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必要なものは、自分で工夫して生み出す。移住者が急増する長野県御代田町で、まちへの”入り口”をつくる前村達也さんの暮らしの価値観

必要なものは、自分で工夫して生み出す。移住者が急増する長野県御代田町で、まちへの”入り口”をつくる前村達也さんの暮らしの価値観

雄大な浅間山の麓に広がる、長野県の御代田町(みよたまち)。人口1万6000人ほどの小さなまちですが、ここ数年は年間およそ200人ずつ人口が増え続けています。(※)

その要因のひとつは、2020年のコロナ禍以降、リモートワークが進み、どこでも働くことのできる人たちが増えたことだと考えられますが、隣接する軽井沢町や佐久市に新しい学校が続々と開校されたことも大きいようです。

そんな移住者の多くにとって、まちへの”入り口”となっているのが、御代田駅前にある「CORNER SHOP MIYOTA」です。1階がカフェ・バーとギャラリー、2階がゲストハウスになっています。

オーナーである前村達也さんに、今の暮らしの土台となる価値観を得た家族でのヨーロッパ旅のこと、そしてそれをいかして御代田町で育んでいることについて伺いました。

※出典:御代田町

CORNER SHOP MIYOTA グリーンズ

前村達也(まえむら・たつや)
1980年神奈川県生まれ。​​イギリスとオランダの大学でデザインを学ぶ。2011年より三宅デザイン事務所に入社。「21_21 DESIGN SIGHT」のプログラム・ディレクターとして主に文化事業など数々の展覧会を企画。2022年に独立し、企画ディレクションおよびプロジェクトマネージメントを行うSCALE ONE Inc.を設立。

家族でこれからの暮らしを考える旅へ

もともと東京のデザイン事務所で働いていた前村さんは、展覧会の企画・運営などに携わっていたそう。

前村さん 展覧会をやっていると、いろんな人たちが来たり、自分も国内外の都市から地方へとリサーチに行ったり、さまざまな文化に触れるチャンスがたくさんあって、本当に学びが多かったです。

そんななかで、こんなに一生懸命に働いて、こんなに普段会えないような人たちにたくさん会っているのに、当時東京で住んでいた家や環境がすごく狭苦しくて、自分はなんて貧しい生活をしているんだろう、と思ったんです。展覧会に来た文化人や著名人、サウジアラビアの王室などを案内したあとに家に帰ると、すごくギャップを感じてしまってね…。

自分の家は気に入っているし、経済的に貧しいわけではない。でも、本当の豊かさとは何だろう?前村さんはだんだんと東京での暮らしに窮屈さを感じ、別の場所に住むことを考えはじめます。

前村さん 国内もいろいろと検討しましたが、イギリスとオランダの大学に通っていたこともあり、まずは海外を見ることで自分たちを見つめ直し、これからの暮らしについて考えようと、家族でヨーロッパをまわることにしました。

2017年、約3ヶ月かけてオランダ、フィンランド、イタリア、フランス、イギリス、ドイツ、スイスへ。子ども2人を連れた観光目的の家族旅行ではなく、“サバティカル休暇”として位置づけ、テーマを設けた視察のような旅だったとか。

前村さん 地域ごとにテーマを教育、農業、コミュニティ、美術館、アート、公共サービスと分けて、見てまわりました。たとえばフランスなら農業を中心に見ようと、自給自足で暮らしている家族のところに2週間、滞在しながら農業を手伝いました。その村に住んでいる同世代の人たちが助け合いながら暮らしている様子も印象に残っています。

フィンランドとオランダでは教育を中心に見て、自分が美術大学に通っていたので美大と、地元の公立小学校を見学しました。当時、長男は7歳で長女が4歳だったのですが、小学校では授業を一緒に受けさせてもらいました。

ヨーロッパでは小学校から自分自身でやることを考えて進めることが当たり前で、たとえば図工の授業ではみんなそれぞれつくりたいものをつくっていて、たぶん「木工」とか大きなテーマはあるのですが、得意な子は本格的な機械を使ったり、音楽好きな子はギターをつくったりしていて。日本の公教育とは随分とちがうなと感じましたね。

