いつもの通学路や通勤途中、どうしても気になってしまう光景ってありませんか?
建物、自然、行き交う人々の様子。
見慣れた景色のようでも、日々小さく変化していたり、逆にずっと変わらなかったり。そんな「何か」が、なぜかわからないけれど、とても気になる。誰かに話さずにはいられなくなる。
ひょっとしたらそれは、あなただけが見つけられる新たな価値の「種」なのかも。
今日ご紹介するのは、神奈川県の湘南地区に移住してきたある青年の「どうしても気になる」から始まった、つながりの物語。「もったいない」を「おいしい」「楽しい」に変えたのは、未活用の私有物を地域資産と捉え直す価値の転換でした。
「みかん、食べたいなぁ」
物語のはじまりは、2019年頃のこと。東北から湘南地区に引っ越してきたばかりの齋藤佳太郎(さいとう・けいたろう)さんが、ある光景を目にしたことがきっかけでした。
齋藤さん 僕は宮城県出身なんですが、引っ越してきてびっくりしたことがひとつありました。それは庭先に、でっかい柑橘が生っていること。「あれはなんだ!」と。
東北でも柚子や柿は見かけていたけれど、夏みかんや八朔(はっさく)は見たことがありませんでした。子どもの頃から柑橘類が好きだった齋藤さんは、その行く末を見守るようになりました。「食べたいな」「もらえないかな」という気持ちとともに……。
齋藤さん 見守っていたら、「これはどうも食べられていないぞ」と気づきました。落ちて腐ってダメになって、景観的にも残念な感じになってしまっている。それを見たときに、一番に「もったいない」という感情が強く湧き起こって、放置されてしまっているあの果実を救出する方法はないかなと考えるようになりました。
齋藤さんの話を聞いて私が思い出したのは、小学校への通学路の光景。畑の脇に立つ柿の木には秋になるとたくさんの実がなり、熟しすぎたものが地面にたくさん落ちていました。それをカラスが突いていて、なんとなく嫌な気持ちになったのを思い出しました。
一方で、そういった果樹は高齢の方の家に多いと気づいた齋藤さん。放置されている背景を想像してみました。
齋藤さん きっと収穫するのも大変だし、収穫したとしても、人付き合いが薄れているなかではお裾分けも大変。たくさんの「大変」がまとわりつくからきっと放置せざるを得ないのではという背景が、なんとなく見えてきたんです。
当時、茅ヶ崎市にあるコワーキングスペースで働いていた齋藤さんは、同じ地域に住む周りの人々にこの話をするように。すると、地元の人にとっては当たり前の景色で「気づかなかった」という声があるとともに、「たしかにもったいないよね」と共感してくれる人々も少なからずいました。そんななかで齋藤さんは、庭先の果実の価値を捉え直します。
齋藤さん 地元の人には気づきにくいことが、もしかしたら地域の価値の種みたいなものになるんじゃないかと思いました。そこに可能性を感じましたし、やっぱりただただ食べたかったというのもあって(笑)
でも僕がひとりでいきなり果樹のあるお宅にピンポンしても驚かれるだけなので、フルーツを未活用の地域資産だと捉え直し、地域に循環させようと考えました。みんなで収穫して、みんなで活用して、みんなで味わう。
名刺じゃなくて柿やみかんを差し出すようなインパクトのあるコミュニケーションで、新しい人のつながりがつくれるのではないかなと。
分かち合いのコミュニティ「のきフル」へ
「庭先のフルーツは未活用の地域資産である」。
齋藤さんがそう捉え直したのは、「みかん、食べたいな」と思い始めてから約3年後のこと。同じコワーキングスペースで働く仲間であった高橋祥子(たかはし・しょうこ)さん、大西裕太(おおにし・ゆうた)さんとともに、プロジェクト化の構想を組み立てていきました。
地域にある未活用のフルーツを収穫し、分かち合い、食べたり調理したり商品化したりすることで、地域に巡らせていく。そのプロセスで人と人が知り合い、つながり合うことが地域のさまざまな課題解決にもつながっていくのではないか。そんなまちの姿を思い描き、2023年11月「湘南のきさきフルーツプロジェクト(通称「のきフル」)は始動しました。
