「日本の未来」と聞いたときにみなさんが想像するのはどんな姿でしょうか。
生き生きとした個人が暮らす世界?
それともテクノロジーの発達した社会?
はたまた問題が山積みの未来でしょうか。
渋谷ヒカリエ内にある47都道府県をテーマにしたミュージアム「d47 MUSEUM」では、これからの暮らしかたをテーマにした展覧会「NIPPONの47人 2017 これからの暮らしかた-Off-Grid Life」展が開催中です。ここでは日本全国のリアルな取り組みから、少し先の未来を覗き見ることができます。
展覧会のキュレーターを務めたのは、グリーンズでもおなじみ、建築家の竹内昌義さん、「暮らしかた冒険家」の伊藤菜衣子さん、そしてASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文さん。
3人によって、住まい・食べもの・エネルギー・働きかた・流通・まちづくりなどに関わる、多種多様な暮らしかたを実践している人が、47の各都道府県から1人ずつ紹介される展覧会です。
さっそく展覧会をご案内!
建築とエネルギーにとどまらない、全国の新しい暮らしを紹介した展覧会。開催初日に足を運んだ私が、会場の様子とともに展覧会の楽しみ方をご紹介します!
入り口を入ると、北海道から沖縄へ、北から順に出展者のテーブルが並びます。
テーブル上のキャプションには、都道府県・出展者の顔写真と名前・紹介文が。活動紹介文は選出したキュレーターが書いたそう。
顔写真の隣、右上の円には、ジャンルの分類が。たとえば農業だったら「食べ物をつくる」、地域にかかわる活動だったら「まちや場所をつくる」といったように書かれています。
製造している商品や出版した本のほかに、作業で使う道具なども展示されています。テーブルを占める展示物の密度や見せ方も、さまざまです。
テーブル左下の出展者パネルには双眼鏡を覗くキュレーターの姿が描かれています。この絵で、出展者がキュレーター3名の誰に選出されたのかがわかるようになっているんだとか。
一通り見て回って感じるのは、ひとつひとつの都道府県が同じ大きさのテーブルでありながら、展示されているものが実にさまざまであること! エコハウスの模型もあれば、木材、作業道具、チョコレート、ジュエリー、書籍、地図、などなど。テーブルの密度や展示の高さも異なります。
私はアートをみるのが好きで美術館にもよく足を運ぶのですが、一般的な美術展では、展示物の大きさや見せたいものに合わせて、並べ方が変わります。
一方で「d47 MUSEUM」における展示では、出展者ひとりひとりのテーブルの大きさは全て同じ。そして47都道府県順に並列に並んでいます。こうした見せ方をすることで、鑑賞者はキュレーターの視点に頼らず、自分なりの鑑賞の仕方を深めることができるように感じました。
まずは北海道から沖縄まで順に見て回るという方法もひとつだし、あるキュレーターの紹介しているものだけを順に見てみる、キャプション右上のジャンルごとに見てみるなど、会場内を行ったり来たりしながら自分なりの見方を発見してみるのも面白いかもしれません。
暮らしかた展のはじまり
そもそも、なぜこのような展覧会をすることになったのでしょうか。
竹内さん 東日本大震災で福島の原発がダメになったときに、エネルギーと暮らしが思っていた以上に近いものだと感じたんです。エコハウスを建てたことをきっかけに、エネルギーと建築について考えるようになって、エネルギーがかからない社会が広まったらいいなと思うようになりました。
そういうことで、最初はエコハウスやエネルギーのことを中心にした展覧会として提案いただいたのですが、それだけではいまいち広がらないなと思ったので、伊藤菜衣子さんに声をかけて、いろいろな新しい暮らしを含めた展覧会にしたいと思ったんです。
伊藤さん 最初に竹内さんからお話をいただいたときには、まだ「47エコハウス展」というコンセプトでした。でも、エコハウスだけを展示するのではなく、そこに住んでほしい人も一緒に展示したら面白いなと思って、そこから構想が広がっていったんです。
“Off-Grid Life”って?
