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「わたし」と「炭素」の存在を見つめなおそう。映画『KISS THE GROUND』が教えてくれる、リジェネラティブ農業がしめす未来

更新しつづける最高気温。
山火事による街の消失。
日々、目にする豪雨や台風のニュース。

気候は確実に変わってきている。でも、もしかしたらもう、気候変動を止めることはできないのかもしれない。ふと、こういった「諦め」の感情を抱いてしまったことがあるのは、私だけでしょうか。

実際のところ、二酸化炭素の排出量を減らすだけでは、もはや気候変動を止めることはできません。なぜなら、産業革命が起きた1750年以降から今まで、およそ8,800億トンもの二酸化炭素が放出され、大気中の二酸化炭素がおよそ1.5倍も濃く(※)なっているから。
※国土交通省HP 温室効果ガス世界資料センター(WDCGG)調べ

では、大気中にある二酸化炭素を劇的に減らす、夢のような解決策があるとしたら?

今回ご紹介するのは、「リジェネラティブ(再生)農業」こそが気候を安定させる唯一の解決策かもしれない、と提唱する映画『KISS THE GROUND(大地が救う地球の未来)』です。

土が炭素を吸収し、蓄える

この映画で紹介される解決策は、いたってシンプル。

地球をあるべき姿に戻すこと。つまり、人間が工業化をすすめる以前の大気を再現すること。そして、それは放牧や”ある農業”の技術によって簡単に実現する、というのです。

そのメカニズムを紐解いていきましょう。

人間、動植物、微生物などの有機物は、炭素をたくさん含んでいます。

植物は光合成によって、空気中の二酸化炭素を吸収して土に栄養を送ります。そして、その栄養をもとに土の中の微生物はさらに土をつくり、その結果、ミミズや虫、葉っぱや草木が増えます。

これは、「土が草木を通して炭素を受け取り、貯蔵している」ということ。最近の研究によって、放牧や自然農によって育った土壌やコンポストは、吸収した炭素を何世紀もの間、留めておくことができる、ということが明らかになりつつあるのです。

地球上の土が蓄えることができる炭素の量は、なんと、およそ4兆トン。これは、今まで人類が排出してきた量の4倍を上回る量です。映画では、放牧や不耕起栽培を増やすことで、大気中の二酸化炭素の量は劇的に減っていく、というシミュレーション結果も紹介しています。

地球にも優しいリジェネラティブ農業は人間にも良い

このシミュレーションに必要不可欠とされているのが、リジェネラティブ農業(再生農業)です。

リジェネラティブ農業では、まず、耕すことをしません。そして、ミントなどのハーブやリンゴの木といった多年生植物で土を覆います。

さらに、農薬を使わず、肥料は有機肥料のみを使い、家畜などを放牧しながら、農園自体がひとつの生態系となることを目指します。

カリフォルニアの「Be love Farm」が掲げるリジェネラティブ農業の「オークサヴァンナ・モデル」。多様な生き物により、炭素は土壌に蓄えられる

リジェネラティブ農業では、牛などの家畜も大切な炭素循環の一員です。家畜が草を食べるとその根っこや草、糞が土となり、家畜が移動することで種が踏みつけられて草が根付くからです。

さらに、この農法では、殺虫剤・農薬・遺伝子組み換え生物・合成化学物質の量が劇的に減ります。地球を癒すこの農法は、私たち人間や動植物の健康にも良い農法なのです。

自分の存在を肯定して、生き方を耕そう

『KISS THE GROUND』には、個人レベルから国レベルまで、土壌の再生を実践しているプロジェクトがたくさん紹介されています。

農薬を買うお金がなくてリジェネラティブ農業にたどりつき、大きな収益を出している牧場主さん。

40種類のフルーツと植物を育てているシンガーソングライター。

アメリカ全土でリジェネラティブ農業者を5%から25%まで増やそうとしている公務員。

中国で、ベルギーの国土と同じ面積の土地を14年間かけて砂漠化から再生した大規模プロジェクト。

実践者たちの言葉には希望が溢れています。諦めている人はひとりもいません。

政府が動かないなら、市民が手本を見せるしかない。一人の考えが変われば、また別の人の考えが変わる。私たちもそう。考えが変わり、生活が変わったのだから。

再生させるのか? 劣化させるのか? 地球の未来のために私たちは決断しなくてはいけない。何を食べて、どんな農業を支えるのか。

わたしは農家でも牧場主でもありません。ですが、何を応援し、どこへ進むかは自分で決めることができます。一度立ち止まり、本当に必要なものはなにかを考えよう。そういった思いが、映画を見終わった後、わたしの心に強く残りました。

メタンガス、穀物の大量消費とかで、牛は環境に悪いって言うでしょ。でも、牛が悪いんじゃないんだよ。その牛をどう育てるかが問題なだけ。

炭素を撲滅しようという流れがあるけど、すごくもったいないよ。炭素は悪者じゃない。炭素はほんとはいいやつだよ。私たちだって炭素でできているのだから。

環境を破壊してきたわたしたち人間。でも、存在自体が悪いわけではない。彼らの言葉に、自分の存在を肯定してもらえた気がします。

発明や開発を通して、ここまで工業化してきた私たちだからこそ、今度は、この地球を再生することも、きっとできるはず。

greenz.jp のタグライン「生きる、を耕す。」のように、これからは、私たちひとりひとりが自分の生き方を耕し、豊かな土壌を育てていく番なのではないでしょうか。

[via Netflix「KISS THE GROUND」, Instagram「KISS THE GROUND」, YouTube「KISS THE GROUND」, 国土交通省HP]

(編集:スズキコウタ、greenz challengers community)

– INFORMATION –

『KISS THE GROUND(大地が救う地球の未来)』

監督:ジョシュ・ティッケル、 レベッカ・ハレル
製作総指揮: ニコール・シャナハン、 イアン・サマーホルダー、 他
プロデューサー:ジョシュ・ティッケル、 レベッカ・ハレル、 他
配給:Netflix
ナレーション:ウディ・ハレルソン
https://www.netflix.com/title/81321999