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「誰もが”本来のわたし”を表現できる確率を高めたい」。フリーランスの勉強家・兼松佳宏さんが「学び方」を共有する理由。

YOSHこと、兼松佳宏さんがgreenz.jp編集長を辞めてから2年が経ちました。

2016年、京都精華大学人文学部に着任し、「フリーランスの勉強家」としての活動をスタート。「情熱を持って、ひとりで/みんなで勉強する」ための方法を研究し、あらゆる勉強空間/時間をリノベートしていくアクションリサーチ型のプロジェクト「everyone’s STUDYHALL!」を始めました。

2017年は、「空海とソーシャルデザイン」をテーマに書籍執筆を本格化すると同時に、ワコールスタディホール京都では、トーク&ワークショップ講座「学び方のレシピ」と、“あり方”の肩書きを探す連続ワークショップ「BEの肩書き探求講座」のコーディネーターも務めました。

「勉強家」
「everyone’s STUDYHALL!」
「空海とソーシャルデザイン」
「学び方のレシピ」
「BEの肩書き」

一見バラバラに見えるこれらのキーワードは、兼松さんのなかでどんな風につながりあっているのでしょう。フリーランスの勉強家としての2年間を振り返りつつ、兼松さんの現在地とこれからのことをインタビューで伺いました。

兼松佳宏(かねまつ・よしひろ)
勉強家/京都精華大学人文学部 特任講師/「スタディホール」研究者
1979年生まれ。ウェブデザイナーとしてNPO支援に関わりながら、「デザインは世界を変えられる?」をテーマに世界中のデザイナーへのインタビューを連載。その後、ソーシャルデザインのためのヒントを発信するウェブマガジン「greenz.jp」の立ち上げに関わり、10年から15年まで編集長。 2016年、フリーランスの勉強家として独立し、著述家、京都精華大学人文学部特任講師、ひとりで/みんなで勉強する【co-study】のための空間づくりの手法「スタディホール」研究者として、教育分野を中心に活動中。 著書に『ソーシャルデザイン』、『日本をソーシャルデザインする』、連載に「空海とソーシャルデザイン」「学び方のレシピ」など。秋田県出身、京都府在住。一児の父。 http://studyhall.jp

編集長たるもの、他のプロジェクトに浮気はできない!

兼松さんが「勉強家」という肩書きを名乗りはじめたのは30歳の頃。誰かに「勉強家だよね?」と言われたのをきっかけに、「自分を表現するのにしっくりくる“BEの肩書き”」として名乗るようになったそう。

BEの肩書きとは、「自分が貢献できる価値の源となる働き」のこと。

「マウナケアで考えるDOとBE」。マウナケアはハワイ島にある標高約4,200mの山だが、海底からの標高は10,000m以上。「DO」は地上の標高であり、「BE」はそれを支える海面下の体積と考える。

勤めている会社や役職、取り組んでいる業務内容などは「DOの肩書き」。「BEの肩書き」とは、DOの根底にある「それぞれのあり方」。私たちの生き方を支える根っこの部分であり、自分が貢献できる価値の源となる働きのこと。兼松さんのDOの肩書きは「greenz.jp編集長」から「大学の先生」に変わったが、BEの肩書きは「勉強家」のままだった。

2015年9月、greenz.jp編集長の退任が内定したとき、YOSHさんは勉強家として「everyone’s STUDYHALL!」をスタート。「編集長たるもの、他のプロジェクトに浮気してはいけない」と決めていた兼松さんにとって、ひさしぶりのマイプロジェクトでした。

「study hall」を辞書で引くと、「自習室」「自習時間」とあります。また、「study(勉強する)」の語源は「studium(情熱)」です。

兼松さんは、「study(勉強)」を「情熱を持って何かを調べ、まとめ、仲間の前で発表すること。また、仲間の発表を聞き、フィードバックすること」と定義。「everyone’s STUDYHALL!」を、「みながそれぞれに情熱を傾けていることを、堂々と、安心して、自由に、共有できる空間・時間をつくる手法」として提示しています。

ルームはひとりの部屋、ホールはみんなで集まる場所。ひとりで勉強したことを、ホールに持ち寄れば、自分の興味本位だったものが社会と意外なつながりがあることを発見できるかもしれない。

そんなことを思って、集まって勉強する習慣をもっと広めたいなと思っていたら、ワコールさんの新しい学びの場づくりに「STUDYHALL」という言葉をネーミングに使っていただいて。勉強家冥利に尽きる感じでした。


2016年10月、京都駅八条口にオープンした、美的好奇心をあそぶ、みらいの学び場「ワコールスタディホール京都」。スクール、会員制のライブラリー・コワーキングスペース、ギャラリー、ショップがある

集中して勉強できる、ライブラリー・コワーキングスペース。フリーランスの方、京都出張時におススメ!

