「キンチクカ」と初めて聞いたとき、とっさに漢字に変換できませんでした。
正解は「菌築家」。現在は、屋久島を拠点に世界各地で土中の生態系に存在する”菌のつながり”をいかした建築設計に取り組む、小野司(おの・つかさ)さんの肩書きです。
都市部において、ヒートアイランド現象を防ぐために屋上や建物の壁面を活用して植物を育てる緑化の取り組みは、珍しいものではなくなりつつあります。けれどもそれは、建物が自然の一部として存在し、循環の中に組み込まれることを目指す“菌築”とは、大きく違います。
小野さんが取り組むのは、建築によって、自然環境がもつ循環とつながりを断ち切ることなく、あくまでもその一部として存在しながら、周囲の環境をより良い方へと再生させていくこと。そのなかでも今回は、“住む”を共有することで、建物が建つ森や、そこに集う人たちの関係性を育んでいる屋久島の「Sumu Yakushima」に実際に滞在し、“菌築”についてのお話を聞きました。
株式会社tono代表取締役 / デザイナー/ 菌築家
1977年東京都生まれ。現在は屋久島の「Sumu Yakushima」を拠点に世界で活動中。早川邦彦氏他の設計事務所にて建築家修行の後、2007年リノベーションディベロッパーの株式会社リビタに入社。約9年間勤務の後、2016年株式会社tonoを設立。2020年4月、緊急事態宣言時に屋久島に長期滞在したことをきっかけに、Sumuプロジェクトをスタート。土中の環境についての知見を学び、菌と建築を結びつける設計を試行するうちに「菌築家」と名乗るようになる。現在はSumu Yakushimaを拠点に、世界中で活動する。
木立の隙間に覗く、暮らしを共有する住まい
現在は、完全招待制の一時滞在用施設であり、2025年からは一般宿泊者向けの開放も予定しているというSumu Yakushima。敷地内に一歩足を踏み入れると、角度によっては、建物から木が生えている?と見間違うくらい、それぞれの建物がまるで森と融合するような光景に目を奪われます。建物の配置や大きさは、もともと敷地内に生えていた樹木の間隔に合わせて決めたそう。木を切ることなく各棟を建てるのは、大きなチャレンジだったといいます。
Sumu Yakushimaは、ダイニング棟、浴室棟、ラウンジ棟、3つの宿泊棟と、敷地内に用途別の6つの棟が建てられています。ウッドデッキや森の中の小道が「廊下」となり、それぞれをつないでいるのもユニークなところ。また、建材や家具には屋久島地杉(※)が使われており、室内に入るとふわっと杉の香りに包まれるのが心地よく、自然と呼吸が深くなっていきます。
(※)屋久島地杉…屋久杉の苗を地元で植林した林業によって育てられた杉。
どの棟においても、大きく開かれた窓から臨む鮮やかな緑に包みこまれ、自分も森の一部であるような気持ちになるSumu Yakushimaでの時間。建物間を移動する際は森の中を歩く設計になっているため、夜に歩いたり、雨が降ったりすると、自然の深さや怖さを肌で感じられるほど、自然との距離がとても近くなっています。
ここ数年、立て続けに世界的に有名な建築の賞を受賞しているSumu Yakushima。その大きな理由は、住むほどに環境が再生する「リジェネラティブな建築」であることが、注目されているからなのだそう。一体、どういうことなのでしょうか。
菌糸を断ち切らず、生かす建築
リジェネラティブとは、直訳すると「再生させる」という意味の単語。これまで言われてきたサステナブル(持続可能な)やエコロジー(環境にやさしい)とは異なり、地球へのダメージを回復させたうえで、さらにプラスに転換していくことを指すとされています。
小野さん 地球環境へのダメージを減らしただけでも、エコやサスティナブルと表現されます。しかし、±ゼロをゴールとして目指しているだけでは、本当の意味での回復には程遠いと思います。「このままだと我々は生き延びられない、どうにかしないと」という人類視点ではなく、人も地球も関わりあいながら生きている以上、地球の視点に立たないと何も解決しない。
この考え方が、僕らの活動のベースになっています。
だからこそ、Sumu Yakushimaで目指しているのは、生態系を壊すのではなく生かし、さらに育んでいくこと。そのため、敷地の森に立っている木々を伐採せず、地面も整地せずに高床式の工法で建て、地盤を強化するために土中に打ち込む杭には、表面を焼いた木杭を使っています。これにより、敷地内の水や風の循環を滞らせず、土中に存在する菌糸のつながりを断ち切ることもなく、建物を支える構造を実現しているのだそうです。
