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大切なのは、たったひとりの信頼できる大人。孤立した子どもと寄り添うコミュニティユースワーカーを育てる「NPO法人PIECES」の想い

こちらの記事はgreenz.jpがパートナーとして参加するSmartNewsのNPO支援プログラム「SmartNews ATLAS Program 2」との連動記事です。

経済的に恵まれた日本において、実は貧困にあえいでいる子どもたちがたくさんいることが、最近明らかになってきました。

相対的貧困率(所得の中央値の半分を下回っている人の割合、所得格差により生じる)で言うと、6人に1人の子どもが貧困と言えるそうです。(出典元:厚生労働省「平成25年国民生活基礎調査」)

そんな中で政府は法律を制定し、教育、経済、生活、就労といった面での対策も少しずつ進んではいます。では、お金があり、衣食住が満たされ、進学や就職などの希望がかなえば、子どもたちは幸せに成長していけるのでしょうか。

残念ながらそうではないようです。

たとえば、家庭内で虐待を受けたり、保育園に行けなかった結果、学校で上手くなじめず、いじめの対象になったりしている子どもは珍しくありません。
家庭にも、学校にも、地域にも、その子どもたちの居場所はないのです。

その結果、子どもたちは人や自分を信頼することも、信頼される経験を積むことができないまま、孤立していってしまうのです。

そんな子どもたちを豊かなつながりと結び付け、子どもをひとりぼっちにしないために活動しているNPOが「PIECES」です。彼らは、「子どもをひとりぼっちにしないプロジェクト」をスタートさせました。

「PIECES」では、子どもと信頼関係を結ぶ大人となる、コミュニティユースワーカー(以下CYW)を育てることで、子どもたちを孤立から救おうとしています。

CYWは一人ひとりの子どものニーズに合わせ、信頼できる大人として子どもたちに寄り添います。
「PIECES」の理事長の小澤いぶきさんと理事の荒井佑介さんは、どんな想いでこの活動に取り組んでいるのでしょうか。

親しみやすさと誠実さあふれる荒井さんと知的で思いやりに満ちた小澤さん。素敵なコンビネーションのお二人。

小澤いぶき(おざわ・いぶき)
代表理事/ Co-Founder /東京大学先端科学技術研究センター特任研究員/児童精神科医
精神科医、児童精神科医として臨床に携わる中で、様々な環境に生きる子どもたちに出会い、すべての子どもたちが尊厳を持って生きられる多様性のある社会の実現をめざし、2013年よりPIECESの前身となるDICを立ち上げた。
荒井佑介(あらい・ゆうすけ)
理事/ Co-Founder /CYW(コミュニティユースワーカー)プログラム責任者
ホームレス支援から始まり、65年前に子どもの貧困にかかわりはじめ、中学生の学習支援を皮切りに子どもの支援に力を入れていく。2015年に株式会社パソナを退職し、代表小澤とPIECESの立ち上げに注力。個人で子ども支援を行なってきたノウハウを形にしてCYW育成プログラムをつくり上げる。

現代の日本で、孤立している子どもたちと言えば、どんな子どもを想像するでしょうか。小澤さんはひとつの深刻な例を挙げてくれました。

小澤さん その子とは、その子が小学生のときに出会ったんですね。都市部の小学生の例なのですが、その子が赤ちゃんの頃から、父親からのDVがあり、離婚し、母親も若くして出産して、高校を中退せざるをえず、かといって就労するスキルを身につける時間もお金もない中で頑張ってパートを掛け持ちしていました。

近くに頼れる人もいないし、自分の親にも頼れない。誰も助けてくれる人がいない中、母親はどんどん疲弊していって、子どもと関わる気力も、仕事にいく気力もなくなっていき、アルコールを飲むようになりました。アルコールを飲んでは子どもに手をあげることが増えました。

母親は誰にも頼れず、アルコールでしんどさをまぎらわし、子どもは、いつ何が起こるかわからない中、夜も十分に眠れず、どこにも居場所がないと感じる中、生きる意欲をなくしていました。

