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「古墳のふもとの古民家」を譲り受けたcofunia 前田知里さんに聞く、何もない状況から仲間を集めて宿をつくる方法

あなたは「古墳」と聞くとどんな想像をするでしょうか?
世界最大の墳墓を持つ大仙陵古墳(仁徳陵古墳)のような巨大なお墓のイメージでしょうか、それとももっと身近な丘のような場所を想像しますか?

実は、日本に古墳や横穴と呼ばれるものは16万基もあり(文化庁調べ)、北は岩手県から南は鹿児島県までの範囲に数多く点在しています。これは現在の日本のコンビニ約56,000軒よりも断然多い数といえば、その多さがわかるでしょうか。

実はこれらの古墳、史跡に指定されるのは規模の大きなごく一部で、ほとんどが個人所有の私有地だというから驚きです。

これからご紹介する奈良県天理市にある西山塚古墳も、以前は墳丘のふもとに住居と果樹畑が広がっている場所でした。その家に居住する人がいなくなって10年以上、地域集落に住む人たちで草刈りをしたり、できる限り保全をしていたものの、家も土地も荒れるばかり。困り果てた地域の人が、近くに移住してきた前田知里(まえだ・ちさと)さんに「だれかに使ってもらえないだろうか」と、相談してきたことから、物語はスタートしました。

西山塚古墳の麓にある古民家を、参加型セルフリノベーションで宿泊施設に

舞台となる西山塚古墳は、天皇陵の指定は受けていないものの、実は推古天皇の祖母にあたる手白香皇女(たしらかのひめみこ)の墓ではないかとの説もあるという、由緒ある前方後円墳です。

突然「古墳をもらってしまった」前田さんは、この古墳をどのように活用すればよいのか?アイデアを募り、いろいろな人を巻き込みながら最終的に決まったのが宿泊施設。新しく建てなおすのではなく、今ある資源を最大限活かしたかたちで、「泊まれる古墳」をつくることになったのです。その後、仲間と株式会社cofunia(コフニア)を立ち上げ、2024年7月現在、約700m²(200 坪)ある敷地に、母屋、離れ、倉庫3棟、蔵1棟だった7棟の建物をリノベーションし、共有飲食スペースと宿泊施設4棟がある施設の開業を目指しています。

設計時に描いたcofunia完成予想図(提供:TEAMクラプトン)

工期は2024年3月から7月までの4ヶ月。施主や地域を巻き込んだものづくりに取り組む「TEAMクラプトン」とともに全国からボランティアを募集し、連日20人以上のメンバーが共同生活をしながら、現場作業を続けていました。

古墳に宿、というインパクトもすごいけれど、いっきに5棟をリノベーションする現場をなぜプロだけに任せず、プロの指導の下、ボランティアがものづくりに参加する余白をつくり、工期も長くかけて人の管理も面倒なやり方で宿をつくろうとしているのか?

そんな疑問を持ちながら、関係者のみなさんにお話を伺うべく、工事現場を訪ねました。

古墳がそんなに人気とは! 妄想ミーティングで続々と仲間が集まる

前田さんは、2017年に前職の知識を活かして、外国人向けに日本の地方を案内する旅行会社を立ち上げるため、奈良県宇陀市に移住しました。その後、希望していた古民家探しをするものの大苦戦。ひたすら探し続けた結果、2020年に奈良県天理市に理想の物件を見つけて、180坪のお庭がある自宅兼アトリエを「里山文庫」と名付けて民泊施設とし、オンライン講座やワークショップなどを行っていました。

古墳の上でお茶を淹れる前田さん(写真提供:cofunia)

前田知里(まえだ・ちさと)
株式会社cofunia代表社員・里山文庫主宰
イギリスの秘境専門旅行会社で企画営業を経て独立し、奈良県で旅行会社Village to Table Tours(第3種旅行業登録)を立ち上げる。山の辺の道へのツアー送客がきっかけで天理市に移住。古墳の麓に建つ古民家を譲り受けたところから仲間を募り、合同会社cofuniaを立ち上げた(のち株式会社化)。オランダの農業大学院を修了、アジア山岳民族の集落を訪ね、植物利用や保存食の知恵を学ぶ、植物をこよなく愛する植物民族研究家の顔も。

「里山文庫」のスタートから1年ほど経つと、全国から訪れる人も増え、少しずつ近隣地域の人たちからも「何なのかよくわからないけど、おもしろいことやってる人がいる」という認識が広がっていきます。そんなある時、ご近所の方から「古墳をどうにかできないか」という相談が舞い込んできたのです。