現代の建築では、コンクリートで地盤を固めたり、地面をならしたりするのが一般的。Sumu Yakushimaのような工法は珍しいものですが、ここで採用した土と木をいかす工法は、小野さんが発明したものではなく、日本でくから用いられてきた技術から生まれたのだといいます。
小野さん 日本には古来、土と木を使い自然と調和させる独自の技術がありました。それが文字通り「土木技術」です。けれど、明治以降の近代化に伴い、コンクリート主体の西洋式に置き換わってしまった。
「自然を排除し、そこに人間の場所をつくる」というのが、西洋式の考え方です。日本では工法の転換とともに、その背景にある自然との関係性や捉え方も西洋式に影響されていきました。結果、現代の建築工法が一般的になっているのです。
豊かな森の土中に、必ず張り巡らされている菌糸のネットワーク。森の木々たちは、菌が分解した栄養分や、運んでくる水を根っこから吸い上げ、生長していく一方で、光合成によってつくった栄養分を菌に分け与えるという共生関係を築いています。このつながりこそ、森にとって欠かせない生態系の一部なのです。
土中の菌糸のつながりを、いわば壊してしまう工法が主流になってしまっているのが、現代の西洋式建築。だからこそ、これからの建築にとって、その工法を変えていくことがとても重要だと小野さんは考えているのだそうです。
小野さん たとえば、ティースプーン一杯分の土には、つなぎあわせると約4kmにもなる菌糸が含まれていると言われています。さらにその中には、2億以上の微生物が住んでいるとも。
土の中では、微生物が菌糸というネットワークを介して、つながりあい、助け合って生きているわけです。けれども現代建築の一般的な工法では、土を捨てたり、コンクリートで固めて蓋をしたりしています。これはつまり、生きものを捨てているということ。
だからこそSumu Yakushimaでは、建物と土、地球との接点に目を向けて建築をデザインすることで、環境を生かしたり、改善したりすることができるのではないかと考え、自然の力をいかした環境再生に取り組む専門家の方々に教わりながら、工法から見直し設計に取り組みました。
屋久島で自然の営みに触れ、自分も循環の一部だと気づかされた
Sumu Yakushimaのプロジェクトが生まれるきっかけは、2018年に小野さんが、現在Sumu Yakushimaの隣に位置するモスオーシャンハウスのリニューアルに向けての議論に関わったことでした。このとき、モスオーシャンハウス代表で私たちも参加した流域ツアーのガイドなどを行う今村祐樹さん(いまむら・ゆうき、通称、今ちゃん)や、再生可能エネルギーへの転換を目指す自然電力株式会社代表の磯野謙(いその・けん)さんと出会ったことが、小野さんにとって大きな転換点となったのだといいます。
小野さん モスオーシャンハウスをソフト面・ハード面の両側からリニューアルしようという話が持ち上がったとき、建築やリノベーションのプロとして呼んでもらったことで、初めて屋久島に来ました。実はそのとき僕は、今のように自然環境について語るような立場では、まったくありませんでした。
環境問題について知っていることは、経済誌やネットニュースに出てくるようなちょっとしたものだけ。自然がどういう循環で成り立っているのかについては、全然知りませんでした。
地球温暖化が進んでいたり、熱帯雨林の過剰な伐採のせいで住処を追われる動物たちがいたり。そういった環境問題に対しては、「けしからん!」と思っていたという小野さん。けれど、環境の話は自分とは関わりのない、ずっと遠くにあるもののように感じていたのだといいます。
小野さん 屋久島で今ちゃんと出会い、彼は「目の前の自然に関わっていく」ということをずっと言っていました。それで初めて、「そっか、自分も関わっていいんだ」と。
それまでは、「アマゾンの熱帯雨林が伐採されている」というような話は距離が遠すぎて、自分との関係性を見出せていませんでした。でも実は、自分たちの経済活動の延長線上に、そういった環境問題があるわけですから、本当はすべて自分と無関係なわけがないのですよね。