ワコールは、女性用下着を中心とする衣料品メーカー。「世の女性に美しくなって貰う事によって広く社会に寄与する」というミッションを掲げてきました。

ワコールスタディホール京都は、創業70周年を迎えたワコールが提案する「学びを通して美を発信する施設」。学びによって女性の「美しいかたち、美しい生き方、美しい関係」を未来に向けて紡いでいく場所を目指しています。

兼松さんは、ネーミングに関わったご縁から、スクールでいくつかの講座を担当することになりました。

プロの学び方を学ぶ「学び方のレシピ」

ワコールスタディホール京都のスクールは、「身体の美」「感性の美」「社会の美」の3つテーマで講義やワークショップを開いています。兼松さんが担当する講座は「社会の美」。ほかの2つの「美」が主に自分自身に向き合うテーマであるのに対し、「社会の美」は社会や人間関係のありように目を向けている点で非常にユニークです。まさに、ソーシャルデザイン!

2016年10月には、福岡から「くらすこと」の藤田ゆみさんなどをお招きして、「“わたしだけのマイプロジェクト”の見つけ方 キックオフイベント」を開催。11月からは、連続講座「わたしだけのマイプロジェクト探究ラボ」を始める予定でしたが、残念ながら最低催行人数に達しませんでした。

「マイプロジェクト」というテーマは、greenz.jpの読者さんには響くかもしれないけれど、ワコールさんのいう「社会の美」はこれからつくっていく段階。いかに自分が恵まれた環境にいたか、グリーンズを離れてみての自分の力不足を突きつけられた感じでしたね。

ワコールの担当者さんと議論を重ねながら、2017年3月には、シリーズ講座「学び時空間LAB『学び方のレシピ』」を開講しました。「自分のプロジェクトをつくる」ことよりも、その前段階にある「学び方」をテーマにする方向へとシフトしたのです。

「学び方のレシピ」は音楽家、社会起業家、プランナー、クリエイティブディレクターなど、さまざまな分野の「学びのプロ」をゲストに迎え、「学び方」を学ぶトーク&ワークショップです。

よく言われる「デザイン思考」は、ふだんデザイナーが当たり前のようにしている仕事のプロセスを客観的に形式知化したもの。それと同じように、あらゆる職業にはその職業特有の“筋肉の鍛え方”があり、学び方のスタイルがあるはず、と兼松さんは考えました。

シリーズ講座では僕を含めて6人の話を聞いてもらいました。たとえば、松倉早星(すばる)くんにとって、プランナーという仕事は「人の心を動かすアイデアを考えること」。そのためにたとえば、自分自身が毎日心が動いた瞬間を5分、10分書くという習慣を、毎日の筋トレのように10年以上続けているんです。こうしたある職業の人を自ずとそうさせている暗黙知の部分を、誰でも使えるレシピとして浮かび上がらせたいなと。

音楽家ならではの「五感調律フィールドワーク」、プランナーならではの「もしかしてエッセー」など、講座から生まれたユニークな「学び方のレシピ」は、ワコールスタディホール京都のウェブサイトに掲載中。みなさんも、仕事の合間に取り入れてみたくなる”レシピ”見つけてみませんか?

教育を自分ごとにした「お父さん」という「BE」

2016年春、京都精華大学で教えはじめた頃、兼松さんは環境の変化に戸惑っているように見えました。でも、2年目に入った頃からでしょうか。今までで一番と言ってもいいくらい、兼松さんが自由で、自然なようすでいるように、私は感じていました。

兼松さん自身は、この2年間をどんな風に感じてきたのでしょうか。

京都精華大学での1年目は、知らない世界に意気揚々と飛び込んだけれど、なかなか思うようにはいかないことが多かったですね。

デザイン学部でソーシャルデザインを教えるのはスムーズだと思うんですが、僕の現場である人文学部では「デザインとは何か」から入らないといけない。2年目は過度な期待を手放して、いい意味で地に足が着いたところはあります。