親が社会から孤立すると、子どももまた社会から孤立してしまいます。このような状態のときこそ、行政に助けを求めるべきと言う人もいるかもしれません。

けれども、生活に関することなら生活保護課、子どもの福祉なら児童支援課など、縦割りの行政の中で、必要とする支援をみつけるのは、生活に疲れた大人にとってとても難しいことなのだそうです。そこで、子どもの孤立はさらに深刻なものとなるのです。

「PIECES」では、豊島区、足立区、板橋区の3地域で活動し、こういったかなり厳しい状況の子どもたちから、不登校といった子どもたちまで、さまざまな形で孤立している、200名ほどの子どもたち、それぞれとのつながりを結ぼうとしています。

「PIECES」の前身団体であるDICが発足したのは2013年。小澤さんと荒井さんが、特に子どもの孤立に目を向けたのには、それぞれなりの理由がありました。


言葉を丁寧に選びながら、子どもへの想いを真剣に語る小澤さん

小澤さん 人がすぐ隣にいても、人は孤立するんだと思ったのは、高校生のときです。友だちの1人が、誰にもサインを出せずに亡くなっていったのです。家族がいて、医療にもかかっていて、友だちと遊ぶ、そんな日常の中で。こんなにもいろんな人が物理的に近くにいたのに、彼女はひとりぼっちだったんじゃないかなと、とても感じました。

つらいときにつらいと言えること、そんな人がいることの大切さを、小澤さんは実感したのでしょう。

一方、荒井さんは、子どもの支援の前に、ホームレス支援にかかわっています。たまたま新宿の駅でしんどそうにしていたホームレスの男性に声をかけたことをきっかけに、1週間に1度、会って話をするようになります。その後、炊き出しなどのボランティアにも参加し始め、荒井さんはひとつの気づきを得ます。

明るく優しい人柄がインタビュー中にも溢れていました

荒井さん ホームレスの人たちがなぜ炊き出しに来るかというと、もちろん食事をするためなんですが、同時に、人と話をしにくるんですね。「1週間、誰ともしゃべらないと言葉を忘れそうになる」といったおじさんの言葉はとても印象的でした。

ホームレス支援を続ける中で、彼らの多くが子どもの頃から貧困や虐待といったさまざまな問題を抱えていたことを知り、子どもの問題へと関心が移っていきます。

子ども一人ひとりにつながりを結ぶ大人がいる

孤立した子どものために、「PIECES」が一番力を入れているのは、CYWという“人”の育成です。ユースワーカーとは、欧米などで広く知られた、青少年の問題に取り組む支援者専門職。PIECESでは、6カ月にわたる独自のプログラムに基づいて、CYWを育成しています。

「PIECES」が人の育成に力を入れようと思ったのは、“場”に来ることのできない子たちと出会ってきたからです。現在、「学習支援」や「子ども食堂」といった“場”が全国各地に広まっています。そこでサポートできる子たちはたくさんいるのですが、一方でその“場”にもいけない子どもたちがまだまだいます。

孤立した子どもにとって、知っている人、安心できる人がいない場所にいきなり足を運ぶことはとても難しいのです。虐待を受けた子どもには、知らない大人を信用するのはとてもハードル高いこと。そのためにも、まずは信頼できる身近な人を育てることが大切だと考えたのです。

小澤さんも、「人って、まず“場”の何に安心を覚えるかというと、場にいる“人”がつくる自分がここにいてもいいという雰囲気と、何かあったときにこの人に助けを求めたらいいんだっていう安心で信頼できる“人”がいることなんですよね」と言います。それだけ”人“の存在は大きなものなのです。

「PIECES」はCYWを育てながら、それぞれのCYWが自身に合った子どもとのつながりを築いていきます。CYWになる人も多種多様で、虐待などを受けていた当事者の人もいれば、ボランティア以上のかかわりを求めて参加する人など、社会人と大学生と半々ずつぐらいだそうです。

CYWは2カ月の座学の後、子どもたちの個別支援を行いながら、子どもたちそれぞれに合わせた関わりをつくり、プロジェクトを立ち上げ、CYWに必要な知識を得、体験を重ねていきます。さらに月2回のゼミ形式の研修でフィードバックを受け、CYWとして成長していくのです。

