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日本にはどれだけの中小企業があるか知っていますか?
2024年版「中小企業白書」を見ると、日本に存在する336万4891社のうち99.7%が中小企業で、中小企業で働く従業員数は全人口の69%を占めています。
そんな中小企業を「働き方」から変えていこうとするリーディングカンパニーが、京都市にある株式会社ウエダ本社(以下、ウエダ本社)です。
「働くことの素晴らしさを取り戻す」をスローガンに、“いきいきと働ける場”を広げるため、さまざまな事業を展開されている背景や今後の展望をお伺いしました。
文具卸から、“いきいきと働く”を提案する会社へ
ウエダ本社の創業は1938年。文具卸「上田商店」から始まりました。1958年にはオフィス向けの事務機の取り扱いを開始し、以後、京都に根ざした商売を続け、“事務機のウエダ”として親しまれてきた歴史があります。
しかし、1990年代になるとバブル崩壊の煽りを受けて、ウエダ本社は廃業寸前に追い込まれます。そこで白羽の矢が立ったのが、創業者の孫に当たる岡村充泰(おかむら・みつやす)さんです。2000年に代表取締役副社長に就任し、再建に尽力。2002年には社長職に就き、2008年には無借金経営を達成しました。
また、2008年には創業70周年を記念して「京都流議定書」を開催し、ウエダ本社は“ソーシャルな会社”としての一面を持つようになりました。
数々の伝統産業や日本文化が残る一方で、人口に占める学生の割合が全国一位、パンやコーヒーの消費量がトップクラスなど、京都には古いものと新しいものが混在しています。それらが掛け合わさることで独自の文化や風土を形成してきた京都において、「京都流議定書」は老舗とスタートアップ、重鎮と若手などが出会い、そこから生まれた価値を京都から世界へと発信することを目的に行われてきました。
現在ウエダ本社は“働く環境の総合商社”としてオフィス設計を主軸にしながら、リノベーション、「TRAFFFIC」や「ATARIYA」といった場の運営など、さまざまな事業を展開しています。全ての事業に通じるのは「いきいきと働く」ことの提案。近年は京都市内にとどまらず、京都府与謝野町、北海道厚真町など地方へもフィールドを広げています。
中小企業から地方へ広がるウエダ本社の価値観
岡村さんが経営のバトンを受け継いでから、着実に変化を遂げてきたウエダ本社。背景にはどのような考えがあり、具体的には事業内容をどのように方向転換していったのでしょうか。
岡村さん 倒産寸前のウエダ本社に入社したとき、まずはハードではなく“ソフト”の勝負に変えようと考えました。かねてから私は、日本人の働き方や企業のあり方には閉塞感があり、人の個性や多様性をいかせていないと感じていたんです。
個人の能力・やる気を発揮できる「働きがいのある働き方」を日本に広げるためにウエダ本社としてできることはないのかーー。考え抜いた末、働く人たちに寄り添ったワークプレイスづくりを提案し、“いきいきと働ける場”をつくる「働く環境の総合商社」へと、岡村さんはリブランディングを図りました。
岡村さん オフィス家具の販売や設計というと、ハードを扱う業種に思われます。しかし、私たちは企業ごとに「その場がどうあるべきか?」というソフト面から考えて、より良いワークプレイスの提案をしています。
当時、オフィスの多くはトップダウンで進み、総務などの担当者以外がリニューアルに関わる機会は多くはありませんでした。しかし、オフィスを日常的に使うのはそこで働く社員です。そこでウエダ本社は「GOOD PLACE メソッド」を独自に開発。働く場を社員みんなで見つめ直すワークショップを実施し、働く人の課題や要望からその企業らしい「働きがいのある働き方」を導き出し、それをかたちにした設計、施工方法、ICTや風土設計などを提案します。このやり方で、これまで数々の中小企業のオフィスや店舗のリニューアルを手がけてきました。