前田さん 西山塚古墳は近隣の方々に大切にされてきた場所ですが、ふもとに残された7棟の母屋や蔵・倉庫は、10年以上人が住んでおらず、長年のお困りごとでもあって。古民家といっても、築100年以上の母屋はボロボロで崩れ落ちそうだったので、補修するにせよ相当お金がかかるだろうと、いろんな人に声をかけたようなんですがみんなに断わられていて。「里山文庫」なら何か活用してくれるんじゃないか、という相談を受けたのがはじまりです。

西山塚古墳とその麓にある古民家は個人所有の土地で、地主が複数人いる複雑な権利関係がありました。けれども重要な遺跡の西山塚古墳を、地域の人たちはお金を出し合って草刈りをして整えたりと、みんなで大切に保全してきました。ただ、周辺住民の高齢化や家屋の老朽化も進み、小さな地域の課題としては、抱えきれないほどになっていたのです。

真上から見た西山塚古墳と古民家。真上からだと前方後円墳の形が残っていることもわかります(写真提供:cofunia)

前田さんは、突然の話に戸惑いつつも、この話を引き受けようと決意します。そこには旅行業を生業としている前田さんならではの見立てがありました。

前田さん 実はわたし自身は歴史好きというわけでもなく、古墳に強い思い入れもなかったのですが、墳丘に上ってみたら、気の流れがいい場所だなと感じました。ここは山の辺の道のすぐ脇に位置していて、平日でもひっきりなしに人が歩いてる場所なんです。でも、付近にあまり滞在スポットもなくて、みんな素通りしてるのがもったいないなと思って。旅行業をやっている身としては、古民家も魅力だし、何かの拠点にできたらいいなと思って、引き受けました。

古民家のすぐ前を日本最古の道と言われる山の辺の道が通り、年間30万人のハイカーが来る人気のハイキングコースとなっています

その時点では、活用法の具体的なビジョンはなかったという前田さんの次の手は、この話に興味持つ仲間を集めることでした。

前田さん この話は、少なくとも旅行会社や海外の人たちはかなり興味を持つという確信はあったので、「この場所で何かしたい人集まれ」と呼びかけて、「妄想ミーティング」と名付けて、1年で5、6回ほどオンラインミーティングをやりました。

前田さんにとって予想外だったのが、「古墳をもらった」話が歴史好きや古墳マニアと呼ばれる人に大反響だったこと。SNSで妄想ミーティングの参加を呼びかけるたびに100回以上シェアされ、ミーティングにも多くの人が参加しました。

前田さん そこではじめて、みんな古墳に興味を持ってるんだなっていうことがわかって。古墳の脇にこの古民家があることに、思っていた以上の可能性があるんだなと、やってみて気づいたという感じでしたね。

古墳の墳丘に上ると奈良盆地が一望、遠くに大和三山も眺めることができます

いろんなアイデアが出るなか、最終的に決定したのが「古墳の麓に泊まる」宿泊施設でした。

ただ、古墳周辺は市街化調整区域のため法律的な制約も多く、宿にするには越えるべきハードルが数多くあることもわかってきました。関わったメンバーの中にはマーケティングのプロもいたため、1年以上かけてどんな価値観を大切にした宿にするか? ブランディングやリサーチも重ねながら、少しずつ課題を解消していきました。

前田さん 妄想ミーティングのなかで話が広がって、ガーデン担当の結城さんなど、いろんな特技を持ったプレイヤーがどんどん加わってくれるようになったんです。ちょうどコロナ禍の影響で、どんな世代の人でもオンラインで会議するのがある程度当たり前になっていたのも、よかったのかもしれません。

建物の設計をどうするかも問題でした。なるべくそのままの建物を活かして再生したいと考えていたチームメンバーでしたが、現場を見た多くの建築・設計士は「壊して新築したほうが安いし早い」という意見。法律的な縛りもあり、なかなか最適解が見つからないまま月日が流れていきます。ただ、「その頃はもう既に仲間がいたので、めげることはなかった」と前田さんは振り返ります。

前田さんが共感した、古いものを活用する参加者共創型の建築集団TEAMクラプトンの施工力

そんななか紹介されたのが、リノベーション集団のTEAMクラプトン(チームクラプトン・以下クラプトンと表記)。DIT(Do It Together)「みんなでつくろう!」が合言葉で、セルフリノベーション物件を中心に、施主や参加者を巻き込みながら、共同作業で設計施工を行っているのが特徴です。

