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人口300人のまちで、休校した小中学校が再開へ。和歌山・富貴地区に移住した家族が「フキシネマパラダイス」から発信する、自分たちで地域をつくる楽しさ

人口300人のまちで、休校した小中学校が再開へ。和歌山・富貴地区に移住した家族が「フキシネマパラダイス」から発信する、自分たちで地域をつくる楽しさ

数年後、暮らしているまちの学校が廃校になるとわかったら、自分はどうするだろう?

仕方がないと受け入れるだろうか。
それとも、存続の方法を考えて行動するだろうか。

今後数年間でこの問いに直面する人や地域は増えるのではないでしょうか。全国的に見ると、近年は小学校の閉校や統廃合が進み、2014年〜2024年の10年間で公立の小中学校は2728校減少(※)。平均すると1年間で約270校が閉校しています。

地域の学校がなくなることは、コミュニティの希薄化や、人口流出を加速させると言われています。しかし地域の人に「学校を残したい」という思いがあっても、財政面や人口減少という地域課題と照らし合わせると、難しい状況であることは想像に難くありません。

※文部科学省「学校基本調査」(令和6年度 )より

フキシネマパラダイス グリーンズ

和歌山県北部のまち、高野町富貴地区

一方で、住民の自発的な行動が実を結び、一度休校した学校が再開した地域もあります。和歌山県北部の山間部のまち、高野町富貴(ふき)地区。人口300人ほどのこの地区では、児童数が0人になり一時休校した高野町立富貴小学校が、2020年、新入学生一人のために再び分校として再開しました。その後、子育て世帯の移住がじわじわと増加。現在は、移住してきた4世帯のメンバーが中心になり、休校中の中学校再開に向けた行政との相談や、小学校存続のための移住促進活動に取り組んでいます。

富貴地区では、どんなきっかけで小学校が再開し、どのような思いで住民主体の活動を展開しているのでしょう。他の地域で同じアクションを起こしても同じ結果が得られるわけではありませんが、そこには「自分たちのまちを、自分たちの手でつくる」ことのヒントがある気がします。湧いてくる疑問を、移住世帯による団体「フキシネマパラダイス」代表・大谷剛志(おおたに・つよし)さんに投げかけました。

人口300人ほどの、富貴のまち

2004年に「紀伊山地の霊場と参詣道」として世界遺産に登録された高野山の麓にあるまち・富貴地区は、かつては高野・熊野・大峰山参詣の交通の要地であり、宿場町として発展しました。しかし、山間地という地理的特性や、地区の主要産業だった林業の衰退により、昭和30年代以降は人口が減少。現在は、全国の中山間地域同様に過疎化・高齢化が進んでいます。

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針葉樹林に囲まれた山深い道を進んでいく途中、鹿が目の前を横切っていった

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冨貴地区が近づくと、手描きの地図が迎えてくれる。この辺りの標高は約600m、車の窓を開けると暑い季節でもひんやりした空気が入ってきた

地区までの道は、グネグネとした山道。市街地から運転すること約30分、どこまで山道が続くのか少し不安になってきた頃に、目の前の景色が一気に変わりました。畑、民家、郵便局に学校。里山の風景です。今回大谷さんにお話を伺うために向かった多目的ホール「フキシネマパラダイス」は、地区の小中学校のすぐ近くにありました。

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「フキシネマパラダイス」という名前は、スペースづくりの発起人である上辻さん夫妻が好きな映画「ニューシネマパラダイス」から名付けたそう

このスペースは「まちに昔の映画館のような場所をつくりたい」という、長年この地区に暮らす上辻孝一さん・淑子さん夫妻の思いからできました。オープンは2022年。地元有志の仲間を集め、明治時代に小学校として使われていた木造平屋の建物を自分たちの手で改装しました。運営は、大谷さんをはじめスペース完成前後にこのまちに移住してきた4世帯の家族が担います。みなさんで「フキシネマパラダイス」という任意団体をつくり、音楽会や餅まき、落語会など、地域内外の人に向けたイベントを月に1回開催しています。

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フキシネマパラダイス代表の大谷剛志さん。会社員をしながら運営に携わる。富貴地区がある高野町のとなり、橋本市で暮らしていた大谷さん一家は2021年に移住した

