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わたしたちの暮らしを支える、農業や漁業、酪農、畜産などの地場産業。
それらはすべて、その土地固有の気候や風土とともに育まれ、独自の歴史と文化、地域経済を形成してきました。
しかし昨今、地方では過疎化や就業者の高齢化、地場産業の担い手不足など、多くの課題が浮かび上がっています。そのため、各地の地域経済も危機的な状況にあるのです。
「株式会社MISO SOUP(以下、MISO SOUP)」が取り組んでいるのは、それぞれの地域を深く見つめて独自の価値を見出し、長く愛される新たなローカルビジネスを生み出し、その地域独自の「地域経済エコシステム(=地域が豊かに続いていくために必要な経済的・社会的な仕組みや生態系)」をつくりだすこと。全国の生産者や地域事業者、地方自治体と共に、地域がもつユニークな資源を100年先の子どもたち世代へと残していけるよう活動しています。
なぜMISO SOUPは「地域経済発展のためのエコシステム」をつくることに取り組むのか。そして、なぜ「MISO SOUP(味噌汁)」というユニークな社名にしたのか。その背景には、代表の北川智博(きたがわ・ともひろ)さんやプロデューサーの大原翔(おおはら・しょう)さんたちが大事にする、地域と次世代への思いがありました。
「地域経済発展のためのエコシステム」をつくり直すことが課題解決の切り札になる
MISO SOUPは「地域をもっとクリエイティブに」をテーマに、全国の一次産業をはじめとするローカルビジネスに取り組むほか、自治体や組合への講演、スクール企画、地域産品ブランディングを通した支援などをおこなっています。事業の背景にあるのは、現状の地域社会に対する課題意識です。
代表の北川さんは、現代の日本では地域コミュニティに再編期が訪れていると指摘します。その背景にあるのは、主に人口減少とともに、地域の生産年齢人口が大都市に流出してしまうことによる、地域経済の衰退です。
北川さん 日本の自治体の多くは高度経済成長期、人口が右肩上がりに増えていくなかでつくられたエコシステムから現代の形に合ったものへと移行できていません。
税収が減ってくるなか、医療や交通などのインフラをどう維持していくのか、多くの地域で課題になっている現状があります。
生態系とは、歴史や文化、地理的な特徴や産業など、さまざまな環境要因、時間の経過によって変わっていくもの。紋切り型でソリューションを一つだけつくれば他でも転用できるようなものではありません。
一方、人口が集中する都市部では新たな課題も生まれています。
北川さん 昔は地縁的なつながりが強く、各地域のコミュニティは自治会や町内会、青年団など地域に根ざした団体が担っていました。ところが、高度経済成長期を経て、人口が都市部に集中し、地方は過疎化が進みました。一方都市部では住民同士のつながりがつくりづらくなっています。
地方からは人がいなくなり、都市部では顔の見えない関係が増える。日本全土でつながりが希薄化していくなかで、北川さんは地域の魅力を再発見し、その土地独自の「地域経済エコシステム」をつくることに希望を見出しています。
北川さん 地域の担い手や企業、自治体などが協力しあって地域資源の魅力を再発見し、発信すること、すなわち分断・分散していた地域内のプレーヤーがつながることで、地域社会のエコシステムを再構築すること。これが私たちが目指していることです。
エコシステムのありかたは一つに限りません。国内の1,700以上の自治体でも、地域の環境や産業、文化や歴史によって最適な形があるでしょう。私たちがさまざまな地域と関わりながら地域ごとのエコシステムを見出し、新しい地域社会モデルを実装できたら、次世代を豊かにするためのヒントが見つかるかもしれない。そう考えています。
地域の良さを最大限に引き出して、誰かを幸せにできる事業を生み出す
その土地ならではの魅力を見出し、地域経済を元気にする新たなエコシステムをつくること。その取り組みは、社名にもある「MISO SOUP=味噌汁」づくりに似ているのだと北川さんは話します。