古民家を確認しにきたクラプトンのメンバーは、今ある建物を活かした宿づくりは問題なく可能と返事をします。ただ、彼らは抱えている仕事が数多くあり、その都度現場に泊まりこんで施工をするため、古墳の現場に入れるのは、年単位で待つ必要がありました。

クラプトンが目指すのは、建物のハコづくりだけではなく、参加するすべての人が、つくるプロセスを楽しみ、結果として強いコミュニティを築いていくこと。そのコンセプトに共感した前田さんたちは、設計建築をお願いするなら彼らしかいない、と工事可能な時期まで待つことにしました。

前田さん 何を聞いても「できます」って言って、否定的な言葉を一切言われなかったんです。浄化槽も配管も、配線、駐車場や外構、通常の工務店なら範疇外のことや、どんな難しそうなことにも、すごく前のめりだったんですよ。普通は嫌がることを敢えてやろうとする。逆に「こうしたらもっとおもしろくなるのに」。面倒くさくても積極的にそれが価値になるならやろうという感じがすごいな、と思って。

TEAMクラプトンは大阪能勢・神戸・京都にべースを持ち、西日本を中心に宿泊施設や店舗、公共施設の展示まで、施主や仲間とともにものづくり活動やワークショップを行っています

 

待つ期間中は、リサーチや宿のビジョン設定などを繰り返しながら、宿づくりへの機運を高めていきました。その後、2023年10月に合同会社(のち株式会社)cofuniaを立ち上げ、2024年3月に、4ヶ月間の工期でいよいよ宿の建設にとりかかります。

100名超、多国籍で年齢層も幅広いメンバーたちが、4ヶ月間住み込みながら宿づくり

訪れたのは7月の暑い日。平日でしたが15名ほどのボランティアがそれぞれの担当持ち場で熱心に工事に携わっていました。
古墳のふもとにある宿予定地は、共同キッチンになる母屋のほか、五行陰陽の考えに基づく趣の異なる4棟の宿泊独立棟で構成されています。

大きなホワイトボードの作業表やカレンダー。TODOや進捗が細かく書かれていました

母屋の壁には設計図やデザイン画が貼られ、メンバー全員でイメージを共有します

 

全国はもとより、海外からも参加したリノベボランティア参加者は100名超。土壁を修復し、内装や電気工事も、施工資格者を交えつつみんなで行います。外壁は杉を焼いて焼き杉を作ったり、配管や断熱加工、自然に調和した排水路を作って飛石を置いて庭を整えたりと、作業内容は多岐にわたります。

リノベ参加者がケガをしないように描かれた注意事項(写真提供:cofunia)

ときには重機も使い庭の整備も。裏庭はエディブルガーデンとして整備する予定

敢えて細かい作業をみんなで行い、工事の足跡を残していきます(写真提供:cofunia)

訪れた頃は4ヶ月の工期の終盤だったこともあり、参加者それぞれが自分のやるべきことを理解し、声を掛け合いながら着々と作業を進めていたのがとても印象に残りました。

参加者を公募し、多い人数で作業をする場合、簡単な作業を少し手伝う形式を取る現場も多いなか、ここでは全員がまさに作業員。酷暑のなか、誰がクラプトンのメンバーなのか、ボランティア参加なのかわからないほどです。

作業に集中するリノベ参加者のみなさん。参加者のなかには北海道から半移住状態でシェアハウスに滞在しながら長期参加する人もいました

作業日は全員でランチを食べます。ランチ担当も交代制で20〜30人前のランチを前日から準備する力の入れよう。この日のメインはバンバンジー丼でした

クラプトンチームに加わっているイギリス人のベンは、「土の棟」のデザインに自らのアイデアを出して内装デザインを担当することに

無償で参加している多くのボランティアメンバーは、どうしてそこまで熱心に作業に向かうことができるのでしょうか?

