“自宅でミニ太陽光発電”と聞いたら、どんな使い方を思い浮かべますか?パネルを屋根やベランダ、窓辺に置いて、発電した電気を照明や家電製品に使うというのが一般的なイメージですよね。でも、ミニ太陽光発電システムのパネルは、持ち運びもできる大きさが特徴。例えばキャンプやピクニックなど、アウトドアで使うことだってできるんです。
今回の「co-ba」主催のワークショップ「co-baソーラーピクニック」は、ミニ太陽光発電システムを組み立てるだけでなく、「発電した電気で、どう楽しむか?」がテーマ。co-baを運営する株式会社ツクルバの代表取締役である中村真広さんは、自分で100Wのミニ・ソーラー発電システムをつくってから、自分で発電した電気をどうやって使うか、いろいろ考えながら試していたそうです。
そんな中、発電する楽しみをいろんな人に体験して欲しくて今回のワークショップを企画したそう。ワークショップのパートナーは、ミニ太陽光発電システムの組み立てワークショップを通して、電力を自分の手に取り戻し、大きなシステムからの自立を支援する「藤野電力」。ワークショップが開催された9月29日は、さわやかな秋晴れで、まさに発電日和となりました。
ツクルバの中村さんがつくったキャスター付きのソーラーパネル。ネットで購入したキャスターを改造したそうです。これで持ち運びもスムーズに。
ワークショップの会場は、ツクルバが運営する渋谷の会員制シェアオフィス「co-ba library」。壁一面に設置された本棚に書籍や雑誌が並び、ブックカフェのような素敵な空間です。
会場のco-ba library
co-baソーラーピクニックの講師は、藤野電力の吉岡直樹さん。今回のワークショップをサポートします。
藤野電力の吉岡さん
この日の講師である吉岡さんの職業はデザイナー。主にNPO/NGOなど、広く社会を良くする力をデザインの力で支援する、合同会社アンプラグの代表兼アートディレクターを務めています。藤野電力にかかわる以前から、エネルギーの大きなシステムから自立した生き方を目指しているのだそう。実は「わたしたち電力」のハンドブックをつくってくれたのも吉岡さん。
ワークショップで実際にソーラーパネルを組み立てると、けっこう楽しいんですよ。その喜びや驚きを体感してもらいたいし、そこから得られた発見を大事にしてほしいという思いでワークショップ講師を担当しています。
そんな思いを背景に、藤野電力が全国展開する出張ワークショップは今年の9月23日で109回を数え、提供したソーラーパネルの累計出力は約3万7,000ワットに達したそうです。この日はBS放送局であるBS11の報道番組「InsideOUT」が取材に入るなど、藤野電力の活動は様々なメディアで取り上げられています。
さぁ、組み立ててみよう!
組み立てワークショップは、ミニ太陽光発電システムや作業に使う工具一式が揃えられ、手ぶらで会場に行けます。また、インストラクターが「電圧って何?」とか「直流と交流の違いは?」といった電気の基礎知識のレクチャーから、各機材の役割、組み立て手順を説明しながら、作業を丁寧にフォローしてくれるので、予備知識がなかったり、組み立てに自信がない人でも大丈夫。参加者同士でワイワイ楽しみながら作業をするうちに、いつのまにか完成しています。
ミニ太陽光発電システムの組み立てはどんなものなのか、まずは組み立てキットの中身から見ていきましょう。
・50Wのソーラーパネル
・チャージコントローラー(バッテリーへの充電制御や過充電を防止。バッテリーからの電流の逆流を防ぐ)
・300Wのインバーター(直流の電気を交流に変換し、家電製品を使えるようにする装置)
・シガーソケット分配器(USB端子があり、スマートフォンなどを充電できる)
・バッテリー(電気をゆっくり入れて、ゆっくり出す、ミニ太陽光発電に適した深いサイクルのディープサイクルバッテリー。12V 32Ah/20Hr)
・接続ケーブル
ミニ太陽光発電キット
キット価格は4万2,800円。バッテリーは大体5~6年ごとの交換が必要(*使い方で違ってきます)とのことですが、ソーラーパネルは寿命が20年ほどあるといわれているロングライフ商品なのです。
出来上がったソーラーパネルで、どれぐらいの電気がつくれるかというと、6WのLEDランプやスマートフォンなら30時間、タブレットは12時間、小型のノートパソコンなら4時間ぐらいです。これぐらいの電気が発電できれば、いろいろ使えそうですね。
お互いに手を貸しながら組み立てていきます
今回のワークショップは、組み立てる人が5人、見学者は12人で、子連れの父親やご夫婦、友人同士と、参加者の顔ぶれもいろいろ。小さいお子さんも組み立て作業に参加して、賑やかな雰囲気の中、組み立て作業が始まりました。
組み立ての手順はいたってシンプル。接続に必要なケーブルの先端の被膜をはがしたり、接続部に金属製の端子をつけて、機材同士をつないでいくだけです。
おおまかな組み立て手順は次のとおり。
(1) ソーラーパネルとチャージコントローラーをつなぐ。
(2) チャージコントローラーとバッテリーをつなぐ。
(3) チャージコントローラーとシガーソケットをつなぐ。
(4) インバーターとバッテリーをつなぐ。
(5) 完成!
