気候変動という言葉を耳にする機会が増え、頻発する大型台風など、自然環境の悪化を実感させられることも少なくない昨今。意識しないといけないとは思いつつ、不安に感じて環境問題から目をそらせてしまうという人もいるのではないでしょうか。この映画は、そんな人たちにぜひ観ていただきたい作品です。なぜならここには、現実に向きあった上での希望があるから。ドキュメンタリー映画『2040 地球再生のビジョン』を通して、地球環境が再生された希望あふれる未来をのぞいてみませんか?
次々に飛び出す地球再生のアイデアが希望を示してくれる
4歳の娘を持つデイモン・ガモー監督は、我が子に希望を持てる未来に生きてほしいという、親であれば誰もが抱くであろう願いから、地球環境を再生できるようなアイデアを求めて旅に出ます。娘が大人になる2040年を明るい未来として描くための、世界11カ国を巡る旅。その道のりは…。
ガモー監督が最初に足を運んだのは、バングラデシュの田舎。そこで彼は、どの家の屋根にもソーラーパネルが設置されている光景を目にします。太陽光を利用してそれぞれの家で発電して使い、足りないときはお互いに送電網を通じて電気を融通し合うマイクログリットのネットワークが整っていました。
巨大な発電所から各家に送電されるシステムが当たり前だと思っていると、電気を自給自足したりご近所でお裾分けしたりするような仕組みは、とても新鮮に感じます。バングラデシュでは、先進国では当たり前の巨大な発電所が全土で機能しているわけではありません。けれどもこれから先、世界中の国々がバングラデシュのやり方を真似るようになるかもしれないのです。
さらに彼は、人間の基本的なニーズと地球の限界との間のバランスをとる経済モデル「ドーナツ経済」を提唱するケイト・ラワース博士と会い、経済成長を前提とする資本主義に代わる経済システムについて考えます。
そして、リジェネラティブ農業を進めるオーストラリアの畑へ、さらに海洋パーマカルチャーを実践する海へと足を運びます。これらの取り組みは、生物多様性の保全に役立ったり、食料やバイオ燃料を持続的に供給したりするほか、土や海に炭素をとどめ、脱炭素へも寄与する一石何鳥にもなるアイデアです。
このように次から次へと、これまでの常識にとらわれないたくさんのアイデアが実践されている様子をリアルに目にすることができます。気候変動など環境が悪化し続けていることは事実ですが、同時にさまざまな解決方法が世界各地で生み出され、社会のあり方も日々進歩し続けているのも、まぎれもない事実。それらを探し出して知恵を集めることで、気候変動のような深刻な環境問題に向き合おうという監督の前向きな姿勢は、問題解決に欠かせないものでもあります。
希望を胸に、さらに解決への一歩を踏み出す
ただし、ひとつ心に留めておきたいことがあります。それは、この映画が制作されたのが2019年だということ。それから6年近い時間が流れ、もはや2040年まであと15年です。この映画で紹介されているアイデアの数々はまだまだ広まっておらず、明るい未来を描くには時間的な余裕があるとは言えないでしょう。
さらに映画制作時には、ロシアがまだウクライナに侵攻していなかったことも忘れてはなりません。侵攻後、天然ガスや原油などエネルギー資源の輸出国であるロシアに対し経済制裁が実施されました。その結果、エネルギー価格は高騰し、不安定な状況が続いています。環境問題は国境がない問題にもかかわらず、国同士の争いが解決をさらに難しくすることもあるのです。
逆風が激しい時代ですが、それでも人は前を向き、新しいアイデアを生み出し、実践し続けていきます。また、地球環境をめぐる状況に心を寄せる人たちが世界でどんどん増えていることも事実です。この映画で目にするアイデアは未来を明るく照らしてくれます。この映画を誰かと一緒に観に行くことは、その光をもっと強くするための行動のひとつ。気候変動をとても心配している人でも、気候変動なんてよくわからないという人でも、楽しく明るい気持ちで観られる作品なのですから。
映画を観て、ほんの少しでも気候変動の解決に前向きな気分になれたら、さらに一歩踏み込んでみるのもいいのでは? すぐに取り掛かれる簡単な行動はいくつもあります。
たとえば、
・電力会社を変える。
・移動には自転車や公共交通機関を使う。
・家を断熱する。
・投票するときは、候補者の気候変動に関する政策をチェックしてみる。
などなど…。
そして、映画の中でたびたび言及されていたある行動もすぐに暮らしに取り入れられるのでオススメです。それは、肉食を控えること。でも、ベジタリアンやヴィーガンにならなくてもかまいません。週に一度だけお肉を食べない曜日を作ってみる、それならいますぐ始められそうです。
これから、数十年という長いスパンで、私たち人類は気候変動などの環境問題と向き合っていかなければなりません。それならば真剣に、でも深刻になり過ぎず、ガモー監督のように希望を集めながら、すぐにできることから取り組んでみる。この映画からは、環境問題の解決方法を知るだけでなく、現実と向き合っていく姿勢そのものについてヒントが得られるはず。新年の前向きな気持ちのまま、劇場へどうぞ。
(編集:丸原孝紀)
– INFORMATION –
劇場公開日:2025年1月11日(土) シアター・イメージフォーラム 他にて全国順次ロードショー
監督:デイモン・ガモー
制作: GoodThing Productions、Regen Productions Film
配給:ユナイテッドピープル
https://unitedpeople.jp/2040/