以降、想いに共感した仲間が次々にメンバー(通称「のきフルメンバー」)として参画し、季節ごとに果樹の実った個人宅に収穫に行き、持ち主(通称「フルーツオーナー」)も交えて調理ワークショップや試食イベントというかたちで分かち合う。そんな実践を積み重ねています。
たとえば柚子なら、定番のジャムやシロップの他、柚子ラーメンや種を使った化粧水など、料理好き、手仕事好きのメンバーが果実丸ごと次々に新たな価値に変えていきます。季節ごとの実りをいかし、「アプリコットパーティ」「干し柿ワークショップ」「薬膳グレナデンシロップワークショップ」「金柑ジャム&夏みかん発酵洗剤の作業会」など、のきフルの活動はどれもワクワクを誘うものばかり。

収穫の少ない夏に、仕込んだお酒やシロップなどを試飲しながら、みんなで交流する「アプリコットパーティ」。びわブランデーや金柑のはちみつ漬けシロップなど、身近な果実を違う形で楽しめる人気企画(提供:湘南のきさきフルーツプロジェクト)
柑橘の実りの季節である1月〜5月を中心に多い時期は毎週のように収穫に行き、実りの少ない夏季は交流会を開くなど、2025年11月までの2年間に重ねたワークショップは、計35回。「おいしい」を分かち合うつながりは増え続け、のきフルメンバーのLINEグループ登録者は約170名にもなりました。0歳から82歳まで、幅広い年齢・職業の方が集うコミュニティへと成長しています。
あるものに目を向けて、分かち合う文化を
個人的な動機から始まったシンプルな活動ながら、順風満帆に活動を広げているのきさきフルーツプロジェクト。その広がりの要因は、「おいしい」という万人共通の喜びに加え、参加ハードルの低さにあるようです。
実は収穫作業も調理ワークショップも、「はじめまして」の人でも参加しやすく、その活動形態が人と人を自然につなぐことに一役買っているのだとか。
大西さん 僕らの活動は地域のつながりづくりがテーマですが、誰でも初めての人と目を見て話すのは緊張しますよね。でも収穫も調理も、みんな手元を見ながら仕事をするので、相手の顔を見なくても話ができる。手仕事って、つながりづくりのいい時間になるんですよね。
確かに手を動かしながらであれば、話してもいいし話さなくてもいい。一人ひとりに役割があるので、その場に貢献できているという実感も持てる。フルーツオーナーも含めてみんながフラットな関係性になれますし、自分の居場所も見つけやすそうです。
しかしここで私が気になったのは、フルーツオーナーとの出会い方です。そもそも未活用のフルーツがなければ活動は成り立ちません。こちらから果樹のある家を見つけてアプローチするのでしょうか?それともフルーツオーナーさんから問い合わせが届くのでしょうか?
齋藤さん 当初は問い合わせが来ると思っていたんですが、実は全然なかったんです(苦笑)。単純に僕らの活動が知られていないということに加え、やはり収穫のためとはいえ知らない人に自宅に来てもらうのはハードルがあるのかもしれませんね。だからといってこちらからいきなりピンポンするのもびっくりされちゃうので、難しくて。
だからこれまでは紹介で知り合うことが多かったのですが、実はこの壁を越えてくれたのは子どもたちだったんです。
こう前置きして齋藤さんが話してくれたのは、茅ヶ崎市内の小学校の児童たちと一緒に活動したときのこと。まちのにぎわいをテーマとした総合学習の一環としてのきフルメンバーと一緒に活動した子どもたちは、フルーツオーナーに話す内容を自分たちで原稿にまとめ、果樹のある家を一軒一軒訪ね歩きました。
すると、フルーツオーナーは次々に快く応じてくれて、その場で収穫させてもらえたり、後日大量のフルーツが学校に届いたり。大人にとって高すぎたハードルを軽々と越えていったと言います。フルーツオーナーからも「ふだん家の前を通学している子たちと話せて嬉しかった」というあたたかな声が届いたと言います。
高橋さん 思わぬ多世代交流の機会になって子どもたちも地域の大人たちがこんなに優しいんだということを実感したと思います。
なかには、金柑を皮ごと食べられることさえ知らなかった子どもたちもいて。畑で大切に育てられた果物しか食べられないと思っていたけど、庭先のフルーツもスーパーに並んでいるものと一緒だということを知ってもらう機会になりました。きっとその子たちは翌年も取って食べるだろうなと思うと嬉しくなりますね。