生命力を高める体験を増やす

多くの気づきや学びとともに帰国後、ヨーロッパと比べて東京は人口密度が高いと以前より感じるようになり、本格的に引越し先を探しはじめた前村さん。旅でもテーマにして見てきたヨーロッパの教育や農業、コミュニティ、アートのエッセンスを、暮らしのなかでも取り入れたいと思っていました。

すると、ちょうど同じタイミングで、友人が家族の都合で御代田町に住むことになったそう。その土地は、なんと3600平米もの広大な敷地でした。友人と「一緒に家を建てようか」という話になり、実際に土地を見に行くと、ここなら理想の暮らしやコミュニティづくりができるかもしれない、と御代田への移住を決意。

土地は2世帯でも広すぎるため、友人に声をかけ、最終的に5世帯で土地をわけてそれぞれ家を建てて暮らすことに。デザイナーや建築家などのクリエイターが集まり、2018年からそれぞれの家の工事がはじまりました。

普段は各々で生活をしていますが、月に一度は敷地内の「共有地」と呼ばれる広場で何かをつくったり掃除したりといった作業をし、ゆるやかに協働して生活を送っています。

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ご自宅の様子(画像提供:前村達也さん)

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ご近所のみなさん(画像提供:前村達也さん))

前村さんは2020年に御代田町に引っ越してからは、「ヨーロッパで体験し、やりたいと思ったことが実現できそうな環境にいる」と振り返ります。

たとえば、コミュニティ。フランスやイタリアでの学びから、御代田町にゆかりのあるクリエイターとともに、デザインで人と人、人とまちをつなげる活動体「ミヨタデザイン部」を立ち上げ、ものづくりのワークショップやイベント「MIYOTA DESGIN WEEKEND」などを開催。フランスで体験した農業のある暮らしも実践しようと、畑と田んぼを借りて米や穀物をつくっています。

前村さん こうしたコミュニティや農業などの活動は子どもたちの教育にもつながっています。また、海外から友人や知人がよく訪ねてくるので、子どもたちは外国の文化もなんとなく体験できていると思います。

今年、息子と一年かけて家の横にオフグリッドの小屋を建てたんです。うちには子ども部屋がないため、もうすぐ高校生になる彼にはそろそろ必要かなと思って。寝泊まりができる広さなので、子どもたちが独立したらその小屋を活用してホストファミリーをやりたいと思っています。もしホストファミリーも落ち着いたら今度は親が住むかもしれない。いろんな可能性があります。

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息子さんと小屋を制作している様子(画像提供:前村達也さん)

小屋をつくるにあたって、いくつか決めたことがあるそう。業者に頼らずに自分で設計・施工すること、いま住んでいる家と同じ構造にすること、エネルギーの得難さを体感するために既存のインフラにつなげないこと、やろうと思えば小屋だけで暮らしを完結できること……。

その根底には、子どもたちに暮らしのなかで生命力を高められる日々を提供してあげたい、という思いがありました。

前村さん ヨーロッパの旅を経て感じたことは、「生命力を高めたい」ということでした。「生命力」を自分なりに分解すると「衣食住」にたどり着いて。「衣」は身を包む、「食」は安心なものを採集する、「住」は安全なところを確保する。それぞれを自分で工夫してつくることが生命力につながるのでは、と思いました。そのための体験を、暮らしのなかでつくっていきたいと思っています。

旅を通しての学びが、じわじわと暮らしのなかに根づいているようです。

人が集まれる場がないなら、つくろう

「自分で工夫してつくる」という前村さんの姿勢は、まちの中で進めるコミュニティづくりにも表れています。その象徴が、2023年に御代田駅から出てすぐのところにオープンした、カフェ&ゲストハウス「CORNER SHOP MIYOTA」です。

