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アーケード撤去後の商店街を”公園化”? 曽我部昌史さん(みかんぐみ)、石神夏希さん(ペピン結構設計)と考える、これからの公共空間の使い方

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公共空間といえば、公園や図書館、公道などみんなが利用する、開かれた場所。ところが時代が変わり、人々の求めるものが変化するにつれて、にぎわいを失う場も増えています。

商店街もそのひとつ。閉店する店が相次ぎ、アーケードの維持が難しくなる商店街も出てきています。補助金に頼らず、公共空間を価値あるものに生まれ変わらせるために、私たちはどうしていけばよいのでしょうか。

今年「リノベーションスクール」では、アーケードの撤去が決まった北九州の魚町(うおまち)サンロード商店街を対象に、その未来像を形にしてみる社会実験が行われました。

もう数年も前からこのプロジェクトに神奈川大学曽我部研究室として関わってきた「みかんぐみ」の曽我部昌史さんと、同じ商店街で演劇やイベントを行ってきた「ペピン結構設計」の石神夏希さんに、お話を伺いました。
 
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曽我部昌史(そかべ・まさし)
建築家、みかんぐみ共同主宰。神奈川大学工学部建築学科教授。1962年福岡県生まれ。東京工業大学大学院修士課程修了。伊東豊雄建築設計事務所、東京工業大学建築学科助手を経て1995年みかんぐみ共同設立。店舗の内装から保育園などの設計を行う一方、ワークショップの企画運営や執筆、アートプロジェクトなど、建築の枠にとらわれない活動を展開。主な作品として「横浜開港150周年記念イベントパビリオン」(2009)、「下条茅葺きの塔」(2012)、「バングラディッシュ・アート工房ベンガル島」(2013)、「マーチエキュート神田万世橋」(2014)など。
石神夏希(いしがみ・なつき)
ペピン結構設計/場所と物語。1980年生まれ。1999年より演劇集団「ペピン結構設計」を中心に劇作家として活動。『東京の米』にて第2回かながわ戯曲賞最優秀賞受賞。同作品にて東京国際芸術祭リージョナルシアターシリーズ出場。近年はテナントビル、住宅、商店街などでの演劇上演、地域を軸にしたアートプロジェクトの企画や滞在制作を行う。また住宅・建築を主なフィールドに建物や場所に関するリサーチ・執筆・企画など、「場所」と「物語」を行き来しながら活動している。

アーケード撤去後の公共空間を、どうするか?
かつての「道」はみんなの居場所だった。

北九州の「魚町サンロード商店街」は、小倉駅から南にのびる魚町銀天街の一本東にある、全長100メートルほどの小さな商店街。34年前にかけられたアーケードはすっかり老朽化し、街が薄暗い印象になっていました。

もともとこの商店街はアーケードのメンテナンス費が捻出できない状況で、仮にその費用を補助金でまかなったとしても、数十年後にはまた同じ問題を抱えてしまう懸念が。

そこでアーケードを撤去した方がよいのではという話がもちあがり、根強い反対もありましたが、数年かけての議論の末、撤去という決断に至ります。

そんな中、アーケード撤去後の商店街をどんな空間にするか考えてほしいと依頼されたのが、曽我部昌史さんです。曽我部さんは、建築設計チームみかんぐみの設立メンバーで、神奈川大学工学部建築学科の教授でもある方。さっそく自らの研究室と、地元北九州の大学と連携しながら調査を始めました。
 
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曽我部さん アーケードとは、普通の「公道」だった場所に、屋根をつけて商店街とみなされていた空間です。大抵の場合、アーケードがなくなればタイル敷きだった道がアスファルトになり、車が走る普通の道になってしまう。それをいかに阻止して、新しい空間にしていくか、が課題でした。

そこで見せてくれたのが、以下の絵です。
 
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『煕代勝覧(きだいしょうらん)』文化2年(1805年)の江戸日本橋を描いた絵巻。(From Wikimedia Commons, the free media repository

曽我部さん 今、道といえば移動空間としか思われていませんよね。それは道路法という法律で、それ以外の目的で使ってはいけないと決まっているからです。

ところが昔は、道はみんなの居場所でした。その代表例がこの煕代勝覧(きだいしょうらん)。かつての日本橋です。

ご覧のように、道でいろんなことが行われていたんですね。日本は公園が少ないとよく言われますが、明治以前の公共空間は「道」だったんです。

2013年3月のリノベーションスクールで、魚町サンロード商店街が対象案件となった際に、アーケード撤去後のプランとして「通りを緑化して人々の居場所にする」という案が挙がりました。

