greenz.jpの連載「暮らしの変人」をともにつくりませんか→

greenz people ロゴ

幸せが目的の世界では、つながりこそが資本になる。関係資本主義で場を育む「Cの辺り」の社会実験は、いつか世界のあり方を変えていく

本記事は積水ハウスグループの従業員と会社の共同寄付制度「積水ハウス マッチングプログラム」によって制作しています。

私たちはみな、多かれ少なかれ、つながり合って生きています。つながりは、葉脈のように広がり、人から人へと養分を巡らせて、いつしか互いの心に潤いと豊かさをもたらします。

ところが、金融資本主義をベースにひたすら経済成長を目指してきた世界の中で、私たちは物事の価値をお金に換算しがちになり、つながりのように“目に見えないけれども大切なこと”のもつ価値を見失いつつあります。お金を稼ぐことが幸せに直結していた時代が終わり、私たちは「果たしてそれが正解なのだろうか」という疑問を抱き始めたように思います。

そんな問いから“人間関係”を資本と捉え、お金だけに頼らない幸せな世界をつくろうと始まったのが、神奈川県茅ヶ崎市の「Coworking & Library Cの辺り」です。

運営するのは「株式会社be」の池田一彦さん美砂子さんご夫婦。池田美砂子さんは初期の頃から在籍するgreenz.jpライターです。ソーシャルグッドな現場を数多く取材し、愛情溢れる文章で伝え続けてきた美砂子さんが自らプレイヤーとなり、夫婦で始めた実践の場がオープンして3年。どんな思いで場を立ち上げ、今、どんなことが起こっているのでしょうか。

二人を待っていたのは、これまでの社会の常識をくつがえす、充実した楽しい日々でした。

「Cの辺り」は関係資本主義の社会実験場

窓の向こうはオーシャンビュー! 朝、サーフィンしてから仕事、なんてことも余裕でできる。ちなみに、茅ヶ崎のシンボル的モニュメント「サザンC」の目の前にあるから「Cの辺り」

「Cの辺り」は、会員制コワーキングスペースと一箱本棚オーナー制図書館を兼ね備えた場所。サザンビーチに面した建物の1階、目の前に湘南の海が広がる、絶好のロケーションにあります。約20席あるどの座席からも海が見渡せ、ウェブ会議用の個室や会議室も完備しています。

営業時間は9時~17時。レギュラーメンバー(月15,000円)と24時間いつでも利用できる合鍵メンバー(月17,000円/先着10名)のほか、このロケーションに惹かれて、遠方からワーケーションにやってくる人もいて、ときどき利用したい人向けのスポットメンバー(10,000円/5回チケット)といった制度もあります。

これだけならば普通のコワーキングスペースですが、Cの辺りがユニークなのは、一箱本棚オーナー制図書館を併設しているところ。毎月2,000円(条件の悪い棚は1,500円)支払うことでライブラリーオーナーとなり、本棚1箱を所有して、自分のオススメ本を並べて貸し出せるのです。お金を払ってまで、本棚のオーナーになる人がいるのかと不思議に思うかもしれませんが、これが大人気。用意した60棚がすべて埋まったため、増設して現在は75棚ほどありますが、空きはすでに2〜3棚という状況です。

本棚ごとにライブラリーオーナーの個性が出ていて面白い。初回利用時に登録料500円を払えば、誰でも好きな本を無料で借りることができる

コワーキング会員やライブラリーオーナーになると、Cの辺りの会員限定イベントに参加したり、お店番をしながら小さなイベントを開催することができます。メンバーさん同士がつながるきっかけになればと、飲み会のような気軽な集まりも毎月企画しています。

ちなみに、会員制コワーキングスペースだから会員にならないと入れないのでは、と思った方はご安心を。ワークスペースや個室についてはコワーキング会員のみの利用となりますが、ライブラリースペースは営業時間中は誰でも利用OK。本棚にある本を読んでもよし、気になる本を借りてもよし。会員以外が参加できるイベントもあります。

一彦さん 機能としてはコワーキングとライブラリーのふたつですが、ここはもともと「関係資本主義の社会実験場にしよう」ということで始めたんです。

「関係資本主義」とは、二人が提唱する“人間関係を資本と捉える考え方”のこと。グロースワールド(成長が目的の世界)を回していくエンジンがお金(金融資本主義)だとすると、グッドワールド(幸せが目的の世界)を回していくエンジンが良き人間関係(関係資本主義)です。