日本の食卓に欠かせない料理の一つである味噌汁は、地域によって使われる味噌や出汁の種類、具材のバリエーションもさまざまです。家庭によっても味わいは千差万別で、どこかなつかしく、優しい味わいにほっとする。私たちにとってソウルフードのような存在なのかもしれません。
MISO SOUPでは、地域に息づく思い出や誇りなどのアイデンティティを「出汁」、地域・組織特有の資源を「具材」、長い時間をかけて発酵してきた歴史、文化、習慣を「味噌」と位置付けています。そしてこの3つを掛け合わせることで、その土地でしかつくることのできないオリジナルの味噌汁=プロジェクトが完成するのです。
北川さん 概念的な味噌汁はみんな知っていると思うんですけど、それぞれの人にとってほっとする味噌汁は違う。なぜなら、味噌汁には地域性が出るからです。山間のまちなら山菜やきのこが入っていたり、海沿いのまちは沖で取れた魚が入っていたり。味噌汁には地域性がよくあらわれていますよね。
それって自分たちが目指すビジネスのあり方とすごく似ているなって。構成する要素はそれぞれ違っても、それらの良さを最大限引き出して、誰かを幸せにできるような事業を生み出したい。「その土地でいちばん美味しい味噌汁ってなんだろう?」と考えながら、日々仕事に取り組んでいます。
ビジネスの経験を、地域でいかしてきた
2016年1月に設立されたMISO SOUP。代表の北川さんは高知県の田舎で漁業と農業を営む環境で育ち、幼い頃から高齢化の課題を肌で感じたことが、「地域」をテーマに企業を志すきっかけになったと振り返ります。
北川さん 高知県の高齢化率は全国平均を大きく上回り、「課題先進県」ともいわれてきました。地域経済の停滞を打破できるようなマーケットにも乏しく、生活のためのインフラがどんどん老朽化していくのを10代の頃から目の当たりにしていたんです。
「同様の事態は今後、日本各地でも起こるのだろう」という不安から、将来は地域に関わる仕事がしたいと考えるようになりました。
大学卒業後に入社したITベンチャーで上場を経験し、デジタルマーケティング事業本部の副責任者として10以上の新規事業や新サービス開発の立ち上げに関わってきた北川さん。企業や自治体を対象に300以上のデジタルマーケティングのプロジェクトに携わってきた経験をいかし、現在は経営から企画、マーケティングまで幅広いプロデュースを手掛けています。
創業後、初めに注力したのは「6次産業化」の支援事業でした。6次産業とは、1次産業だけでなく、加工(2次産業)、そして流通・販売などのサービス(3次産業)まで一気通貫で取り組み、産業の可能性を広げようとする考え方です。
北川さん 初めは実績もなく、何もかもが手探りでした。でも、創業して最初の5年で「100件の実績をつくろう!」と目標を掲げて全国の生産者さんと関わるうちに、自分たちのビジネスモデルに共感してくれる仲間が少しずつ増えていったんです。
大企業なら赤字続きで撤退しそうな事業でも、胆力をもって続けてきたこと。これが自分たちMISO SOUPのプライドになっているのかもしれません。
地域の事業者は、社会をつくる存在になりうる
MISO SOUPの事業の柱となるローカルビジネス支援では、事業者の目標や課題に応じて、地域資源を活用した商品開発や、既存商品のブラッシュアップなど、事業を伸ばすための支援しています。持続可能な事業となるよう運用体制や販売戦略、開発体制など一連のプロセスも考慮した支援をしているのも特徴です。
例えば京都の農園「ロックファーム京都」が夏限定で生産する白いとうもろこし「京都舞コーン」。収穫できるのは年に5日間だけという貴重なとうもろこしです。依頼事業者は当時、九条ネギの生産をメインとしていましたが、「第二の柱となる商品を開発したい」との要望から支援がスタートしました。
京都を象徴する「舞妓」のように白く上品な甘さで、畑で踊るように実をつけることから商品名は「京都舞コーン」と命名。京都らしいイメージを出すため、筆文字のロゴデザインを作成しました。さらに、ラベル、ギフトボックス、お客さんに手にとってもらいやすいパッケージデザインなど、MISO SOUPがトータルで手がけました。
販売においても、直売所の看板や販促物等をデザインしたほか、プレスリリースやチラシ配布などのPR活動、オンラインでも購入できるようWebサイトやネットショップを準備するなど集客体制をサポート。1本500円の高価格帯のとうもろこしですが、今では年間数万本が売り切れるようになり、累計で40万本弱を販売した大ヒット商品となりました。
