みなさんには、「将来このまちで暮らしたいな」と思うようなまちがありますか?生まれ育った故郷のまち、魅力的なスポットがたくさんあるまち、理想的な暮らしを送ることができそうなまちなど、さまざまな場所が浮かぶことでしょう。
では、その候補のひとつに「ニュータウン」を加えてみませんか?
ニュータウンとは、1960年代から都市の郊外に開発された市街地のこと。泉北ニュータウン(以下、「泉北」)は、2017年にまちびらき50周年を迎え、住民・企業・行政が連携して「泉北ニュータウンまちびらき50周年事業実行委員会」を結成。新しい市民主体の取り組み「SENBOKU TRIAL」が行われています。
今、若者の人口流出が大きな課題になっている泉北では、子どもや学生を巻き込み、泉北の内側・外側からまちの魅力を再発見するプロジェクトが進行中です。今回は、そんなプロジェクトを運営されるお二人に、お話をうかがいました。
泉北ニュータウンまちびらきの年に、かつての美木多村で生まれ、開発と共に幼少期を過ごす。現在はニュータウン内に暮らし地元工務店の3代目を務めるかたわら、自ら立ち上げたNPO法人「すまいるセンター」で積極的にまちづくりに取り組む。泉北ニュータウンまちびらき50周年事業では、泉北高速鉄道株式会社の支援を受けて「泉北こどもかるた」を展開。
京都市在住。大阪市内のNPO法人「大阪NPOセンター」に所属し、大阪府内でさまざまなまちづくりや地域団体の支援、コミュニティビジネス・ソーシャルビジネスの支援などを行う。泉北ニュータウンまちびらき50周年事業では、泉北高速鉄道株式会社の支援を受けて「大学生発!意外とステキ★泉北デートスポット」を展開。
泉北高速鉄道株式会社・経営企画室次長。泉北ニュータウン内唯一の鉄道会社における広報担当として、泉北の魅力をアピールする業務に携わる。泉北ニュータウンまちびらき50周年事業では、「泉北こどもかるた」のパートナーを務める。
鉄道会社がパートナー!
まちの内側・外側から魅力を再発見するプロジェクト
泉北を走る鉄道会社・泉北高速鉄道株式会社(以下、泉北高速)がパートナーを務めるプロジェクトは2つ。一つは、泉北エリアで生まれ育った西上さんが提案した「泉北こどもかるた」、もう一つは、泉北とは仕事以外に接点のなかった大前さんが提案した「大学生発!意外とステキ★泉北デートスポット」という、どちらも地域の魅力を再発見・再認識するものです。
泉北高速でふだんから広報の仕事をしている宮田さんは、選考のポイントについて、「内側」と「外側」の両方からのアプローチを重視したそう。
宮田さん 西上さんがものすごく地元の方で、大前さんは外からの方。うちの会社は「50周年を機に泉北を盛り上げなくては」という思いでこの事業に参加しているので、「住んでいる人が地元に愛着を持って根付くこと」と、「外から魅力を感じて泉北へ来てもらうこと」という2つが必要だと感じ、選ばせていただきました。
これは、鉄道会社ならではの目線。沿線住民が泉北の地に根付くだけでなく、何らかの魅力を感じて外から泉北にやって来る人が増えれば、泉北で唯一の鉄道として、役割を最大限に活かすことができます。
宮田さん 自分の地元ってどうしても卑下しがちですよね。「どうせ田舎だし」「こんなとこもう出たいねん」と思ってしまうのを、「いいところだよ」と気づかせてくれる人が欲しかったんです。
こうして泉北高速のパートナーに選ばれた2つのプロジェクトは、どちらも、子どもや若者を巻き込んだ楽しい活動。それぞれ、どのような展開をしているのでしょうか。
地元に愛着を持つきっかけに!
