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週5日、無償で活動。それでも楽しくてたまらない! 竹林を整備して地域に財産を残す「NPO法人いすみ竹炭研究会」西澤真実さん

たまに地方へ出かけると、あちらもこちらも竹林、そんな景色に出会うことがあります。

実はこうした竹林は、竹材の需要低下から手入れがされなくなった竹が増殖したもの。竹林が放置され、繁殖すると、他の植物の成長を妨げ、既存の生態系のバランスを破壊することになるため、里山を中心として深刻な問題となっているのです。

こうした、やぶ化した放置竹林を整備し、竹を活かした循環型の環境づくりを目指している団体が千葉県いすみ市にあります。その名も「NPO法人いすみ竹炭研究会」(以下、竹炭研究会)。おもな活動は、竹を伐り出して竹炭にし、荒廃した里山や田畑に還すことです。

2016年11月の設立から2年弱、竹炭研究会が整備した回数は250回、竹炭づくりは125回。土日以外はほぼ毎日活動し、しかもその全てを無償で行っているそう。時間も体力も必要そうな大仕事をどうして、どうやって無償で行っているのでしょう。謎は深まるばかり。

竹炭研究会の活動を探りに、いすみ市へ行ってきました!

取材のその日はどしゃぶりの雨でした。こんなお天気じゃ竹を伐るのも運ぶのも大変だろうし、さすがに竹林整備活動はお休みだろう、と連絡をしてみると、「今日もやっている」とのこと。カッパを羽織り、長靴へと履き替えて、ぬかるんだ地面にずぼずぼと足を取られそうになりながら、案内された竹林へと続く道を進んで行きます。

その向こうから聞こえてきたのは笑い声。迎えてくれた、竹炭研究会の西澤真実(まさみ)さんは「さっきトラックがぬかるみにハマって動かなくなっちゃって、みんなで大笑いだったのよ」とにこにこしています。

このぐらいの雨ならへっちゃら! と笑う西澤さん。

竹林の整備ってなんだか大変そう。そう思っていた私は、その朗らかな様子に驚きました。雨が当たらない場所へと移動して、活動のことを伺いましょう。

地域の財産をつくる仕事

竹炭研究会が発足したのは2016年11月。以来、18箇所の荒れた竹やぶを整備して美しい竹林へとよみがえらせています。

上が整備前、下が整備後の竹林(写真提供:NPO法人いすみ竹炭研究会)

里山が荒廃していて、竹林が増殖して、このままだと里山はすべて竹山になってしまいます。竹に飲み込まれて木々は枯れていき、生き物たちは食べ物を失い、山を離れ、多種多様な生き物の生態系は崩れます。すると、川や田畑にミネラル豊富な水が流れていかずに海の環境も悪化していきます。

だからその竹を竹炭という資源に生まれ変わらせようと立ち上がりました。竹炭にして大地に還すと里山もきれいになるし、山から、川、海へも好循環がつながります。いすみは農業と水産業が盛んなので、その地を昔のような豊かな場所に戻していこうとはじめたんです。

やぶ化した竹を単に伐採するだけではなく、資源にしているのが、活動の大きな特徴。伐り出した竹は炉で燃やし、竹炭にしています。

竹を燃やすとパチパチとはぜる音がします。鉄板をつなげてできている炉は、簡単に解体して軽トラで持ち運ぶことができるそう。

実は竹炭には土壌の環境を改善するすごいパワーがあるのだとか。炭の中でも大小様々な多孔質である竹炭は、多くの微生物が住み着ける環境となります。すると土がふわふわになって植物が根を張りやすくなり、大地が健康になっていくのです。

さらに竹炭にすることで、灰にしてしまう場合と比べて、二酸化炭素の排出率を約25%抑えることができるので、温暖化防止にもつながるそう。

竹は毎年どんどん増えていく無尽蔵の資源なので、毎年それを炭にして、大地に戻してあげればいいんですよ。縄文時代のものと思われる炭が見つかったと聞いたけれど、炭は分解されないから、半永久的に、私や子どもや孫が死んでも残るの。

竹炭は農家や造園業者へ安価で販売。活動資金としています。

生き物すべてに対していい環境を残していこうと思っていて。私たちは自然のなかに守られて生きているので、それを大切にしないと。好循環も悪循環も人間の手ひとつでどちらにも転がってしまうので、良い循環をつくるというのが私たちの役目なんです。

整備料は無料。平日は毎日活動。

竹炭研究会がこの2年弱の間につくった竹炭はなんと約75トン! 炭になる前の竹の重さに換算すると約375トンにもなるそう。

基本的に依頼された場所の整備を引き受け、整備料は無料。作業は一年中。

発足当初から数ヶ月は月に2回ペースで活動をしていましたが、ここ1年は週5日間活動をしています。ペースを大幅に上げたのには理由があります。

そのぐらいのペースでやっていかないと、竹が生えるスピードに対して整備が間に合わないし、竹炭をつくって土へ還すことによって起こるはずの土壌改善もなかなか進まないんです。