小野さんは初めての屋久島滞在期間中、今村さんや磯野さんと一緒に、淀んだ川を手入れする活動にも取り組みました。そこで、蚊がたくさん発生していたドロドロの川が、1時間ほど作業をした後にすっと綺麗になる様子を目の当たりにしたそう。そして、「川に覆い被さっているあの木の枝は、葉っぱが落ちて枯れ枝みたいになっていますよね。でも、小野さんが次に来るときは、枝に葉っぱが芽吹いてきますよ」と今村さんに言われたことが、とても印象的だったといいます。
小野さん 空気を含んだ川の水が根を通るようになることで、樹木が息を吹き返すのだと聞いて、「次に来るのが楽しみだ」と思ったんです。
それまでは、自分が自然に対してポジティブな影響を与えることができるなんて、考えたこともありませんでした。人間は自然に手を入れちゃいけないものだと思っていたし、下手に関わらない方が勝手に良くなっていくと思っていた。でも、自分にもできることがあるのだと、このとき初めてわかりました。
この経験をもとに、学べば学ぶほど、実は自分にできることもたくさんあるのだと気づいた小野さん。その気づきや学びが、Sumu Yakushimaの設計にいかされているのです。
小野さん 建築物を建てるというのは、そこにあった自然環境をどかして、人工物を建てるわけですから、小さな環境破壊です。どんなにサステナブルなアイデアを入れ込んだとしても、全体として見ると、ネガティブなインパクトを与えている。それが世界中で起こっているわけです。
でもだからこそ逆に、建てることで環境を改善することができれば、地球をものすごい勢いで復活させることもできるのではないかと思いました。そこで、まずは自分たちで実践してみて、手応えがあったらその方法を広めようと考えたのです。
その実践が形になったのが、Sumu Yakushima。今では、その工法やデザインで世界中から注目を集めていますが、設計や実際の施工に至るまでには、数年にわたる紆余曲折がありました。
2020年の春に小野さんが再び屋久島を訪れた際、奇しくも滞在中に新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が出たことで、最終的には屋久島での滞在を半年ほど延長することに。このとき、小野さん、今村さん、磯野さんをはじめ、そこに居合わせたモスガイドクラブ・モスオーシャンハウスのスタッフや、お互いのパートナーなどを含め数週間かけて、毎日みんなでこの場所の未来についての議論をする機会が生まれました。そのなかで出てきたのが、「小さな家をDIYでつくる」というアイデア。その後、「なぜ家をつくるのか」と問い続けて見えてきたのが、「住みながら流域を体験できる場をつくる」という構想でした。
当初の予算は、1棟100万円。ところがそれぞれの希望を織り込んでいくうちに、最終的な見積もりはまったく予算内に収まらなかったそうです。しかし、せっかく練り上げた新たな試みを自分たちで実現してみたいという諦めきれない想いや、コロナ禍において、地球環境に対して明るい未来を予見させるこのプロジェクトをやりきるべきだという想いが一致し、決行することになりました。
そして、屋久島での家づくりに関心を持っていた周囲の仲間にも声をかけ、合計8人で資金を分担しながら動き出したのが、Sumu Yakushimaのプロジェクトでした。
学びと実践の繰り返しで見えてきた、”自然を生かす”ということ
実際のSumu Yakushimaの施工過程では、モスガイドクラブ代表であり、プロジェクトに共に取り組む今村さんたっての希望もあり、「大地の再生」(※)のメンバーでもあり、建築家として人と自然が調和する環境づくりに取り組むWAKUWORKS株式会社代表でもある和久倫也(わく・ともなり)さんにも来てもらい、工法や森の整備も含め、より理想に近いものを試行錯誤しながら練り上げていきました。
(※)土地の水脈や空気の流れを整えることで、自然がみずから蘇ろうとする力を生かして環境改善に取り組む一般社団法人。
例えば水脈や微生物が複雑に絡まり合っている海沿いの斜面ギリギリの場所や、台風の風が吹き抜ける、現在ウッドデッキになっている場所には、建物を建てるのを避けた方がいいといったアドバイスを受け、建物の配置案を60通りほどつくったそう。また、焼き杭を地中に埋め込んだり、落ち葉を漉き込んだりすることで、土中に菌糸のネットワークをつくることができると教わり、Sumu Yakushimaの特徴でもある高床式の設計デザインが出来上がっていきました。
小野さん 今思えば恥ずかしいんですが、当初は自然よりも人間の都合を優先していました。「やっぱり海が見たい」という思いで建物をレイアウトしてしまったりして。
