おかげさまで、greenz.jp は本日、19回目の誕生日を迎えました。この日をみなさんと共に迎えられること、編集長として心から嬉しく思います。
19年前、まだ「ソーシャルデザイン」という言葉がなかった時代に、greenz.jp は小さな船を漕ぎ出しました。私たちはこれまで、時代の変化と共にいくつかの合言葉を掲げ、自らも成長を続けてきました。直近では、「ほしい未来は、つくろう」「いかしあうつながり」、そして現在は「生きる、を耕す。」というタグラインのもと、たくさんの人の共感とご支援に支えられて、ここまで歩んでくることができました。まずは、日頃から greenz.jp の記事を読み、支え、そして共に生きることを耕す、すべてのみなさんに、心からの感謝を申し上げます。
信念を携えて、複雑さを生きる
この19年という歳月は、社会の大きな転換点であり、私たちは複雑さを生きることを余儀なくされてきました。東日本大震災、リーマンショック、そしてCOVID-19によるパンデミック…。挙げればきりがありませんが、経済成長至上主義が限界を迎え、気候変動によって自然災害が激甚化し、未曾有の災害も重なって、さまざまな課題が一段と絡み合うなかで、「私たちに何ができるのか」という根源的な問いを自らに投げかけ続けてきました。
greenz.jp が一貫して大切にしてきたのは、「社会課題に立ち向かい、自分なりの問いを携えて挑戦を続ける人たちの思いに耳を傾け、その本気さに寄り添い、共にアクションをする」という姿勢です。インターネットが普及し、情報が洪水のように押し寄せる現代において、真に価値ある情報を見極めることは容易ではありません。SNSでは瞬時に情報が拡散され、AIが生成するテキストも、だいぶ進化しているように感じます。だからこそ、私たちは常に現場に足を運び、当事者の声に直に触れ、彼らが直面している課題、抱いている熱い想い、そして生み出そうとしている未来への希望を、その熱量がそのまま伝わるように、精一杯心を尽くして言葉にし、みなさんにお届けしてきました。
そこには、どんなに巧妙な二次情報や分析をもってしても得られない、心を揺さぶられるような強い動機、生きた知恵や哲学、そして未来を自分たちでつくるためのエッセンスがあります。実際に、目の前にある課題に果敢に挑み、試行錯誤を繰り返す人々の言葉には、深みと説得力があるのです。greenz.jp がこれまで発信してきた7,500本を超える記事には、そうした「一次情報」をつかみ、意思をもって記事制作に取り組む制作陣の、真摯さとあたたかさがぎゅっと詰まっています。そして、取材をさせていただいた人には、プロジェクトや事業を説明するための名刺のような役割を果たしてきました。同時に、読者のみなさんには、それぞれの人生において「生きる、を耕す。」ための道しるべとして、確かな役割を担ってきたと自負しています。
目指すのは、新しい世界の見方が増えること
この19年を振り返り、そしてこの先の未来を見据えるなかで、私たちは新たな問いを立てています。それは、greenz.jp というメディアはどのように進化すべきか、非営利だからこそできる、既存の枠にとらわれないソーシャルインパクトをどう設計し、多元的な価値をどう生み出すか、ということです。
人口減少と気候変動が、社会のあらゆる構造を根底から揺るがし、従来の価値観が通用しなくなりつつある今、私たちは何を拠り所にすればいいのでしょうか。これからの時代を生き抜くためには、これまでの延長線上ではない、新しい価値観と新しい生き方が必要です。新しい社会のあり方を机上で模索するのはそろそろおしまいにして、これまで国や行政など誰かにお任せにしてきたことを自分たちの手に取り戻し、小さくても自分たちなりの世界を新たにつくる、その実践に早く着手する必要があります。そしてすでに、その兆しは現実のものとしてあります。