CORNER SHOP MIYOTA グリーンズ

御代田駅の正面に佇む「CORNER SHOP MIYOTA」

前村さんは移住に伴いデザイン事務所を退職した後も、東京の展示や企画の仕事を続けていましたが、御代田町で何かを企画したいと考えたときに、まちの人たちが集まれる場がないことに気づきます。当時はまだコロナ禍が続き、地元のお祭りやイベントが中止され、人と出会う場が少なかったそう。

友人や知人は家に遊びに来るけれど、知り合いの知り合いはいきなり家には来づらい。でも、お店ならふらっと来れる。そういう場所があったらいいし、ついでに泊まれるゲストハウスもあったらいい。そう考えた前村さんは、まちの人たちや外から遊びに来た人たちが集まれるお店をつくることにしたのです。

前村さん もともと移住する前からこの物件を知っていて、いいなと思っていたんです。引っ越してからコロナ禍もそろそろ明けそうだという時期に、明ける前に借りたほうがいろいろな活動が再開されたときに動きやすいと思って。まだ誰も動き出していないときに借りて、友人たちの協力のもと、8ヶ月くらいかけてDIYで工事しました。

CORNER SHOP MIYOTA グリーンズ

店内では地域に根ざした雑貨や食品など、御代田町にゆかりのある商品の販売も行っている

前村さん オープンして2年半くらい経ちましたが、お客さんはやはり移住してきた人や外から遊びに来た人たちが中心です。最初は地元の人たちにも来てもらいたいと思っていましたが、やはり入りにくいみたいで、最近は諦めたというか、逆に自分から入っていこうと思っていて。

というのも、自分自身が地元に帰ったときのことを想像すると、いつもの友達といつものお店に行くから、移住者が新しく始めたお店にはわざわざ行かないなと思ったんです。

だから、自分が近所で商売をしている地元の人たちと仲良くなって、「CORNER SHOP MIYOTA」のお客さんに「あっちのお店も行ってごらん」って勧める。そうすると地元の人は「うちのお店を紹介してくれたんだな」って思ってくれて、ギブアンドテイクが生まれていく。何もせずに「地元の人に来てもらいたい」と待つのは、ただテイクするだけの状態だったんですよね。

「花火大会の事務局にも入ったんですよ」と前村さん。地元の人たちに来てもらおうとするのではなく、自分が地元の人たちの方へ入っていく。そうやって少しずつ混ざり合っていく。移住者が急激に増えているまちだからこそ、こうした地道な積み重ねが大事なのだと感じました。

CORNER SHOP MIYOTA グリーンズ

「CORNER SHOP MIYOTA」で働くスタッフにも、近隣に移住してきた人たちが多いそう

さらに今、新たに進めているプロジェクトがあるようです。

前村さん 近くの空き家を借りて、B&Bのゲストハウスをつくる予定です。結構大きい建物ですが、妻がピラティスの講師をしているので、そのスタジオも併設します。インストラクターの養成講座とか、あとはリトリートとか、フードのイベントとか、いろいろな連動が生まれるかなと考えています。

ゲストハウス「Bricks & Blocks MIYOTA」は2026年の春にオープン予定とのこと。「CORNER SHOP MIYOTA」から徒歩圏内にあり、オープン後は訪れる人たちが行き交うことでまちの様子も変わりそうです。

前村さん これができたら、もういいです。70歳くらいまで宿業をやっていたい。というのも、今、興味の95%くらいを占めているのが地域のことで、東京の仕事もやっているけど、もっと御代田の活動に集中して、お店や宿を素敵に管理していきたいですね。

CORNER SHOP MIYOTA グリーンズ

ヨーロッパの旅で体得した価値観を暮らしの土台に置き、「ほしいものは自分で工夫してつくろう」と、その土地にあるものを活用し、地域の人たちと協力し、よりよいまちへと育てていく前村さん。その点と点はつながって、どんどん広がり、御代田のまちに新たな情景が生まれていくのだと思います。前村さんが今後どんな未来を描いていくのか、とても楽しみです。

(撮影:丸田平)
(編集:村崎恭子)