greenz.jpの連載「暮らしの変人」をともにつくりませんか→

greenz people ロゴ

プロボノは社会への”贈り物”。サービスグラント嵯峨生馬さんと話す「日本におけるプロボノ、この8年の進化」

_63A5714 (3)
プロボノフォーラムTOKYO2013の様子

「プロボノ」とは、仕事上のスキルや経験を活かして、社会貢献するボランティア活動のこと。その言葉を耳にしたことがあるという人も多いかもしれません。その中でも、NPO支援の代表的な例として日本でも知られているのがNPO法人サービスグラントです。

パンフレットやウェブサイトの制作から、事業計画の策定まで案件はさまざま。マーケティングやデザインなど多様な経験を持つメンバーでチームをつくり、週5時間程度、約半年をかけて成果物を仕上げていくプログラムを実施しています。

120億円相当の経済価値!

プロボノの発祥はアメリカ。2001年の設立以来、サンフランシスコを拠点にプロボノの活動に専門的に取り組むNPOタップルートファウンデーションは、全米6都市で3万人を超すプロボノ人材を擁し、これまでに1億2300万ドル(約120億円)相当の経済価値を非営利セクターに提供してきています。

2010年には日本における”プロボノ元年”としてNHKでも特集されるなど、徐々に多くの人に広まってきました。それに連れて、プロボノを巡る環境は進化し続けているようです。

そして今回NPO法人サービスグラントとパナソニック株式会社の共催という形で、10月23日に開催されたのが「プロボノフォーラムTOKYO2013」です。渋谷のヒカリエを舞台に、実際にプロボノの支援を受けた3つの団体と、それぞれに参加したプロボノワーカーの人たちによる事例報告が行われ、生の声が届けられました。

今回はそのイベントの様子に加えて、嵯峨生馬さんとプロボノ経験者であるYOSH編集長との対談をお届けします!

プロボノフォーラムで紹介されたさまざまなプロボノの形

登壇した団体は、NPO法人ファミリーハウスNPO法人荒川クリーンエイド・フォーラム千葉県工業高校コンソーシアムの3つと、その支援に入ったプロボノワーカーたち。

ファミリーハウスのの職員さんとプロボノワーカーの皆さん
ファミリーハウスのの職員さんとプロボノワーカーの皆さん

ひとつめのファミリーハウスは、入院中の難病の子どもに寄り添う家族のために、家庭的な宿泊施設を提供するNPO法人。

近年、小児医療の環境が変化していることを受けて、これまでの20年に及ぶノウハウを活かした“理想のファミリーハウス”の事業計画づくりを、企業の社会貢献活動としての「Panasonic NPOサポートプロボノプログラムを行っているパナソニック社員から成るプロボノチームと行いました。

プロボノメンバーにはボランティアそのものが初体験というメンバーも多い中、パナソニックという会社のチームであることが参加へのハードルを下げた面もあり、企業単位で取り組むメリットが如実に現れた格好です。

荒川クリーンエイド・フォーラムでのプロボノの模様
荒川クリーンエイド・フォーラムでのプロボノの模様

ふたつめの荒川クリーンエイド・フォーラムは、荒川流域100ヵ所以上でのごみ拾いをネットワークしています。財源確保のために、ごみ拾いを企業の人事研修に導入するという企画を立てました。

それを実行するため、企業向け研修プログラムの作成とアプローチ戦略の策定をプロボノに依頼。プロボノメンバーの営業マンのスキルなどを活用し、企業のニーズをすくい上げ、今年の春には見事5社の新人研修を受注するにいたりました。

企業人としての自分を持つプロボノメンバーとNPO側が対等に向き合ったこと、プロボノメンバーの巧みなチーム編成、また期間限定の活動であることによる安心感などから、忌憚のない議論が生まれ、よい結果を生み出せた、プロボノの成功例のひとつです。