この原則を基に仕組みをつくると、物事の価値が逆転します。例えば、Cの辺りで実践しているのが「お店番制度」です。本業の仕事があり、小さなお子さんもいる池田家は、Cの辺りの店番ができない日がどうしてもあります。かといってスタッフを雇うと赤字になってしまう。そこで、会員やライブラリーオーナーに店番してもらう仕組みをつくったのです。

一彦さん  僕は「トムソーヤのペンキ塗り」のエピソードがすごく好きなんですね。どんなことでも楽しく口笛を吹いていれば、経済合理性の壁は突破できる。だから「会員さんにはお店番をする権利があります!」って呼びかけてみたんです。

ボランタリーなお店番を頭を下げてお願いするのではなく、お店番を楽しい機会の場だと捉えてもらい、むしろ特典として提供してみる。すると「やりたいって言う人が何人もいたんですよね」と一彦さん。金融資本主義の考え方だと、なぜお金を払っている側が店番までしなければならないのだということになりますが、関係資本主義では、Cの辺りの運営にかかわったり、お客さんとの会話を楽しむことこそが価値になるのです。

美砂子さん 私たちは便利で快適なサービスを提供したいわけじゃありません。お金だけに頼らない人とのつながりを楽しんでいただく場としてここを運営しています。だから子どもが遊びに来て騒がしいときもあるし、仕事をしに来たのに会話が弾んで1日が終わっちゃうこともある。大掃除にも部活(釣り部やビーチヨガ部があるそう)にも誘われちゃう…。

でも、そこで生まれるつながりを楽しんでほしいと思っています。単なる場所貸しではなく、一緒にこの場をつくっていく仲間になってほしいということは、必ずみなさんにお伝えしています。

会社のあり方を考えていたら、空き物件を見つけた

池田一彦さん。Cの辺りでは主にプロジェクトベースの企画制作やビジョンづくりなどを担当

しかしなぜお二人は、これまで経験のなかった場の運営を始めることにしたのでしょうか。

もともと一彦さんは大手広告代理店のクリエイティブ・ディレクター/プランニング・ディレクター、美砂子さんはフリーランスのライターとして働いていました。一彦さんは、平日は茅ヶ崎から都内まで通勤し、帰宅は夜遅いのが当たり前。「子どもたちとの夕飯の時間はいない人だった」と美砂子さんは当時を振り返ります。大手企業の広告制作や商品開発など、数億円、数十億円を動かす大きな仕事を手掛け、ソーシャルデザインや子育て・教育の分野を数多く取材していた美砂子さんとは、ある意味で真逆の世界観の中で生きていました。

大きな転機となったのが、2019年、二人目のお子さんが生まれたときに育休を取得し、キャンピングカーに乗って全国を巡る旅「育休キャラバン」に出たことでした。

旅先の多くは美砂子さんのセレクト。北は北海道から南は屋久島まで、美砂子さんが取材を通してつながった人々や友人知人が暮らすまち、greenz.jpの記事を読んで気になっていた地域などを訪れ、そこでの暮らしを体感したのだそう。その100日間の旅で出会った一人ひとりが、一彦さんにはいちいち衝撃的でした。

一彦さん 僕の勤めていた広告代理店は多様な人が集まっていて、めちゃくちゃ面白い会社だとずっと思っていました。ビジネスの範囲での多様さは確かにあったのかもしれません。でも旅を通じていろいろな価値観で生きている人に触れ、すごく狭い範囲で生きていたことに気がつきました。しかも、会う人会う人がみんな幸せそうだったんです。

なかでも衝撃を受けたのが、北海道札幌市の「エコ村」で暮らす三栗家の暮らしです。

一彦さん 三栗祐己さんは元東京電力の社員で、原発事故を契機に逆サイドに振り切って、今は自給自足で暮らしています。そんなことができるのかと驚きましたし、とっても楽しそうに暮らしているんですね。僕らが訪ねたとき、三栗さんの子どもが目をキラキラさせて嬉しそうに「昨日、トイレに電気がついた!」って言ってきました。僕は、今の日本にトイレに電気がついたって喜ぶ人がいるのかと、本当にびっくりしました。