子どもたちが孤立している理由は千差万別です。CYWには、それぞれのニーズに合ったかかわりを求められます。その子どもが何をしたいのかを掘り下げていくと、例えば、学校にも行かず、ただひたすらゲームをするといったことにもなります。

傍から見れば、大の大人と子どもがただただゲームをしている状況にしか見えませんが、そこから話を聞きだしたり、次に何をしたいのか考えたりと、お互いの関係は深まっていきます。それから、その子どもは、「PIECES」が運営するゲームづくりのプロジェクトに足を運ぶようになりました。

ゲームも子どもとのつながりを築く大切なツール

「もしこれが、最初から学校をいくことだけを目的にして、その子の奥にある願いを蔑ろにしていたら、もしかしたらまだしんどいまま過ごしていたんじゃないかとも思うんですよね」とは、小澤さんの弁です。

また、中には父親がいず、母親が鬱病で、本人も発達に特性がありこだわりが強く、小学校でなかなかうまく友だちと関わり合いを築けない子がいました。学校に行こうとするとお腹が痛くなる、そんな子どもを見てお母さんの鬱状態が悪化する、そんなスパイラルが起きていたといいます。

小澤さん その女の子は、自分を守る手段として物語の世界をつくっていて、物語をつくって誰かに話したいという気持ちがあったんですよね。そこで彼女の考える物語をもとにゲームをつくろうというチームをつくりました。

絵を描く人や、プログラミングをする高校生と一緒に、ゲームをつくる活動を始めたんです。その結果、その女の子はゲームをつくるこの場所だけは安心して来られる、学校の人にもここでの自分を知ってもらいたいなと口にするようになりました。

荒井さん その子がその場に来ることができ、定着できたのは、最初に密な関係をつくってくれたCYWがいて、このお姉ちゃんは信用できると思ったからなんですね。ひとりのCYWと関係ができると、次に現れる人は、ただの見知らぬ大人ではなく、そのCYWから“紹介された大人”になるんです。そうやって世界がつながっていくんですね。

ゲームへの興味からプログラミングへ、さらには何かを学ぶ楽しさへとつながります

このようなゲームをつくるプログラミング教室以外にも、「PIECES」では、イタリアン料理の教室や、10代ママサロン、スポーツ大会など、孤立した子どもたちが皆で一緒に何かに取り組めるプロジェクトもおこなっています。それらもまた、子どもたち一人ひとりのニーズに合ったものになっていることはいうまでもありません。

CYWの話を聞くと、特に子どもが好きで、子どものためを思っている、そんな人にしかできないのではないかと思ってしまいそうになりますが、そういった特別なものではないと言います。CYWはボランティアですが、プロボノでもなく、「自分が日々過ごしている生活の中に子どもがいて、それを楽しんでいる人」、と小澤さんは表現しました。

シフト制でもないですし、子どもと約束をして、じゃあ次の水曜日会おうみたいな、そういった形で子どもとのかかわりを深めていきます。実際のところ、子どもの側からドタキャンをくらうことも多いらしく、最初はイライラしていたのが、だんだん寛容になっていき、CYW自身が自分のこれまでの価値観を見直すきっかけになることもあるそうです。CYWと子どもとのかかわりは、子どもを支援する一方通行的なものではないのです。

料理人になりたいという高校生が、プロの料理人に料理を習い、大人に料理を振る舞うイベントを開催

小澤さん 私たちって、“たまたま”友だちや親戚や先生などに出会えたから何とかなったとか、親が元気だから“たまたま”誰かとつながって可能性が広がったとか、そういう“たまたま”がいっぱいあったんだと思うんです。

偶然、“たまたま”に出会えず孤立してしまった子どもに、別の“たまたま”が用意されれば、その子は孤立せずにすむことができます。そんな“たまたま”をCYWが生み出しているのです。