千葉県の工業高校の井メーこあぷを図る事業計画を立案するプロボノの模様
千葉県の工業高校の井メーこあぷを図る事業計画を立案するプロボノの模様

最後はNPO法人ではなく、千葉県の工業高校に対する現在進行中のプロボノ。千葉県内の工業高校が連携し、地域との連携強化等を目指して「コンソーシアム」を設立。企業、行政、関係する団体との連携を図りながら、インターンシップなどを通じて工業高校生の学ぶ意欲を高めたり、工業高校のイメージアップを図るような事業計画を立案中です。

教育や学校の分野に民間の発想を取り入れることも要求される、これまであまり見られなかったプロボノです。プロボノメンバーも、民間と先生の違いを感じているとのことでした。プロボノの新しい可能性のひとつと言えるでしょう。

三団体の紹介の後は分科会に分かれ、質問やディスカッションなどが行われました。分科会では、参加者からプロボノワーカーへ率直な質問が投げかけられ、プロボノへの理解がより深まる機会となったようでした。

日本におけるプロボノ、8年の変化を振り返る

参加者(プロボノワーカー)と受け入れ先、さまざまに広がりを見せるプロボノ。実はこのプロボノフォーラムにゲストコメンテーターとして招かれていたYOSH編集長も、プロボノ経験者のひとりでした。2005年にウェブデザイナーとしてプロジェクトに関わり、「その経験が、今のグリーンズの仕事につながっていて、感謝している」と言います。

そこで後日、サービスグラント代表の嵯峨生馬さんとYOSH編集長のふたりで今年のプロボノフォーラムを振り返りながら、「日本におけるプロボノ、8年の変化」について、話し合ってみました。ここからはその対談の様子をお届けします。
 

photo
(左)サービスグラント代表嵯峨生馬さん (右)YOSH編集長

YOSH 今回のフォーラムを振り返ってみて、いかがでしたか?

嵯峨 プロボノが以前よりも知られるようになった半面、知らない人はまだまだ本当に多い、という現実もあります。そんな中で、今回のフォーラムは初めてプロボノのことを詳しく知るという人が多数参加してくれたことが、まずはよかったと思います。もちろん内容面も。少し盛り沢山すぎたぐらい、どのプレゼンも、聞いていて面白いものだったと思います。

YOSH 本当に僕自身楽しませていただきました。ちなみにパナソニックさんと共催だったのはどうしてだったんですか?

嵯峨 もともとパナソニックさんには、マネジメントなど基盤強化を目的とした助成プログラムである「Panasonic NPOサポートファンド」があるので、支援先のネットワークが豊富にあるわけです。そのなかで助成後のフォローや社員の巻き込みを意識していて、社員のプロボノで支援するという形になったんだと思います。そこでサービスグラントが関わるようになり、2011年からフォーラムも共催するようになりました。

YOSH ひとつの企業さんとそれだけ継続できるっていいですね。

嵯峨 パナソニックさんのNPOサポートファンドは”おせっかいな助成プログラム”として、NPO業界では有名なんです(笑)。お金を単に出すだけでなく様々なアドバイスをしてくれるという意味なんですが、パナソニックさんから支援を受けていることが、NPOにとっても信頼につながっているようですね。

YOSH 企業とNPOのコラボレーションという意味では、理想的な形のひとつなのかもしれませんね。今回のパナソニックさんのように、デザイナーのようなクリエイティブの人だけでなく、事業戦略などビジネスパーソンも関われる仕組みに広がってきているのが、僕にとっては新鮮でした。

嵯峨 確かに3、4年前までは、ほとんどウェブサイトとパンフレットのようなコミュニケーションツールが主でした。見た目にも変化がわかりやすいし、寄付者やイベント参加者が増えるなど、明らかな成果が現れたんです。

YOSH フリーランスの人も多いので、プロボノに入りやすいという側面もありそうですね。

嵯峨 アンテナが高くて動きやすい人が多い、というのはあると思います。特に初期の頃は女性のほうが多かったですね。それが変わってきたのが2009年なんです。その頃がサービスグラントのターニングポイントでした。

YOSH 何があったんですか?

