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オレはシャベルで革命を起こす。ロサンゼルス発、食の砂漠をゲリラ畑へと美しく再生した“ギャングスタ”

みなさんは、「ギャングスタ」といったらどんな人を思い浮かべますか?

ストリートギャングのメンバー?
違法なことに手を染める危険人物?

あるいは、暴力的な日常をテーマにした「ギャングスタ・ラップ」という音楽のジャンルがあったり、「タフ」「男らしさ」という意味合いで使われることもあるそう。

農具を持ったこの男性は、自らを「ギャングスタ・ガーデナー」と呼び、地域で革命を起こしている、Ron Finley(ロン・フィンリー、以下ロン)さん。

治安の悪いことで知られるアメリカ・ロサンゼルスのサウス・セントラル地区で、「なんでもいいから植えろ!(Plant some shit!)」を合言葉に、10年以上前から、ゲリラ的に街の中に菜園をつくり、食べられる作物を植える活動に取り組んでいます。

そのきっかけは、近所で新鮮なトマトが手に入らなかったこと。

ロンさん 農薬が染み込んでない野菜を買うために、車で往復45分もかけないといけない。他の地域まで足を延ばしたら、売られているモノの格差にがく然としたよ。

それに街を見渡すと、車いすが中古車のように売り買いされ、透析センターがスターバックスのようにあちこちにある状況にうんざりだった。肥満率は15キロほどしか離れていないビバリーヒルズと比べて5倍にもなるんだ。

アメリカでは、貧困地域を中心に、野菜や果物といった生鮮食品へのアクセスが限られる「食の砂漠(フードデザート)」が深刻な社会問題になっています。

ロンさんの暮らす地域も、ファストフード店や酒屋が立ち並び、ジャンクフードは手に入れやすい一方、栄養のあるヘルシーな食べものが手に入りにくく、肥満や高血圧などの生活習慣病が急増。車上からの銃撃を意味する“ドライブバイ”による犠牲者が多い地域にもかかわらず、「(ファストフードなどの)“ドライブスルー”による死亡率が、“ドライブバイ”を上回っている」と話します。

ヘルシーな食べものを手に入れる自由を!

「諦めて受け入れるのではなく、現実を変えたかった」と話すロンさんは、まず自宅前の道路脇のスペースで野菜を育てようと、捨てられているゴミを片付け、雑草を刈り取ることから始めます。

長さ45メートル、幅3メートルほどの細長い土地は市の所有物でしたが、管理は市民に任されていたため、「管理が自分たちの責任ならやりたいようにやろう!」と考えました。

そこに、あらゆる食べられるものを植え、仲間たちにボランティアで手伝ってもらいながら、できた作物は誰でも自由に食べていい「食の森」づくりに取り組みます。

via TED Blog (Photo by Nick Weinberg)

ところが、ほどなくして、市当局から、無許可でガーデニングをしていると令状が届きます。

ロンさん ゴミがポイ捨てされ、ほったらかしになっていたちっぽけな土地に野菜を植えたら令状!? 「上等だ、かかってこい!」と思ったよ(笑)

オレたちは、ヘルシーな食材が手に入らないからやっているし、あまりにポジティブな結果を生んでいて、どう考えても辞めるべきじゃなかった。

自分たちが諦めるのではなく、法令を変えた

命じられたのは、育てた植物をすべて無くして元に戻すか、400ドルを払って許可証を得るか、というもの。たとえ許可証を得たとしても、ガイドラインに沿った植物しか植えることができないため、彼は闘うことを決意します。

この活動を、L.A.タイムズ紙の記者が聞きつけて記事にし、賛同した議員や仲間のアクティビストたちも加わって、嘆願書を提出。900人の署名も集まりました。

こうした声が届き、条例は改正されることに。新条例では、この地域の道路脇の土地などに菜園をつくる際、許可が不要になりました。

ロンさん 当然のことだと思ったよ。ロサンゼルスは全米一多くの空き地を抱えていて、7億2,500万株のトマトの苗が十分植えられるだけのスペースがあるのに、これをいかせないなんて納得できない。

