菜央さんが最近お引っ越しした「トレーラーハウス」。家賃や現在の日本の住宅事情から「オフグリッド」しました。
「わたしたち電力」の公式ウェブサイトがリニューアルをして、ウェブマガジン「OFF GRID LIFE」になりました。
わたしたち電力の“言い出しっぺ”のグリーンズ代表・鈴木菜央(以下菜央さん)と“プロデューサー”の暮らしかた冒険家・伊藤菜衣子(以下菜衣子さん)が、「OFF-GRID LIFE」が新創刊した理由や目的を語る対談。
後編は「エネルギーを減らしたりつくったりする事で生まれる、幸せ」を実際に体験した2人の冒険談を語り合っていただきます。
モノや暮らしを選んできた結果、意図せずオフグリッドしている
みんながエネルギーを減らしたりつくったりすることから、面白いプロジェクトが誕生しています。そんな面白い実験が今日本中で行われている中、「とにかく面白くて人とつながれて、楽しいからやる」をモットーにはじまった「OFF GRID LIFE」。
オフグリッドをめぐる菜央さんと菜衣子さんの暮らしは、エネルギー問題に限らず、斜め上いく暮らしの発見が多々あるようです。
菜央 なぜ菜衣子が札幌に居るのか、そこでなにをしようとしているのかわからない人が多いと思うんだけど。
菜衣子さん 札幌はね、坂本龍一さんの無茶ぶりで住み始めたの。「君たちの暮らしはアートだ!」って言われて、札幌国際芸術祭のアーティストとして来たの。
この2年くらいずっと札幌を視察して、わたしたちはどういうところに住むのかと、ふらふら見て歩いてた。そして今年の5月18日から札幌に居るのかな。
菜央 見て歩いたのは、札幌のどこに住むかって検討しながら歩いてたの?
菜衣子さん そう、どこに住むかもだし、どんな人がいるのかもだし、どんな資源が余っているのかを見て回った。たまたまわたしの元実家が札幌郊外に空き家としてあって、そこで暮らす事になったんだけど。
暮らしかた冒険家は「札幌国際芸術祭」で暮らしを出品中。
菜衣子さん 札幌=めっちゃ寒いみたいなイメージがあったから、エコハウスにすることは必然と考えていて。
札幌のサラリーマンは、冬に会社から年間10万円暖房手当っていうのが出るのね。北海道の冬は、灯油代が一タンク(北海道の一般的な家には屋外に灯油を入れておく大きなタンクを常備していることが多い)4万円くらい、それを一冬でだいたい3回くらい入れるから、合計約12万円かかる。
でも、わたしたちはフリーランスだから暖房手当なぞない。誰も暖房手当払ってくんない(笑)。温暖な地域に住むよりエネルギーコストが10万円以上上乗せされちゃうのが如実なわけ。
熊本の町家では薪ストーブ使っていたけど、熊本でも薪、たくさん使ったのに、北海道だったらあの何倍薪が必要なんすか?!…って気持ちにもなるでしょ。そうなったとき、暖房費が少なく済む、断熱やエコハウスに向かっていった。
暮らしかた冒険家が今年の6月まで暮らしていた築百年の熊本の家
菜衣子さん 熊本の家も築100年の古民家を改修して住んでいたからめちゃくちゃ寒くて、3年間暮らした結果「家が暖かいことは正義だな」って思うようになっていたから、築30年の札幌の空き家をエコハウスにしてエネルギーを少なく、めっちゃ快適に過ごせる家にすることが第一だと思った。
あとね、うちから徒歩3分くらいのところが「市街化調整区域」っていうのに入るの。それって「もうインフラとか届いてないから特別な理由が無い限り家を建てられません」なエリア。歩いて3分先までインフラが到達していないってことは、我が家は20年後どうなっちゃうの?って。
そうなった時に「あれ?もしかして、いままでエネルギーのことを考えていたけど、インフラ自体のことも考えなきゃいけないんじゃないかな」と思ったの。
それで急にオフグリッドに興味が湧いた。日本でオフグリッドっていうのは、イコール電気のことと思われがちだけど、生活に関わるエネルギーすべてだよね。
上下水道、電気、ガスなどを含めてエネルギーをどういう風にデザインしていけばいいんだろうって、それが気になり出したの。
すごくオフグリッドな生活ってすごくリアリティがある。札幌にきてリアルになった。まぁ、世の中的には全然リアリティないと思うんだけどね。ちょっと早過ぎるリアリティがわたしに降りてきた(笑)。
わたしはこの数年間、美味しい、うつくしい、楽しいとかを軸に、モノや暮らしを選んできた結果、意図せずオフグリッドしていることが多くなってきている。
友だちから大豆をもらって、自ら味噌をつくることだって「オフグリッド」だと暮らしかた冒険家はいう。
とにかくシンプルな暮らしをしていきたい
菜央 あのー、僕のトレーラーハウスの暮らしについて説明したいんだけど。
菜衣子さん 語ってください(笑)。