嵯峨 ひとつは先ほどお伝えしたとおり、プロボノで手がけたコミュニケーションツールが効果を出すようになったことです。そしてその実績がメディアで紹介されるようになって、サービスグラントの意義が共有されていったんですね。

そのなかで日本財団からNPO支援の好例ということで助成金をいただき、これを機にNPO法人化しました。そのときに理事になった生駒芳子さん(元マリクレール編集長)から「プロボノを広めるには、もっとオシャレでないといけない」の提案もあって、2009年に第一回のプロボノフォーラムをラフォーレ原宿で開催しました。

YOSH 僕も少し参加させていただいたんですが、知花くららさんやソトコトの小黒一三さんなど、すごく豪華なメンバーが集まっていましたね。社会的なテーマで原宿に300人も集まるってすごいと思いました。

2010年の”プロボノ元年”に何があったの?

probono1

嵯峨 日本での「プロボノ元年」とも言われる2010年には、プロジェクトの数が年数件から10件に増えました。その頃には、NPO側のニーズも多様化していて、ワーカーになりたいという人も一般の社会人、企業人が増えてきたんです。

そこで「どうしたら、その人たちに参加してもらえるんだろう?」と考えるようになり、そこから事業戦略を考えたり、マニュアルをつくったり、ビジネスパーソンのスキルをいかすプロジェクトを整えていくことになりました。

YOSH ニーズの成熟と参加者の広がりと、いろんなタイミングがガチっとはまったんですね。プロボノワーカーになりたいという人のモチベーションってどんなものなんですか?

嵯峨 「社会のために何かしたい」というベースは変わりませんが、本当にひとそれぞれです。「会社でもプライベートでもない第三の場所がほしい」ということだったり、「視野を広げたい」というのもかなり耳にしますね。2011年以降は震災の影響も大きかったように思います。

YOSH 一方で、この前のフォーラムでは、プロボノワーカーの中にも、「正直、社会貢献に関心がなかった」って人もいて面白かったです。

嵯峨 社会貢献が共通項と言いましたけど、100のうち10ぐらいが社会貢献という人が増えてきているんだと思います。0っていう人はいないし、50ぐらいという人もむしろ少ない。

YOSH なるほど、「何かしたい!」という人のいい受け皿になっているのかもしれませんね。僕も特に社会貢献をしたいとは思ってなくて、やりたいことをやっていたら社会貢献になっていたという感じがするので。

嵯峨 そうですね、皆さん自然体なんです。もうひとつの共通項は、課題解決が好きな人、ですかね。それを楽しいと思うか、しんどいと思うかは、結構分かれ道だと思います。

YOSH そういう参加者の方を眺めていて、嵯峨さんが幸せに感じる瞬間って何ですか?

嵯峨 いつ見てもいいなと思うのは、今まで知らなかったNPOの人に共感を持って、「プロボノをしなかったらこの団体や社会問題を知ることがなかった」と言われるときはすごく嬉しいですね。僕がやりたいことは結局、社会の意識レベルを上げることなんだと思います。それを無理強いするのではなく、自然な形でできるようになってきたのはとても嬉しいですね。

NPOから行政まで、プロジェクトの幅も拡大中

YOSH もうひとつ、この8年の変化として新鮮だったのはNPOだけでなく、行政や教育機関まで、受け入れ先が広がってきていることでした。

嵯峨 アメリカでは社会課題の解決を担うのは行政というよりNPOのほうが有効なんですが、日本の場合は行政の存在感もパフォーマンスも相対的に高いので、とても重要なんです。そういう意味では行政に対するプロボノもあってしかるべきだと思います。

組織体制上、専門職が多くてマネージャーが少ないみたいな組織、その最たるものが学校ですけど、学校や病院はプロボノの価値が発揮できる領域じゃないかなと思います。

YOSH 現在、千葉の工業高校と一緒に進めているようですが、手応えはどうですか?