この展覧会タイトルの中心にある”Off- Grid Life”。「”Off-Grid”がタイトルにある展覧会って珍しいかもね」と言いながら竹内さんは話します。
竹内さん 電力網をパワーグリッド、そこから外れているものをオフグリッドっていうけれど、僕らはそれだけではなくて、今までの社会の中で「こうじゃなきゃいけない」「昔からこうだからそうだ」という規制から外れて自由になるイメージを重ねて「Off-Grid Life」という言葉を展覧会に入れたんです。
後藤さん オフグリッドというのは、音楽の話ともつながってきますね。今の時代、音楽もコンピューターが音階やテンポなどのグリッドを指定してつくることができるんです。でも、縦と横を合わせてつくっているとどんどん堅苦しくなっていって。そのグリッドからどうやって自由になるかということを、僕も普段から考えています。
「楽しくなければ広まらない」
そんな、オフグリッドの実践者として選ばれた出展者たち。選定は、
2、しなやか、柔軟、イノベーティブである
3、活動が広まるほど地域経済が循環し、豊かになる
4、楽しそうに、ご機嫌にやっている
の4つを基準にしたといいます。
伊藤さん どうしても「未来をつくる」という言い方をすると社会意義が先行して堅苦しくなってしまうんです。なので、広がりを意識して選びました。やっていることって背中とかバイブスとかで伝わっていくので、「あいつ楽しそうだな、俺もやってみよう」という方が伝わるのかなって思いました。
夏休み真っ盛りの8月3日に始まったこの展覧会。渋谷という場所で開催していることもあって、若い世代から子ども連れまで幅広い人びとで賑わっているそうです。子どもがエコハウスを指差して「この家に住みたい!」と言っていた、というエピソードも3人の話から飛び出しました。
これが未来のスタンダード!?
3人は、来館者にどのように今回の展覧会を見てもらいたいのでしょうか。
竹内さん 今、日本が世界から注目されているものって、日本が持っているけれど十分に活用できていないものなんです。ニュースはつまらなくなりそうな未来しか提示しないけれど、どうしたらこれから楽しくいろんなことができていくのか。日本の未来を考えて見ていただけたらと思います。
後藤さん 47都道府県を網羅しているとはいえ、これらの取り組みはまだ一般化されていないものがほとんどです。「こんな活動もあるんだな」と覗き窓から中をみるように見てもらえたらいいですね。そして自分の物事の見方をずらす機会になったら嬉しいです。
伊藤さん 今はもしかしたら半分ぐらいの人が近所の人から変人扱い(?)されているかもしれないんですけど、今回展示されているような事例が普通な未来になったらいいなと思っています。
後藤さん 紹介した人たちのユニークさにみんなが追いついたら、どんどん面白いことが起こっていくかもしれませんね。
竹内さん 展示に来てくれた子どもたちが、「これが未来なんだ」と思うと、そうなるんじゃないかという気がします!
伊藤さん じゃあ、子どもにいっぱい来てもらえる展示になったらいいですね!
土地が持っているものを生かして、イノベーティブで地域に貢献し、楽しく活動している…そんな「新しい暮らしかた」をみんなが信じて歩んだら、未来にはこれらが当たり前の世の中になっているのかもしれません。まずはこの展覧会で気になる出展者をみつけてみることから私たちも始められそうです。
「これからの暮らしかた」展は10月9日(月・祝)まで開催中。少し先の未来を覗きに、足を運んでみませんか?
– INFORMATION –
NIPPONの47人 2017 これからの暮らしかた –Off-Grid Life-
【会場】
d47 MUSEUM(渋谷区渋谷2-21-1渋谷ヒカリエ8F)
【開催日程】
2017年8月3日(木)〜10月9日(月・祝)※9/11、12は休館
11:00-20:00(最終入館19:30)
【入場料】
無料
【キュレーター】
伊藤菜衣子(暮らしかた冒険家)、後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION・『THE FUTURE TIMES』編集長)、竹内昌義(建築家・東北芸術工科大学)
【URL】
http://www.d-department.com/jp/47-off-grid-life
【主催】
D&DEPARTMENT PROJECT
【協賛】
YKK AP株式会社
【関連イベント】
「Off-Grid Life Lecture & Talk」
http://www.d-department.com/jp/archives/people/48669
日程:2017年9月9日(土)、9月10日(日)、10月7日(土)、10月8日(日)
場所:8/COURT(東京都渋谷区渋谷2-21-1 渋谷ヒカリエ8F)
参加費:レクチャー各回2,500円/クロージングトーク 3,000円
定員:各回100名