でも、なぜ彼らはこんなに幸せそうなんだろうって考えたら、自分たちの暮らしをつくることを仕事にしているからだと思ったんです。自分たちの仕事が家族の喜びになっている。暮らしと仕事が一致してるってすごくいいなと、そのとき思いました。

三栗さん一家と

さらなる追い風となったのが、コロナ禍で在宅勤務が始まったことでした。

一彦さん 「あれ? 会社に行かなくても全然仕事できるな」って気がついて(笑)。ちょうどそのタイミングで早期退職募集が始まったので、これはもうやめようと。

美砂子さんに相談すると、すぐに「いいじゃん! 楽しそう!」とOKが(笑)。こうして2020年12月に一彦さんは退職してフリーランスに。それと並行して「株式会社be」を設立しました。

池田美砂子さん。Cの辺りでは広報はもちろん、毎月のイベント企画やコミュニティづくり、備品の仕入れなどを担当

美砂子さん ライターとプランナーだったら一緒にできる仕事もあるかもしれないね、というぐらいの気持ちで会社を設立しました。何をやるかはまったく決めてなかった。ただ、「be」という社名にも込めたのですが、「何をやるかよりもどうあるか」が大事だという考え方は2人で共有していて。会社のあり方から決めておこうと、サザンビーチで焚き火をしながら「あり方考えましょう会議」をやったんだよね。

そこで決めたあり方の一つが「家族の幸せが1番、地域の幸せが2番、日本と世界の幸せが3番」ということ。

一彦さん 今までは、トップダウンで大きな仕事をやってきた。でもbeではボトムアップで家族から地域を変え、地域から世界を変えるという逆の山の登り方をしていきたいと話しました。そのときにたまたま、この場所が空いているのを見つけたんです。

茅ヶ崎で海沿いの物件が空くことなど滅多にありません。「ここなら面白いことができるかも!」とワクワクした二人は、ダメ元でエントリー。問い合わせだけで100件以上あったというから、選ばれたのは「奇跡」だったと笑います。期せずして、株式会社beの第一弾事業「Cの辺り」がスタートすることになりました。

株式会社beのウェブサイトより。あり方考えましょう会議で決めた5つのあり方

Cの辺りで生まれたつながりが市民活動にまで発展

DIYワークショップの様子

関係資本主義の社会実験は、オープン前から始まりました。改装になるべくお金をかけずにみんなでつくれたらいいねと、誰でも参加できるDIYワークショップという形で、自分たちでリノベーションしたのです。遊びにくるだけでもOKとしたところ、のべ100名以上がオープン前のCの辺りへ足を運んでくれました。

また、このとき設計をお願いした設計士や写真を撮影してくれたカメラマンなど、お世話になった方々には、謝礼を支払う代わりに永久会員権や本棚の永久オーナー権を贈呈。金銭を介さない形での価値交換を試みました。みなさん、面白がって快く引き受けてくれたといいます。

DIYで仕上げた内装。明るく開放感があって過ごしやすい。写真中央がコワーキングスペース、左がライブラリースペース

美砂子さん いきなり関係資本主義とか難しそうなことを言っても興味をもってもらえないと思ったので、見学に来た人には「お金に頼らない価値交換や人とのつながりを楽しむ場」と、わかりやすく伝えていました。

ここですでに「面白そうな場所だぞ」「何かが始まるぞ」とキャッチした方も多かったようです。メンバーになってくれたのは、そうしたコンセプトに共感した人がほとんどでした。それもあってか、最初から積極的に場を楽しみ、運営に能動的に関わってくれる人が大勢いました。特にライブラリーオーナーは、その傾向が強かったそうです。

一彦さん 毎月2,000円払って自分の本を提供するという、ある意味で変わった価値観に共鳴する時点で、貢献力があったり、つながりたいという意識をもっている人が多いんです。お店番もやってくれたり、積極的にCの辺りの運営を支えてくれています。

美砂子さん ただ、私たちも意外だったのは、それがイベント企画や市民活動的なものにまで発展していったことです。正直、当時の私たちはそこまでは考えていなかったんですね。

