ぼくがやりたいのは、融資を通じて貧困をなくすことなんだ。
1口25ドル(約2400円)から発展途上国の起業者に融資できる、アメリカ発のオンラインのマイクロクレジット「Kiva.org」。ウェブ上で起業家を選び、直ちに融資できるカンタンさがウケて、開始から4年で世界50カ国の起業家に9000万ドルの融資を行っている。マイクロクレジットと言えばムハマド・ユヌス博士がバングラデシュで設立したグラミン銀行が有名だが、Kivaはウェブの力でマイクロクレジットを身近なものにした。
greenz.jpでもこれまでKivaを取り上げてきたが、代表のマット・フラナリー(Matt Flannery)氏が「第5回ソーシャル・アントレプレナー・ギャザリング」出席のため来日。マット氏本人に直撃インタビューを敢行したので、その様子をお伝えしたい。
ポイントは「パーソン・トゥ・パーソン」
短期間でワールドワイドな事業を実現したマット氏は、さぞアグレッシブな人物では。そんな先入観とは裏腹に、現れたのは穏やかな物腰の好青年だ。
「2004年にウガンダを訪れて、現地の貧しさと、懸命に生きる人々の希望と夢に出会ったんだ。そうして、自分も何か始めようと思ったのさ」
Kivaの最初の融資先は、7人の子供を抱えるウガンダの未亡人女性。彼女は道端で魚売りを始めたが、仲買人から相場の3倍もの値段で魚を買わされ、生活は苦しかった。
「自分でビクトリア湖に買付けに行けば、仲買人を通さずにすむ。でも彼女は貧しくてビクトリア湖までのバス賃さえ払えなかったんだ! そこでKivaは500ドルを融資した。彼女はバスに乗って、融資を元手に安い値段で仕入れることが出来たんだ。彼女のように、貧困に直面している人々はお金に事欠き、情報から遮断され、融資の機会もない。しかしたとえ少額でも、チャンスがあれば素晴らしいビジネスを立ち上げられる」
融資に担保は不要だが、しかし貸し倒れはほとんどない(返済率は約98%)。この理由をマット氏は「貸し手と借り手がウェブを通じてパーソン・トゥ・パーソン、つまり顔の見える関係でつながっている。信頼が担保の代わりになっている」と話す。
マイクロクレジットでは貧しい人を施しの対象と見ずに、生きる力はその人の中に既にあると考える。本来人に備わっている尊厳や友愛を、施しではなく融資によって引き出すのがマイクロクレジット、そしてKivaの優れた点だ。
あと数ヶ月で融資額が1億ドルを突破しそうなKivaだが、現時点ではまだ融資を必要としている人々の2割にしかアクセスできていないという。「貸し手は全世界に50万人いるけれど、もっと気軽に融資できるように1口の額を25ドルから下げたり、twitterやFacebookとかから融資できるようにしたいね」。融資を拡大するために「より多くの人にKivaを知ってほしい」とマット氏は考えている。
アメリカ国内への融資も実現。その思いとは
マット氏にはKiva設立当初からのある思いがあった。それはアメリカ国内の貧しい人々に融資することだ。
「アメリカは貧富の差がとても大きい。だから何とかマイクロファイナンスを導入したかった。そしてついに今年、それが実現したんだ。しかもサンフランシスコ在住の起業家に融資したのはケニア人! これからは先進国から途上国に融資する、という先入観がくつがえるだろうね」
しかし一方で、アメリカの融資者の一部がこの試みに猛然と異議を唱えた。
「抗議する人たちは『自分たちは途上国の起業家に融資するのであって、恵まれたアメリカの起業家に融資することはKivaの理念に反する』と言う。そこでKivaの中で融資の是非について投票したら、過半数の人が賛成してくれたけど、反対も多いので、今現在はアメリカ国内への新規の融資を見合わせることになっているよ」
反対論拠の一つに、アメリカの起業家1人への融資額で途上国の起業家数人に融資できるというものがある。費用対効果が低いし、そもそもアメリカ人は既に社会保障に守られているというわけだ。
しかし日本の「派遣村」を見れば分かるが、先進国でもセーフティーネットは綻びる。そして、低賃金雇用で人が粗末に扱われているという現実に先進国も途上国も変わりはない。誰もが天与の才を生かして生計を立てるために、マイクロクレジットが果たす役割は大きいはずだ。Kivaとマット氏がこの難問に今後どう応じるかは、私たちにも大きな参考となるだろう。
夢は「発展途上国という概念をなくすこと」
インタビューの最後、「マットさんが思い描くのはどんな未来ですか?」という質問に氏はこう答えた。
「発展途上国という概念がない世界だね! 貧困から発展途上という概念が生まれる。それをなくしたい」
実は、昨年秋以来の世界不況の中でも、Kivaは着実に融資実績を伸ばしている。
「リーマンショック直後、融資額は一時的に減った。けれどもKivaに融資する人の数はむしろ増えていったんだ。人は利己的なばかりでなく、むしろ苦しい時にこそ相互扶助の気持ちが働くんだとわかった。人々の中にある友愛の気持ちは、今の社会では隔絶させられている。ぼくはKivaを通じて、社会と友愛とを融和させたいと考えているんだよ」
マット氏の話を聞いていると、グローバリズムと競争が支配するこの世界だけど、まだまだ捨てたもんじゃないな、と思える。貧困は自己責任だという声があるが、実はそうではなく、人為的につくられたものだ。そしてモノ・カネに恵まれた私たちには、絶えず心の貧しさがつきまとう。
世界がモノとココロの貧しさを克服するために、私たち自身にできることは?
Kivaは、私たちが進むべき方向の一つを示してくれているだろう。
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