岡村さん 長年、“事務機のウエダ”として中小企業を相手に商売してきたので、まずは京都の中小企業や官公庁向けにオフィスづくりの事業を始めました。時代の流れとともに、遊休施設の活用が注目されリノベーションの相談が来るようになり、過疎地域にも展開していくと「まちづくりをしている」と言われるようになっていきました。ウエダ本社は多岐にわたることをしていると思われますが、変わらないのは人の個性や多様性をいかし、それらが混じり合う場をつくること。対象が、中小企業から地方へと広がっただけなんですよ。
中小企業のリーディングカンパニーとしてモデルを示す
「我々ができることで中小企業と地方を変えていきたい」と、岡村さんは力強く語ります。
岡村さん 一番はマインドセットを変えたいんですね。大企業と中小企業なら、大企業の方が「偉い」と思われる風潮がありますし、就職においても中小企業で働くというのは「負け」に捉えられる節があります。でも、素晴らしい中小企業はたくさんあって、それぞれが独自性をいかして展開したらもっと価値を生むことができると思うんです。地方も同じです。東京が一番で、地方は何もないと思っている人が多いですよね。でも、地方にもそれぞれの強みがあります。ウエダ本社の事業を通して、社会に定着してしまった“負け意識”を変えていきたいんです。
そのために、「中小企業と地方に向けたプレゼンテーションとしてウエダ本社の事業を展開している」と続けます。
岡村さん まずウエダ本社がやってみて、「オフィスを変えると働き方が変わりますよ」「介護・育児中の人が働きやすい環境を整えると、離職率が下がりますよ」と、中小企業に見せていこうとしています。地方でも同じで、「こんなことをしたらまちが変わりますよ」という事例をつくり、価値を見せていけたら面白いなと思っています。
ウエダ本社では、20年近く前から1時間単位での有給休暇取得を可能にしたり、複業や子連れ出勤を認めたりと、時代に先駆けて働き方改革を取り入れてきました。数々の制度を先んじて導入してきた背景には、ウエダ本社で働く社員こそが、個性や多様性をいかしながら働ける環境をつくりたいという岡村さんの想いが表れています。
岡村さん 社員がやりたいことをどんどんやっていける風土にしたいですし、ウエダ本社ではそういう積極的な人を求めています。だから、介護や育児をしながら働きたい人がいれば働きやすいように考えるし、複業で別の仕事もしたい人がいたら勤務日数によって不公平のない評価制度をつくりたいと思います。大切なのは、制度より風土です。
例えば、近年導入した評価制度にも、目指す風土が大きく反映されています。
岡村さん ウエダ本社では積極的な失敗は一切問われません。失敗が多くても、気遣いや思いやりが出せる人に良い評価を与えます。一方、成果を上げても他者配慮ができていなかったら評価は低くなりますし、最もよくないのが口だけの人です。そうした評価をこれまで私一人で査定していましたが、2023年からは定量化し、明確な基準のもと数字に出せるようになりました。期初に社員一人ひとりの役割を決め、それをもとに期末にチームリーダーを中心とした複数の管理職が評価する体制になっています。
関係を構築しながら、ウエダ本社の価値観に共感してもらう仕事
今から14年前、岡村さんの社長就任後の新卒採用の第一期として入社したのが、執行役員の原田大輔(はらだ・たいすけ)さんです。
ウエダ本社の空間プロデュース業に興味を持ち入社したという原田さん。営業職として経験を積み、現在は役員として経営業務に携わりながら、営業部のマネージャーとしてもチームをまとめています。中小企業や官公庁に企画提案型の営業をするポジションには、どのような資質が求められるのでしょうか。
原田さん:僕たちは営業の会社なので、オフィスにいても何も起こりません。まずは世間話からでもいいので仕掛けにいける人がいいですね。ウエダ本社の商品は今日明日ですぐ売れるものではないので、信頼関係の構築が何よりも大切です。「京都流議定書」をはじめ、ウエダ本社のビジョンや価値観に共感してもらって受注するプロセスになるので、たくさん物を売ることよりも、関係構築しながら大きな成果を出したい人の方が向いているかもしれません。