前田さん やっぱり楽しいからなのかな。現場は本当に楽しいんですよね。クラプトンの仕切りも素晴らしくて「この子はこういう作業が得意」とか、代表の山口さんが適性を見出して担当させてどんどん上手くなっていったり。リピーターや、ご近所さんの好意もあり近くにシェアハウスを2軒確保できたので、長期間継続して来る人も多いです。

チーム内、ボランティアメンバーは、60代から20代まで、国籍問わず古墳オタクやガーデナー、内装デザイナー、家具職人、マーケター、資金調達など、いろんな専門家がいます。彼らとクラプトンメンバーが膝を交えて、どんな宿にするか? 内装や外装の素材の選択から導線まで企画会議をして決めていきました。

TEAMクラプトン代表の山口さんと前田さんで現場打ち合わせ

前田さん 「今あるものを活かそう」という発想なので、工事を進めるうちにコンセプトも変わっていくんです。建築だけでなく、建物の屋根裏から木材が出てきて、「これで机を作ろう」となったりだとか。

「こういう人がいるから、この人にやってもらおう」みたいな発想が生まれたりして、クラプトンチームとcofuniaメンバーと合作で、出来上がってきました。柔軟に変わっていくことで、この古民家も喜んでるだろうし、参加する人たちもおもしろさを感じているんだと思います。

誰かと一緒につくる充実感こそ、楽しさの源泉

過去にもさまざまな現場において施主や参加者を巻き込むDITの手法で工事を行ってきた TEAMクラプトン。建築のあれこれを、工事の素人を巻き込んでここまでやっているのは唯一無二かもしれない、と代表の山口晶(やまぐち・あきら)さんは話します。

以前はクラプトンから直接声をかけて参加者を募っていましたが、今回はcofunia関係者からの紹介や、SNSでの発信などを通じて参加者を募集する方針としたことで、従来より幅広い年齢層のさまざまな特性をもつ参加者が集まりました。

「ここまで長期に渡る大人数の現場は少ないけれど、今までの経験を活かして工夫しながら楽しくやってます」と山口さん

山口さん DITはみんなでつくろう、楽しもうっていうのがモットーですけど、「楽しむ」を深掘りすると、楽しいって別に楽(らく)って意味ではなくて、何かを誰かと一緒に共有して出来上がっていったりとか、達成するみたいな充実感のことだと思うんです。

TEAMクラプトンのコアメンバー5名と、現場単位で参加するメンバー3名。この現場でボランティアとして参加した1人はその後クラプトンに加入することになったそう!

「楽しむ」を共有するために、敢えて細かい作業をみんなで分担して担当するのも、彼らならではの手法。古民家の屋根にあった瓦をタイルのように床に並べて少しずつ全員で担当してもらうことで、工事が終わっても「ここは自分が施工した」と記憶に残り、愛着も湧いてくるというわけです。

古民家の屋根にあった古瓦を床に埋めてタイルに

母屋のキッチンにこんな風に埋め込まれた完成直前の瓦タイル。すごい!(写真提供:cofunia)

人数が多い現場だけに、リーダー役を担う人材の育成も課題でしたが、参加者の中から少しずつリーダーシップを発揮する人が現れるよう、部屋ごと・作業内容ごとに小さなチームをいくつもつくるなど、工夫を重ねて組織づくりも行っていきました。

長期リノベ参加者の石戸純さんと高岡冬萌美さん
設計会社を退職したタイミングでリノベに参加した高岡さんは「理想の環境がここにあったかも」

長期間の現場ゆえ、ちょっとした行き違いやドラマが起こることもあったそうですが、毎日のランチやおやつ時間、時には運動会と称したリクリエーションも行うなど、作業以外のコミュニケーションも積極的に取ることで、のべ1,600人もの参加者が、まるで学園祭前の準備のような、リノべ現場を楽しんでいるようでした。

古墳好きが高じて企業を早期リタイア後、別世界に飛び込んだ

もうひとりの関係者、高野琢巳(たかの・たくみ)さんは、株式会社cofunia共同代表としてプロジェクトに参画しています。高野さんは、アップル日本法人で30年ほど働き、2021年に早期リタイアした元エンジニア。奈良でつくられる日本酒にハマって奈良に通うようになり、古墳にも興味を持ちはじめました。

時間的にも余裕ができたタイミングでこのプロジェクトを知り、これはおもしろそう、と、出資を含めて参加したいと申し出ますが、なんと最初は「詐欺では?」と疑われてしまったそう。再度のアプローチでようやく新しいことにチャレンジしたいという高野さんの本気度が伝わり、コアメンバーとして加わることになりました。

高野さん自身は、「僕は宿づくりは素人だから」と、基本的には前田さんらの方針に口出しすることはありませんが、必要経費が生じれば積極的に資金を投入。工事現場にも毎日のように参加し、今後も奈良市内と東京の二拠点生活をしながらプロジェクトを支えていく予定です。

高野琢巳さん。焼杉作業の際に火粉で穴が空いてしまった帽子を誇らしげに見せてくれました!