菜央 僕は「家賃を払い続けるのがバカバカしい」っていうのが第一かな。どうやったら、僕の夢のマイホームが持てるかな、って妄想したの。
35年ローンを払い続ける→無理無理、現金で買う→無理無理、っていう(笑)。残った選択肢は中古の家を買うか、セルフビルドやハーフビルドで建てるか、トレーラーハウスに住む、っていう。
菜衣子さん そこに「トレーラーハウスに住む」って入るんだ(笑)
菜央 なにより、今賃貸で暮らしている集落がめちゃくちゃ良いの。人が。この集落を離れたくなくて、中古を探したけれど中古物件がないのね。それか、農家か悲しいくらい細分化された分譲地しか残ってなかった。
農家は農地付きだから農家じゃないから無理だし、せっかく美しい風景の田舎なのに悲しい感じの分譲宅地でこれはありえない。それで、土地買ってトレーラーハウスに住むしかないな、と。
それと、とにかくシンプルな暮らしをしていきたい、とも考えていて。それと家を買うタイミングと重なった。
そこでやっぱりタイニー(小さい)ハウスとして、トレーラーハウスしかないんじゃないかな、と。
アメリカで今ものすごく注目をあつめてるタイニーハウスムーブメント(小さい家に住むムーブメント)をみて、「小さい家に手を入れながら住むってすごくいいな」って。
とにかくモノを一気に減らして、吟味して、自分の大好きなものだけに囲まれて生きていく。
菜央 狭いから自動的に光熱費も安くなるし、ちっちゃいってことは、ちょっとしたリノベで効果が高い。メンテもしやすいし、掃除もしやすい。
タイニーハウス、いいな、いいなーって言っていたら、千葉に住んでいる友だちが「うち、住んでたタイニーハウス売りに出すよ」って訊いて、見に行ったものすごいいい感じなの。
でも僕は決断できず、うじうじしていたら、妻が「早く買っちゃいなよ!」と僕の背中を押してですね、購入することになった。
ということで、土地を現金で買い、トレーラーハウスをオートローンで買いました。車輪ついているからオートローン(笑)。
借金も心配事も小さくして、楽しさや家族との時間は大きくして暮らしていきたい。それが実現したね。
ガマンしないということが絶対人間の進化につながるはず。
グリッドから離れて、新たなグリッドを見つけ出したい
新しい暮らしは「ガマン」の必要がない、気持ちのいい暮らし、と2人は言います。
そんな新しい生活を実践しているひとたちが、本当に「萌える」こと、やってみたいこと、できそうなことをキャッキャ楽しくマガジンとして伝えていくのが「OFF GRID LIFE」。
だって、再生可能エネルギーが「地球に優しい」より、「貴方と今晩の夕飯がとーってもおいしくなる」のほうが嬉しいし、やってみたいと思いませんか?
菜央 オフグリッド。元々の英語は「Off The Grid」でグリッドから切り離して生きていくってことなんだけど、僕たちが言っているオフグリッドってもう少しライトなところまで含んでいるよね。
大きな社会システムの中に依存しないで、なにかをするってことなのかな。気がついてみたら、俺とか都会で暮らしていたときは、でかけた時に喉か湧いても周りは他人ばかりで水はお金を出してペットボトルを買わないと手に入らない。消費はすべてコンビニと大手スーパー。お金がどんどん大企業に集まるようになっているし。
グリッドにつながっていなければなにもできない、生きる力、みたいなものがいつの間にか失ってしまったような生活をしていた。消費マシーンみたいにね。そういう大きな依存のしくみに頼って生きているから自分ひとりじゃどう生きていったらいいかわからなくなった。
僕たちが生きていくためには、どういうエネルギーが自分には必要で、どんな食べ物を食べて生きたら自分がハッピーなのか、そしてどうやって、みんなとのつながりを取り戻していこうか。依存関係を考えなおして、自分の足で立つことを考えたい。
2012年4月、green drinks BOSOで行われた、「春の中華祭り」中華料理は火力が強くないと美味しくない! と、美味しい中華を食べるためにロケットストーブをみんなでつくりました。(菜央さん)
菜央 「Off The Grid」という言葉より、僕たちはもうちょっと緩く、「電気で炊いていたご飯を土鍋で炊いて、電気からオフしてみる」とか「パンケーキをロケットストーブで焼いてみる午後」とか、まずは暮らしの一部をじぶんでやってみる、楽しんでみる。
そうすると人と人が協力し合わなきゃいけないから、「オフグリッド」っていうのは「みんなでつながる社会にしようよ」って意味も内包しているんだと思う。
菜衣子さん すべてがスーパーで買えちゃうし、電力会社が自分のすぐそばまで電気を届けてくれちゃうから、不便とか助けてもらわなきゃいけないこととか、ことごとくなくなっちゃっているじゃない?