移住世帯のみなさんが運営するようになった経緯を伺うと「発起人の上辻さんから、場所が完成したら運営は任せたで〜!とお話をいただいて。みんな、いつも助けてもらっている地区の人たちに感謝の気持ちを返したい気持ちがあったので、すぐにOKのお返事をしたんです」と軽やかに話す大谷さん。まずは、大谷さん一家がこの場所に移住してきた頃に遡ってお話を伺いました。

「住民主体で動く」という富貴の文化

大谷さんが初めて富貴地区を訪れたのは、偶然知った川遊びイベントに参加するためだったそう。

大谷さん 富貴の奥にあるログハウス付近で開催された川遊びイベントに家族で参加したとき、近くでカフェがプレオープンすると教えてもらい行ってみたんです。そこは移住の大先輩がご夫婦で開いている場所。元々保育士さんだった奥さんが、当時2歳くらいだったうちの子どもと遊んでくれている間に大人はゆっくり過ごさせてもらって。その時間がすごく貴重で、そのカフェに行くのを楽しみに、友達家族と一緒に富貴へ遊びに通うようになりました。

通うようになってから知ったのが、富貴地区は、住民主体の活動が活発な地域だということ。フキシネマパラダイスの発起人の上辻夫妻が、コミュニティカフェ「やきもちカフェ」(※)を開いていたり、「テニスサークル」や「畑耕し隊」といった会があったりと、人が集まる場や機会がいくつもありました。大谷さんもそれらの活動に参加するようになり、少しずつ知り合いが増えていったそう。次第に拠点を持ちたい思いが膨らみ、2017年には空き家だった家を借りて週末だけの移住生活をスタートします。

※やきもちとは、小麦粉の生地を薄く伸ばし、餡子を包んで円筒形にした、地区に昔から伝わるおやつ 

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大谷さんのご自宅で飼っているアイガモ。空き家を探しているときも、地区の人が協力的に情報を教えてくれたそう

地方移住のハードルの一つに、環境や人間関係の変化から移住者が地域に馴染むまで時間がかかることが挙げられますが、富貴には地域外の人を歓迎する土壌がありました。 

大谷さん いろいろな活動や場があって、ウェルカムに迎えてくれるのが富貴の特徴。みなさん協力的なので、相談するといろんな情報を教えてくれるんです。今、移住者が増えている状況は、住民の方がずっと地域おこし的な活動をしてきて、地域の力で動いてきたから。それが「富貴の文化」というか。

大谷さんたちは、そんな地区の人たちの姿や文化に刺激を受けていたそう。ご家族は、週末になると富貴に通う暮らしを4年ほど続け、お子さんが小学校入学のタイミングで完全移住を決めました。移住の大きな後押しとなったのが、徒歩10~15分ほどで通える地区の小学校が、前年から休校を解き、再開していたことでした。

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地区の小中学校は、フキシネマパラダイスのすぐ近くにある

住民の声を受け始まった、学校存続への動き

富貴地区では「数年後には、児童数が0人になる」と予測された頃から、地区に小学校を残したいという強い思いをもつ人たちが、子育て世帯の移住促進に向けて自然体験イベントを開催したり、学校について語る会を立ち上げたりと、住民主体のアクションを起こしていました。

しかし、2016年に児童数が0人になったのを機に小学校は休校に。再開を望む声や、子育て中の移住世帯が増えつつある状況など、住民からいろいろな意見を受け、2020年に新入生が1人現れたのをきっかけに、富貴地区から約1時間離れた別の地区にある高野山小学校の富貴分校として再開されました。その後、大谷さんをはじめ子育て世帯が立て続けに移住し、現在は4家庭から9人の子どもたちが小学校に通学しています。

2026年には、うち3名が中学校に進学する予定ですが、中学校も2019年に生徒数が0人になったため現在は休校中。移住世帯のみなさんは、数年前から中学校再開に向けて高野町の教育委員会と相談を続けてきました。ただ、小学校が再開したからといって、一度休校した中学校を再開するまでの道のりは容易ではないそう。

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大谷さん 子どもが小学校に入学した頃は、時期が来たら中学校も再開すると思っていましたが、どうなるかは分からない、という話を聞いて。移住した年ぐらいから、中学校再開に向けて教育委員会と話し合ってきました。でも、どうも個人で動いても難しそうで。移住世帯のみんなで動くようになって、3年ほど前に地域の方たちに中学校再開の賛同書への署名を呼びかけると40〜50名分が集まりました。