高野さん 今の現場は大人の部活みたいな感じもします。会社員時代とは生活も出会う人もだいぶ違いますよね。別にお金のためにやってるわけではないし、単純にものができていくことと、ここで会う人がとにかくおもしろい。あと、僕はやっぱり古墳が好きだから、墳丘自体はお金を生まないのですが、ここをきれいにし続けたいんです。

宿は西山塚古墳の麓にありますが、裏手には大きな墳丘があります。ここは以前、鬱蒼とした雑木林となっていて、誰も立ち入ることができないほど荒れていました。荒れた墳丘は、イノシシなどの害獣の住処になり、周辺の農地が荒れる原因にもなります。

春に大掛かりな伐採をして、宿からも墳丘の様子が見えるように

過去5年間は農水省の補助金でメンテナンスを行ってきましたが、それが終了したため新たな資金源も必要です。古墳の保護管理に関しては、宿とは別に、ガーデナーの結城博美さんを代表にした墳丘管理団体を設立して管理運用を行う予定です。

この取り組みは、ゆくゆくは地域課題となっている耕作放棄地のメンテナンスモデルとして他の場所にも応用できるようなかたちになれば、との思いもあるそう。

cofuniaの主要メンバーのランドスケープアーキテクト、グリーンアドバイザーの結城博美さん、前田さん、高野さん。後ろに見えるのは母屋とガルバリウム鋼板製の古墳型の鬼瓦風モニュメント

アクティブに自然や歴史を楽しむ人のための宿泊施設に

cofuniaは、7月末にクラプトン主導による宿泊施設が完成したのち、勤務スタッフを集めたり、法律関係の届け出などの事務調整を行い、10月に宿泊施設のプレオープンを予定しています。

奈良の古代から現代の暮らしにつながる時の流れを感じる空間がコンセプト。 陰陽五行と五感をテーマに、木、水、土、金の4つの棟から成るバス・トイレつきの一棟貸しのお部屋と、瓦と焼杉に包まれた共用ダイニングキッチンの火の棟で構成されています。

リノベ工事前の母屋の様子。確かにだいぶボロボロです(写真提供:cofunia)


 

屋根を外し、床部分にコンクリートを打ったところ(写真提供:cofunia)

完成直前の母屋。ここは火の棟として共同キッチンとダイニングに。残置のかまどはボロボロすぎて活用できなかったものの、かまど型の造作をつくって蘇らせました

家具や照明も入れたところ。元の風情を残しながらもスタイリッシュな空間に変貌!(写真提供:cofunia)

それぞれの部屋がまったく違う趣のため、リピーターのゲストもそれぞれに滞在して楽しんでもらえるよう工夫。想定しているゲストは、知的好奇心が高いアクティブ層。リサーチを重ねるうちに想定する顧客像も変化してきました。

前田さん ここは離島や海辺ではなく、山の辺の道というハイキングコースのそば。当初想定していたのんびりリトリート的に過ごす宿よりも、もう少しいろんなことにアンテナが立っている人が、ここを拠点に歩いたり、アクティブに動くための宿のほうが合っている。高松塚古墳やキトラ古墳が陰陽五行の世界観でできているので、それをテーマに、ちょっと学びにつながるようなコンテンツをつくろう、となりました。

古墳や山の辺の道という歴史的な価値も伝えつつ、奈良の大仏や鹿など、アイコニックな奈良らしさや、宿で行うワークショップなどを組み合わせて展開することで新しいものやいろんなセンスに触れたい人に響く、ここにしかない価値を提供するライフスタイルホテルのような宿にしたいと意気込みます。

前田さんは、クラプトンに施工をお願いし、のべ1,600名超というリノべ参加メンバーみんなでつくったのは、「経費を抑えた安い宿をつくろうとしたからではない」と言います。元あるものを最大限活用し、古墳がそばにあるという価値も活かした持続可能な宿のあり方を考えた結果、クラプトンとともに共同作業を行いながら、4棟それぞれに違う個性が光るバス・トイレ付き独立一棟貸しのスタイルが出来上がっていったのです。

完成した部屋の写真もいくつかご紹介。

複数人で楽しめる、古材をふんだんに用いた山小屋のような空間が特徴の「木の棟」(写真提供:cofunia)

地下の洞窟の間で冬を過ごし、光さす地上へと上がる造作の「土の棟」(写真提供:cofunia)