嵯峨 正直に言えば、プロジェクト運営にちょっともたついたところもあって、反省点もあります。相手が学校の先生なので、組織化の度合いがNPOとは違うんです。受け入れ先の環境に合わせていくしかない、そういうものだと受け止めもらうというのを、口を酸っぱくして言わなきゃいけないんだというのがわかりましたね。

YOSH 行政では、これまでどんな実績があるんですか。

嵯峨 兵庫県の豊岡市のホームページのなかの「コウノトリと育む」という環境共生型の経済活性化に取り組む市の看板施策を紹介するコンテンツをプロボノで作りました。

行政のウェブサイトでは縦割りの組織そのものがウェブサイトのレイアウトにあらわれてしまうんですよね。今回のような地域横断的な政策は、プロボノのような第三者が関わるのは向いていると思います。

YOSH 受け入れ先にとっても、プロボノを受け入れることで変化が生まれていますよね。

嵯峨 「支援の輪が広がった」とか「問い合わせの質が変わった」というような成果はもちろんですが、副産物としていろいろあるようです。

例えばプロジェクトの最初にステイクホルダーにインタビューを重ねていくんですが、その声をNPOの人に伝えると、多くの団体にありがたがられます。プロボノワーカーは第三者でありながら、よき理解者であって、利害関係者じゃない。そんなちょうどいい立場のおかげで話しやすい環境をつくっているのかもしれません。

プロボノは”贈り物”

probono2

YOSH 実は今回のフォーラムで、プロボノに対して持っていた持論をふたつほど撤回することにしたんです。

嵯峨 あ、そうなんですね(笑)どんなことですか?

YOSH ひとつは「最初はプロボノでいいんだけど、次はお金をかけてほしい」と思っていたことです。フォーラムの分科会でそのことを言ったとき、みなさんピンときていなかったんですよね。見返りをそこに求めてないんだなってハッとしました。

デザイナーをただで使えるプログラムと思われたら嫌だなと思っていたんですが、これだけ受け入れ先とプロボノワーカーのあいだに信頼関係が生まれるのなら、ボランティアだからむしろいい、というか、ペイフォワード、つまり贈り物を届けるような気持ちで関わるから健全に回るんだなと。

もうひとつは「興味のある分野で関わるべき」と思っていたことです。その方が長続きする場合もあると思うんですが、そんなに関心領域のNPOと関わる機会がたくさんあるわけではない。そこをサービスグラントがある意味愛のある無茶ぶりをしてくれるわけで、自分で選択するのではなくプロジェクトをアサインされることで生まれる縁もあるんだなって。視野が狭かったと反省しています(笑)

嵯峨 いや、気にしないでください。でも、本当におっしゃるとおり気持ちの問題なんです。自分の時間なり能力なり経験なりを、例えば300万で売るのか、見返りを求めずにプレゼントするのか。団体のために応援となるとビジネスっぽい話になりますが、その先にある社会課題を一緒に解決しているんだという、そこにコミットしているから、みなさんいい顔をしているんだと思います。

YOSH 本当にそうですね。最後に、来年に向けて考えていることがあれば教えてもらえますか?

嵯峨 先日のフォーラムの後日談があって、10月29日に韓国で、韓国、中国、日本の東アジアプロボノカンファレンスみたいなのに行ってきたんです。そこで、来年は日本でやるからねということになったので、来年のプロボノウィークには中国と韓国からお客さまが来て、国際イベントになるであろうことは決まりました。

ほかには、”市民参加”をテーマに、ちょっと堅めのシンポジウムみたいなものも考えていきたいと思っています。「ソーシャルデザイン」のように市民参加の機会も広がってきているんですけど、政策自体のデザインに市民が入っていかないと、根本のところは変わらないと思うんです。その領域で市民がどこまで参加できるのか、掘り下げていきたいと思っています。

YOSH それは僕たちもやりたいことと近いので、一緒に何かできたらいいですね!今日はありがとうございました。

以上、嵯峨さんとYOSH編集長の対談いかがでしたか?一言でプロボノといっても、支援を受ける団体、そして参加するプロボノワーカーもさまざまです。中にはあなたにぴったりなプロボノの”形”があるかもしれません。

社会貢献と大上段に構えなくても、プロボノにチャレンジすることはきっと可能です。そうすることでどこかに笑顔が生まれるとしたら、それはきっととても素敵なこと。2014年をあなたのプロボノ元年にしてみてはいかがでしょうか?