やっているのは、お願いや相談を10倍ぐらい楽しそうな企画にすること

ひかりの水族館

良い関係性が構築されていくと、会員やライブラリーオーナーから提案や相談を受けることが自然と増えていきました。そこからさまざまなイベントやプロジェクトが立ち上がっていったそうです。再生可能エネルギーだけでイルミネーションを灯す「ひかりの水族館」、お店番をするとCの辺りで飲食を提供できる「図書館キッチン」、“ビーチでテントサウナサービスをやりたい!”というひとことから始まったオーナー制テントサウナ「茅ヶ崎C-sauna」など、どれも楽しそうな取り組みばかりです。

本当の選挙と同じように記入場所や投票所をつくった。実は、こども選挙のボランティアに参加したことがきっかけで、のちに市議会議員となった人が二人いるそう。市議会議員がマスターとなり、お酒を飲みながら市民と気軽にまちの話をする「まちのBAR」もスタート。「こどもの主体性を育みたいと始めたプロジェクトだったけど、主権者教育されたのは大人のほうだったかもしれない」と一彦さん

2022年に実施した「ちがさきこども選挙」は、10月の茅ヶ崎市長選の際、子どもたちにもどの候補者がいいか投票してもらおうと始まったプロジェクト。「子どもが投票したらどういう政治家が選ばれるのかな」という、地域の仲間とのなにげない雑談がきっかけだったそう。趣旨に共感する人も多く、Cの辺りの会員を中心に約60名ものボランティアが集結。選挙委員になった子どもたちは全候補者にインタビューを行なうなど、大人も子どもも巻き込んだ一大プロジェクトとなりました。

メディアでも多数取り上げられ、キッズデザイン賞の最優秀賞/内閣総理大臣賞やグッドデザイン賞金賞も受賞。この取り組みが全国に広がってほしいと、マニュアルやノウハウ、ロゴなどのツール類をオープンソースとして公開し、Facebookグループ「全国こども選挙実行委員会」で、情報交換も行なっています。現時点で、全国14地域(予定含む)で実施されているそうです。

「ちがさきこども選挙」は、全部で4つの賞を受賞。このほか「まちのBAR」もマニフェスト大賞審査員特別賞を受賞した

聞けば聞くほど、わずか3年間で実施されたイベントやプロジェクトの多いこと。日常の小さなイベントや活動も含めたら、どれだけの企画が実現したのでしょうか。

一彦さん でも僕らが仕掛けたことって、実はほとんどないんですよ。始まりはいつも誰かからのお願いや相談で、それを僕らが10倍ぐらい楽しそうな企画にするっていうことを繰り返していたら、こんなことになったんです(笑)。

今、全国各地に公営、民営問わず、類似のコワーキングスペースやコミュニティスペースがたくさん生まれています。その中で、これほど活発なコミュニティが醸成され、大小さまざまなイベントやプロジェクトが自発的に立ち上がっている事例はなかなかないと思います。なぜCの辺りでは、これがうまくいっているのでしょうか。

一彦さん それは、僕は明確に理由がわかっていて。“楽しいかどうか”です。楽しんでやるというのもそうだけど、それが楽しく見えるかどうか。僕は、市民活動に圧倒的に足りないのはクリエイティビティだと思っていて。タイトルの付け方からロゴからチラシから、とにかくなんでも楽しそうに見せる! そこはこだわっています。

まさにトムソーヤのペンキ塗り。楽しそうにやっていれば、自然と人は集まってくる。そう確信しているからこそ、二人は相談を受けたら、どうしたら楽しそうだと思ってもらえるかを考え、企画を10倍にして返しているのです。

1日がかりの壮大なイベントとなった「海とプラスチックの学校」も、きっかけはライブラリーオーナーさんから『プラスチックの海』というドキュメンタリー映画の上映会がやりたいという相談を受けたこと。せっかくならアクションにつなげたいねと「ビーチのプラスチックゴミを拾ってアート作品をつくろう!」ということに

アート作品といっても難しくなりすぎないよう、モザイクフォントの型を用意して文字の形にプラごみを貼っていくことに。この型は、ライブラリーオーナーに福祉事業所とつながっている人がいて、点字の印刷物をつくる際に出るものを提供してくれた。だいたいのことは、Cの辺りのメンバーに相談すればなんとかなるというからすごい。そのときみんなでつくった作品は、今、Cの辺りの梁に飾られている

