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言葉は何をどう「表象」し、誰にどう影響を与えて(しまって)いるのか。望月優大が選ぶ未来をつくりたい人のための一冊

エドワード・サイードはパレスチナ出身の批評家で、西洋近代による東洋の表象 (representation)の歴史や構造を論じた『オリエンタリズム』という著書が有名です。 本書はそんなサイードが BBC の番組で語った原稿をまとめたもので、英語原題は“Representation of Intellectuals(知識人の表象)” となっています。

「他者について語る」ということは、常にすでにそこにいない誰か・何かを目の前に表象する=再-現前させる(re-present)ことを意味します。そこにどんな問題系が潜んでいるか、社会やその語りについて関心のある方に読んでいただきたい本です。

大学生の頃、私は「なぜこの私はあれでなくこれを欲するのか」ということを考えていました。「なぜ私はこの味が好きで、この俳優の顔が好きなのか」。「自由に選ぶことができる」と「これこれのものを抗いがたく選んでしまう」の間にある矛盾に直面していた時期だったかと思います。本書はその間に「歴史=語り(history)」が横たわっているのだと気づかせてくれた本です。

以来、様々な国を旅したり、様々な人の話を聞いたり、様々な人が書いた本やニュースを読んだりするなかで、「情報や物語を得ていく行為そのものにどのような問題系が拭い難く織り込まれているか」を考えるようになりました。私たちは決して色眼鏡を外すことはできません。そして、それ自体が「人間は有限である」ということの本質的な意 味でもあります。

目の前に無色透明であるかのように提示された「情報」は何らかの歴史性や企てを伴った「表象」です。そして「そうであることを知っている」ということが「そうであるということから逃れられる」ということにつながるわけでもない。その根本的な条件を理解すること、それは読み手としても書き手としても「謙虚さ」というモラルに触れるということだと思います。

「社会」に関心のある人であれば、この本を通じて、自分の関心のありようが誰による どんな表象によって影響を受けているのか、考えるきっかけを得られると思います。そして、自分の言葉が何をどんなふうに表象しており、誰にどんな影響を与えて(しまって)いるのかについても。

『知識人とは何か』

『知識人とは何か』

著者:エドワード・W・サイード、大橋洋一(翻訳)


選んだ人:望月優大
ライター・編集者。株式会社コモンセンス代表取締役。
日本の移民文化・移民事情を伝えるウェブマガジン 「ニッポン複雑紀行」編集長。経済産業省、Google、 スマートニュースなどを経て独立。趣味は旅、カレー、
ヒップホップ。

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