ロンさんは、仲間たちとともに、放置された空き地や車道の中央分離帯、歩道の脇、ホームレスのシェルターなどに菜園をつくり、作物を植え続けました。

ロンさん 夜中に母娘が申し訳なさそうに野菜を獲りにきているのに出くわして、「コソコソしなくていいよ。そのために路上につくったんだから」と声をかけたこともあった。必要としてくれる人たちを目の当たりにして、さらにやる気が出たよ。

「作物を盗まれないの?」と心配する人もいるけど、それが本来の目的。みんなに健康を取り戻してもらいたいんだ。

肝心なのは、いかにカッコ良くやるか

ロンさん自身も、さらに3人の息子たちも生まれ育ったこの地域は、思い入れの強い大切な場所。過去にはファッションデザイナーとして活動していたロンさんにとって、ガーデニングは表現の場でもあり、菜園づくりでは、土地をキャンバスと見立て、美しく飾ることを意識しています。

ロンさん オレはアーティストで、ガーデニングは自分にとってグラフィティ(落書きアート)のようなもの。ヒマワリの花の美しさが地域の人々の心にどれほど影響を与えるか、想像してみてくれ。

肝心なのはいかにカッコよく、セクシーにやるか。
アートは菜園の重要な要素で、たくさんの人の支持を得るには美しさが必要なんだ。

自宅裏の廃プールも菜園として地元住民に開放。かつて50メートルプールがあった場所で、雨水や堆肥を利用し、アボカド、バナナ、マンゴー、サトウキビ、アーティチョーク、ブロッコリーなどを育てている via © Ron Finley Project

実際、菜園を見るためにわざわざ遠方から散歩に来る人たちもいて、植物の匂いや色の違い、景観を楽しんでいるといいます。夏には、菜園周りの気温が少し低いことに気づいて、人々は帰りたがらないそう。

食べものだけの問題ではない。コミュニティのための革命

彼の取り組みは、コミュニティを変えていきます。菜園は、子どもたちの教育の場となり、地域を変化させるツールとなっていきました。

木から落ちたてのオレンジをほおばる子どもたち。「ケールを育てた子どもはケールを食べるようになるし、トマトを育てた子どもはトマトを食べるようになる」とロンさん via © Ron Finley Project

ロンさん 菜園をつくるのに土壌から変えないといけないように、コミュニティを変えるには、一人ひとりが変わらないといけない。一緒に土を耕すことで、人間も成長できる。

もし子どもたちにヘルシーな野菜や果物が与えられず、食べものが心身にあたえる影響について誰も教えなかったら、彼らは何の疑いもなく目の前にあるジャンクフードばかりを口にするだろう。

若者は仕事をしたがっているけど、有色人種の子どもたちは選択肢がなく、現状から抜け出せずにいる。ガーデニングはそういう若者にとっても、コミュニティを受け継ぎ、健全な生活をつづけていくためのトレーニングの場になっているんだ。

2012年には、非営利団体「ロン・フィンリー・プロジェクト」を立ち上げ、地元の子どもたちや家族にガーデニングに親しんでもらおうと、年間を通じてさまざまな無料イベントを開催している via © Ron Finley Project

さらに、「ガーデニングは、都会でできる、もっとも癒し効果があり、かつ挑戦的な行為」だと話します。

ロンさん アーバン・ガーデニングは、さまざまな方法でリデザイン(再構築)の助けになる。食べものの問題だけでなく、そこに暮らす人々の生活を変え、コミュニティを育てることにもつながっている。