これまでに18件の現場の作業を進めてきたけど、まだ15件待たせている現場もあって。会の人数を増やして、一度に何班かに別れて同時に現場を進めていかないと、と思っているのが現状です。

竹は地下で根を張ってつながっているため、1本でも山に竹が生えたらあっという間に広がるそう。やぶ化すると、どんどん外へと広がり、大きな竹林になります。

お金払ってまで整備をしようとする人はなかなかいないだろうから、有料化すると進まないでしょう。それでは解決につながらないので無料にしているんです。

西澤さんの活動に対する姿勢からは、本気でこの問題を解決しようと真摯に向き合っている様子がひしひしと感じられます。

しかし実際整備をするには、道具も労力も、車のガソリンだって必要。面積にもよりますが、業者に頼むと何十万円、何百万円とするこの活動の運営資金はどのように賄っているのでしょう。

運営は寄付金に支えられています。最初は身の回りのごく親しい人にお願いしていましたが、今では私たちの活動を知った地元の人たちにもサポートしてもらっています。

整備を無料でやることでみんなが応援してくれて。依頼してくれた方に「お礼を払いたい」と言われることもあるんですが、そのときは「作業料ではなく、寄付金として、背中を押してくれる力に変えてください」とお願いしています。

今着ているオリジナルTシャツも、敷地の竹林整備依頼のあったお寺さんが「お礼に」とつくってプレゼントしてくださったものなんですよ。ありがたい話ですよね。

現在、メンバーと呼ばれる活動に賛同する人は160人。実作業は毎日5〜10人が参加しているそう。30,40代が中心で、なんと4割は女性。力仕事ではありますが、竹は中が空洞で軽いため、女性でも比較的扱いやすいのだとか。

活動はボランティアですけど、人件費がちゃんと生まれないと継続したボランティアはできないと思っているんです。だから少しですが、参加してくださった方には、寄付金から作業料をお支払いしています。支払う仕組みがないと衰退していきますから。寄付というみんなの心が原動力となって、活動という車輪を回してくれてると思っています。

導かれるように東京からいすみへ

西澤さんがいすみに引っ越してきたのは2015年。それまでは東京で暮らし、保険の営業を20年間やっていました。

保険の営業をやっているときに、「本当に病気の方がとっても多いな」と思って。保険って病気になったり、具合が悪くなったりしたその最後、末端を支えるものでしょう。でもその大元、先端はなにかと言ったら「食」だということに気づいたんです。

先端を直したら、末端はいらないんじゃないか、末端が必要なくなることをやらないといけないって。それで食育や、農業の世界に興味が出てきました。

その後、農家を訪ねて見学や宿泊でお手伝いを経験した西澤さん。一時は農家になろうと考えましたが、腰が悪かったことで断念し、農家の広報として伝える役割を担うことを心に決めました。

農家の多い生産地で暮らすために物件を探したところ、たまたま行き当たったのがいすみ市。とはいえ「生産地」と呼ばれるところは、関東近郊だけでもたくさんあるはずです。なぜ、いすみだったのでしょう。

それまではいすみって知らなかったんですよ。でも、調べてみたら海の近くで、海好きだからいいなって。見に行ってみようとすぐ不動産屋さんに行きました。それで家に案内してもらったら、自分のイメージにバチッ! と合っちゃって。

マクロビのカフェがあるとか、自然栽培のお米でお酒をつくる酒蔵があるとか、そういうのもその時不動産屋さんに聞いて、わくわくしましたね。もちろん引っ越してからすぐに行きましたよ。

そうして導かれるようにしていすみにやってきた西澤さん。いすみに来てみると、今度は竹炭との運命の出会いがありました。

たまたま竹炭についてのシンポジウムがあったんです。竹には全く興味無いなと思いながらも、参加してみたところ、高田造園設計事務所の高田宏臣さんという方が最後に講演されて。それがすごかった。竹炭を使ったときの土の再生の状況や、ビフォーアフターを理屈も揃えて説明されていて、これだ! と思いました。宝物みつけた! って。

農業に興味を持っていたら、さらにそれを下支えする、土壌を健康にし、循環型の環境をつくる竹炭に出会います。これが自分の探していた「先端」だ、と。西澤さんはストンと腑に落ちるような思いがしました。

玉ねぎ農家の酒巻さん。取材の日、竹炭の受け取りに来ていました。西澤さんは竹炭づくりを通して、「農家を応援したい」という夢を叶えています。

その後、高田さんを講師に迎えていすみで開催された「里山再生プロジェクト」に半年間参加。竹炭や有機物を大地に埋めることで、環境が変わっていくことを身をもって体感します。

里山に降り注いだ雨水は、鉄砲水みたいに土の上を流れるんじゃなくて、浸透して地下を流れていく量の方が本来多いはずなんです。でも大地が弱ると、土中に水が浸透しなくなります。実際に大雨が降った後に掘ってみると、土の中が濡れていない場所が結構あるんですよ。