運営メンバーの高橋祥子さん。デザイナーを本業としており、主にデザインや広報を担当。「もらったら返すといった小さなやりとりではなく、誰かと誰かが恵を分かち合い、また別の人に別の形で届いていくような大きな循環の景色を見ていたい」と熱量高く語る
高橋さんの話を受けて「丁寧につくられた農作物も、庭先で自然に毎年実っている果実も、どちらも素晴らしいと思う」と齋藤さん。この活動は、フルーツを通した文化や気風づくりにもつながると語ります。
齋藤さん のきフルのロゴは輪切りのみかんにまちが乗っているイメージでつくられていますが、そこには、「のきフルという船に乗ってみんな自分のやりたいことをやっちゃって!」という気持ちも実はあって。
僕らのキーワードは「未活用の活用」ですが、人のやりたいことやスキルといった、実はたくさん眠っている人にまつわる未活用もおおいに活用していく文化を育んでいけたらなと。とにかく「もったいない」ことを少なくしていきたいんです。
のきフルメンバーには収穫や作業を行う際の交通費も謝金も渡していないそうですが、その体験自体に価値を感じ、参加し続けてくれるとのこと。これも、時間や労力という「未活用の活用」と言えそうです。大西さんも、こう続けます。
大西さん 僕らはこれまでザクロやクルミ、アンズやナツメなど、想定外の未活用フルーツにたくさん出会ってきました。でも、文化という面でも見えていなかっただけで、いろいろなものが「実は余るほど豊潤にある」。そういうことに気づき直す気風をつくっていきたいです。
フルーツもスキルも、すでにあるものに目を向けてお裾分けして、みんなで大事にする。そんな気持ちになったら、どんどん自分のものを「貸すよ」って言いやすくなるかも知れませんし、そういう文化も育まれていくのかなと。
のきフルは「事業」ではなく「文化」を育む行動体である。だからこそ、お金を介さない人のつながりや顔の見える関係性こそ何よりも大切にすべきである。そのまっすぐに通った確かな軸が、のきフルを導き続けているように感じます。
天国の喜代さんとつくった、はっさくシロップ
あるものに目を向けて、モノもスキルも未活用を活用していく。2025年春、そういった“のきフルマインド”が総動員されたような、第一弾商品が誕生しました。
その名も「喜代のはっさくシロップ」。ここからは、のきフルメンバーで開発チームの浅井広菜(あさい・ひろな)さん、浅井一茂(あさい・かずも)さん、広菜さんの父・角田和久(すみだ・かずひさ)さんに、誕生秘話を聞いていきます。
のきフルと3人の出会いは、2024年5月のことでした。茅ヶ崎市内で開催されたマルシェイベントの会場で齋藤さんが「お庭の果物余っていませんか?」というプラカードを持って活動をPRしていたところに、偶然角田さんが立ち寄ったそう。当時、義父母の家で柑橘類の収穫が難しくなり困っていたという角田さんは、齋藤さんに話しかけ、詳しく聞いてみました。
角田さん 話を聞いてすぐ、「俺たちが探していた活動だ!」と思って。その場で娘(広菜さん)に電話して、すぐに呼び出したんです。
広菜さん 父はめちゃくちゃ興奮していて(笑)。私もすぐ近くにいたので急いで行って、そこで齋藤さんとも初めてお会いしました。
おばあちゃんの家には柚子と八朔(はっさく)とみかんの木があって、合わせて1,500個くらいの柑橘が毎年採れるんです。私たち家族では消費できなくて、知人友人に送ったりしても結局全部は使いきれなくて困っていたので、「これを有効活用してくれる人がいるんだ!」と驚きました。
その前年に祖母・喜代(きよ)さんを亡くしたという広菜さんは、以前から一人暮らしの喜代さん宅の庭に実る柑橘類を複雑な気持ちで見つめていたと言います。
広菜さん 私もおばあちゃんも、「辛いものができちゃう」という気持ちでいました。毎年たくさん実るのに自分たちでは高いところまで収穫できなくて、食べきれなくて。罪悪感を抱えていたんですよね。