この発想をもとに曽我部研究室では全国の事例を調査。「道を公園化した」鳥取県米子の法勝寺町商店街の事例に行きつきます。路面を一部芝生にして、大きな鉢植えの木々が並ぶ、くつろげる空間。ただし、あくまで法的には「道」なので樹木も鉢植えです。
 
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鳥取県米子市、法勝寺町商店街。アーケード撤去後の成功事例として有名。

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検討の中で描かれた、魚町サンロード商店街を公園化したイメージ図。

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最新版の魚町サンロード商店街を公園化したイメージ。公共空間である道の部分と、店舗の敷地内に連続した芝生が敷かれている。

公共と民間の境目をなくして、うまく活用する

曽我部研究室は、この提案にあたって、これまでにない「道」の利用法を考え、組合に提案していきました。

曽我部さん まずアーケードの柱が木に変わったと見立ててはどうでしょう、と話しました。ものを売る場所であると同時に、みんなの居場所でもあるような空間です。

大切にしたのは、「あるものを活用してつくること」と「公共と民間の空間をつなぐこと」。

例えば通常、街灯は公共のものなので「公道」を照らすものですが、敢えて民間の敷地内の店舗に光を当てて居心地のよい照明計画にしたり、建物の中と外の交流を促すような、収納式のベンチを外に設置したり。

曽我部さん このベンチは、実際に目に見える実験の一つとして、廃材を使ってつくり今は使われていないビルの前に設置しました。

普段はフェンスの役割を果たし、開くと椅子やテーブルに様変わりします。これが飲食店の前などにあれば、“建物の中の活動が、道路側に滲み出していくような仕掛け”になって、店の中と外の交流を促す働きも期待できます。

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魚町サンロード商店街の中心部にある「鳥のまち」に設置された収納式ベンチ「鳥のいえ」。

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買い物時の休憩や、友達と談笑したり、飲食もOK。さまざまな時間を過ごすことができる居場所に。

そのほか、今のアーケード代わりにユニークな日覆いを制作することや、行政によくある「してはならない」ルールと違って「○○しよう」(例えば、ゴミが落ちていたら拾おうとか、挨拶しようなど)という推奨型のルールづくりを考えるなど、提案内容は多岐にわたります。

どこまでを行政が行い、どこまでを各店舗が負担するのか。細かい決めごとをしながら、今も検討が進んでいます。

アートプロジェクトを通して、新しい目で商店街を見つめ直す

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アーケード撤去に向けての検討が進む一方で、数年前からこの商店街に関わり、演劇やアートの活動を行ってきたのが、石神夏希さんです。

石神さんはもう16年近くペピン結構設計という劇団で劇作家として活躍し、劇場以外の空間で演劇の上演を行ってきた方。魚町サンロード商店街では、地元の人たちに、商店街を新たな視点で見直してもらえたらと、まちを舞台にした移動型の演劇を行いました。

石神さん らいおん建築事務所の嶋田さんに、中屋ビルのエレベーターで演劇をやりませんかと声をかけていただいたのが始まりです。

何度か小倉を訪れ、商店街の方々にお話を伺うなかで面白いと思ったエピソードを取り入れて芝居にしました。役者がまちの一コマに紛れ込み、どこからがお芝居でどこからが日常風景なのか境がないような面白さを楽しんでもらえたらと考えたのです。

演劇を通して、これまでにない斬新なまちの使い方をしてみせたのは、人々にまちを新鮮な目で見てもらうため。その後も「ファンタスティック・アーケード・プロジェクト」というイベントを企画します。
 
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エレベーターだけでなく、街全体を舞台にした演劇『対岸の火事』

石神さん このアーケードと共に育ってきた人たちの気持ちを考えると「暗い」「維持できない」といった後ろ向きな理由で撤去されてしまうのはあまりに寂しい。

そこで、アーケードの下でつむがれてきた物語にもう一度光を当て「つながりのアーケードをかけ直す」というコンセプトのプロジェクトを企画しました。

アーケードの屋根の上で商店街の未来を話し合うサミットを行ったり、建設当時の記念写真に写っている人たちに会いに行く商店街ツアーを実施するなど、アーケード撤去の節目でありながら、「これまでの商店街の物語を掘り起こし、形にすることで未来につないでいく」ような内容を目指しました。
 
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アーケードの屋根の上で行われた、商店街の未来を語るサミットの様子。

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昭和56年7月祇園祭りの際の、魚町サンロード商店街で撮影された写真。

石神さん 「古くて維持できないから撤去する」というマイナスの面に目を向けるのではなく「昔は子どもたちの遊び場だったり、人々の物語が詰まった、こんなに素敵なアーケード商店街なんだ」という価値を改めて掘り起こしたかったのです。