でも、和久さんからダメ出しをもらったり、土中の菌の働きなどについても教えられたり、僕も自分で本を読んで学んだりするようになり、だんだんと理解が深まっていきました。
とは言いつつも、当初は、和久さんや今村さんが言っていたことを「ここに手を加えると、こうなるらしいですよ」と、あくまでも伝聞の形で大工さんや関係者に話していたという小野さん。菌糸の働きや建築物との関わりについても、はじめは半信半疑だったそうです。
小野さん 焼いた杭を地面に打ち込むくらいで、本当に菌が育つんだろうか?と、単純には信じられませんでした。
でも実際にSumu Yakushimaを建ててから1年が経過した頃、基礎の下を掘ってみると、すぐ近くに樹木が無いにもかかわらず、生きているしなやかな根っこが巻き付いているのを見つけたり、そこをさらに掘ってみると、菌糸がいっぱい出てきたり。杭を中心に、本当に菌糸がつながるのだなと、驚きました。
Sumu Yakushimaを建てることで、建築が環境を破壊するのではなく、むしろ土が元気になり、周囲の森が徐々に力を取り戻していく様子を目の当たりにしたという小野さん。たとえば、Sumu Yakushimaができたばかりの頃は、ひょろひょろで頼りなかったクスノキが、今では幹も太くなり、たくさんの葉を生い茂らせるようになりました。
目に見える明確な変化はあったものの、「Sumu Yakushimaの建物と木、敷地内の木と木が菌糸でつながっている」という目に見えない部分については、確かめようがありません。そこで、「科学と芸術の力で、人類が経験したことのない芸術体験を生み出す」ことを掲げるクリエイティブ集団ARu Inc.さんとともに、ちょっとおもしろい実験を行ったのだそうです。
小野さん Sumu Yakushima内の木や建物を、電極とランプをセットした配線でつなぎ、微弱な電気を流しながら触る。それらが地下の菌糸や根っこでつながっていれば、ランプがぱっと点くという実験でした。
ここでは、隣り合う木だけでなく、建物を挟んだ木々同士や木と建物のドアノブで試してみても電気が点きました。Sumu Yakushimaには、巨大な菌糸のネットワークができているのです。そのことが目に見えてわかり、これはおもしろいなと思いました。
ARu Inc.さんによる別地域での同様の実験では、樹木が数メートル離れただけで、ランプはまったく点かなくなったのだとか。菌糸のつながりを分断しない建築がもたらす自然へのいい影響が、実験によって示されたのです。
みんなで共に“住む”場所で、目指すもの
資金面でも技術面でもさまざまな人が関わりながら、およそ2年の月日をかけて完成したSumu Yakushima。人が”住む”ことで、豊かな循環が生まれ、その場が”澄んでいく”という期待と願いが込められたこの施設は、実際に滞在してみると、リビングやキッチン、お風呂など用途別に分かれた棟を共有しながら共に住む様は、まるでシェアハウスが進化したようで、自然のみならず有機的な人のつながりをも育んでいるのが印象的でした。
そこには、コロナ禍の緊急事態宣言中に、小野さん夫婦が磯野さん一家と家族のように同じ空間で過ごした経験が、大きく影響していたようです。
小野さん 血はつながっていないけれど、子どもたちを一緒に育てる擬似家族みたいな状態を体験して、屋久島でひとつ屋根の下で一緒に過ごすっていいなと思いました。それを継続的にやろうと思ったのも、Sumu Yakushimaを建てた大きな理由のひとつです。
僕たちは、2家族で一緒に過ごす時間がとても幸せだった。だからこそ、ほどよい距離感を保ちながらも、ひとつのテーブルをみんなで囲めるような家をつくって一緒に住むことができたら、「みんなが幸せで、いい状態」をつくれるのではと思いました。
子どもたちが滞在していたら、ここに居合わせた大人がみんな、お母さん、お父さんになる。「この感覚こそが未来じゃない?」と。そうやって楽しく暮らしていくなかで仲間や味方が増え、助け合い、みんなにとって心地よい暮らしを実現できる場所になっていく。そうやって、地球環境に目を向けたり手を動かしたりする前に、まずは自分たちが安心して満たされている状態をつくっていくことが大切なのだと思います。
それこそが、Sumu Yakushimaで実現したい最大のテーマなのかもしれません。