講師の説明を聞いて、配布された説明書を見ながら作業を進めれば、作業に慣れていない人でも2~3時間で組み立てることができます。
講師の吉岡さんがプロジェクターに組み立ての手順を映し、ゆっくり説明をしながら、組み立てている人の作業状況を一人ずつチェックして回ります。藤野電力の土屋さんも参加者の作業を丁寧にフォローしてくれるので、頼もしい限り。
作業の手本を見せながら、丁寧に教えてくれます
組み立てに使う工具は電工圧着ペンチと感電対策がされた電工ドライバーの二つ。電工圧着ペンチとは、ケーブルを切断したり、ケーブルの被膜をはがしたり、金属製の端子をつぶすことのできる特殊なペンチです。組み立て作業のポイントは、この電工圧着ペンチを上手く使えるかどうか。
まず、組み立て作業では電工圧着ペンチを使って、それぞれ太さの違うケーブルの被膜をはがして芯線をむき出しにしていきます。ケーブルの太さに合わせて、電工圧着ペンチの刃の部分に複数あいているミリ単位の穴に、ケーブルを差し込み、被膜を取り除くのですが、初めのうちは慣れないため、力の加減が分からず、てこずる人も。でも、何回か作業を重ねると、慣れてきてスムーズにできるようになっていきました。
こういった作業は男性の方が得意かと思いきや、参加者のご夫婦などは奥さんの方が器用にペンチを扱っていたり、説明を聴きながら奥さんが旦那さんに指示を出したりして、女性が作業をリードする場面も。また、小さいお子さんが、父親の組み立て作業を手伝ったりして、終始微笑ましい光景が見られました。
組み立て作業を見ていると、何だか小学校の工作の授業を思い出します。ワクワクして自分でつくるのが楽しかった、あの頃。参加者のみなさんの顔が楽しそうなのは、自分の手で何かをつくる喜びを感じているからでしょう。
発電した電気で、コーヒーを淹れてみよう
作業がひと段落したところで休憩。この日のテーマである「ソーラーパネルを外に持ち出せば、こんなピクニックもできる」ことを実演するため、ツクルバの中村さんが自分のソーラーパネルで発電した電気を使って、コーヒーを淹れることに。
この日はよく晴れて、日の光は充分。コーヒーメーカーにつなぎ、いざスイッチオン。みんなの視線が集中する中、プシューという音と共にドリップ開始!順調だと思ったのも束の間、突然止まってしまいました。残念ながら、コーヒーメーカーの消費電力が550Wと大きかったことが原因のようでした。でも、こんなハプニングも自分たちでつくる電気だから、楽しいもの。日常使っている電化製品がどれだけの電気を消費するか意識するようになりますし、いろいろと気づきがあります。
残念ながら、太陽光発電のドリップはここまで
コーヒーやソフトドリンクを片手に、お菓子を食べながらの休憩では、前半の作業を振り返ったり、情報交換したりして、会場のあちらこちらで談笑が聞こえ、ますますいい雰囲気に。参加者の中には、ソーラーパネルに名前をつけたいという人も出てきて、太陽の子ということで「陽子ちゃん」に!
そんな中、先ほどのリベンジということで、中村さんのソーラーパネルで発電した電気を使って、スマートフォンやノートパソコン、照明器具、ミニコンポをスイッチオン。これだけの電化製品を一度に使えるなんて頼もしい!後半の作業に期待が膨らみます。
ソーラー発電で、照明器具、ノートPC、スマートフォン、ミニコンポの電源が入りました!
つくった電気で、いよいよ点灯!