生活するお金は必要でも、必要以上の収入はいらない

しかし、そうなるとお二人のやることは増えていく一方…。かなり大変なのでは、とつい思ってしまいます。

一彦さん 正直なところ、僕らは生活のために必要なお金は本業で稼げているから、関係資本主義的な活動に時間や労力をかけられているのだと思います。ただし、僕らがほかの人たちと違うのは、必要以上に稼ごうとはしていないということです。

多くの人は仕事をしてお金を稼いでじゅうぶん生活ができていても、もっと収入を上げようとしますよね。そうすると、稼ぐことに時間を使い続けることになる。どこまでお金が貯まったら不安じゃなくなるのかがわからないまま、際限なくゲームを続けている。それは違うよねと思っているので、稼ぐのはここまでというふうに明確に切っています。

必要な分だけを稼ぎ、それ以上の収入は求めない。そうすることで、仕事に追われることもなく、楽しいこと、やりたいことに時間をかける余裕が生まれます。

一彦さん 一方で、そこは僕らが今まさに直面してる課題でもあります。僕らはバランスが取れているからいいんです。でも、いろいろなプロジェクトに関わって、すごく頑張っている人から「池田さん、このままでは(自分は)食っていけなくなります…」と言われたんです。

社会や地域にとって価値あることに誰よりも一生懸命取り組んでいる人ほど、生活がどんどん困窮していく。理想とする関係資本主義の世界と、現実の金融資本主義の世界の間に、歪みが生じています。

一彦さん 僕らは今、その言葉を重く受け止めています。僕らもその人も、社会や地域にとって価値があることをやっている感覚はある。でも、そのせいで生活ができなくなるのはかなり問題です。そこで、二つの仮説を立てました。

資本主義のお金を社会的価値のある活動に還元するには

一つは、企業が近年、事業を通じて得たお金を社会に還元しようと、市民活動や地域活動を支援する助成金を多数用意しているため、それをしっかり活用すること。先日、さっそく「茅ヶ崎カンパニー」というプロジェクトで、「地域における自治」をテーマとしたトヨタ財団の助成金を獲得しました。

美砂子さん Cの辺りを始めてわかったのは、茅ヶ崎には多種多様なプロフェッショナルが暮らしていて、大抵のことは地域の人材で賄えるということ。地域にかかわりたい、地域に貢献したいという思いをもちながらどうかかわっていいのかわからないっていう人が大勢いたんです。

そこで茅ヶ崎というまちを一つの会社と捉え、地域に関わりたい人や茅ヶ崎でなにかしらの活動がしたい人、プロジェクトを立ち上げたい人などが出会うための市民活動・地域活動の人材プラットフォームをつくりました。

ちなみにこれも、ライブラリーオーナーと同じく登録は有料。毎月100〜5,000円まで、自分で好きな金額を設定して会費を支払うのだそう。それでも構想を伝えて呼びかけたところ、1年で60名ほどが登録。現在も、ぜひ登録したいという問い合わせがたくさんきていて、正式募集まで待ってもらっている状態だそうです。

美砂子さん この間もある人が「防災のプロジェクトをやりたい」って言ったら、じゃあ私がチラシのデザインします、当日手伝います、ってどんどん手が上がって、最終的に20人ぐらいが集まりました。プロジェクトをやりたい人もいれば手伝いたい人もいる。そうやって、みんなが得意なことやできること、空き時間を持ち寄ってお互いを生かし合えれば一番いいんじゃないかなと。

茅ヶ崎ではすでにつながりが資本になりつつあります。しかし、茅ヶ崎カンパニーの運営は本気でやろうと思うとかなりの労力がかかるのも事実。これはさすがにボランティアだと厳しいのではないかと考え、企業の助成金を活用したのです。

茅ヶ崎カンパニーのメンバーが集まってミーティング

資本主義の原則を逆手にとって基金を運用する

もう一つの仮説が基金の創設です。

一彦さん 資本主義における格差が生まれる理由は、お金がお金によって増えるスピードが、労働によってお金を得るスピードより速いから。そもそもが、富裕層ほどますます金持ちになっていく仕組みなんです。だったら、その資本主義の原則を逆手にとってやろうじゃないかと。

