「ぱぱとままを、夢見る世の中に。」をビジョンにかかげ、これからパパやママになるという若者たちをターゲットに活動する「ぱぱとままになるまえに」(以下、ぱぱまま)。greenz.jpではこれまでにも活動の様子を伝えてきましたが、このたびパートナーページを持つことになりました!名前は、「ののほほ世代のいろは」。
「ぱぱとままになるまえに」は、活動を知っている人や参加者の人から愛称で“ぱぱまま”と呼ばれてきましたが、それだと“パパとママになった人”のように思われてしまいがち。そこで、五十音で「ぱ」と「ま」のひとつ前にある「の」と「ほ」で、“ののほほ世代”と呼ぶことに決めたそうです。
このパートナーページでは、パパにクローズアップ。ありのままのパパたちを紹介し、自然体で子どもや家族と向き合うパパを紹介していきます。
最初の記事では、「ぱぱまま」の代表・西出博美さんと、提案者であるgreenz.jpライターの増村江利子さんに、これからはじめるパートナーページへの思いを語っていただきました。
(左)西出さん、(右)増村さん
今の時代、いろんな“パパのカタチ”が見つけにくい
増村 今、理想とするパパの姿が見つけにくくなってしまっているんじゃないかと思うんです。「イクメン」という言葉があるし、親世代の昭和的パパスタイルは違うことは分かってる。育児や家庭に歩み寄りたい気持ちも少しある。でも、働き方やいろんな環境がマッチしなくて…。
だから、パパになることって「がんばらないとできない」と感じている人が多いのでは、と思うんです。結婚すること・子どもをもつことを前にすると、「もう少し仕事でキャリアを積んでから」とか、「仕事がひと段落してから」とか思ってしまう。でも「そんなに気負わなくても、パパになれるみたいだよ」というメッセージを伝えたくて、いろんな“パパのカタチ”を紹介したかったんです。
西出 核家族化が進んだり、他の家庭の様子が全然見えなくなってしまって、これからパパやママになる人たちが、「パパになったら◎◎なんだろうな」というのを思い描く材料が少なくなってきてしまっているんだと思うんです。それは、私自身も実感していて。
まず、これからつくっていくかもしれない家族を思い描くときに、参考にするのは自分の両親なんですよね。でも、時代も違うし、価値観も変わってきた。「じゃあ、自分の両親以外で、他に参考になる家族…」と探しても、なかなかちょうどいい、大げさじゃないものが出てこない。
ドラマに出てくるパパは、子どもを超大切にしているTHEイクメンみたいな良いパパか、逆にそうじゃないどうしようもないパパだったりと極端。でも、ある程度の年齢に達してないと友だちでパパになってる人には出逢えない…。パパになる前の人が触れることのできる「ふつうの」パパの事例が少ないんです。それって、「俺がパパになるぞー!」って思えない一つの理由なんじゃないかって感じます。
「イクメン」ってよく聞くけど、身近にいないし、ピンとこない。でもお父さんみたいなのも…みたいな。(苦笑)
増村 “お父さんの時代とは違う”って言うのはわかっているんだけれど、じゃあ何が正解かよくわからないって感じなんでしょうね。
西出 【ぱぱとままになるまえに】の活動をしていると、ほんと無意識に「パパにならない」状態でいる人が多いんだよなと感じます。パパにならないことを、“今の自分が”選択しているのですが、それを認知していない人が大半です。立ち止まって、結婚や妊娠について考える機会なんて、なかなかないですから。(苦笑)
「パパになったらどうなる?」が具体的に、自分にひきつけて想像できない。だから、「自由がなくなるんでしょ」「今は仕事が大事なのに、やりたいことがやれなくなるのは、困る」というような、漠然と、一般的によく語られるネガティブなイメージで固まっていっちゃうんだなと。
増村 「パパになると…」を考えはじめると、「土日は子どもに時間をとられてしまう」とか、「おむつを替えるの嫌だな」とか。嫌なこと、辛いことばかりが連想されてしまっているんじゃないかというのはありますね。
西出 子どもを育てることが身近ではなくなってきてしまいました。「やってみればわかるけど、やらないとわからない」ものになってしまったことが、これからパパとママになるはずの世代にとっての大きな壁になってしまっている気がします。
「平日は夜まで働くのに、唯一の自分の自由な時間として使えるはずの土日は、子どものために使わなきゃいけなくなるのかぁ…」って想像しがち。だけど、そもそも平日にも子どもはいるし(笑)会社から夜遅く帰ってきても、子どもがまだ起きてたら、「寝かしつけてきて」とか頼まれることもある。