新しく何かを建てたり再開発しなくても、まちを見る見方が変わって楽しもうと思えばまだまだ可能性がある。それに気づかせてくれる力が、アートプロジェクトにはあると思います。

まちの人たちへのお披露目

こうして、曽我部さん、石神さんのお二人が行ってきた土台がありながらも、アーケード撤去後のまちを改めて検討し、実験的に目に見える形にしてみようと行われたのが、リノベーションスクールの「公共空間活用コース」でした。

企画のみでなく実際に形にするまでを行うため、受講者は2ヶ月前から準備を進めました。その結果、商店街の敷地に人口芝生を敷くシミュレーションや、商店街の方々の協力で集まった鉢植えの設置、カラフルなTシャツを吊るし日覆いにするなど、さまざまなアイディアが形になり、商店街の未来像(の一部)が披露されました。
 
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この日置かれたベンチで自然とくつろぐ人も。

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人工芝によるシュミレーション。部分的で公園化のイメージがわきにくかったという反省点も。

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天井を覆うカラフルなTシャツに引き寄せられて多くの人が集まりました。子ども向けのワークショップなども行われ商店街はいつになく活気づいた様子。

この実験で良かったことのひとつは、アーケードがなくなった後の様子を擬似的にでもまちの人たちに見せられたこと。

石神さん こんな風にまちが変わるんだ、屋根が開くとこれだけ空が見えるのね、と仰る方もいて。肌で感じてもらうことで、よりリアルにまちの変化が伝わったと思うんです。多くの人に知ってもらうには時間がかかりますが、こうした実験的な試みができることもあると思います。

さらに、アーケードがなくなることをまだ知らない人もたくさんいました。周囲の住人や、買い物客など、アーケードを利用する人たちは、自分のまちのことながら、商店街を将来どうするか?という話し合いに参加することはありません。定期的な話合いに参加していたのは、主に商店会の組合員。人によっては、アーケードが撤去されてはじめてそのことを知り、寂しい思いをする人もいるはずです。

個人のものでも、公(行政)のものでもない
グレーゾーンの公共空間を失ったことの弊害

これを、近代化の弊害でもあると言う曽我部さん。

曽我部さん 例えば、昔は入会地(いりあいち)など、集落みんなで所有する土地があって、薪炭や肥料など、そこから得られるものはみんなのものでした。個人のものでもない、行政のものでもない、グレーゾーンがたくさんあったんです。

井戸もそうですよね。行政の管轄ではなく、みんなでルールを決めて、みんなで使っていた。それが“水道”になったとたんに、水道局や行政が管理する”商売”になってしまいました。

すべての所有を明確にして「誰かのもの」にしなくてはならなくなったのは、課税するためでもあり、販売するため。さらに公共の場は、みんなにとって他人ごとになってしまったとも言えます。公のことは誰かがやってくれる、決めてくれる、管理してくれると誰しもが思うようになりました。

曽我部さん 何か新しいことをしようとしても、すぐに誰の責任だ、誰が許可するんだという話になります。公共空間を使うのは皆さんですからこのメンバーで決めればよいでしょうと言っても、なかなか通用しない。

そうすると行政は、市民に喜ばれることよりも、クレームやリスクを回避することを考えるようになります。
 
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公園の設計で、「ピンヒールをはいた人が訪れてもつまずかない公園を」という依頼もあるという曽我部さん。

曽我部さん そうした発想からは、最低基準を満たす、画一的なものしか生まれません。もちろん人口が増えて近代化する過程では、その方が適していたのです。大量にスピーディーに学校や公園をつくってこられたのは効率のおかげですから。

でも今はそういう時代じゃない。いかに工夫をして面白いものをつくるかが大事。なのに、我々は近代に培われたシステムからなかなか抜けきれずにいるのだと思います。

これからの時代、必要とされるのは、新しいしくみやシステムをつくること。

例えばそれは、個人のものでも、公(行政)のものでもないグレーゾーンの公共空間を取り戻すことでもあるでしょう。クリエイターにとっては面白くて工夫し甲斐のある時代でもあると曽我部さんは言います。

曽我部さん 今ある資産をいかに無駄にしないかという話だけではなくて、元あるものよりどれだけ価値を高められるかが大切です。

さらに、すでにあるリソースを活用してつくること。モノだけではなく、人や文化、その土地にあるものすべてを含めて資源になると僕は思っています。

全国各地でひっそりと朽ちている公共施設や有効利用されていない公共空間。その未来を考える上で、魚町サンロード商店街のゆくえは、大きなヒントになりそうです。

(撮影:服部希代野)

[sponsored by リノベーションスクール]