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助けるだけじゃなくて、未来を示す。グアテマラのリゾート地で、子どもと大人と地域にレジリエンスのあるコミュニティを提供する「Tejiendo Futuros」

グアテマラというと、みなさんはどのような印象を持っていますか? メキシコの南に位置するこの国は、古代遺跡や自然公園が多く、今回の記事の舞台となるパナハッチェルのようなリゾートもあります。

パナハッチェルは、グアテマラへ観光に来るほとんどの人びとが訪れるとされるリゾート地で、美しいアティトラン湖を堪能できます。その他にも自然保護区で野生生物を観察したり、一大産業であるコーヒー農園を散策することもできるそう。

しかし、そんな華やかなイメージとは裏腹に、不安定な雇用、貧困、家庭内暴力などいくつもの深刻な社会課題があるといいます。特に子どもたちは、適切な教育や医療を受けられないなど、さまざまな困難に直面しているそう。そんな観光地の裏にある課題を解決し、子どもたちやその家族の未来をつくろうとしているNPOがあります。それが今回ご紹介する「Tejiendo Futuros(テヒエンド・フトゥロス)」です。

地域の課題を多角的に見つめて取り組む

「Tejiendo Futuros」はパナハッチェルの抱える教育、農業体験、心理的サポート、健康促進といった課題に対し多角的なアプローチで取り組んでいるのが特徴。彼らがどんなプログラムを展開しているか紹介していきましょう。

まず、総合的な教育プログラム「The Tree of Childhood(幼少期の木)」は、4歳〜15歳までの76人の子どもたちに無償で教育と食事を提供しています。大事にしているのは、彼らの今を助けるだけでなく、未来へのきっかけを手にしてもらうこと。子どもたちは単に勉強するだけでなく、プログラムを通して自分はどんな未来への希望を抱いているか、どんな可能性があるかを考え、行動する機会があるのだそうです。

2つ目は、「Kaulew(私たちの土地)」という有機農業を体験してもらうプログラム。カクチケル語(※)で「私たちの土地」を意味するこの言葉には、自然との共生を大切にする思いが込められています。栽培・収穫された有機野菜は、「Tejiendo Futuros」の活動に参加している家族の食卓に届けられるのだとか。

(※)グアテマラ高地に住むマヤ民族の言語

彼らが「土地」にこだわっている背景には、子どもたちやその家族をケアするのと同じように、彼ら自身の土地もケアしなければいけないという思いがあります。環境に配慮した農業を体験し、その収穫物を食べることは、子どもたちの心身が満たされ、健康に育つことにもつながるのです。

3つ目は、「Strengthened Families(家族の絆を深める)」と名付けられたプログラム。新型コロナウイルスの影響で、多くの家庭が経済的に困窮し、その結果ドメスティック・バイオレンスのリスクが高まってしまったと考えた「Tejiendo Futuros」は、プログラムの対象を子どもたちから両親へと広げることにしました。

子どもたちの成長には、家族の支え、そして安全な場所が大切。そのために、現在は51人の母親と15人の父親に対して、自尊心やセルフケア、創造力などのテーマでワークショップを実施。子どもたちのはもちろん、親として、ひとりの社会人として、あらゆる声に耳を傾け寄り添っています。

最後は、「Healthy Mind, Healthy Body(健康な心、健康な体)」というプログラム。簡単にいうと、総合的な健康管理です。参加する人びとの心身の状態を定期的にチェックし、質の高いケアを提供しています。

一人ひとりがよりよい社会を紡ぐ一本の糸に

「Tejiendo Futuros」は、2018年にIngrid Villaseñor(イングリッド・ビジャセニョール)さんによって設立されました。グアテマラ内戦中の1980年代に幼少期を過ごしたというイングリッドさんは、10歳の時に父親を誘拐で失うという悲劇に見舞われます。この経験は彼女の人生に大きな影響を与え、「社会の不正や不条理に対して強い意志で立ち向かうきっかけになった」といいます。

やがて20歳で母親となり、教師としても働き始めたイングリッドさんは、飢え、児童労働、薬物依存、ネグレクト、暴力など、子どもたちが直面している厳しい現実を知り、「Tejiendo Futuros」を設立します。この団体の名前は「未来を紡ぐ」という意味を持ち、「参加する一人ひとりが、より良い社会という織物を紡ぐ一本の糸になってほしい」という思いを込めて「Tejiendo Futuros」は活動してきたのだそう。

これまでの活動を通じて「Tejiendo Futuros」は50世帯以上の家族、約100人の子どもたちとの緊密なつながりを築いています。彼らが目指すのは、レジリエンス(回復力)のあるコミュニティをつくること。深い絆で結ばれた家族たち、持続可能な農業、将来を見据えた支援。これらの要素が組み合わさることで、社会に新たな価値を創造しながら、同時に持続可能な生活が実現するのです。

「Tejiendo Futuros」の活動の軸からは、環境問題も人権問題も健康もすべてが地続きであるということが学べます。それらは、切り離して、個別に解決できたとしても、地域の未来のための包括的な前進とならないのです。私たちも、身近な社会課題に目を向け、様々な角度から長期的な答えを模索し、コミュニティとして取り組む姿勢を持つことが大切なのではないでしょうか。

(All Photos: © Tejiendo Futuros)