もちろん逆もあって、休日でも子どもの面倒みてることが必須なわけではなくて、遊びにいく時間もあるはずなんです。きっちり区切りがあるわけではなくって、パパとママになったら普通にバランスがとれていく。
けど、それが”ののほほ世代”にまで伝わってこないんですよね。だから、“パパやママになったときのこと”がリアルに想像しにくくて、なりたいとなかなか思えない。“普通のこと”がもっと伝わればいいのになあと思います。
増村 普通の暮らしのことなんですよね。それを「子育て」ってジャンルにわけて、また別の所に置こうとしている。
西出 そう。ほんとに普通なのにと思う。
料理雑誌とかで「パパと子どものメニュー」とか「パパ料理」って焦点をあてた本とかあるけれど、別にパパになったら作れなきゃいけないわけでもないし、親子じゃなきゃ食べられないとかいうものじゃない、どう見ても普通の料理なんです(笑)。けれど、そう言ったほうが雑誌を売りやすくなるのかはわからないけど、勝手にジャンル分けされてしまっている。
そういう無意識の中にとけ込んでくる言葉に惑わされないで、普通のことを大切にしながらパパになるまでの道のりを過ごせたらいいのになって思います。
増村 「イクメン」も、良い効果もあると思うけど、そこだけを盛り上げてしまうのも、どうかなと思って。そういうふうにジャンル化をするから、「子育て」と「仕事」が天秤にかけられちゃう。
西出 パパになることは、「パパ」っていう新しい階段を上らなきゃいけないと思っているんですよね。今の自分とは全く切り離されたものとして考えてるようで。
「今の自分とは別の、新しい自分が」って思うと、「パパな自分は〇〇してはいけない」「パパは◎◎であるべきだ!」っていう思考になってしまう。パパになるためには自分が、違う自分に変わるまでなれないと思ってしまいがちな印象を受けます。
でも、「僕」のままのパパで良いと思うんです。パパになると想像しきれないくらいいろんなことがあるはずで。せっかく子どもを抱っこしたのに、大きな声で泣かれちゃっったりとかするし、なのに、ママが抱っこすると泣き止んだりして(苦笑)そういうとき、そのままの「僕」のまま、恥ずかしいとか、「ちぇっ。なんだよ…」とか、別にそういう感情は抱いてもいいんだと思うんです。そんなに気負わなくていいのになって。
ただ家族が増えた。パパになるという新たな、別のステップにあがったというわけじゃなく、これから歩む人生の道が自然とちょっと太くなったな、広がったなってくらいに思えるほうが気が楽だろうなって思います。
「僕」がすてきだから、その人の子を産む決意をした女性がいるんだろうし、もっとそのままの「僕」のまま、パパになってくれていいのよって伝えたい。
ぱぱとままになることを“普通”にしたい
ぱぱままのイベントの様子(撮影:NAOYUKI HAYASHI)
増村 どんな世の中になってほしいですか?もともとは「ぱぱまま」は、ぱぱとままになることを夢見る世の中になってほしいって思いがありますよね。特にパパに対してどう思いますか。
西出 今は、あまりにもパパとママになりたいって思う人が少ないなと感じています。むしろ「親になりたくない」という人もたくさんいる。でも、そんなの悲しすぎるから、「ぱぱとままを夢見る人を増やす」って言っています。
究極はパパとかママとかでもなくて「“私と僕”が愛し合いながら過ごしていくうちに、家族が増えました」みたいに、なんかもっと“自然なこと”になったらすてきだなあと思っています。
「イクメンの紹介!」とかではなくて、もっと普通に「僕、パパなんです」みたいな人をいろんな形で紹介していきたいですね。ポイントは、「パパなんです」じゃなくって、「“僕”、パパなんです」ってあたりかな。パパなことが大事なのではなくて、「僕」がパパになったことが大事なんです。変なこだわりかもしれないけれど(笑)
増村 もっと男性が普通に子どもに向かい合ってくれたら、子どもも過ごしやすい社会になるんじゃないかなと思うんです。残念ながら迷惑がられてしまう場面もあるんですよ。私の夫でさえ、ちょっと娘が泣くと「電車、降りようか」って言い出すときがあります。でも私は「いやいや、子どもが泣くのは普通のことよ」って(笑)。
西出 気遣いすぎてしまう場面はありますよね。
増村 もちろん、公共の場なので、気にしていないわけじゃないんです。でも、子どもが声を出すことって、普通のことだと思うから。
西出 静かにだまっていられる大人だけが電車に乗るわけじゃないですもんね。障がい者の方が突然しゃべり出してすごい目つきで見てる人もいますが、ケータイで話している人とあんま変わらないじゃんって思ったりします。ケータイがあるか、ないかぐらいの違いでしょ!(笑)
