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「電力会社の電気はいりません!」独立型の自家発電で、晴耕雨読の日々をおくる佐藤隆哉さん・千佳さんに聞く、これからの電力自給のありかた

わたしたち電力」は、これまで“他人ごと”だった「再生可能エネルギー」を、みんなの“じぶんごと”にするプロジェクトです。エネルギーを減らしたりつくったりすることで生まれる幸せが広がって、「再生可能エネルギー」がみんなの“文化”になることを目指しています。

こんにちは。新井由己です。軽バンを改造した「オフグリッド移動オフィス」で全国を訪ねている、フリーランスのルポライターです。

今、電気料金が少しずつ値上がりしてます。電力会社は原発が停止しているので化石燃料のコストがかかっていると言っていますが、料金内訳の中に「再エネ賦課金」と書いてあることを知ってますか?

太陽光・風力・バイオマスなどの再生可能エネルギーで発電した電気を電力会社に買い取ってもらう料金は、電力会社が支払うのではなく、「再エネ賦課金」として各家庭の電気料金に上乗せされているのです。

今年度は標準家庭(月の電力使用量が300kWh)で月225円ですが、来年度は472円と倍になり、事業認定されている設備がすべて稼働すると、負担が1,000円近くになるそうです。

そしてさらに、2016年4月からの電力小売り自由化後、原発廃炉費用を電気料金に転嫁する方針が決められました。一方的な電気料金の仕組みに「もうやってられない!」と思う人も少なくないでしょう。

そこで今回は、独立型の自家発電で暮らし始めた佐藤隆哉さんと千佳さんに、これからの電力自給のありかたについて聞きました。

電力会社の電気を使わない暮らし

神奈川県横浜市戸塚区で暮らす佐藤隆哉さんと千佳さんは、昨年夏ごろに自然派住宅を施工する「天然住宅」で自宅を新築しました。実は、佐藤さんの家は、電力会社から電気を買っていないというのです。千佳さんに話を伺いました。

我が家は、新築時から電力会社とは契約していません。電柱もメーターもありませんし、もちろん請求書も届かないので、再エネ賦課金を払う必要もありません。

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玄関にはカメラ付きのインターホンが設置されていました。延べ床面積90平方メートルの2階建てです

一般的な家庭にあるソーラー発電は、発電した電力量と実際に使用した電力量を比較して、余剰分を電力会社に買い取ってもらう仕組み(先述したように、実際はほかの家庭が負担)になっています。

一方、佐藤さんの家は、昼間に発電した電気をバッテリーに貯めて、それを夜間に使っています。夜に減った分は、翌日にまた充電されるので、電気を使いすぎたり、雨が続いて発電できないときは、バッテリーの電気が足りなくなるおそれがあります。

現在の我が家の消費電力は、1日平均3kWh。一般的な日本の世帯のおよそ3分の1だそうです。冷凍冷蔵庫、洗濯機、掃除機、炊飯器、エアコン、パソコン、プリンター、携帯電話を使っていますので、みなさんの生活と大きな差はありません。しいて言えば、テレビと電子レンジがないくらいでしょうか。

一般的な4人家族で使う電気は1日に10kWhといわれています。佐藤さんが設置したバッテリーの蓄電量は27kWh。何も考えずに使うと3日分ですが、節電を意識しているので、9日分くらいの容量があります。
 
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南向きの大きな窓から光が差し込んで杉の床板に蓄熱するので、冬でも床が冷たくないそうです

新居で暮らし始めて1週間くらいして、家の周囲を歩き回る人の姿が見えたんです。その後、玄関のチャイムが鳴ったので出てみると、電力会社の制服を着たメーター検針の係員でした。

どうやら電気メーターが見つからなくて、検針員の人が困っていたようです。千佳さんは「自家発電」をしていることを説明したものの、その1週間後に今度は電力会社の職員が訪問してきて、さらに説明を求められたとか。

電気は電力会社から買うものという常識から私たち夫婦は抜けだしました。電気は自分の家でつくるのが当たり前という常識にシフトして、この新しい価値観を、たくさんの人に知ってもらいたいと思っています。

エネルギーの自給が、平和につながっていく

3.11以降、千佳さんは、計画停電でインフラを握られていることに違和感を覚えて、大きなシステムに依存していた今までの状況を変えたいと考えるようになったそうです。

それまで電気を湯水のごとく使っていた私たちは、原子力発電という危険なものを前提に電気がつくられていたことさえ知りませんでした。何も知らなかった自分の無知さと不勉強さに愕然としました。