これから先は、気候変動に対し、どう適応していくかも考えなくてはなりません。COP会議が29回開催されても、いまだ炭素排出の根本的解決はできていません。国際的な枠組みはもちろん必要ですが、その成果が私たちの日常生活や地域社会において、具体的な解決をもたらすことは難しいでしょう。そして今後、より深刻で破壊的な自然災害への備えを、地域単位で始める必要があります。結局のところ、自分たちで立ち上がり、自分たちでやるほかないのだと思います。
greenz.jp は、これまでの活動で培ってきた知見とネットワークを活かしながら、まさに今、生まれつつある「兆し」を発掘し、その思想、実践、技術を丁寧に掬い上げ、新しい意味を流通させることで、新しい世界の見方が増えることを目指します。読者のみなさんが自らの頭で考え、自らの手で行動を起こし、これまでの常識にとらわれないオルタナティブな探究をするための道しるべであり、志を同じくする人たちの合流点でもありたいと考えています。そのために、目印となるような「かがり火」を灯し続けます。その明るさを頼りに、どうかあきらめずに歩みを進め、そしてその火を自分の地域に持ち帰り、その地でまた、火を灯し続けてほしいと願っています。
これからの時代を、自分たちの手でつくる
そして、この創刊19周年を機に、greenz.jp はもう一段、その活動領域を広げたいと考えています。これまで私たちは、主にソーシャルデザインの最前線や、この2年ほどは、リジェネラティブデザインの最前線をみなさんにご紹介してきました。そして、自分たちの学びをスクール事業として展開し、学びを書籍としてまとめ、ポッドキャストを通じてみなさんにお届けしてきました。「働く」で社会を変える求人サイト「WORK for GOOD」を含め、これらの活動を続けることはもちろん、さらにその先まで手を伸ばしたいと考えています。
これまでの取り組みを通して私たちが確信したのは、いま必要なのは真の「自立」であり、「自立」とは、自ら問いを立て、自ら学び、自ら創造し、そして自ら生きていく力を養うことです。greenz.jp は、そうした「自分たちの手で新たにつくる」という概念を、既存の事業を足がかりにしながら、多角的なメディア事業として展開します。greenz.jp が培ってきたノウハウを体系化し、単に記事を配信するだけでない、さまざまなビジネスの可能性に着手していきます。
社会的な価値を生む活動は、必ずしも経済的な利益に直結しないという現実もあります。けれども私たちは、信頼や人とのつながりを大切にしながら、いかにポスト資本主義的ガバナンスへと昇華できるかにも挑戦し、収益性と社会貢献性の両立に挑戦し続けます。
そして今後は、これまでのように誰かの思いを伝えることに徹するだけでなく、もっと私たちの考えや意思を、できるだけ臆さずに出していきたいと思います。私たち自身にも、社会への憤りがあり、葛藤があります。根底にもつべきものは、まず自分たちが学び、実践することです。
「生きる、を耕す。」を実践する
これは、私たち greenz.jp にとって、大きな転換点です。WEBマガジンという単なる「情報の器」を超えて、「行動を促し、変革を後押しするメディア」から、さらにその先へと進化させる足がかりを、この20年目の活動でしっかりと築きたいと思っています。道のりは決して平坦ではなさそうです。それでも、その試行錯誤を続けることこそが、「生きる、を耕す。」の実践に他なりません。複雑さを生きる現代社会において、自らの手で道を切り拓く勇気を、みなさんと共に分かち合いたいと考えています。
これからの greenz.jp は、これまでの知見と経験を土台に、さらに深く、さらに広く、社会の変革に貢献していきます。次世代に必要な哲学をみなさんに手渡すことのできる、多元的価値をもつメディアとして、揺るぎない動機と果てしない好奇心、そして自らの学びと実践を武器に、みなさんと共に未来をつくる実践者として、ここにその決意を宣言します。
あらためて、日頃のご支援に心からの感謝を申し上げるとともに、20周年に向けてのgreenz.jp の新たな旅路に、ぜひご一緒いただけることを、心から願っています。
greenz.jp 編集長/共同代表
増村 江利子