近隣の生物多様性を変化させ、花粉媒介者を呼び込み、ミツバチが増え、チョウが増え、ハチドリが増える。自分たちも生態系の一部。

菜園はオレたちを変えるし、さらに、玄関を出て毎日自然に触れられるという癒しの要素も生まれるんだ。

“紙幣”を植えて野菜を育てるキャンペーン

彼が2013年に行ったTEDでのスピーチは500万回近く再生され、そのパワフルなメッセージは、世界中に衝撃を与えました。これをきっかけに、都市圏で公共スペースを活用して作物の栽培を行う「アーバン・ガーデニング」の活動家としてその名をさらに知られることになり、現在は、学校など各地で講演や指導を行い、活動の場を広げています。

ロンさんが常々伝えているのは、「自分で食べものを育てることは、自分で紙幣を刷るのと同じ」というメッセージ。2022年には、その言葉どおりに、「紙幣を植えよう(Plant Some Money)」キャンペーンを実施しました。これは、ヘルシーな食料へのアクセスが限られるアメリカ国内の2,000万人以上に向けて、自分たちで新鮮なオーガニック野菜を栽培できるよう、野菜の種の付いた“紙幣”を配布するというもの。

実際の米国1ドル紙幣と同じような仕様でつくられた“紙幣”。種とともに、ミニトマト150ドル、ルッコラ25ドルなど種から育てられる収穫物の合計金額が記されている via © Ron Finley Project

アメリカで「食の砂漠」に住む人々が、ヘルシーな野菜を手に入れるための平均的な移動距離は“3マイル(約3.6キロ)”といわれています。ロンさんは、実際に数十名の支援者とともに3マイルを行進し、“紙幣”を埋めるパフォーマンスも行いました。

この日の様子をとらえたプロモーション映像は、2023年のカンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルでブロンズライオン賞を受賞 via Word in Black Photo courtesy of BBDO

テネシー州の幼稚園に務めるHailey Wolfe(ヘイリー・ウルフ、以下ヘイリー)さんも、ロンさんにインスピレーションを受け、子どもたちに彼のガーデニングキットを配布した一人。

ヘイリーさん 私は子どもたちに、「食べるお菓子を2袋ではなく1袋にして」と言うことしかできませんでした。しかし、ロンの活動を学び始めると、子どもたちはルッコラ、トマト、ケールを育てることに興奮し、親たちは野菜や果物のレシピをほしがるようになりました。

彼から学んだことは、本職のガーデナーになる必要はないということ。コミュニティと自分のために、ただ栄養のある食べものを手に入れることに集中すればいいのです。

学校での活動の様子 via © Dripping Springs Ollas

シャベルを武器に、本当の価値を見つける反骨精神を

ロンさん 自分たちで食べものを育てることで得られる自由、力がある。だから、すべての人が自分自身を養う方法や食べものについての知識を持つべきなんだ。

ダイヤモンドは食べられないだろ?
土にこそゴールドのような価値があることを理解して、人々の欲を種に変えなければいけない。

子どもたちには「何を買ったかでキミの価値は変わらない。キミは特別な存在で、居るだけで本質的な価値がある」と伝えたい。子どもたち自身に力があり、発言権があり、自分の人生の大部分は、自分でデザインできると知ってほしいんだ。

オンライン講座「マスタークラス」でガーデニングの講座も担当 via © MasterClass

ヘルシーで栄養のある食べものが手に入らない現実。
そこに甘んじることなく、シャベルを武器に、自らデザインを変え、ときに権力に抗い、選択肢を勝ち取る闘いに挑んできたロンさんの革命。

自らを「ギャングスタ」と呼ぶのは、その反骨精神から?

「ギャングスタの在り方をひっくり返したい」と話す彼にとって「ギャングスタ」とは、クールで革新的、革命的、そして最先端ということ。
ロンさんはこう呼びかけています。

ロンさん ガーデナーでないヤツはギャングスタにはなれない。武器はシャベル。共に革命家、ギャングスタ・ガーデナーになろう。そして何かつまらないものでも植えようぜ!

via © Los Angeles Times (Photo by Mel Melcon Los Angeles Times)

(編集: greenz challengers community)

[via Ron Finley Project, Civil Eats,Los Angeles Times, The Guardian,TED Blog]
[Top Photo:via © Ron Finley Project]