保護者や地域住民の想いが伝わり、町では中学校開校に先んじて2024年に小学校を本校化しました。というのも、分校は本校の教育方針を反映しますが、車で1時間も離れた高野山小学校とは児童数も地域の特色も大きく異なるため。本校化によって、小学校の教育目標やカリキュラムに富貴地区の特色が取り入れられるようになり、学校には校長先生が常駐するようになりました。

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全国的に学校の統廃合や閉校が進む中、過疎地域の学校が本校化されるという事例は珍しいことだそうです。

歴史を途絶えさないための発信を

中学校再開への取り組みと並行して、移住世帯のみなさんが2022年から精力的に行ってきたのが、フキシネマパラダイスでの定期的なイベント開催です。

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フキシネマパラダイスの看板や内装デザイン、記事冒頭の写真「富貴地区の地図」は、発起人で絵本作家でもある上辻淑子さんによるもの

映画の上映会や、ゲストを招いたイベント、地区の人が出演する音楽会などに加え、コロナ禍で途絶えていた盆踊りや餅まきなど、地区の伝統的な催しも再開させました。オープンから3年経った今、地区内外の人が気軽に交流できる土壌ができつつあります。

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富貴内外の方が出演する「みんなの音楽会」は、楽器の演奏や劇など、子どもも大人も特技を披露する(画像提供:フキシネマパラダイス)

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フキシネマパラダイスでのイベントは、雪が降り積もる冬の期間をのぞいて、月1回の頻度で開催している(画像提供:フキシネマパラダイス)

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富貴地区が位置する紀北地方は、法要や祝い事のときに餅まきをする風習がある。人手不足や資金面の負担からなくなりつつあるが「自分たちの思い出に残っている地域の文化を残そう」と再開。多くの住民が集まった(画像提供:フキシネマパラダイス)

これらのイベントを通じ、かつての大谷さんのように富貴に魅力を感じて遊びに来る人が増えている中で、2025年からは、子育て世帯の移住促進の取り組みに本格的に力を入れるようになりました。たとえば、5月に開催したイベント「富貴の自然と遊ぼう」は、富貴小学校の学校運営協議会(※)での話し合いがきっかけで企画したといいます。

※学校と地域が連携して学校を運営するために、学校運営に必要なことを協議する機関。保護者の代表や地域住民が委員を担う

協議会の中で、移住促進のために地区の魅力や学校の取り組みをもっと発信したい、という話題が出たとき「まずは保護者主体でやってみては?」という意見が出たそう。そこで、地区で預かり保育をする団体「ちっちらこ」と協力してイベントを開催。参加者が富貴地区に暮らす人たちと交流しながら、春の自然を感じ、地区での暮らしをイメージできる内容を考えました。当日は小雨だったにもかかわらず、近隣の市や県から10組約40名が参加しました。

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当日は初めて富貴を訪れた参加者も多かったそう。地区を散歩して自然に触れた(画像提供:フキシネマパラダイス)

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富貴小学校は児童数が少ないので、複数学年の児童を一つの学級として編成する「複式学級」で授業をしている。イベントでは、保護者が複式学級のことや小学校の取り組みを紹介したり、リレーや縄跳びなどの「ミニ運動会」で交流したりする時間も(画像提供:フキシネマパラダイス)

子育てや仕事に忙しい実行委員会のメンバーですが、毎月のイベント開催や、移住促進の取り組みを有志で続けています。みなさんが、行政に任せっぱなしにせず、自分たちで地域の課題解決に取り組む原動力はどこにあるのでしょう。

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ボランティアで行うフキシネマパラダイスの運営について「お金よりももっと得ているな、という感覚がある」と大谷さん

大谷さん 今は中学校再開に向けて動いていますが、自分たちの子どもが学校にいる期間は長くてあと十数年です。でも、もっと先を見ないと、移住者が一時的に増えただけで終わってしまう。地区の小学校が本校化するという稀なタイミングにこの地区にいて、歴史の1ページが開くような瞬間を見たのだから、その歴史を途絶えさせず続けないといけないと感じていて。

そのためには、ここでの暮らしや学校の取り組みを外に向けて発信することも必要だと思っています。僕たちは偶然ここに来たわけではなく、富貴が好きで来ていて、いいなと思っている場所なので、地区のことをいろいろな人に知ってほしいし、まだ知らないだけで、ここでの暮らしがぴったり合う人はいると思うんです。そんな人たちが移住してきてくれることで、学校も地域も維持していけます。

