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“学び合う場”が世代をつなぐ。一年で150件のワークショップを担当した「bond place」小笠原祐司さんに聞く、ワークショップデザインの基本とは

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みなさんはワークショップを企画したことがありますか?

一口に“ワークショップ”と言っても、その目的や切り口によって、内容は全く違うものになります。

例えばテーマやプログラムの内容はもちろん、「誰をゲストに呼ぶのか?」「どんな人たちに参加してほしいのか?」というのも重要なポイントになるでしょう。では、どのようにすれば、その場に適したワークショップをつくることができるのでしょうか?

今回ご紹介する「bond place」(2015年NPO法人化予定)代表の小笠原祐司さんは、山梨県と東京都立川市を中心に、人と人とをつなぐ多様なワークショップやファシリテーション、人財育成のコンサルティング、NPO事業支援などを実施。

子ども向けのものから大人向けのもの、市民団体向けのものや行政・企業向けのものなど、さまざまなセクターを対象にしています。

そんな、ワークショップやファシリテーション、研修などを幅広くデザインしている小笠原さんに、年齢や業態の枠や形に縛られない多様なワークショップのつくり方を伺いました。

誰が対象であってもワークショップの軸は変わらない

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子どもにも選挙の仕組みを理解してほしいという思いで開催した「子ども模擬選挙」

「bond place」のウェブサイトを覗いてみると、次のように活動概要が紹介されています。

「bond place」は企業・行政、NPO・ボランティア団体、地域・学校・PTA団体などに、研修、対話、ワークショップ、ファシリテーションなど様々な手法を使い、こどもから大人まで多様な人たちの「人と人とがつながり、学び合う場づくり」を行なっております。

小笠原さんが関わっている場を具体的に挙げると、例えば、山梨県立図書館で開催した、子どもたちがまちづくりを体験するイベント「みらまち」や、「ダンボールハウス&村を皆でつくろう!」、「皆で歌うコンサートの場づくり」といった、子どもたちが対象のものがあります。
 

また、NPOや地域を対象にしたものでは、NPO法人フードバンクやまなしの組織サポート、地方での協働のつくり方を考える「第二のふるさとカフェ in 南三陸」を開催。

さらに、企業や行政向けには株式会社かんぽ生命での役職者研修、東京都や山梨県市町村職員研修所での講師なども開催しています。
 
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株式会社かんぽ生命での役職者研修の1コマ

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「特別研修 第1回男女共同参画社会形成研修」では、大人数での対話型ワークショップを実施

なぜ、小笠原さんはこれほどまでに、対象も業種も異なるセクターに対してのワークショップを企画することが可能なのでしょうか。

“教育”や“学び”を柱にすることは重視していますが、子ども向けでも大人向けでも、軸は同じで、たいした違いはないんです。

どうしてワークショップを開くのかという“テーマ”や、誰に参加してほしいのかという“ターゲット”、そしてワークショップ後に参加者がどんな状態になってほしいのかという“ゴールのイメージ”、ここの違いがワークショップの違いになります。

だから、主催の方にじっくりと話を聞いて、思い描くワークショップの姿を的確に捉えることはとても重要です。

また、参加者の状況を踏まえ、ワークショップの進め方をしっかりとイメージしてから本番に臨むことが大事だと小笠原さんは話します。

どんな切り口で、どんなトークで、どんなアクティビティから入れば参加者がすんなり場になじむことができるか、また、「その手があったか!」と目からウロコを落とさせて、その後のワークにはいっていけるステップを踏む。それはしっかりと考えます。

あと、ワークショップはゴールを出すものでなく、プロセスの中で気づきや学び合いを生み出すことだということ。

「最近ワークショップをやれば大丈夫!」という考えがあるかもしれませんが、目的によっては、講義型の方がいい時もあります。それを、話を聞きながらニーズに合わせて再提案もしていきます。

例えば、「未来の街を想像しよう」というワークショップを子ども向けに行うのであれば、まずはイメージしやすい、身近で具体的なところから入るようにするのだとか。
 
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子どもたちにいきなり「将来、暮らしたいまちをレゴでつくってみて」といっても、なかなか難しいですよね。

まず出発点を「自分の家や近所にある建物を思い出して、レゴでつくってみよう!」という具体的なところに持ってきて、そこから抽象的なものへとつなげていくと戸惑いがありません。

逆に対象が大人で、街についての情報をある程度みんなが共有できている状態なら、抽象的なものから始めても成立するかもしれません。

「スマートフォンの使い方を子どもと考える」というテーマのワークショップでは、主催者の方に「楽しく学べるようにしてほしい」と依頼されたそう。

でも、一言に“楽しい”といっても、どういう状況かよくわからなかった小笠原さんは、そこを丁寧に深掘りしていきました。

すると、主催者の方が、警察の方が教える方法を堅苦しく感じているということがわかってきたんです。また、保護者の方も、子どもにスマートフォンの使い方をどうやって教えていいのか迷いがあるという状況も見えてきました。

そこで、 「楽しくスマートフォンの使い方を子どもと考える」ではなく、「家に帰ってから家族みんなでスマートフォンの使い方を話し合える」にテーマを変更。

内容も、一方的に話を聞くのではなく、親子が入り混じって、スマートフォンのいいところやよくないところについて意見を出し合うようなワークショップにしました。

参加している大人と子どもがそれぞれの立場から考えていることや気づいたことを話しやすい状況をつくることで、ワークショップが自分ごとになり、スマートフォンについての考え方の違いも世代を越えて理解し合うことができるのではないかと思っています。