最近ではワークプレイスデザインだけではなく、その前段にあるボトムアップのワークショップや業務改善など、“働く”にまつわるさまざまなことの相談が来るようになったと話します。そうした仕事の幅の広がりも、お客さんとの信頼関係があってこそ。
原田さん:お客さんの困りごとに、ウエダ本社としてどのようなことでお役に立てるのかを考えて企画できるか。これは、働く上で一つポイントになると思います。そうした営業のベースがあった上で、ITや空間づくりなど、自身の長けているスキルを見つけて、一人ひとり伸ばしていってもらいたいです。
ウエダ本社の営業職らしさを体現し、チームにも広げてきた原田さん。ウエダ本社で働くやりがいをどのように感じているのでしょうか。
原田さん:一番は自己成長感を得られることです。対お客さんだけではなく、社内の変化や気づきなど、毎年驚きや発見、学びがあるんです。仕事の規模感も入社時よりもボリュームアップしているので、営業的な数字のやりがいも大きくなっていますね。その分、建築設計などの知識も必要になってきていますし、会社としてもクリアしなくてはいけないことが増えています。そうしたことも含めて、自身と会社の成長につながっていますし、やりがいになっています。
子育て中の「働きがいのある働き方」を探究するutena works
原田さんがやりがいにあげた「自己成長感」。これはまさにウエダ本社が大切にする「働きがいのある働き方」を実践する上で、大切なポイントになりそうです。
現在、ウエダ本社の事業部として自社ビルの3階に展開している「utena works(以下、ウテナ)」も、ウエダ本社がチャレンジしている新しい働き方の提案の一つです。
2019年に立ち上げ以降、子育て中の女性の「働きがいのある働き方」を追究し、試行錯誤を重ねてきました。
林菜摘(はやし・なつみ)さんは、2019年にウエダ本社に入社して以来、ウテナの担当として尽力しています。
前職ではハンカチメーカーの営業職として働いていたという林さん。ウテナの前身であった事業の体制が変わり、メイン担当を探していたタイミングだったことと、林さんが「女性が働くことを諦めずに働ける環境をつくりたい」と考えていたことから、抜擢されました。
林さん:人に影響を与えられる仕事をしたいと考えていたのですが、ハンカチだと一枚で一人の人しかハッピーにできません。でもウエダ本社の仕事は、たくさんの人をハッピーにできるなと思いました。
現在、林さんが注力するのは、働きたい女性と仕事のマッチング。子育てをきっかけに働くことから離れてしまった女性の社会復帰に伴走しています。
2024年5月には新サービス「utenaworklab.(以下、ラボ)」を開始し、働く意欲はありながらも時間的・心理的な制約などで働けていない女性をエンパワーメントしながら、企業の仕事に従事できる機会をつくっています。
ラボは登録制で、働きたい女性は月2,000円の会費を払うことでメンバーになることができます。働いた分だけ給料をもらえますが、社会復帰のはじめの一歩を応援する目的のため、あえて週20時間以内の労働に制限しています。何よりも驚きなのは、好きな時に出社し・帰宅していいこと。週2回で1日4時間、週3回で1日3時間など、本人の希望に合わせて働けるような仕組みにしています。
林さん:ラボでは、ウエダ本社の庶務をお願いしています。SNS発信、電話対応、封入作業など、さまざまな仕事を体験しながら、得意なことを見つけてもらっています。
ラボで得意なことを見つけた人、もしくはすでにやりたいことがある人は、プロジェクト型の仕事に携わります。例えば、京都・京田辺市のローカルスーパーから受託したSNS発信業務では、実際に京田辺市に住み、スーパーを利用している女性たちが消費者目線をいかしながら、お店の魅力やお得な情報を投稿しています。
林さん:時間のない子育て中の女性にとっては半径2km圏内で働けることが大切だと私は思っていて。そのためラボでは「地域で働く」をつくることにもチャレンジしています。今、京田辺では地元のスーパーの仕事をすることでお店のファンになり、「このまちに住み続けたい」と思う人が生まれ始めています。