日本の個人金融資産は2,000兆円あると言われています。年利5%で計算すると、2,000兆円の5%は100兆円。日本の税収は70兆円なので、元金を切り崩さなくても運用益だけで社会は回っていくんです。だとすると、市民活動の資金を無理やり稼ごうとしなくても、運用でじゅうぶん賄えるのではないかなと。

これがうまくいくと、活動内容も関わる人々の思いも変えることなく、純度を保ったまま必要な資金を得ることができます。そのために、あえて資本主義に乗っかってみようというのです。

一彦さん そもそも社会的価値があることと儲かることは違うんです。なのに、それを混ぜようとするから難しくなっていく。無理やり混ぜて稼ぐのではなく、お金があるところからもらって、お金が循環する仕組みのほうをつくっていけばいいんです。

今回撮影をお願いしたカメラマン・大塚光紀さんも茅ヶ崎在住でCの辺りの主要メンバーの一人。Cの辺りの床はほぼ大塚さんが貼ってくれたと言っても過言ではないらしい(笑)。能登地震の被災地支援のためのチャリティイベントなども一緒にやっている

一彦さん ただ、まだ正解はわからなくて。茅ヶ崎カンパニーは、中心になって動いてくれる人たちに少しでも人件費が払えたらと思って助成金を取ったんです。でも取ったら取ったで、今まで無償でやってきたので「お金じゃないんじゃない?」って言う人もいて。

経済合理性で考えるとわかりやすくお金を払えばいいわけです。払わないと、食っていけない人がますます出てしまうかもしれない。でも茅ヶ崎カンパニーは関係資本主義の仮想会社だからお金じゃないっていう気持ちもわかる。「うーん、どうしたらいいんだろう?」みたいな(笑)。だから、僕らの仮説が正しいかどうかはわからないけど、まずはその実験をやってみようと思っています。

そもそも矛盾する二つの社会のあり方が交錯する世界で、簡単に答えは見つかりません。でもこれは「社会実験」。試行錯誤する中で、スパイラルアップしながらより良い社会への道すじを探っていくことになるのでしょう。金融資本主義との折り合いをつけ、純度を失わずに社会的価値のある活動を続けるための、さらなる挑戦の始まりです。

美砂子さん 目の前にある楽しいこととか、今、価値があると思ったことをやっていく先に豊かさがあると思っているから、私はあまり先のことは考えてなくて。ただCの辺りについては、ルールではなくて文化みたいなものが自然とみんなにインストールされて、私たちがいなくても勝手に自走していくのが理想だなと思っています。

たまたま見つけた空き物件から始まったCの辺り。ここを起点に多種多様な人々がつながり、茅ヶ崎というまち全体を巻き込んで、まさに「自走するコミュニティ」が生まれているのです。

毎年「今が一番幸せ」と思う

最後にどうしても聞きたくて、聞いてみました。

関係資本主義の中で生きるお二人は、今、幸せですか。

一彦さん 僕はもう、年々幸せになっていってます! 今が一番楽しいねって毎年言ってる。育休キャラバンに行ったとき、こんなに楽しい年はこの先ないんじゃないかって思ったんだけど、そこからCの辺りをつくって、こども選挙やって、毎年ずっと楽しい。

美砂子さん それも、単なる楽しいじゃなくて、地域とのつながりができて、いざというときは頼れるっていう安心感も生まれたよね。「この地域でずっと生きていけるかもしれない」と思えるようになった。根拠のない安心が生まれて、その上での楽しさや幸せになってきている感覚があります。

一彦さん やっぱり、社会的に価値があると思えることに時間を使えているから、幸せだと感じるのかもしれない。儲かることと価値あることは違う。あらためて、そう思っています。

幸せな世界は自らつくり出すことができる。しかも楽しみながらつくれてしまう。一人ひとりの力と互いに支え合うつながりがそれを可能にし、やがて社会全体のあり方をも変えていきます。3年間で得たたくさんの手応えを糧に、Cの辺りの、楽しくも本気の社会実験はまだまだ続きます!

(撮影:大塚光紀)
(編集:増村江利子)