その罪悪感を拭い去るように、庭の柑橘類を使って当時からハマっていた「クラフトコーラをつくろう」と喜代さんに話していたという広菜さん。でも商品化のためには保健所の基準を満たしたキッチンが必要な上、商品開発に充てるだけの十分な時間もありませんでした。「誰かの手助けがあれば」と感じていたときに、のきフルに出会ったのです。
さっそく説明会や交流会に足を運んでみると、フルーツオーナーとしてだけではなく、のきフルでは自分で企画もできると知った広菜さん。クラフトコーラへの想いをメンバーに伝えたものの、商品化には大きく2つの壁が立ちはだかりました。
一つは、製造許可の問題。広菜さんや喜代さん宅のキッチンでは許可を取るのが難しい状況でした。そこでメンバーで協議し、運営メンバーの大西さんが営む店舗で許可を得ることになりました。
二つめは、レシピです。広菜さんにはクラフトコーラをつくりたいという熱意はあったものの、味の設計やスパイスの調合などは得意ではありませんでした。そこで白羽の矢が立ったのが、料理好きのパートナー、一茂さん。一茂さんは果汁の割合や砂糖の種類を考えることからはじめ、以前から興味があったスパイスにもこだわってレシピを考案しました。
一茂さん ちょうどインドネシアに旅行に行ってなかなか手に入らないホワイトカルダモンを安く買ってきていたので、それをスパイスとして入れてみて微調整して。
甘さにもこだわりました。甘さが強いクラフトコーラが市場には溢れていますが、せっかく僕がつくるなら果実感とスパイス感が伝わる、甘くないものをつくりたいと思ったんです。
一茂さんのアイデアとこだわりによって、パンチが効いて清涼感のある湘南らしいクラフトコーラのレシピが完成。その後の製造過程にも、のきフルらしさを詰め込みました。メンバーが収穫した600個の八朔は、驚くことにすべて手剥きで処理することに。名付けて「八朔剥きまくり会」。
齋藤さん 商品化も工場にアウトソーシングするのではなく、自分たちでできるところはやって、完成したときに商品と関わる人の距離感が近い方がいいなと考えました。メンバーが「私はここに関わった」と語って、愛着が持てる商品になったらいいなと。
剥きまくり会には、「楽しそう!」と、20人もの人が集まりました。でもやはり八朔の量は膨大です。最初はおしゃべりしていたメンバーもどんどん無口になっていき、最後はハイテンションになるほど果てしない作業だったそう。
2日間かけてなんとか剥き終えたはっさくを調理し、パッケージに詰め込む作業にかかった時間はさらに12時間。2025年5月、ついにのきフルの第一弾商品『喜代のはっさくシロップ』(300g・1,650円)は完成しました。

パッケージの背景には広菜さんが制作したテクスチャーアートを採用。インドネシアの白い砂に、柑橘を連想させる夕焼けのオレンジと湘南らしい海の青を混ぜ込み、立体的な質感のデザインに。今後のシリーズ化を意識し、「木」と「気」をかけて「湘南の“きになる”お裾分け」というキャッチフレーズも添えて。スパイスの効いた甘すぎないシロップは、お酒で割ったりお料理やデザートに使ったり、のきフルメンバーから次々にレシピが考案されているのだとか
『喜代のはっさくシロップ』はその後、地域のマルシェやイベント等、すべてのきフルメンバーによる直売で、人から人へと届けられていきました。商品ができたことでプロジェクトを知ってもらう機会も増え、コミュニケーションが取りやすくなったそう。10月末には380パックすべてが完売となり、今シーズンは終了。また来年の実りを待ちつつ、今度は皮や種の活用など新たな挑戦も見据えはじめた今、広菜さんは現在の心境をこう語ります。
広菜さん 私のなかでは「おばあちゃんとやっている」という気持ちが強いです。
80代になったおばあちゃんは当時人とのコミュニケーションが減って元気がなかったので、新しいコミュニティに連れて行ってあげたかったなという気持ちもあった。だから今は、収穫も商品化も、おばあちゃんもプロジェクトメンバーとして一緒にやってきた感覚。とりあえずここまでできて、自分としても嬉しいです。
文化を育むために、がんばりすぎない運営スタイルで
