたつ持ちしています。いつでも飲めるというのがいいし、お金を払ってゴミになるものを買わなくていいというのは快適です。
河津さん 一番は節約かな。飲み物に対して使うお金を減らせますよね。カフェでもマイボトルに入れてもらうと割引にもなるし、お得ですよね。
自分が持つマイボトルにこだわってみるのもオススメという大舘さん。今はいろんなマイボトルがあって、折り畳みができるものであれば軽くてかさばらないそう。自分に合ったマイボトルを見つけて愛着が持てれば、日々持ち歩くのが楽しくなりそうです。
最近では、有名人のインスタグラムなどにアップされることも多いそう。
大舘さん おしゃれとしてこだわるところのひとつなのかもしれないですね。なおかつそれが、環境について考えるきっかけになったらいいんじゃないかな。
マイボトル給水器が設置されれば、マイボトルを使用するのはもっと便利になるでしょう。マイボトルを使用するきっかけにもなるかもしれません。
大舘さん マイボトル文化が広がれば、自然にペットボトルの消費量は減っていくんじゃないかと期待しています。でもまずは、自分ができることから試してみるのが大事だと思うので、このキャンペーンに参加するのもそのひとつですよね。
最後に、使い捨てプラスチックの問題と言われてもピンとこない方に、大舘さんからとっておきのアイデアがひとつ。
大舘さん 一週間、家で使い捨てのプラスチックごみを溜めてみるんです。自分がどれだけプラスチックを使って捨てているのがわかるので、とても興味深いと思います。
グリーンピースのホームページでは、1年間に使用する使い捨てプラスチックの量を診断できるクイズも実施中。
まずは、自身の生活を振り返ってみるのがよさそうです。そこで感じることがあれば、何かひとつアクションをして、次のステップに進んでみては?