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この秋、グリーンズも海士町へ!「巡の環」阿部裕志さんに聞く「”地域づくり会社×メディア”だからできること」


海士町に興味を持った方が気軽に遊びにくるきっかけになるようにと始められた体験ツアー

思い描いた“未来”を形にする方法は、十人十色。
けれどもそこには、共通する思いがあるのもまた、事実です。

人口約2,400人の日本海の離島のまち、島根県隠岐郡海士町で、地域づくりを通して幸せな未来のあり方を提示し、広げていこうと活動しているのが、以前にこちらの記事でもご紹介した「巡の環(めぐりのわ)」です。

もともと過疎高齢化が進んでいた海士町は、独自の行財政改革と産業創出、そして島外との積極的な交流によって、新しいことをしたいという若者が集う島となりました。今では、人口の約2割を、2004年以降のUIターンが占めるというから驚きですよね。巡の環もこうした動きの中から誕生し、近年の海士町の盛り上がりの一端を担っています。

そんな地域づくり会社・巡の環とメディアであるグリーンズが手を組むと、いったい何ができるだろう?巡の環代表、阿部裕志さんとグリーンズ発行人、鈴木菜央さんで作戦会議を開催しました。

新事業「めぐりカレッジ」って?


株式会社巡の環の代表取締役、阿部裕志さん(左)とグリーンズ発行人、鈴木菜央さん(右)

菜央 書籍『僕たちは島で、未来を見ることにした』も拝見しましたが、巡の環は、本当に多岐にわたることをやっていますよね。

阿部 うちの会社がやっていることは本当にわけがわからないなと自分でも思います(笑)。目指しているのは、人間らしい暮らしとか丁寧な生き方ができる人を増やしましょうということ。そして、海士町がこれからの社会のモデルになるためのお手伝いをしています。

菜央 巡の環は、東京じゃないところから未来はつくれるんだということを実践していて、ぼくらはメディアを通じてほしい未来をつくろうということを伝えている。まったく違う場所で違うことをやっているんだけど、根本の思いは同じだと感じていて、巡の環とグリーンズで何か一緒にできたら面白いんじゃないかなぁ、と思っていたんですよね。

阿部 それはすごく嬉しいな。

菜央 特に面白いなあと思っていることのひとつが、地域コーディネーターを養成する「めぐりカレッジ」なんです。これは巡の環の事業を通して得られたノウハウをほかの地域にも教えるというイメージなんですか?

阿部 実はそうではなくて、事業のラインナップのひとつなんです。めぐりカレッジはあくまで、海士町がよくなるプロセスを通じて、ほかの地域もよくなっていくっていう未来を実現するもの。

地域づくりって、まずは島での信頼関係があって、その先に島の暮らしに必要な経済とか食とか環境とか教育とかの課題の解決がある。会社を立ち上げて6年目になるんだけど、島での信頼関係を築くことだけに費やす時間が終わって、これからはちゃんと課題を解決していくことと、学校づくりをやっていきたいと思い始めたところなんですよね。


地域の現場に身を置き、その地域のために働く志の高い人にふれていき、仕事力の向上の元になる「人間力」を磨く研修プログラム「海士五感塾」

菜央 ただノウハウを学ぶのではなく、参加者にとっての課題に取り組むってことですか?それが島の課題の解決にもつながり、それをまるごとめぐりカレッジを通じて外にも発信されていくと。

阿部 そうそう。それは同時のほうがいいと思った。僕は海士町だけをよくするために移住したのかって言われるとあんまりピンとこないんだよね。

たとえば講演の時に「めぐりカレッジという学校をやります」と言うと、参加者からは「巡の環のノウハウがよそに盗まれて、パイの奪い合いになるんじゃないか?」という質問をされたりします。僕はまったくそんなことは思わない。

僕らが必要な顧客の数というのは非常に少ないし、それよりもその市場が大きくなっていくことのほうが遥かに重要なんです。もう、市場を独占するという考え自体を捨てなきゃいけない時代にきてるんじゃないかと思う。

菜央 それはグリーンズも同じですね。共有すればするほど、市場が広がるから生きのびやすくなる。でもこれは、商売の基本みたいなものですよね。周りの利益になることが、結果的に自分の利益になるっていう、利己と利他のループができていくイメージなのかな。結果、それが自分たちの幸せにもつながるし、みんなの幸せにもつながる。

島での学びを共有する場


2013年4月に開催されためぐりカレッジ中級コースの事前合宿の様子

菜央 めぐりカレッジはどんなカリキュラムなんですか?