人と恊働する必要は無いから、孤独になっていく。もちろん、田舎も人付き合いがめんどくさいよ。だから、今回の話は「田舎に帰ろう」とかそういう話しではなく、どういうつながり方をつくっていくと生きやすくなっていくのかっていうことでもあると思うんだよね。
つながりの再定義であり、再構築。が、わたしたちの思っているオフグリッドだね。
菜央 田舎も都会ももう一度、グリッドをつなげ直す必要があるのかも。
菜衣子さん だからオモシロイ暮らしをしている人って、田舎にいながら田舎とそんなにつながっていないとか、本当に必要なところとしかつながっていないと思う。
菜央 「隙間」だよね。「都会の中」の「都会っぽくないこと」とか、「田舎の中」の「田舎っぽくないこと」を見つけたりつくり出したりしている。
菜衣子さん 「OFF GRID LIFE」。わたしは、萌えるか萌えないかっていうことを主軸にテーマを決めています。
あと暮らしかた冒険家自体がそうだけど、マーケティングとかは一切してないし、自分が本当に楽しいと思うかどうかで色々進めてみる。
わたしたちは暮らしかた冒険家で、たまたま無茶なセルフリノベとかしていて(笑)建築家業界の人やリノベ業界の人とか、小商い(スモールビジネス)を面白くやっている人とかが周りにいるから、そういうのを引っ張り出してきて見せていくみたいなことを今回どんどんしていく。色んなジャンルでね。
今回わたしが3年間熊本の古民家で暮らしていたけど、色々やってみて、ガマンして無理してやっていることって、いっぱいあるなぁって思ったんだよね。やってみないとわからないから、やってよかったんだけど。
だからこそ本当に竹内さんと森さんが建てたエコハウスを見た時にちょっとビックリした。
新築で建てる場合、施工費が膨大にかかるから、そこでの違う意味でのガマンが必要になるんだけど、ここには可能性があると思っているから、そこを諦めない。
ガマンしないということが絶対人間の進化につながっていくと思う。そういうものをどんどん知りたいな、と思っています。
「ガマンしない」に貪欲な家の記事に出てくる奈良県橿原市にある、木灯館(ことぼしかん、2012)。日本の伝統的な土壁+竹小舞の壁をパッシブハウスレベルの高断熱・高気密仕様に進化させたもの(写真 KEY ARCHITECTS)
菜衣子さん そして菜央くんがトレーラーハウスに住んで3年後なにを思っているか。わたしはそこがすごく気になる。
菜央 いやたぶん「普通に家買うのが一番いいよ」って言ってる、と思う(笑)
菜衣子さん 話しが脱線するけど、暮らしかた冒険家の暮らしを見て憧れた夫婦二組が離婚の危機になっているらしい。もうなんとも言えない気持ちになるよね…。
菜央 (爆笑)…でも、わかります。
菜衣子さん だから、何事もやり過ぎはよくないなぁ、と。
菜央 楽しいから俺たちはやるけど、あなたもやりたかったら、ぜひどうぞ。
「これいいから、やんなよー」って誘うっていうよりは、死ぬほど楽しそうな様子をどんどん伝えていけばおのずとやりたくなるだろうし、まず、俺らが楽しむのが大事だよね。
菜衣子さん 今回はみんなを誘わない(笑)。自分たちが一番楽しめることを、垣間見てもらえれば。
菜央 楽しいよ!
エネルギーの話から、暮らし・働き方・価値観まで派生していった「OFF-GRID LIFE」対談。
プロデューサーの伊藤菜衣子さんは「OFF-GRID LIFEは“脱ストイック”、“脱貧乏くささ”」と言います。現状のエネルギーに取り巻く価値観では、正直、楽しくない。自然エネルギーも「良い事だからやろうよ(しんどくても)」という、押し付けがましいエコ、という立ち位置だと広がらない。
でも、いいエネルギーが「美味しくて」「楽しくて」「文化」であることを知ったら、みなさんはどうでしょう?
天照大神ばりの固定概念を岩戸から出すべく、楽しさを集めてコレクションしていくのが「OFF-GRID LIFE」。これは夢ではなく未来。そう、この対談を読んで「面白そう」って思ったそのときから、あなたの「OFF-GRID LIFE」は始まります。
(文/アサイアサミ)