地域で働くことは、地域に根付くことにもつながるようです。こうした女性の“働く”を応援する中で、林さん自身も岡村さんが提唱する、個人の能力とやる気が発揮できる「働きがいのある働き方」がどのようなものか実感を持ってわかってきたと話します。
林さん:ウエダ本社に入社した時、自分の意見を言ったり、やりたいことを形にする自信はありませんでした。でも、会社としても同じように場づくりを仕事にされている女性を紹介してくれるなど応援してくれ、ありのままの自分でいいんだなって思えるようになりましたね。ウテナも最初はどうしたらいいかわからなかったけど、ようやく光が見えてきて、ウテナを必要としている人にもっと届けたいと思えるようになりました。がむしゃらに働くのが私のキャラクターなので、これからもいかしていきたいです。
一人ひとりの「やりたいこと」で、日本の働き方を変えていく
原田さん、林さん、そしてラボで働く女性の話を聞いていると、それぞれが自分らしい「働きがいのある働き方」を見つけていることがわかります。それはひとえに、自分の個性や強みを見つけ、育むことを応援する風土がウエダ本社の会社全体にあるから。
そうした風土を育てるために、岡村さんが大切にしてきたことがあるそうです。
岡村さん 私は社員に「何をやりたい?」っていつも問いかけています。なぜなら、一人ひとりが素晴らしい能力を持っていて、それをいかすことが豊かな働き方につながると考えているからです。例えば、ウテナが取り組んでいる女性の働き方にアプローチする方法は、何通りもあります。でも、汗をかくのは林さんだから、私がやりたいことやマーケティング的に正しいことよりも、林さんがやりたいことをかたちにしてほしいと思うんです。
やりたいことを反対することは「ない」と続ける岡村さん。「こんなことをやりたい」というものがある人にとっては、ありがたい環境ですね。
その一方で、働き方をテーマに事業展開しているからこその悩みもあると、原田さんは話します。
原田さん 「一人ひとりの考え方やアイデアを尊重します」と聞くと、中には「ウエダ本社はさぞ優しい会社で、自分の希望を全部受け入れてくれるのだろう」と考える人がいます。でも、権利主張とは違うと社内でもよく言っていて、子連れ出勤したいとか、結婚して市外に住むことになったからフルリモートで働きたいとか、複業起業したいとか、さまざまな要望が出てくるたびに、個人と会社がキャッチボールしながら、働き方を一緒に考えています。決して、会社が個人の望む働き方に対して、全てお膳立てするわけではありません。ウエダ本社は世の中の硬直している働き方を崩しにいく役割だから、働く人にもパワーがいるのが現実です。
働く人にもパワーがいるというのは、まさに課題を解決し、前例のないことをやっていこうとするソーシャルセクターならではの特徴かもしれません。その分、自らの働き方がウエダ本社の新しい働き方として認識され、日本の中小企業にプレゼンテーションする事例となっていく可能性があることは、やりがいにもつながりそうです。
岡村さん 面白い中小企業が増えて、やりたいことがある人とマッチングしていくと、日本は変わっていくと思います。バブルを経験している身からすると、再び諸外国から目標にされる、憧れられる国になってほしいんですよね。特にアジアは高度成長の真っ只中にいますが、短期間のうちに日本や中国のように少子高齢化が進むでしょう。その時、日本がアジアに対して新しい価値を提供できれば嬉しいですし、その時にウエダ本社も役割を果たしたい思いが強くあります。
そのために、中小企業と地方に向けて、“働きがいのある働き方”をプレゼンテーションしながら事業展開するウエダ本社。まさに働き方のリーディングカンパニーと言える存在です。
自分らしい働き方を追究して実現し、日本に広げたい。そんな想いに共感する方は、ウエダ本社に話を聞きにいきませんか。
(撮影:小黒恵太朗)
(編集:村崎恭子)