北川さん 私たちはいわゆる「コンサルタント」ではありません。現場に足を運び、伴走しながら事業をつくり上げ、地域の人たちの目線や合理性を深く理解する。そうして最適解を見出すことを心がけています。
自分たちはローカルビジネスをつくることを「地域にとっての点をつくる」と表現しています。その土地の求心力となるビジネスを複数生み出したら、次は行政や地域のプレーヤーと連携して点と点をつなぎ、「面」にしていく。時間はかかるかもしれませんが、10年、20年先のビジョンをもって行動に移すことができる。これは私たちにしかできないと自負しています。
MISO SOUPの創業まもない頃から事業に参画し、プロデューサーとして全国各地の支援に奔走する大原さんも、「地域のプレーヤーをつなぐことが自分たちの強み」だと話します。
大原さん これまでMISO SOUPが地域で取り組んだビジネス支援の実績は200件近くあります。事業領域も農業に限らず多岐に渡ります。さらに最近は、地場の企業やプレーヤーと共同出資で事業を立ち上げるケースなども出てきています。
「お互いの強みをいかして、ひとつの会社ではできないことをやろう」という意図もありますが、地域の関係性が希薄化しているという話もあったように、事業をきっかけに地域のプレーヤー同士をつなぎ直すという目的もあるのです。
事業づくりの道のりは、決して平坦ではありません。だからこそ地域をよく知り、強い思いを持つプレーヤーがコラボレーションすることで、持続可能な事業へと成長し、地域経済の活性化に寄与する。そのアクションが結果的に、新しい地域経済エコシステムを構築する起爆剤となる……。北川さんは、そうした流れの鍵を握るのが、やはり次世代の地域経済を担うプレーヤーである事業者自身であるといいます。
北川さん これからの事業者は、「モノをつくる人ではなく、社会をつくる人になろう」という姿勢が大切です。農業などの一次産業に限らず、地域の建設業や林業、自動車製造やサービス業なども含んでおり、そうした事業を、僕らはローカルビジネスと位置付けています。
こうした地域の事業者は、誰もが「社会をデザインするプレーヤー」になりうる。僕らはそうした、自分たちの仕事を通して社会を良くしたいという人たちとタッグを組んでいきたいですね。
「発注者と受託者」の関係ではなく、パートナーとして関わる
現在のMISO SOUPのメンバーは正社員8名と業務委託が3名。各自が自身の拠点から全国のプロジェクトの現場を行き来し、フルリモートで勤務しています。
経歴はデザイナーや広告業界、メーカー出身などさまざまですが、各々の共通点を聞くと、「誰かの指示待ちじゃなく、自分で動くタイプ」であること、そして「地域を楽しむ」ことだといいます。
固定のオフィスはないものの、毎日のオンライン朝礼や週次の事業進捗の共有でコミュニケーションをとりつつ、年2回のオフライン合宿では対面で未来のビジョンなどについて語り合います。
そうした「ビジョナリーカンパニー」(未来に向けた理念を持ち、柔軟に変化を続ける企業)としての側面も持ちながら、経営の数値まわりの管理や日々のコミュニケーションなど、こまかい部分もおろそかにしていないのだとか。
北川さん マネジメント的な観点からの細かなマニュアルなどはできるだけつくらないようにしています。一方で、経営などに関わる数字は、お客さんに対してもフィードバックできなければならない。そのため、自分たちでも、数字面はものすごく細かく報告したり管理したりしています。
ゆるそうに見えて、細かく数字をチェックしていたり、自由だけれど毎日コミュニケーションをとっていたりと、対極にあるものをバランス良く取り入れている組織かなと思います。
メンバーの一人であり、プロデューサーを務める大原さんは、ITベンチャーでデジタルマーケティング事業に従事し、国内外100社を支援してきた経歴の持ち主。MISO SOUPでは、サッカーにおける攻守の要である「ボランチ」のようなポジションで、これまでのプロジェクトで培ってきたノウハウをいかしています。