地域資源を題材に、小学生が“かるた”づくり
ニュータウンと同い年で、生まれも育ちも現在の住まいも泉北エリア。生粋の泉北っ子である西上さんが立ち上げたのは、「泉北こどもかるた」というプロジェクトです。
泉北エリアには、ニュータウンだけではなく、周辺には古くからの農村があります。農村に古くからある地域資源や、ニュータウンの中でも失われつつある資源を題材に、子どもたちがかるたの読み札の文面づくりを行いました。
西上さんが、なくなっていく地域資源を子どもたちと一緒にかるたに残そうと考えたのは、泉北で生まれ育った若者が出て行ったきり帰ってこない、という現状を変えたいと思ったから。若者たちが帰ってこない原因を、西上さんは「地元に対する帰属意識が希薄だから」と話します。
西上さん 僕はニュータウンの外の村で生まれ、今はニュータウンに住み、泉北とかなり縁が深い立場です。外の村出身として、伝えていきたいもの・なくなっていくものをたくさん目にしてきました。子どもたちに「実はこんなものもあるんやよ」と、知ってもらう機会をつくり、地元に愛着を持ってもらいたくて。
ニュータウンの周りの昔からある農村や集落には、歴史的な資源がたくさんありますが、そういった場所をめぐるような勉強会を開いても、参加者は高齢の方ばかり。興味のない子どもたちに知ってもらう機会をつくるには、遊べる手法がいいんじゃないかと。地域資源と子どもを結びつけるのに“かるた”はとてもいい手法だと思ったんです。
まず行ったのは、かるたに使う地域資源の“キーワード”を選定する作業。昔から泉北エリアに住んでいる人や、ニュータウンの開発に携わった人などを招き、昔の話や泉北の魅力を話してもらうシンポジウム「泉北誕生秘話語」を2回開催し、そこで出てきたキーワードを約300個拾い出しました。
そして、ニュータウン内でかるたづくりに参加する小学生を募集し、27名が集まりました。子どもたちは、西上さんたちが集めたキーワードから好きなものを選び、そのキーワードの背景を大人から教わりながら、ひとりにつき1〜2音の読み札をつくりました。
かるたづくりに参加した子どもたちの中には、自分の担当したキーワードに特別な思いを抱くようになった子も。後日、「キーワードの50年後を描いてみよう」というワークショップを行ったところ、何人かの子どもたちは、「公園の中にモノレールが通っている」「駅の前が発展している」など、かなり具体的な絵を描いてくれたそうです。
そして、何より盛り上がったのが、完成したかるたを使って年末に行われた“かるた大会”。かるたづくりには参加していない小学生もエントリーし、学年ごとの予選ののち、決勝戦で優勝者を決める、という本格的な大会にしたところ、優勝できなかった子が悔しさで泣くほどに白熱したそうです。
“かるた”という遊びを通し、地元に関する「知っていたこと」はもちろん、「知らなかったこと」への知識や愛着を深めた子どもたち。ひとりひとりの中で、泉北への誇りがじわじわと築かれているのではないでしょうか。西上さんは、「泉北こどもかるた」の活動に、十分な手応えを感じているようです。
西上さん 南区の小学校でかるた遊びをして、教育の一環となるのが夢です。現在はまだ44個のキーワードしかつくっていないので、もっと増やしていきたいですね。「あ」が2、3種類あってもいいので。ゆくゆくは子どもたちがそれぞれ、泉北の中のエリアごとのかるたをつくり出したら、すごくおもしろいと思いますね。
大学生が泉北のデートスポットを提案!
泉北を「遊びに行く場所」ととらえる
一方、京都に住み、大阪市内のNPO で働く大前さん。当初、泉北との関わりは、泉北高速鉄道線の終着駅「和泉中央駅」近くにある大学へ講師として定期的に通っているだけでしたが、電車から見える泉北の景色に魅力を感じていたことや、ふだんからまちづくりやソーシャルビジネスの支援を行う中で、泉北というフィールドに興味を持っていたこともあり、今回の事業に応募しました。
大前さんのプロジェクトは、「大学生発!意外とステキ★泉北デートスポット」。その名のとおり、大学生が泉北にあるデートスポットを見つけ、フリーペーパーで発信していくというもの。“大学生”と“デート”のキーワードが、とても印象的です。
「私がやるというより、誰かを巻き込んでやりたかった」と大前さん。仕事柄、大学生の支援をすることも多かったため、「学生に泉北の魅力を発見してもらおう!」と考えました。
大前さん ふだん泉北高速に乗っていて気になるのは、朝は泉北から大阪方面、夜は逆方向がすごく多いこと。泉北にわざわざ遊びにいく人って少ないんだろうな、と。泉北の若い人も、遊びにいくのは大阪市内がほとんど。でも、泉北に遊びにいくという逆の発想もありかなと思ったのがはじまりでした。
電車を通じて泉北と接することの多い大前さんならではの着眼点。では、大阪市内に遊べるスポットがたくさんある中、泉北にわざわざ行きたくなる魅力をどこに見出したのでしょうか。