これ以上ひとりぼっちの子どもをつくらないために

どうして、現代日本ではこんなに孤立した子どもが増えてしまったのでしょうか。

ひと昔前の日本なら、近所のおばちゃんやおじちゃんが、その“たまたま”を担ってくれていました。子どもの回りにはいろいろな大人がいて、たとえ学校に居場所がなかろうと近所のおばちゃんがそれを支えてくれたかもしれません。たとえ家庭に居場所がなかろうと、友だちのお母さんが助けてくれることもあったでしょう。

けれども今の日本は、格差が広がるに連れ、多くの人が自らの位置を守ることに躍起になり、結果コミュニティや社会のつながりがなくなり、一気に分断が進んでいるような状況です。

自らの環境を自力で変えることのできない子どもたちは、生まれ育った環境に大きく影響を受けるため、“たまたま”に出会えないまま成長をせざるをえない子どもが増えているのです。

荒井さん 子どもたちがスーツを着た人に会ったことがないっていうんですよ。駅とかにいるよと言っても、彼らの目には入っていないんですね。

彼らの周囲にいるのは、鬱で寝たきりの親や、働かず、アルコール依存やギャンブル依存になっている親、暴力や薬物とかかわりがあった親や親族ばかりだったり、土木関係に勤める親だけとかなんです。そういう子どもがすぐ身近に、もしかすると自分の隣の家にいるんですね。

こんなに近い距離に生きていて、スーツで毎日通勤している自分を知らない。お互いの間に如何にその距離が遠くなっているかを感じます。

人は、見ようとしないものは目に入らない性質をもっています。たとえ、スーツを着た大人がいても目に入らない子どもがいるように、孤立している子どもがいても、多くの大人の目には入ってこないのです。

こんなにも格差が開くことがとどまらず、コミュニティやつながりが絶たれ、分断が進行する世の中で、私たちができることは何でしょうか。もちろんCYWになるのもひとつの方法ですが、もっと気軽にできることとして、PIECESがおこなっているさまざまな”場“に足を運ぶこともできます。

小澤さん そこまで密にかかわらなくても、あのイベントに毎回来ている●●さんみたいな、そんな存在になれば、自然とつながりは生まれてきます。子どもたちがいろいろなことに関心を持つためにも、職業や環境などが異なる人がいることが大切だと思っているので、特別何ができるというわけでなくても、その“場”に足を運んでほしいですね。

子どもたちへの想いを共にする、CYW一期生8人と小澤さんと荒井さん

時間がないという人には、「PIECES」に寄付をするといった方法もあります。「年に一度、文房具買えよってお小遣いをくれるおじちゃんみたいな存在とか(笑)」と小澤さんは笑いますが、現在の子どもたちが置かれている状況を知り、時間やお金を使うことを始めなければ、孤立した子どもたちはひとりぼっちのままです。その先にあるのは、孤立した子どもがそのまま年を重ね、孤立したまま親となる、孤立の連鎖です。

孤立する子どもが増えている今、将来的に孤立の連鎖を起こることは、たやすく予想できます。だからこそ、そうなる前の今が、ひとりぼっちの子どもたちを孤立から救い出すときです。まだ気づいていないとしても、自分の隣に住んでいる子どもがひとりぼっちでいるかもしれません。どこかに間違いなく存在する、ひとりぼっちの子どもたちに手を差し伸べてください。

後編の記事では、自らの子ども時代の原体験からCYWとして10代ママのために奮闘する塚原萌香さんをご紹介します。CYWとは孤立する子どもにとってどんな存在なのか、そして孤立する子どもが増える社会のどんな希望になるか、ぜひ感じていただきたいです。

– INFORMATION –

ご寄付をお願いします! – PIECES[CAMPFIRE]

この記事を読んで、孤立した子どもに手を差し伸べたいと思った方は、ぜひこちらをご覧ください。現在、クラウドファンディングサイト「CAMPFIRE」で、PIECESのコミュニティユースワーカーの活動支援を募っています。貧困に苦しむ子どもや虐待を受けている子ども、不登校の子ども、いろいろな子どもたちがあなたの差し出す手を待っています。
https://camp-fire.jp/profile/PIECES/type:project