自動車産業の衰退がきっかけで始まった人口流出に悩まされ、昨年7月には財政破綻に陥ったデトロイト。街に残された空き家の数は、約80,000軒とも言われています。その一方で、ピンチに直面した市民によるコミュニティ再建の動きも注目を集めています。
今回ご紹介する、地元のライターを支援するためのプロジェクト「Write A House」もその動きの一つ。まちづくりの文脈で、ライターという職能が果たせる役割とは何でしょうか?
デトロイトに住みたいライターさんに、無料で家を譲ります!
「Write A House」では、収入が不安定なライターさんにほぼ無料で空き家を提供するという、前代未聞の試みが行われています。ここでいうライターには、小説家、ノンフィクション作家、詩人、劇作家、ジャーナリストなど、文筆業に携わるすべての人たちが含まれます。
ライターは最初の2年間、保険料などの最低限の費用だけで家を借りることができる代わりに、地元の方向けの朗読会や、これから立ち上がるタウン誌への執筆といったコミュニティ活動に参加することが求められます。そして2年間責任を持ってやりきった方には、なんとその家がプレゼントされ、正式なオーナーになることができるのです。
すでに「Write A House」では、2軒の空き家をそれぞれ1000$で購入していますが、この取組に共感したアーティスト団体「Power House Productions」から3軒目を寄贈されることに。今は春からの希望者募集がそろそろ始まるという段階です。
Tony Barlowさん
Write A Houseの発起人である小説家のTony Barlowさん(以下、トニーさん)も、ニューヨークからデトロイトに移住してきたライターのひとり。Write A Houseを立ち上げた理由を次のように語ります。
クリエイティブな人たちはサポートを必要としていて、彼らの存在はいつも大切です。だからたとえデトロイトが困難に直面しているときでも、援助を必要とするライターを受け入れ、サポートする場所にしたいと思っています。
アーティストを一定期間(多くは1カ月~3年)招へいし、滞在中の活動をサポートするアーティスト・イン・レジデンスは、地方自治体やアートNPOが担い手となり日本でも広まりつつあります。
そんなアーティスト支援だけでなく、空き家を譲渡し移住を促進するWrite A Houseは、”ライター・イン・レジデンス”の応用版とも言えそうですね。
空き家改修で若者をエンパワーメント!
改修途上の空き家”THE APPLE”の様子
今は3軒の空き家の改修作業のまっただ中。長年放置された空き家は庭の芝生は伸び放題、イタズラで窓ガラスが割られたり家の中も荒らされていたりと、とても人が住める状態ではありません。そこで、若者に建設分野での職業訓練を提供するNPO「Young Detroit Builders」の協力を得て、1軒ずつ改修作業が進められています。つまりWrite A Houseは、高い失業率に苦しむ若者のスキル習得をサポートし、安定した就職へと導くプログラムでもあるのです。
空き家改修のための費用の一部は、クラウドファウンディングサービス「indiegogo」での資金調達にも成功しました。今後も毎年3軒ずつ空き家の購入と改修を行い新たなライターたちの受け皿を用意するなかで、若者の就労支援も継続していく予定だそうです。
Young Detroit Buildersで訓練を受ける若者たち
日々変化に溢れるまちの魅力を多くの人に伝えることができれば、その魅力に気づきデトロイトを訪れようという人が増えるはず。そして素敵なまちの未来像をライターが物語ることができれば、それはデトロイトだけにとどまらず他の地域にも共有されていく可能性を秘めています。
治安の悪化などで人々がデトロイトに抱くイメージは暗いものになりがちですが、一連の苦難を乗り越えつつある今だからこそ、そんな”文系イノベーター”が必要とされているのかもしれません。
まずは自分のまちの魅力を伝えてみるところから、みなさんも始めてみませんか?
(Text 伊藤友宏)
[via Fast Company]