Sumu Yakushimaでは、滞在する人たちと一緒によくピザを焼くそうですが、そのときに使う薪は、海岸に漂着した流木や、周囲の川に詰まっていた枝を整備がてら取り除いてきたもの。水がスムーズに流れるようになるうえに、ピザを焼いて美味しく食べることができるのです。
また、Sumu Yakushimaの上流に位置する果樹園で枝打ちした枝は、果樹園の人にとっては不要なものですが、Sumu Yakushimaでは、今村さんたちと一緒にその枝で炭焼きをして畑に埋め込み、土壌の微生物の状態を改善し、豊かな作物を育てる資源として循環させていきます。
そうやって、それぞれが普段の暮らしを楽しみ、充実させていくと同時に、自然が澄んでいく循環を起こしていくことが重要なのだと、小野さんは力を込めます。
小野さん 僕は、人間の幸せにとって大事なものは3つあると思っていて、それが、「食べもの・エネルギー・仲間」です。
お金がなくても、美味しいものがあふれていれば人は生きていける。再生可能エネルギーを適切に使えば、発電の過程で環境も壊さず気持ちよく過ごせる。そして、仲間がいれば助け合える。この3つがあれば、僕たちは平和に生きていけるんじゃないかと思っています。
Sumu Yakushimaは、この3つが揃った状態を体験してもらうことを意図した場所。だからここには「泊まる」ことはできず、「住む」ことしかできないとみなさんに説明しています。
小野さん 「我々は地球の上に住んでいるのではありません。私たちが地球なんです」という言葉が好きなのですが、僕たちが地球なのだというのは、すごく大事な感覚だと思っています。「地球を守ろう」とよく言いますが、「人間は、地球の管理者でしたっけ?」と思うんです。こういう感覚は、教えられないから、それぞれで気づくしかない。
僕もそうだったんですが、自分で気づいたことはどこへ行っても覚えているし、周りの人につい話したくもなります。Sumu Yakushimaは、そうやって体感しながら自分自身で気づきを得てもらえる場でありたいと思っています。
最後に、都市部の建築でも、Sumu Yakushimaのような循環を生み出していくことはできないのか、小野さんに聞いてみました。
小野さん 小さな敷地で小さく建てるときにできることは、かなり限定的ですよね。でも土が見えている戸建てだったら、土とどう関わるかというのは大事な視点です。
都市の中にも実は様々なレイヤーで生態系が存在していて、我々はそれを忘れたり、排除しようとしがちです。なので、身の回りから少し視野を広げた範囲まで、敷地にどのような生態系があるのかを観察することが大切です。
たとえば、鳥やトンボは飛ぶ距離に限界があるから、川やお堀、池に加えて各家に、ちょっとでもビオトープみたいな場所や止まれる木があったりすると、行動範囲を広げることができます。そうやって、小さくてもいいから生きものが休める場所をつくってあげることが連鎖すると、生物多様性の高まる範囲が広がっていくのではないでしょうか。
そして、行政や企業が担う大規模開発にこそ、大きな変化を生む可能性が秘められているという興味深い考えを教えてくれました。
小野さん とてつもないお金が動く何千ヘクタールという大規模の開発が、都市部ではあちこちで行われています。もしそこで、Sumu Yakushimaが実践しているような工法を取り入れたり、環境の整備に力を入れたりすれば、かなり大きな変化が生まれるはずです。
コンクリート自体はSumu Yakushimaでも使っていますし、たとえば、超高層ビルを建てる上では不可欠な工法です。ただ、そういった利便性や機能性を踏まえつつ、僕たちの範囲外で起こりがちな大規模開発の現場でも、地面をどう掘っていくのか、どうケアするのかといったリテラシーが伴うようになれば、一気に環境を良い方へ変えていけるのではと思っています。
教えられた知識や、本からの学びだけでなく、Sumu Yakushimaを通した実践と体験を経て、少しずつ土中の菌糸の働きと環境の関わり、そして、その循環の中で人が果たす役割について、自分なりの理解を深めてきた小野さんの挑戦。
自分のやりたいことや心地よい暮らしを探究しながら、そこに関わる人にとっても、周囲の自然にとっても気持ち良いありかたを模索する小野さんの姿は、私たちが日々の暮らしの中で、できることを少しずつでも実践していく後押しをしてくれる気がしました。
まずは身近なところで自然にじっくりと触れて体感し、その営みや循環に気づくことからはじめてみてもいいのかもしれません。
(撮影:鳥越万紀雄)
(編集:村崎恭子、増村江利子)