それぞれが独立してデザインされた部屋と、共同で使えるシェアキッチンのようなダイニング空間。しっかり確保されたプライバシーと、ゆるやかな仲間づくりが起こり得るゲストハウスのような共有スペースが共存することで、従来の日本の宿カテゴリーとは一線を画するユニークな空間になりそうです。

また、DIYボランティア仲間との関係性も継続し、料理や染色など特技を活かしたワークショップを定期的に行うなど、積極的に関わりを持ち続けていくそう。すでにDIY以外にも、部活動形式で体験型コンテンツづくりを進めており、周辺を歩きながら地図をつくるまち歩き部や墳丘に食べられるお庭をつくるガーデン部などの活動も行っています。

近隣の柿の木から葉を採取して奈良名物の「柿の葉寿司」に(写真提供:cofunia)

野草をふんだんにつかった手作り野草ランチのワークショップも(写真提供:cofunia)

 

いろんな人を巻き込んで場をつくっていく秘訣とは?

これまでのプロジェクトを振り返って、「想定していたより大きな動きになった」という前田さん。多くの人を巻き込んで、自分のやりたいことや理想像を貫きながら活動を進めていく秘訣はあるのでしょうか?

前田さん 自分が生きるための生活手段は、自分で考える必要があると思うんです。日本では、多くの人が「会社員になって右へならえみたいな生活をするのが正しい」という教育を受けているので、それ以外の選択肢ってなかなか自分から生まれない。耕して種を撒かないと果実は実らないのに、みんなもう実っているところに行こうとする。いい大学や会社、誰かの実績に乗っかって生きようとしていて、それがちょっと違うよなというのは、ずっと思っていて。

前田さんは、植物利用や保存食の知恵を学ぶ伝統農法と民族植物の研究家でもあります。訪日観光の旅行会社を経て独立し、コロナ禍にアトリエを兼ねた民泊施設「里山文化」をつくり、古墳をもらう流れにつながっていきました。

自分の「好き」の中にあるビジネスの種を見極め、少しずつ実になるよう、行動につなげていくことに、在りたい未来像に近づく新しい展開が生まれる秘訣がありそうです。

前田さん 今回、古墳というキーワードがキャッチーだったというのはありますが、ほんとうに何もない状態から、旗を立てたら人もお金もアイデアも集まってくるのを見てきました。だから、なんでも始めてしまえば、かたちはできていくんだなというのは、このプロセスで学んだと思います。

たぶん、宿もこれから先の未来へのきっかけのひとつかもしれない。小さな妄想ミーティングがこんな流れになっていったように、今後、別の想像つかないようなこととコラボすることがあったりするとおもしろいんじゃないかな。

前田さんが教えてくれた多くの人を巻き込んでプロジェクトを進めるおまけのTIPSは「ものごとを本気でおもしろがること」

そう言って、飄々とした表情で言葉を紡いだ前田さんですが、足掛け4年、のべ1,600人以上を巻き込む大きなプロジェクトを継続して進めるためには、本気で楽しくおもしろがるだけでなく、やはり綿密な計算や計画も必要です。

前田さんには、古民家の大掃除や妄想ミーティングを何度も行い、お金をかけずに「関わりしろ」を増やしていくファンづくりを粛々と進め、仲間を見つけて会社を興す実行力、多くの設計士や建築会社と会い、いったん計画が頓挫するようなことがあっても諦めず、古いものを活かして新たな価値とする施工会社・TEAMクラプトンと出会うまで待つ胆力の強さもあります。

また、前田さんや古墳の引力に惹きつけられた参加者のそれぞれが、このプロジェクトの中に居心地のよい自分の場所を見つけて、物語をつくれる余白があったことも特筆すべき秘訣のひとつかもしれません。取材中、「この場所で人生が変わりそう」という参加メンバーに複数出会ったことも、強く印象に残りました。

いずれ、ガーデナーの結城さんを中心に、ここから新しいコモンズ(共有資源を共同管理する仕組み)のような組織体制をつくる計画も進んでいるとも話す前田さん。大人の本気の遊びと楽しさが詰まったcofuniaの未来に、目が離せません。

– INFORMATION –

宿は10月1日にプレオープン
9月末まで古墳の保全や更なる施設充実のためのクラウドファンディングを実施中!
特別価格にて早期予約ができるほか、奈良の特産品のリターンもあります。

日本初・古墳の麓で宿がスタート!悠久・奈良の地で、五感×五行を楽しむ旅を

cofunia(コフニア)
奈良県天理市萱生町1021

(編集:東善仁)