看板商品も完成し、トヨタ財団からの助成期間も間も無く終了(延長したため2026年4月まで)を迎え、プロジェクトとしての第一ステージ終幕を迎えたように見えるのきフルは今後、どこへ向かうのでしょうか。
齋藤さん 2年ほど走り続けて今思っているのは、「やりたい」という誰かの意志のあることを続けていきたいということです。今まで開催したイベントやワークショップは誰かの意志から始まったものがすごく多いのですが、僕らの活動は仕事でも義務でもない以上、「主体者がいるからこそできる」というところがあります。
続けていると「やった方がいいこと」はいくらでも見つかりますが、それだけやっていると面白くないですし、僕らも疲れてしまいそうだなって。
一時は収穫がありすぎて、忙しさに運営メンバーがヘトヘトになってしまった時期もあったと笑う3人。そのとき改めて見つめ直したのは、やはり「人のつながりをつくる」という活動の原点だったそう。
高橋さん みかんを取る業者になりたいわけでもないし、それを売りたいわけでもない。根こそぎとりたいわけでもない。やっぱり私たちは、人とのつながりをつくりたいというところに落ち着きました。それを一番大切にしたいなって。
一番大切なものを大切にし続けるために、のきフルは法人化せず、市民活動団体のまま活動を継続していこうと考えているそう。
齋藤さん 運営メンバー自身も「美味しそう」「楽しそう」というところから始まっていますし、関わってくれるのきフルメンバーにも「都合と関心が合えば」と言い続けたい。敷居の低さを保ち続けるためにも、僕らも末長く楽しさを失なわずがんばりすぎない運営スタイルでいきたいんですよね。
助成金が終了した後、継続を見据えたときに気になるのはお金の面ですが、それに関してもこの2年で気づきがあったようです。
大西さん 商品化で売上を立てると言うキャッシュポイントは見えてきましたが、それ以上に2年間を通して思ったのは、最初に想定していたよりもお金をかけずに継続できることっていろいろあるんだなということです。収穫のための道具などは地域の仲間たちが貸してくれたり譲ってくれたりしたため、助成金も使いきれずに期限を延長したんです。だからたくさんお金をかけて儲けてどんどん広げていくというよりは、今くらいのペースで楽しく動いていきたいなと。
そして肩肘張らずに続けていくために、プロジェクト設立当初に掲げた「課題解決」や「自治」という言葉についても捉え直しました。
齋藤さん 社会課題の解決は目的ではなく副産物として考えるのが僕らとしてはいいなと。表立って言わなくても多世代交流が起こっているし、定年後の社会参加やつながりづくりの機会にもなっているし、一人暮らしの高齢者の安否確認にもなっている。結果として、「振り返ったらそうでした」といった感じがちょうどいいのかなと感じています。
「自治」というテーマも難しく考えてしまいがちですが、つまりは自分たちが必要としていることややりたいことをやるっていうことなんだろうなと。そのために、つながりをつくり、「やりたい」と言える空気をつくる。
さらに言えば、のきフルを通してつながりをつくってくれたら、もうその後は「のきフル」という看板を掲げなくても勝手にやってくれたらいいと思っていて。それが文化になるってことなんだろうなと思うので。
「みかん、食べたいなぁ」
最初はたった1人の想い。そこに仲間が集い、プロジェクトになり、商品まで生まれ、文化となってまちの景色をも変えていく可能性さえも見えてきました。
「湘南のきさきフルーツプロジェクト」は、地域特有の風土が生み出した偶然の物語のように思えるかもしれません。でも、インタビューを通して感じたのは、どんなときも目的に立ち返り、自分たちらしくあろうとする一貫した姿勢。規模が大きくなり仲間が増えていっても、見失いがちな大切なものを守り続けていく強い信念があったからこそ、育まれた物語だと思うのです。
あなたがどうしても気になっていること、知りたいこと、解決したいこと。そんな種を持っているのなら、ぜひ周りの人々に話してみてください。まちの景色を塗り替えていく新たな物語は、そんな小さな勇気から生み出されていくのです。
(撮影:大塚光紀)
(編集:丸原孝紀)
