そんなときに、環境活動家である田中優さんが書かれた『地宝論−地球を救う地域の知恵』(子どもの未来社)という本に出会ったのです。

この本は、食糧問題の解決策、自然を守る方法、持続可能な経済のためのお金の使い方、つながる生き方について、すぐにでも実現可能な提案がされています。

そのなかで、世界の戦争の原因が「資源エネルギーの奪い合い」で起きていることを知ります。そして、電力会社に依存せずに「自立」していけば、やがて社会は平和になっていくと書かれていたのです。

それぞれの家で、食べ物だけでなく電気もつくれるようになれば、ほかの土地の資源を横取りしたり、誰かが犠牲になる必要もありません。3.11後の混乱からやっと抜け出し、内側から希望が溢れてくる感覚を味わいました。

けれども、佐藤さん夫妻は、震災の10か月前に新築マンションを購入したばかり。

すぐに電気や野菜を自給することもできず、ひとまず節電を心がけることにして、契約アンペアを30Aから20Aに落とし、不要なものをどんどん処分していきました。その結果、電気使用量が1日3kWh、電気代は3,000円ほどのシンプルな暮らしになったそうです。
 
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庭の畑は不耕起の自然農で、固定種の野菜を栽培しています。いろいろ植えてみて、土地に合った野菜を探しているところ

自然とともに暮らしたい

それでもやっぱり畑で野菜を自給したい、電気も自給してみたいという思いが強くなり、2013年の夏ごろから、都会だけれども自然が豊かで、山があり、畑ができるくらいの広さがあるという条件で、新天地を探し始めました。

田舎暮らしをすれば、食やエネルギーの自給は可能だと思ったんですが、夫が仕事で川崎まで通勤しているので、大船とか鎌倉の自然豊かなエリアで探しました。

不動産屋さんに希望を話すと「もっと田舎なら」と苦笑いされてしまいましたが、数社目の担当の方が親身になってくれて、私たちのイメージにぴったりの土地を紹介してくれたんです。

物件を見に行くと、車から降りたときに吸った空気があまりにおいしかったそうです。真南向きに開けているところは、なんと田んぼ! しかも、目の前は市街化調整区域内なので、自分たちの土地の前には建物が建たないことが約束されていました。

裏山にある森は、里山を残すという目的で自然公園になる計画もあるそうです。

土地が見つかってから天然住宅のオフグリッドセミナーに参加して、田中優さんが電力会社の電気を使わずに、独立電源にしたのを知りました。

そのときの設備は1,000万円近くてとても手が出なかったのですが、福島から岡山に避難してオフグリッドの独立電源を施工している「自エネ組」の大塚尚幹さんに伺ったら、再生した鉛バッテリーを使えば、100〜200万円で独立できると聞いて、実現に向けて考え始めました。

実は、佐藤夫妻は、最初は電力会社に系統連結して売電するつもりだったそうです。その仕組みを調べていくうちに、売電でもらえるお金がほかの家庭の電気料金から集められていることを知り、「それは受け取れない」と考え直したと言います。

基本的には電力の自給を目指しつつ、やっぱりバックアップのために電力会社にも接続しておくつもりでした。ところが、実際に家に電気を引くとしたら、敷地内に電柱を建てなければいけないとわかったんです。

直径30センチの電柱の面積を坪単価で計算してみたところ、けっこうな値段になるんです(笑) 年間2,000円ほどで大切な土地を貸すのも納得がいかないし、電柱を建てるなら木を植えたいと思って、もう電力会社とは縁を切ることにしました。

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LED電球のほかに、白熱電球も使っています。これも貯めた電気に余裕がある証拠

お金の問題ではなく、いのちの問題

さて、新築時に導入したオフグリッド関係の費用はどのくらいだったのでしょうか?節電の意識は必要だとしても、暮らしぶりからわかるように、普通の家電生活をされているように見えます。

我が家のシステムは、240Wのソーラーパネル8枚とフォークリフトの再生バッテリーの容量が27kWhです。そのほかのコントローラー類と、岡山から大塚尚幹さんに来てもらった施工費を加えて、全部で約220万円でした。

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外にあるスチール物置に再生されたフォークリフトのバッテリーを設置。これで約1週間分の電気を貯められます

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ソーラーパネルの電圧、バッテリーの電圧、充電電流などを確認できるリモートメーターが、リビングの壁に埋め込まれていました

1日3kWhの節電生活をしていたころの電気代は約3,000円。電気代を払い続けた場合、元をとるのに60年以上もかかります。もちろんその間のメンテナンスやバッテリー交換費用を考えると、さらに期間は延びるので、今までどおり電気代を払い続けたほうがいいという声もあるようです。

もちろん元は取れません。でも、私たちはお金の問題ではなく、いのちの問題として、この暮らしを選択したのです。この挑戦に私たち自身がドキドキ・ワクワクしていますし、これから電力自給ムーブメントが起こることを願っています。