増村 日本ならではの清潔感には賛成なんだけれど、枠にはまらないものは、排除する感じになってしまっているところもありますよね。静かに座っている人だけじゃなくて、いろんな人が居るっていう部分が欠けてしまってきた感じがします。
西出 もっと融合したらいいですよね。いろんなカタチがあることを、“あたりまえ”に戻したい。
増村 そういう価値観を作っていきたいですよね。社会のシステムを変えるのは一長一短ではできないけど、少しずつ変えていってマインドを作ることはできそうな気がしますね。パパっていうものを普通に楽しんでいる人の、普通の様子を普通に、このパートナーページでは紹介したい。普通、普通って言い過ぎかもしれないけれど(笑)
西出 イクメンじゃなくたって、どんな家族でもそれなりにドラマがあるんですよね。本人たちは、それが日常なのであんまり気がついていないけれど、他の人が知ったら「えぇ〜すてき!」とかって感じることってあると思うんです。でも、本人たちは「すてきな家族になろう!」と力んでそうなっているわけではなくて。そういう肩に力が入ってない人を紹介できたらいいですね。
増村 イクメンになろうとしてなっているイクメンじゃなくて、結果的になっているくらいのね。
西出 もはやイクメンって言葉はあんまり好きじゃなくて(苦笑)ゆる〜く、いい感じのパパに、光を当てていきたい。「別に普通でいいんだ!」っていうのがこのパートナーページを通して伝えられるといいなと思います。その「普通」こそ、実はドラマチックだったりするんで!(笑)
パパが一人で歩いていて、「あと何か月なんですか?」と聞かれたらおもしろい!?
ぱぱままのイベントでの西出さん(撮影:NAOYUKI HAYASHI)
西出 「ぱぱまま」で「女性手帳ができるなら、”男性手帳”を作っちゃう?!」という話をしたことがあって。結局、実現には至っていないんですけど、パートナーページを進めていく中で、“物をつくる”というアクションもしていけたらと思っています。
増村 マタニティマークのパパ版もあったらいいですよね。それを見て「あれ、もうすぐパパなんですか?」って、おなか大きいわけじゃないのに、パパ一人で歩いていても、話しかけられたり(笑)そういうのって幸せなやり取りになりうると思うんですよね。
私が妊娠中、大きくなったおなかを見て「男の子なんですか?女の子なんですか?」って質問を何回あったか分からないくらい受けました(笑)そういうの、パパも受けられたらよかったんじゃないかなって。私は受け答えをする中で、だんだん「ママになるんだな」っていう実感がもてたので。
西出 パパ一人で歩いてるのに「あと何か月ですか?」とか聞かれてたらおもしろい!(笑)
女の人と男の人って、経験値の違いも絶対にありますよね。だから一概に、「パパって実感を持てない男性」を責めてしまうのって、どうかなって思う。おなかも大きくならないし、そうやって、他の人から聞かれて答えるっていう会話の数だとか、圧倒的に経験値がママとは違うもんね。
増村 身体の変化がない分、もっとほかのところで実感していく経験って必要だと思いますね。妊娠しているときもそうだし、ベビーカーを押していると本当に話しかけられることって多かった。いろんなパパも同じ体験をできればいいのになって。意識は絶対に変わりますから。
子どもが「自分ごと」になるし、地球に重力があることと同じように、なんでもない、普通のことになる。「仕事」と「家庭」・「仕事」と「子ども」…とか分類や垣根がなくなると思うんです。
西出 最初は慣れないからいろんなことがうまくはいかないと思うんです。地域のおばちゃんに声かけられても、うまく答えられないかもしれない。けど、そのうちに経験積めば流暢に“パパっぽいトーク”ができるようになったりして(笑)
そうやって、いろんな他者との関わりの中でパパになっていくんじゃないかな。まぁ、まだ私もママになってないからわからないんですけどね(笑)
子どもだけじゃなくって、社会や、いろんな人がパパとママにさせてくれるんです、きっと。一つの家族にどれだけの人数の人が「なんとなく」関わっているかって、その家族の豊かさを表すと思うんです。そういうのがきっと、子どもを育てるうえで厚みになっていくんだと思います。
だから、いろんな人が関わりたいって思えるような、身構えない姿勢でパパをしている男性を、そのまま紹介できればいいなって思います。
増村 “パパ”ってものを変える、そんな企画になりそうですね。
(対談ここまで)
「親になると責任が増えるし…」「お金もかかるでしょう?」「自分はまだそんな立派な人間じゃない…」と、パパになることに及び腰な発言は周りでもよく耳にします。そんなひとたちに「大丈夫、僕でもできたから君にもできるよ」と呼びかけてくれる連載になりそうで楽しみです!