大原さんは、最初はフリーランスとしてMISO SOUPに参画するうち、事業の面白さにどんどんとのめり込んでいったのだそうです。
大原さん 東京に長く暮らしていたので、子どもの頃は田んぼや畑に触れる機会はほとんどありませんでした。でも、MISO SOUPの仕事で初めて一次産業の方と接して、地域に対する彼らの熱い思いがひしひしと伝わってきたんです。それがとても刺激的で、「誇りを持てる仕事っていいな」と感じたのを覚えています。
今の仕事のやりがいは何か聞くと、「地域の人たちのパートナーとして、地域を一緒につくり上げていくのが面白い」といいます。
大原さん いわゆる「発注者と受託者」の関係ではなく、僕らもリスクをとっての共同出資型で事業を始めるパターンもあります。地域の事業者と同じ目線に立ちながら、地域の未来にとっての最適な道筋を考える。これはビジネスの枠組みを超えた関係性で、「パートナー」という表現がしっくりくるかなと。
これまでの支援で蓄積した知見はありますが、必ずしも決まった正解や勝ちパターンはありません。いい意味でプレッシャーも感じつつ、知的好奇心を持ちながら、日々新鮮な思いでプロジェクトに向き合っています。
日本のローカルから世界のローカルへ。MISO SOUPのさらなる挑戦
創業からもうすぐ10年を迎えるMISO SOUP。北川さんは今のフェーズを「第二創業期」と位置付けています。6次産業化支援からスタートした地域支援事業も拡大し、自治体の課題解決を行うBtoG事業も成長しつつある今、さらに大きなチャレンジに挑もうとしています。それは「地域を起点とした新しい社会モデルの提唱」、そして「海外への事業展開」です。
北川さん MISO SOUPがビジョンとして見据えているのは、気候変動や人口爆発といった人類が直面しているグローバルリスクに対処できるような、新しい社会モデルを地域から生み出していくこと。課題先進国といわれる日本の地方で機能する地域経済エコシステムをつくりだすことができれば、海外の地域課題も解決できる新しい社会モデルとなるはずだと考えています。
MISO SOUPでは2027年までに「国内の5つの地域で、新しい社会モデルを実証する」ことを目標にしているそう。その第一弾として、2024年11月には和歌山県紀の川市で地域の事業者と「紀の川流域カンパニー株式会社」を立ち上げました。
北川さん カンパニーは、地域の農業協同組合や建設会社、自動車会社とともに立ち上げており、地域課題解決のためにそれぞれの強みを活かしたまちづくり会社として有機的な連携をはかります。まずは耕作放棄地を体験観光農園に整備して関係人口を増やす事業からスタートします。農園のリピーターから紀の川市での農業やまちづくりに興味を抱く人々を発掘し、移住定住の促進や新たなアグリビジネスにつなげるプロジェクトなど、新たな地域ビジネスの創出・成長が耕作放棄地や空き家の再生につながるエコシステム構築に取り組みます。
地域の業界・業種の垣根を超えて、エリア一帯の開発や雇用などを創出していくような、非常にユニークな取り組みになると思います。
また、今期からはインドと台湾を拠点に、海外のローカルビジネス支援や地域開発にも乗り出しています。
北川さん 地域コミュニティは世界中に散らばっている。国境は一つの枠組みでしかありません。国は違っても、同じ高齢化や新規事業創出の課題を抱えているかもしれない。
そのコミュニティ同士をつないでアイデアを共有し、お互いに足りないものを補完していく。いわゆる「local to local」の関係性があることで、地域が自立し、支え合い、刺激し合えるような、地域間の相互作用や相乗効果が生まれる世界をつくっていきたいと考えています。
社会経済や価値観が急速に変化し、不確実性の高い時代とも言われる現代。だからこそ、まずは自分たちが暮らす地域の持つ資源と価値を見つめ直すこと。それがよりよい世界をつくるための第一歩となるのかもしれません。
MISO SOUP彼らが地域でつくり出す新しい社会モデルは、今後は国境を越え、はるか彼方、諸外国の地域の課題解決にもつながっていくはずです。
自分たちの仕事を通して社会を良くしたいという方。ぜひMISO SOUPで一緒に地域を耕し、豊かな未来をつくっていきませんか?
(撮影:中村幸稚)
(編集:岩井美咲)