阿部 まず2泊3日の入門コースがあります。1日目と3日目だと、地域をみるまなざしが変わって、違うものが見えてくるんです。まずはその状態をつくっていくものです。

中級コースは、第1期が4月にスタートしたばかりなんだけど、半年間かけて、より専門的で実践的な内容を提供するものです。3泊4日の事前合宿では海士にきてもらいましたが、そこでは参加者同士の人生の深い部分まで踏み込んだ対話も繰り広げられました。地域の人の話を聴いてみんなが感情を交錯させたり、地域の深さを感じたり、とにかく地域で活動する上で必要になるアイテムを使いこなすためのいろいろな“共通言語”や“共通体験”をつくったんです。

その合宿での「あの人と一緒に過ごした、あの感覚」という共通体験をもとに、僕たちは参加者それぞれの場所でのプロジェクトにいかしていくためのサポートや、戻った後も継続して最大限寄り添うカウンセリングをします。また、気づきのために疑問提供を投げかけるケースメソッド(実際に起きた事例を教材として、あらゆる事態に適した最善策を討議し導き出す教育手法)を使うこともあります。

めぐりカレッジの学費は決して安くはないけれども、僕たちはその分、その人の一生と向き合うつもりでやっています。

海士町風景

菜央 面白いですね!学校っていう仕組みの中でどう地域づくりを学ぶのかっていうのは興味深いです。

阿部 それはとてもシンプルで、学校とは「僕らが地域に根付きながら島で学んだことを共有する場」なんです。教えるというよりも、学んできたことを伝える場。だから僕らの成長が止まった時点で僕らの目指す学校づくりは止まっちゃうと思っています。それは「ほしい未来は自分でつくる」っていうグリーンズのキャッチコピーとも一緒の感じがする。

菜央 本当にそうだと思う。結局、人間って自分でやってることしか、語れないですよね。

メディアの役割は思いを伝えること


巡の環の事業は、地元の方々の協力を得て行なわれているものも多い

阿部 そのなかでも、“伝える”という役割は必要だと思うんです。たとえば、生産者の思いが、消費者に届く頃には温度が下がってしまっているっていうのが、今の大半の流通ですよね。僕らが目指したいのは生産者の思いに流通業者の思いを足して、小売店の思いを足した状態でお客さんに届けること。

伝える人がしっかり思いを伝えてくれれば、ちゃんと足し算になっていく。今回だったら地域の人の思いに僕らがちょっと思いを足して、仲間としてグリーンズがさらに足してくれる、みたいな。

菜央 今聞いてなるほどと思ったんだけど、オレらも、根本的には、同じことをやっているのかもしれない。マスメディアってどうしても薄まって伝わるじゃない? 

阿部 そうそう。伝えていく過程で思いが上がっていくか下がっていくか、これはすごくでかい。そこでいい仕事ができる仲間と一緒にやることで、共感してくれる人が増えていけば、もっとスピード感が上げられるんだよね。

だから今回グリーンズと一緒にやれるのはすごく楽しみなんです。僕たちは現場でやることの難しさとか喜びに関してすごくリアリティがある状態だから、それがグリーンズみたいなメディアで伝えられると、どうなるのかなって。

菜央 たとえば、めぐりカレッジにライターさんに参加してもらって、ちょっと濃い記事を書いたりすると面白いかもしれないですね。

阿部 いやー、それは僕らとしても最高に楽しいですね。

菜央 最先端なことが、島から起きていることが、生っぽい感じで出ると楽しそうだね!ひとまず、10月スタートの中級コースの合宿を取材させてもらうことは可能ですか。

阿部 もちろん。ぜひ!

菜央 いいですね。タイミングが合ったら僕も行けるといいな。いずれにしても、1度機会を作って海士までおじゃましたいです。

(対談ここまで)

というわけで作戦会議の結果、10月に開催されるめぐりカレッジ中級コースに、グリーンズのライターさんが潜入することになりました!

そこでいったいどんなことが行なわれているのか、そこで巡の環が伝えたい思いとは何なのか、じっくりご紹介していこうと思います。全国の地域づくりに応用できそうなヒントをたくさん見つけてきたいと思います。どうぞお楽しみに!