大前さん 最近の若い人には、自然の多い場所や、ちょっとこだわりを持った遊びが好きな子が多いので、泉北へ遊びに行く企画をしたら興味を持つかなと思って。大学生に探してもらうから、切り口は「デート」がいいかな、と。
それに、若いカップルが出かけることだけが“デート”じゃないですよね。女の子同士で遊びに行くのもデートって言うし、子育て中の夫婦が子どもを預けて出かけることや、高齢の夫婦がニュータウンに住み始めた頃によく出かけた場所へ行くのもデートかな、と。泉北の魅力をいろんな意味で感じてもらうのに“デート”というキーワードが一番いいと思ったんです。
泉北高速の駅に募集チラシを置いたり、つながりのある大学の先生に相談したりして、合計13名の大学生が集まりました。その半数以上は、泉北の外に住む大学生。月に2回ほどの打ち合わせや、泉北でのフィールドワークを行ったのち、4つに分かれたチームごとにおすすめのデートスポットを考え、フリーペーパーの編集や撮影、デザインの依頼などを行いました。
フリーペーパーは、12月から3月にかけ、毎月1チームごとに発行。テーマはとてもユニークで、第1号は「ラーメン屋×公園」。ラーメンを食べてから公園へ遊びに行く、という3つのコースを紹介しました。完成したものを見て西上さんは、「場所は知っているけど、“デートスポット”だなんて、地元の人には考えられない(笑)」と驚きを隠せません。
学生の中には初めて泉北へ来る人もいましたが、フィールドワークや取材を重ね、泉北を知るほどに、とても親しみを感じていたそう。大前さんは、今回参加した学生や、「泉北デート」を見て泉北へ訪れた人が、泉北での生活の豊かさを感じてくれることを期待しています。
大前さん 学生たちがフィールドワークを行う中で、公園を通って登下校する小学生を見て「うらやましいなぁ」と言っていて。今回提案する“デート”を通して、そんな風に泉北での生活を知ってもらって、「将来こんなとこに住みたいなぁ」と思ってもらえたらうれしいですね。
公園の数が多かったり、小学校の運動場が広かったり、農村で地元産の野菜を買えたりと、泉北での生活には、都会とは異なる魅力があふれています。外から泉北へ遊びに来てもらう“デート”の提案の裏には、そんな泉北の空気に触れてもらうきかっけづくりの意図も込められています。
今回のプロジェクトは3月までですが、「可能であれば、学生と一緒に今後も続けていきたい」と話す大前さん。今回のプロジェクトを通じて泉北でさまざまな人とつながったことから、今後は別の形でも泉北と関わって行きたいと考えています。
大前さん 51年目からは、今ある資源を発掘していくことと、新しく何かをやりたいなぁと思っている人を応援して泉北を盛り上げることを、大阪NPOセンターという組織としてやりたいなぁと思っています。
住む場所や遊びに行く場所として、
泉北が将来の候補にあがってほしい
泉北の内側と外側という、異なる立場でありながら、西上さんと大前さんのプロジェクトに共通するのは、泉北の魅力を、子どもや若者と一緒に再発見するということ。その背景には、「将来、若い人たちに泉北を“選択肢”にしてもらいたい」という強い思いがあります。住む場所としてだけではなく、遊びに行く場所だったり、仕事をする場所だったり。
西上さん 子どもたちが将来外に出て行ったとき、小さな頃に知った地域資源を思い出し、「あそこって実はいい環境だったんだな。帰ってもいいかな」と思ってもらいたいですね。よそと比べていいところがたくさんあるのに、今は見えていない環境だと思うので、もっと見えるようにしてあげたいですね。
大前さん 遊びに行くにしても、住むにしても、その候補のひとつに選ばれることが大事ですよね。実際に来る人が増えたらまちも変わっていくと思うので。ここが開発されて派手になっていくというわけではなく、自然が多くて住み良いまち、という泉北らしさを残しながら。
宮田さん 「SENBOKU TRIAL」では個人事業主やNPOの人が多かったんですけど、今後は企業も関わってきてほしいですね。たとえば、田舎で最先端の事業をやる企業なんかもおもしろそう。その結果、泉北がじんわりと盛り上がって、住んでいる人と働いている人がすごく満足できる、いうのが理想的です。
みなさんが、今回のプロジェクトを通して描くそれぞれの泉北のビジョンは、立場は違うのに限りなく近いのが印象的でした。生まれ育った子どもが地元に誇りを感じたり、外から来た人が「ええまちやな」と感じたりすることで、泉北の良さを噛み締めながら泉北で暮らし、活動する人が少しずつ増えていく、という未来図。
「じんわり盛り上がる」という宮田さんの表現は、まさに泉北らしい盛り上がり方なのではないでしょうか。かるたを通じて自分のまちに愛着を持った子どもたちや、“泉北デート”を通じて泉北の魅力を知った大学生が、将来、泉北とどのような関わりを持つようになるのか、楽しみで仕方がありません。
あなたのまちの魅力もきっと、立場によって見え方が異なるはず。未来をつくる子どもや若い人たちを巻き込んで、あなたならではの立場から、魅力を再発見してみませんか。あなた自身も、新たなまちの魅力に気づかされるはずです。
(写真: 山下健助)