そう聞いて思ったのは、人それぞれ、どこにどれだけお金をかけるか、価値観が違うということでした。例えば、自家用車を買うことを考えてみましょう。都会で車を持つ場合、駐車場のコストもかかります。

車検や保険などの維持費を計算したら、車を使いたいときだけレンタカーやカーシェアリングを利用したほうがお得です。車を使わずに公共交通機関を利用すれば、もっとお金はかからないでしょう。

自家用車が欲しい場合でも、中古車を10万円で買う人もいれば、300万円の新車を選ぶ人もいるはずです。そう考えれば、電力会社から独立できるオフグリッド発電のために200万円を投資してもいいように思いませんか?

電気富豪の日、電気貧乏の日

一般的な家電を揃えながらもオフグリッドで生活できているのは、夫妻がかねてから節電を心がけていたからです。何も考えず、湯水のように電気を使っていた暮らしを見直さずに、代替エネルギーばかり探し求めていたら、本末転倒です。

晴れた日の発電量は約5kWh、雨だと0.6〜1kWhくらい。平均3kWhの発電量なので、ほぼ1日に使う電気を賄いつつ、バッテリー残量は70%をキープしています。

最初はドライヤーを使うときもハラハラしていましたが、しばらくすると安心感が出てきました。とても不思議なのですが、オフグリッドにしてからオーディオの音が澄んでいてキレイなんですよ!

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415リットルの冷凍冷蔵庫でさえ、電力会社の電気に頼らなくても使えるそうです

晴れた日は「電気富豪の日」と呼んで、掃除機、炊飯器、電動芝刈り機、電動ノコギリなどを使うそうです。逆に雨の日は「電気貧乏の日」となり、ゆっくりと読書を楽しみます。

電気の自給を始めると、天気に合わせた暮らしになるのがおもしろいですね。自然のバイオリズムと身体のバイオリズムが合致するので、体にも心にも負担が少なく健康的になったそうです。

ちなみに一般的なソーラー発電で売電していると、昼間はなるべく節電して電力会社に買ってもらい、夜に使う電気代に補填しようと考えるようです。せっかく自宅で発電しているのに、もったいないと思いませんか?
 
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当初の計画よりも電気が余っているので、エアコンのほかに、電気ヒーターや加湿器を導入しました

半年以上暮らしてみて、電気にはまったく困っていないと言います。逆に、バッテリーに貯めた電気が余ってしまうので、この冬は電気ヒーターを導入しました。炬燵やホットカーペットなど、電気を熱に変換するものは、効率の悪さから避けるべきところ。けれども、電気富豪になると、そんな余裕も出てくるのですね。

イメージとしては、空からお金が降ってくる感じです。誰かの犠牲のうえに成り立っている電気ではなく、まさに天の恵みから得られるエネルギーは、本当にありがたく感じます。

水や空気がなければ、人も動物も植物も生きていけません。いのちを脅かす放射能をまき散らしてつくるものではないと思います。電気がなくても生きていけますが、もちろん電気のある便利さや安心感も否定できません。

そのありがたいエネルギーをどうつくり、どう受け取るかを、みんなで考え直す時期が来たんだと思います。

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宮城県の山まで行って、大黒柱になる木を伐ってきたそうです。千佳さんは「山の木から、住まいを守る木に生まれ変わった」と、思わず笑顔に

冒頭から説明しているように、再生可能エネルギーの「売電」は設備を大きくすればするほど、確実に儲かる仕組みになっていて、その負担は一般の人たちに押しつけられています。だから、自分で発電して自分で使うこと。「売らない、買わない、関わらない」の3原則でオフグリッドすることに意義があるのです。

オフグリッドは、知らないうちに誰かにまかせていたことを、自分たちの手に取り戻していくこと。「もっと欲しい」ではなく「足るを知る」暮らしへ、あなたも第一歩を踏み出してみませんか?

(Text: 新井由己)

新井由己(あらい・よしみ)
1965年、神奈川県生まれ。フォトグラファー&ライター。自分が知りたいことではなく、相手が話したいことを引き出す聞書人(キキガキスト)でもあり、同じものを広範囲に食べ歩き、 その違いから地域の文化を考察する比較食文化研究家でもある。1996年から日本の「おでん」を研究し、同じころから地域限定の「ハンバーガー」を食べ歩く。近著に『畑から宇宙が見える 川口由一と自然農の世界』(宝島社新書)、『THE BURGER MAP TOKYO 東京・神奈川・埼玉・千葉』(監修・執筆/松原好秀 撮影/新井由己 幹書房)などがある。
http://www.yu-min.jp