学生に教えるために、10年以上向き合ってきたソーシャルデザインを体系化しようと取り組んでいるのが、2018年秋ごろに春秋社から出版予定の書籍『空海とソーシャルデザイン』の執筆。京都精華大学での試行錯誤を全て詰め込み、“ソーシャルデザイン教育の指針となる本”を目指しているそうです。

ソーシャルデザイン教育のカリキュラムを考えるときに、身につけたほうがいいだろう能力やスキルを5つに絞りこんで、ポジティブ心理学やホールシステムアプローチなど最新の研究成果や具体的な方法論まで含めて体系化したいと目論んでいます。そして、それが「1200年前に空海がすでに言っていたことだった!」っていう(笑)

その方法のひとつが「BEの肩書きワークショップ」。

京都精華大学のほか、全国各地で実施した後、2017年秋からはワコールスタディホール京都で全6回の「DO×BEで生き方をデザイン!『BEの肩書き』探求クラス」を開催しました。

DOとBEのあり方の表現も、多面的かつ立体的な「マウナケア曼荼羅」に進化しました

2017年末時点の、兼松さんのマウナケア曼荼羅。「喜劇俳優とモデレーター」のあたり、初めて聞いたけどものすごく納得!

「BEの肩書きワークショップ」は、5つの力のひとつである「”本来のわたし”を表現する力」のためのワークです。大学では、学生たちにBEの肩書きから始まる「マイプロジェクト」を考えてもらっています。

『空海とソーシャルデザイン』の執筆を終えたら、いよいよ「everyone’s STUDYHALL!」に本格的に着手する予定。「いまは4歳の娘の成長に合わせて、小学生、中学生、高校生のためのスタディホールを家の近くで開いていきたい」と兼松さんは言います。

お父さんにならなかったら、「教育」というテーマはここまで自分ごとにはならなかったと思います。「空海とソーシャルデザイン」を教育に応用しようと思いついたのも、実はここ最近なんですよね。それまではどこに出口があるのかなーって、ずっと迷っていたので、娘が来てくれて、本当にありがたいなあと思います。

インタビューをはじめたとき、バラバラに見えていたキーワードは、娘さんの登場によってみごとにつながりあったのです。

編集長の時代から「ほしい未来」は変わっていない

兼松さんには「もし、空海が現代に生きていたらgreenz.jpをやっていたかもしれない」という思いがあるそう。

「社会を変えるのではなく、ほしい未来をつくる」。「自分への見返りではなく、未来への贈り物のために行動する」。greenz.jpが掲げてきたメッセージは、空海が説いた「大欲(自分の欲ではなく、世のため人のためになろうとする清らかな欲)」に通じているからです(「大欲」についてはこちらの記事もぜひご一読ください)。

僕が関心を持っているのは、一人ひとりが内に秘めている可能性をその人らしく表現できる確率を高めることなんです。空海に共感しているのもその部分が大きいですね。

かつての菩薩へ向かう道が、現代のソーシャルデザインだとして、その一歩がハードルが高いのなら、大学のゼミのように試行錯誤の段階からフィードバックをもらえたり、運動のコーチのように勉強のコーチングを受けられたりすることで、挑戦する勇気を持つ人が増えるかもしれない。そんなことを「everyone’s STUDY HALL!」ではサポートしてゆきたいと思っています。

最後に、兼松さんにインタビューをするなら、絶対に聞いてみたいと思っていた質問をさせていただきました。

「兼松さんのほしい未来はなんですか?」。

勉強が楽しくなる未来ですね。人生100年時代では、いろんな意味で自分自身を刷新していくことが大切になります。でも、それはプレッシャーというよりは、きっと楽しいことだと思うんです。

誰もが胸を張って人に語れるような分野をひとつはもち、それがちゃんと社会とつながって価値として認められている。独学者が独善に陥らず、お互い師匠となり弟子となり、社会全体の気づきが溢れていく。そんな景色を思い描いています。

「私も、その景色を見たい」と心から思います。

同時に、私自身の「ほしい未来」をつくるためにじりじりと進んでいきたいですし、「ほしい未来」をつくろうとする人と支え合えたいと思います。この記事を読んでいるみなさんとも、いつか学び合う時間・空間を共にできたらどんなにか幸せでしょう。

今春から、ワコールスタディホール京都のスクールでは第2期の「学び方のレシピ」、そしてグリーンズの学校(東京)では「BEの肩書き探求クラス」がはじまります。もし、興味を感じたら、ぜひ参加してください。

(撮影:望月小夜加

[sponsored by ワコールスタディホール京都]