地区の文化を続けていく

移住促進イベント「富貴の自然と遊ぼう」は、年間行事として毎年開催していく予定で、今後は小学校と協働していきたいとも考えているそう。「結構大変なんですけど、やっぱりなんでも継続しないとね」と朗らかに話す大谷さん。続けることを大切だと考えるのは、長年地区の人が続けてきた活動が、今ある富貴の風景をつくってきたことを感じているからかもしれません。

大谷さん 地区にはフキシネマパラダイスをつくる動きをはじめ、小学校について考える会や、僕も知らないところでいろいろな活動がずっとあって。なかなか定住につながらない時期もあったそうですが、これまでの地区の人の活動があって、移住世帯が増えてきている。

このイベントも、続けることで徐々に移住世帯が増えていくかなと思っています。それに、続けていく姿を見せることで、行政や教育委員会の方にも安心してもらえるというか。自分たちの世代だけでなく、次の世代、その次の世代へと続けて、秋祭りの神輿のような一つの地域行事として残っていけば、学校も存続されていくんじゃないかな、と思うんです。

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映写機は映画「ニューシネマパラダイス」に出てくるものをもとにつくったそう。初めて開催したイベントは、もちろん「ニューシネマパラダイス」の上映会

いま、大谷さんたちは新たな取り組みとして、移住準備期間に暮らせる「お試し住宅」をつくろうとしているそう。富貴地区の空き家は不動産業者が仲介しておらず、基本的なやり取りは当人同士で進めなくてはなりません。住民のみなさんの協力で空き家情報が集まっても、地区に何度も通って賃貸交渉をするのは移住のハードルの一つになっていました。そこで、富貴にある空き家を活用して、移住希望者が腰を据えて物件を探せる環境づくりをしようとしています。雪が積もりイベントができない冬の間に、片付けや準備を進めて、2026年春のプレオープンを目指します。新しい場所の名前は、もう決まっています。

大谷さん 「FUKI LUCK(フキラック)」って名前だけ決めているんです。幸運やめぐり合いの「luck」と、楽しいの「楽」。ここに来たら楽しもう!という意味を名前に入れたくて。何をするにしてもいろいろな壁はあるけれど、結局は楽しまないとなって。シンプルなことですけど。
何かやる時は「楽しいな」、終わってからは「楽しかった」、だから次も楽しみになっていく。そんな風に「楽しい」気持ちが循環することが、ぞれぞれの人の充実感になるのかなと思っていて。

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地区の方への感謝をもので返そうと思っても「そんなのいいよ〜」と言われて、なかなか返せないそう。フキシネマパラダイスでのイベントが、娯楽の少ない地区の中でエンターテインメントのひとつになったらいいな、という恩返しの気持ちも

取材の後、大谷さんのご自宅へお邪魔しました。庭にはかけっこや砂遊びをして遊ぶ子どもたちの姿が。時計は午後2時。学校が終わってすぐに遊んでいるのだな、と微笑ましく眺めながら、目の前の光景は地区の学校が再び開校したからあるものだと気がつきました。

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取材からしばらく経って、町が2026年度から小学校と同じ敷地内にある中学校を再開する事を決定したというニュースが飛び込んできました。保護者の声はもちろん、地区の人たちの数年間にわたる思いが届いた中学校再開です。

大谷さんが「富貴の文化」という言葉で表していた住民主体の活動。気軽に参加できる会や、人が集まれる場をつくり、お互いを気にかけ、必要なことは話し合う。そんな営みが当たり前にあるからこそ、学校存続への声が上がり、これからも学校や地域文化が続くための取り組みが生まれています。

筆者が生まれ育ったまちは、富貴地区と同じ紀北地方ですが、実は富貴に行ったのは今回が初めて。お話を伺いながら感じたのは、地区に関わるみなさんには、責任感や義務感ではない「楽しもう!」という気持ちが真ん中にあること。そして、「自分たちで地域や暮らしをつくる」という暮らし手の姿勢が、地域の文化や風景をつくること。

フキシネマパラダイスでのイベントは、雪が降り積もる冬の間はおやすみ。富貴の人がつくってきた文化や、富貴での暮らしに心が動いた方は、次の春になったら、訪れてみてはどうでしょう。ここだから出会える人や風景が、きっとあります。

(撮影:佐伯亮太)
(編集:村崎恭子)

– INFORMATION –

2026年の「富貴の自然と遊ぼう」が、4月18日に開催されます。
日程が近づいたら、フキシネマパラダイス公式サイトやインスタグラムに掲載されるので、確認してみてくださいね。

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