参加者のみなさんも作業に慣れたようで、後半は一つ一つの作業がスムーズに。お互いに協力し合いながら、機材にケーブルを次々とつなげていきます。
チャージコントローラーとDCソケットをつなげば、いよいよ点灯式。直流のLED電球をDCソケットにつなぐと、パッと点灯!自分でつくったソーラーパネルが発電した電気でLEDランプが点灯したのを見て、みなさん感激した様子。「やった!」「点いた!」との歓声と拍手が、あちこちで上がりました。組み立てが無事に終わり、みなさんとても満足した様子。自分でつくったミニ太陽光発電システムなので、うれしさもひとしおです。
アイデア次第で、使い方はいろいろ!
参加したみなさんに使い方を聞いてみると…。「屋外に飾るクリスマスのイルミネーションに使いたい」「キャンプに持って行きたい」「車の屋根に設置して、アウトドアで使う」とか、「普段も使うけど、停電や災害時の非常用電源に使いたい」「仲間でそれぞれのソーラーパネルを持ち寄り、バンドやDJを呼んでフェスをやりたい」「家で試してみてから会社で使うことを考えています」などアイデアはいろいろ。
オフィスにソーラーパネルを持ち込んで、ソーラー発電する社員が増えれば、社内でソーラーパネル補助金制度ができるかもしれませんね。また、小さいお子さんを連れてきた方は、「子供の教育にいいと思って。家で使うことで子供も電気を意識するようになると思うんですよね」。みなさん、いろいろ考えていらっしゃるようで、聞いているこちらがワクワクしてきました。
ミニ太陽光発電システムはバッテリーが少し重いものの、とてもコンパクトな装置なので、運搬用のキャスターなどを使えば持ち運びも簡単。これがミニ太陽光発電システムのいいところ。小さいからこそ、工夫すればいろいろな使い方ができて、楽しいんです。
ツクルバの中村さんは、将来的にco-baの電源をソーラー発電で賄えたらいいなと考えていて、co-baの会員にもミニ・ソーラーパネルをつくってもらうために、「まずはco-baのフロアにソーラーパネルを置いて、会員に興味を持ってもらおうかな」とおっしゃっていました。co-ba電力が立ち上がる日も近いかもしれませんね。
最後に参加者からの質問コーナー。今後、容量を増やすにはどうしたらいいかという質問が出ました。この質問に対して、「増やすより先に、先ず何に使うのかということをよく考えてください。規模を大きくするのは生活を見つめ直してから。売電するほど大容量の設備は必要なくて、自給自足のように自分の使う分とか、使う電力の一部を太陽光発電にするとか、身の丈に合った使い方を心がけていけば、自ずと答えが出ます」と吉岡さん。
電気を「じぶんごと」にして、工夫しながら楽しく使おう
吉岡さんは最後にこう締めくくってくださいました。
ミニ太陽光発電は家庭菜園と同じ。自分の庭でつくった野菜は、自分でつくるから愛着がわきますよね。自分が食べるものを、食べる分だけつくる。だからいいんです。家庭菜園で野菜を育てるように、自分で使う電力を楽しみながらつくる。藤野電力はそういう人を後押ししたいんですよね。こういう人があちこちで増えていって、気がつくと、社会が変わっているような未来図を僕たちは描いています。
大きなシステムではなくて、小さなシステム。小さいからいいんです。持ち運んだり、自分の好きなように使えますからね。ミニ太陽光発電システムの発電量は小さいですが、大きなシステムから自立して、自分で楽しみながら取り組める。その先に広がっているのは、自由で豊かな生活なんです。こうした自立分散の動きが広がれば、社会のありようも変わっていくと思うんですよ。
個人が大きなシステムから自立すると、バラバラになるのではなくて、自立した人同士がつながって、ネットワークやコミュニティができます。電気を自給することで、人がつながり、地域につながりが生まれることで人も地域も豊かになる。電気のプロではない普通の人ができるのだから、地方でも、都市部でも、島でもどこででも、誰でも取り組めると思います。そんな未来を僕たちは考えています。
今日のワークショップが、みなさんの行動のきっかけになればいいなと思いますね。「わたしたち電力」では、Facebookグループで、ソーラー発電を始めた人同士が全国的につながれます。メンテナンスの情報だったり、こういうやり方があるよとか、もっといい方法があるとか、コミュニティの中で、問題やアイデアをシェアして、コミュニティ全体が良くなっていく仕組みがあるので、つくってからの方がさらに楽しいですよ。
つくってから、どう楽しむか?ミニ太陽光発電システムは、生活をより楽しむためのツールでもあります。使い方はあなたのアイデア次第。あなたもミニ太陽光発電システムをつくって、仲間と楽しい発電ライフを始めてみませんか?