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太陽光発電の収益で福島の子どもたちを支援!人口3万人、神奈川・大磯町のご当地電力「大磯エネシフト」

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大磯教会の敷地に設置した発電所は、2015年1月に稼動し始めたばかり

わたしたち電力」は、これまで“他人ごと”だった「再生可能エネルギー」を、みんなの“じぶんごと”にするプロジェクトです。エネルギーを減らしたりつくったりすることで生まれる幸せが広がって、「再生可能エネルギー」がみんなの“文化”になることを目指しています。

全国をめぐってエネルギーをテーマに取材している、ノンフィクションライターの高橋真樹です。

全国で起きている自然エネルギーを活用したユニークなまちづくりの様子は、新刊『ご当地電力はじめました!』(岩波ジュニア新書)でも取り上げています。

さて、今回みなさんにご紹介するのは、ロングビーチで有名な神奈川県の大磯町で活躍するご当地電力です。福島県出身の岡部幸江さんが中心になって立ち上げた「大磯エネシフト」では、売電収入を福島の子どもたちの保養に活かそうという素敵な取り組みを始めています。首都圏の自然エネルギー事業を、福島の支援につなげる斬新な取り組みを続ける岡部さんの話を伺ってきました。
 
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岡部幸江さん(2015年1月25日に行われた2号機の点灯式にて)

ふるさと南相馬への想い

岡部幸江さんのふるさとは、福島県の南相馬市です。海沿いの南相馬市では今も、原発事故の影響で一部の地域が立ち入り禁止になっています。

岡部さんは、あの3・11による原発事故が起きるまで、すぐ近くにあった原発に対して危機感はなかったといいます。でも、放射能の影響で子どもの頃から見慣れてきた自然や動物、そして地域の人々が、傷ついてバラバラになって行く様子に胸を締めつけられました。

こんなこと、二度と起こしてはいけない。福島に生まれ育った人間だからこそ、よりいっそう変えるために何かしなければと思いました。

それまでの私は家電の使い方もわからない主婦だったので、エネルギー事業を立ち上げるようになるなんて思いもしませんでしたが、原発のない社会にするために自分にできることは何でもやろうと強く思いました。

震災当初は、福島に支援物資を送る活動をしながらも絶望的な気持ちになっていたという岡部さんですが、地域で食や環境の取り組みをしてきた人たちが始めた勉強会や講演会などに参加するにつれて、具体的にやるべきことが見えてきました。

メンバーの中には、法政大学教授の舩橋晴俊さんがいました。舩橋さんは、環境社会学が専門で、水俣病などの公害や原発が社会もたらす問題などを詳しく知っていました。

舩橋さんの「お金も土地もないけれど、志がある市民がつくる市民発電所のモデルを模索しましょう」と呼びかけに、岡部さんらは応えました。
 
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岡部さん(前列中央)を挟んで左側が舩橋晴俊さん。右は環境エネルギー政策研究所の飯田哲也さん

残念ながら、舩橋さんは昨年8月に亡くなりました。前日まで市民発電所について連絡をとっていた岡部さんは、改めてその存在の大きさに思いを馳せたと言います。

理想を語るだけでなく自ら行動される方でした。

舩橋先生は環境エネルギー分野の専門家として、3・11以降は各地を飛び回る日々でしたが『ここでは私も地域住民の一人です』と地元大磯の市民電力にも熱心に取り組み、エネシフト設立までの協議会で、そして設立後は理事として理論、実践の両面で支えてくれました。

1号機を設置したときには本当に喜んでくれたので、2号機の完成も見てもらいたかったですね。これから『自然エネルギーは地域のもの』という先生の遺志を継いで行けたら良いと思います。

人口3万人の町から小さなモデルを!

2013年12月、岡部さんたち11名の有志で小さな発電所づくりをめざす一般社団法人大磯エネシフトを設立します。人口3万人の町から、町ぐるみで自然エネルギーを広めるモデルづくりが始まりました。
 
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マンションの屋上に設置した1号機

現在までに大磯エネシフトが設置した発電所は2基。まずは2014年4月にマンションの屋上に1号機を設置、そして2014年末にはカトリック教会の庭にも2号機を設置しました。

出力はいずれも15キロワットで、2基合せておよそ一般家庭8軒分の電力を生み出しています。岡部さんたちが教会に発電所をつくりたいと話を持って行ったとき、教会の庭ではちょうど松食い虫に荒らされた雑木林が鬱蒼としていて、そこにゴミが不法投棄されるような状態でした。