そこで、溝を掘って大地に竹炭を入れたり、空気を循環させる穴を掘ったりして大地を呼吸させるんです。雨水が大地の上を滑っていたのが、浸み込んで土中を流れるようになっていったのがわかりました。山は再生力を持っているので、ちょっと手を加えると生き返るんです。

そのとき一緒にプロジェクトに参加していたのが、竹炭研究会を立ち上げるパートナーとなる大竹真さんでした。二人はすぐに意気投合。プロジェクトに参加していた他のメンバーの賛同を受けて、竹炭研究会を発足します。

会のパートナーで副代表の大竹さん(右)と。星座も干支も名前に入っている「真」という漢字も、共通点がたくさんあるお二人。これまで一度も意見が食い違ったことがないのだとか。

ここにいるだけで満ち足りている

現在も竹炭研究会は西澤さんと大竹さんの二人を中心に活動しています。大竹さんはいすみ市の地域おこし協力隊。一方で西澤さんは竹炭研究会一本で活動をしているそう。他のお仕事を持たない中で、週に5日の無償での活動。寄付金があるとはいえ、正直生活は成り立つのか気になるところです。

自分の生活のためやお金のために働くのではなくて、やるべき務めをしているという感じ。任務! ですね。

実際いすみは生活コストが低いので、これまでに貯めたお金や持っていたものを使って生活できています。

私は何が必要かってみんながわかることが大事だと思うんです。そうすると、必要なものが全て満たされていることに気づくんですよ。旬の食べ物、空気、水、大地、広い空。過剰に明るくもないし、夜は静かに眠れます。海もあるし、魚だってね。それに気づいたら、こんなに最高なところはないです。

いすみという自然の中にいることが感じられる場所に来たからこそ、何が大事かというのがよくわかるようになったと西澤さんは続けます。

みなさんの優しさに触れて、いっぱい心がほわほわすることがありましたね。役目だと思っているからこういう活動をしているんだけど、そうするとおまけみたいに、人の温かさに触れることがあって。お金じゃないんだよね、大事なものって、ということが、すごくわかります。

寄付金もお金なんですけど、お金じゃなくてみんなの愛の現れのように感じるんです。それがまたみんなの大きな力になって、頑張れる原動力になったらすごいなって思うし。

目を輝かせて語る西澤さん。一方で、竹炭研究会の活動について、今まで難しさやハードルに感じたことはないのか伺ってみると、しばらく沈黙。隣にいた大竹さんと顔を見合わせます。

それがないんですよ。本当に始めたところから無理のないようにステップアップできるようになっていて。竹の伐採依頼がないけど竹炭がほしい、というときに竹を探していたら、ちょうど伐採済みの竹を見つけたりして。そんなことばっかりなんです。

さっき「なぜいすみだったのか?」、という話もありましたが、いすみだったんだなって。出会うんだったんだな。やるんだったんだな。こうなっちゃうんだなって。これからもどんな物語が待っているのか、わくわくしちゃいますよ。

ますます愛される組織を目指して

いすみ竹炭研究会は、2018年8月に任意団体からNPO法人化しました。これは今後認定NPO法人を目指すためのステップだといいます。寄付をした人へ税務上の控除が受けられるなどのメリットがある認定NPO法人になることで、より多くの人に支援され、愛される組織になっていくことを目指しています。

自然環境はこのままだと衰退していくスピードのほうが強くなっちゃう。でも私たちの活動が大きなうねりになったら、悪循環から好循環への逆回転ができるはずなんです。

実はいすみ竹炭研究会が整備の対象としているのは、いすみ市内のみ。それは、自分たちをモデルにして、近隣地域にもこうした竹林を整備して竹炭をつくる団体が増えていったらいいなと思っているからだそう。

認定NPO法人になった先に思い描くのは、循環型の里山や農地のモデルになるような場所をつくっていくこと。きれいな山があり、水が流れて、農地があって、豊かな生き物が育まれている。そんな、みんなが笑顔で作業できる場をつくりたい、と構想を打ち明けてくれました。

無償で、1年中、週5日の竹林整備。大変だね、と言われることも多いそうですが、西澤さんの話を聞いていると、無理がなく、とにかく楽しそう。

やっている意味の大きさ、私たちの役目がわかっているから、楽しくてたまらないんですよ。だから続けているし、大変だと思ったことは一度もないんです。みんなで笑って作業してます。

いすみへ引っ越し、竹炭と出会い、大竹さんと研究会を発足する。西澤さんの物語は、まるでなにか大きな運命に導かれて進んでいるよう。認定NPO法人を目指し、更に先へとビジョンを描いていますが、西澤さんならきっとそのどれも叶えてしまうのだろうと思わずにはいられません。

竹炭研究会では、月に1度、オープンな場としてイベントも企画しているそう。作業をして、おいしいご飯を青空の下で食べて。これまたとても楽しそうです。ぜひ活動に巻き込まれてみてはいかがでしょう。

(撮影:磯木淳寛)

– INFORMATION –

 NPO法人いすみ竹炭研究会Webサイト https://www.isumitikutan.org/