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子ども向けにワークショップをするときにはこんなアプローチ。対象者と同じ目線を持つように心がける

さまざまな経験によって視野が広がった

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では、小笠原さんはなぜ「人と人とがつながり、学び合う場づくり」を行うようになったのか。その原体験は、高校生の頃まで遡ります。

当時、僕はあまり勉強ができなくて、大学受験に失敗して予備校に通うことになったんですが、そこで出会ったある英語の先生との出会いから、いろいろなことが始まっているように思います。

それまで、勉強に苦手意識のあった小笠原さんが、その先生の授業で初めて英語がおもしろいと感じるようになったそう。それはいったいどんな授業だったのでしょう。

先生の授業の特長的なところは、みんなで話し合わせたり、意見を言わせたりするところでした。今思うと参加型のワークショップ型の授業スタイルだったんですよね。

雑談が多い先生で、よく脱線するのですが、その内容を含めて、とてもおもしろかったです。当時の僕は、そもそも何を質問すればいいのかも分からないくらいでした。

でも、先生の授業を受けるうちにだんだん英語が理解でき始めて、一度興味が沸き出すと少しずつ成績も上がってきたんですね。そうなると、相乗効果で勉強全般がどんどんおもしろくなっていきました。

そのときに感じたのは、「僕だってやればできるんだ!」ということ。それまで「成績が良くないのは自分自身に問題があるからだ」と考えていた小笠原さんは、「勉強には本人のがんばりだけでなく、周りの環境を整えることも大切なのでは?」という問いに気がつきます。

そして、“やればできる”ということを、勉強でつまずいている学生たちにも伝えたい。そんな思いから、英語教師を目指すようになります。

その後、1年浪人した後に都内の大学へ入学。教師を目指す小笠原さんは、子どもたちに触れる機会をもちたいと、子ども向けのイベントを手がけていた学生サークル“どろんこ”に参加。

また、海外留学も経験し、人種も国籍も多様な人たちとの出会いや、ものごとをはっきりと言う外国文化との触れ合いから、さらに視野が広がりました。

そして、大学院に進学。そこでは自ら英語の授業を企画して授業を担当するなど、「どうすればもっと楽しくて学びの多い授業をつくれるだろうか」ということをよく考えていたそうです。
 
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勉強が苦手だった小笠原さんですが、いまでは大学で教鞭をとることも。法政大学では学生たちに自身のストーリーワークショップについて解説しました。

広い世界を見るために、就職という道へ

大学や大学院での経験を積み重ねていくうちに、英語の教師に限定せず、もっと広く世の中を見たいと思うようになった小笠原さん。人財育成を手がける「ウィルソン・ラーニング ワールドワイド株式会社(以下、WLW)」に入社します。

そこでは「社会で働く厳しさを教えられた」という小笠原さん。

ひとつの物事に時間をかけられない。分かないことがあっても、まずは自分で解決の道を探さなくてはならないなど、会社から求められている期待値の高さと、自分のレベルとのギャップに苦労しました。

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そんな状況の中でも懸命に仕事をこなしていた入社2年目、上司に連れられて参加した「NPO法人ミラツク」のイベントで大きな衝撃を受けたそう。

ミラツクのイベントには「READY FOR?」の米良はるかさんや、「一般社団法人ワカツク」の中村憲和さんなどが来てらっしゃいました。

すごく熱い人がたくさんいる会場で、僕は社会課題を自分ごとにしている人がこんなにたくさんいるのかと感動しました。彼らのことを、かっこいいなと感じるようになったんです。

職場では、取引先企業へのコンサルティング案の企画から提案までを少しずつひとりでこなすようになっていた小笠原さん。

自分が本質的にやりたかったことを忘れないようにするために、休みの日を使って、子ども向けのワークショップを手がけ始めます。
 
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“会議のやり方”について、ワークショップスタイルで学び合いました。山梨の多様な方々が参加!

大学時代、“どろんこ”での活動をワークショップとは呼んでいませんでしたが、改めて、僕がやっていたことはワークショップだったんだと気がつきました。

そこからは、ワークショップについて本やネットで調べまくって、当時東京大学でワークショップの研究をしていた舘野泰一さん(※現在は立教大学助教授)に会いに行きました。

舘野さんにワークショップの企画の立て方や進め方について話を聞くうちに、自分に足りないものがたくさんあると感じた小笠原さんは、ワークショップを論理的に身につけるために、青山学院大学の「ワークショップデザイナー育成プログラム」の受講を決意。

その後WLWを辞めて、「bond place」としての活動を本格化させます。

大学生の頃から子ども向けのワークショップは手がけていたし、会社で働いていた頃は企業向けの研修などをしていましたから、それらの領域に対するアプローチはできるような状態になっていました。

そこから一緒にワークショップをつくっていた大学生らと一緒におもしろいイベントを考えてみようと企画を進めて行くうちに、関心事が似ている人や地域の人たちとの縁がどんどん広がっていき、いまの「bond place」ができあがってきたのだと思います。

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2014年4月から本格的に動きはじめた「bond place」。1年目にして、年間150件ほどのワークショップをこなすことになりそうなのだとか。

幅広くワークショップに携わらせていただいているので、だからこそ見えてくるつながりなどもあります。

子ども向けにやったワークショップのアイデアは、大人向けにアレンジすることができるし、その逆もまた可能です。ワークショップを通じて多様な世代をつないで、大きな学びのコミュニティをつくっていきたいと思っています。

独自のスタンスで、多様性のあるコミュニティを紡ぎ始めた「bond place」。その活動がこれからどのように広がっていくのか、注目したいと思います。