そこで、この林の整備を合せてやってくれるなら、と無償で貸してくれることになりました。

設備が完成して、今年の1月末に行った発電所の点灯式には、大磯町の町長、副町長を含めて50人ほどが参加しました。土地探しや交渉に奔走してきた岡部さんは言います。

紆余曲折はありましたが、カタチになったのでほとんどの方が喜んでくれています。

ご近所の方も、景観が良くなったし、ゴミも捨てられなくなったので反応も良いですね。何より売電収入が福島の支援になるということを喜んでくれている人が大勢いらっしゃいます。

これから案内板を設置したり、緑化をしたりしてきれいにしていこうという計画もあります。 

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パネルを設置した大磯教会

カトリック教会と協力して市民発電所をつくったのは、世田谷みんなのエネルギーというグループが先でした。

大磯では、その世田谷の取り組みに影響を受けて実施したのですが、今度は大磯にも周辺のグループから相談に来るようになってきました。ひとつひとつの取り組みは小さいのですが、こうして成功モデルを積み上げて行くことで、確実に他の地域にも影響しているように感じます。

自然エネルギーで福島の子どもたちを支援

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ビーチで思いきり遊ぶ福島の子どもたち

発電所を設置したカトリック大磯教会では、2012年から毎年、福島の子どもたちの保養プロジェクトを実施してきました。

今回の発電所の設置も、その子どもたちの支援を持続的にできる仕組みをつくろうという流れから始まったものです。保養では毎年2回ほど、20人から40人くらいの福島各地の小学生を中心に3泊4日で招いています。

放射能の影響によって外で存分に遊ぶことができない子どもたちにとって、ロングビーチもある大磯で思い切り遊べるだけでも貴重な気分転換となっています。また、希望者には病院で健康検査も受けてもらうサポートもしています。

当初からこの活動に関わっていた岡部さんは、震災から時間がたち寄付金が減って行く中で、毎年一定の支援金が入る仕組みをつくることが大事だと感じていました。岡部さんは言います。

売電収入で寄付をすると言っても、大きな金額ではありません。初期投資を回収するまでは売電収入の1割ほどしか出せないので、年間5万円から10万円ほど。でもなるべく多くの支援に回せるように頑張っていきたいですね。

この活動を続けてきたメンバーにとって、保養を続けている大磯教会につくった発電所は福島の原発事故を忘れない、というシンボルになっているのです。
 
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保養プロジェクトのお絵描きワークショップ

小さい取り組みの限界をどう越えるか?

ただこうした市民発電所づくりは、国が定めている固定価格買取制度という法律で、自然エネルギーを有利な価格で買ってくれることで成り立っているものです。

その買取価格は年々下がっているので、大磯のような小規模の取り組みは同じような仕組みを続けて行っても採算が合わなくなってしまいます。

岡部さんは、今後の活動について小さなグループが個別に動くだけでなく、行政や神奈川県内の他のグループと連携して、活動の幅を広げていきたいと考えています。

大磯町は、人口3万人程度の小さな町ですが、震災後に、電力の供給先を東京電力から新電力(PPS)に切り替えたことで、電気代を400万円削減しました。

また、2014年末には町議会が1年以上かけて議論してきた再エネ条例ができました。これは自然エネルギーを積極的に活かそうという理念条例なので、細かい内容はまだこれからですが、大きな方向性を決めたという意義があります。

そしてこの条例ができたことで、町は今年の4月から環境課を設立して自然エネルギー推進を掲げるなど、熱心な取り組みを始めようとしています。亡くなった舩橋晴俊さんも、この条例を議論する際にアドバイザーとして深く関わりました。
 
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2号機のパネルから教会をのぞむ

大磯エネシフトが立ち上がり、小さな発電所をつくったことをきっかけに町が動き、条例もできました。岡部さんは地域の関心の高まりを感じています。

行政とはこれから一緒に何ができるか話し合っていきます。小さい自治体だからこそ役場の人の顔も見え、つながりをつくることもできますから。

エネルギー事業では、規模が小さいことで壁に当たってしまうプロジェクトも多いかもしれません。

でも大磯町では逆に、小さいからこそ新しい展開ができそうな予感がしています。3万人の町からどんな変化をつくり出していけるのか、そしてそこからどんな広がりが誕生するのか、ぼくはいまからワクワクしているんです。

(Text: 高橋真樹) 
 
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高橋真樹(たかはし・まさき)
ノンフィクションライター、放送大学非常勤講師。世界70カ国をめぐり、持続可能な社会をめざして取材を続けている。このごろは地域で取り組む自然エネルギーをテーマに全国各地を取材。雑誌やWEBサイトのほか、全国ご当地電力リポート(主催・エネ経会議)でも執筆を続けている。著書に『観光コースでないハワイ〜楽園のもうひとつの姿』(高文研)、『自然エネルギー革命をはじめよう〜地域でつくるみんなの電力』、『親子でつくる自然エネルギー工作(4巻シリーズ)』(以上、大月書店)、『ご当地電力はじめました!』(岩波ジュニア新書)など多数。