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人生における一つの安心でありたい。「合同会社なんかしたい」が京都の長屋7軒で塾・学童を通じてめざす“幸せだな〜と思える人が一人でも多い社会”とは

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あなたは「幸せだな〜」と思う瞬間はありますか?

World Happiness Report(世界幸福度報告書)2023」によれば、日本の幸福度ランキングは137カ国中47位でした。また、厚生労働省のまとめによると、日本の2019年の自殺率は先進国でトップ。これらの数字からは、日本の人びとがいろいろなものを抱えながら生きていることがわかります。

今回お話を伺った合同会社なんかしたいは、京都市・西院の長屋7軒をリノベーションし、学習塾・学童保育を運営しています。長屋の横並びには、子どもたちが自由に過ごせる秘密基地や、保護者や地域の人が立ち寄れるカフェスペースも。休日は親子で参加できるイベントが企画されるなど、一般的な「塾」や「学童」のイメージとは異なります。

「なんかしたい」が目指すのは「幸せだな〜と思える人が一人でも多い社会」。学習塾と学童保育を入り口に、訪れる人がさまざまな価値観と出会える場をつくる理由と、そこから生まれる可能性について代表の清水大樹(しみず・だいき)さんと、企画/クリエイティブの村木勇介(むらき・ゆうすけ)さんにお話を伺いました。

清水大樹(しみず・だいき)〈写真左〉
合同会社なんかしたい代表。2012年、大学卒業時に京都・西院の長屋で個別指導塾マナビノバさいいん教室を開校し、2018年学童保育あそびのば開校。2019年合同会社なんかしたいを創業、塾名を「まなびのさき」に変更する。現在は長屋の横並びの7軒をリノベーションして事業を行う。
村木勇介(むらき・ゆうすけ)〈写真右〉
合同会社なんかしたい企画/クリエイティブ。大学生のとき、清水さんが大学生向けに主催していたイベントに参加したのがきっかけで、他社で新卒から5年間の勤務を経て、現在は社員として勤務。大学生を対象にしたイベントの運営や、同志社中学生が取り組む自由研究をプロデザイナーとともにリデザインし発信するマガジン「KAPONO」の製作などを行う。

長屋の中をのぞいてみよう!

横並び7軒の長屋ではそれぞれ、どんな事業を展開しているのでしょうか。

12年前、手前の長屋1軒からスタートし、今では横並び7軒に拡張

反対側から見た様子。青い扉の棟が学童保育「あそびのば」。この裏側にも長屋が続きます

まずは、学習塾や学童保育。子どもや保護者と出会うきっかけとなる、いわば“入り口”の事業です。大学生が講師やスタッフとして子どもたちに接しています。

個別指導塾「まなびのさき」

授業の最初5分間は、大学生スタッフがスピーチします(写真提供:なんかしたい)

小・中・高校生を対象にするまなびのさきは、先生1人につき生徒2人までの個別指導塾。1コマ70分の授業内に10分間雑談の時間を設ける授業設計が特徴的で、生徒は大学生の先生のスピーチを聞き、自分の話をします。対話を通して互いの関係性を築き、多感な時期の生徒が“学習に集中できない理由”を取り除いて、しっかりと勉強に伴走することを大切にしています。

学童保育「あそびのば」

(写真提供:なんかしたい)

学童保育あそびのばは、厚生労働省が定める基準の倍のスタッフを配置。子どもとコミュニケーションをとりやすい環境です。学習塾が運営しているので、学校の宿題だけでなく、子どもの興味に合わせた教材を準備できるのも特徴の一つ。まち歩きや理科実験などの体験学習、子どもたちが企画・実践する「わくわくチャレンジday」など、楽しみながら学ぶ機会をつくっています。

大学生スタッフが集まる部屋は、生徒がその日の教室を確認する、授業前の受付のような役割もしています

そして長屋の並びには、塾や学童から派生した、子どもや大学生、地域の人たちのためのスペースがあります。

秘密基地「agora」

授業や自習時間の前後に休憩したり、友達と話したりできるリラックスルーム。子どもたちの秘密基地のような部屋です。大学生のコミュニティスペースとしてスタートし、現在は塾の生徒や大学生がくつろぐ場所として活用しています。

今後は2階もリノベーション予定。ますます秘密基地感が増しそうです

「まなあそカフェ」

(写真提供:なんかしたい)

保護者や卒業生、地域の人たちとお酒を飲みながら話せる「まなあそカフェ」は、2024年7月の正式オープンに向けてプレオープン中。車椅子でも通りやすいよう、通路幅を広げ段差をなくしました。定期テスト期間中は、生徒や保護者に無料でごはんを提供しています。スポーツのパブリックビューイング、保護者のワーキングスペース、塾終了後に開く「よるカフェスナック」など、地域の人たちが来やすい場づくりを進めています。

カウンター奥の壁面には、生徒や卒業生、保護者と一緒に書いた「やりたいこと」が。取材に伺ったのは生徒がいない時間帯でしたが、日常的にたくさんの人が集う空気を感じました

この場所で塾を始めて12年目。保護者や生徒からは「ここは塾って感じじゃない」「自分のことをちゃんと見てくれるから通っている」と言われることもあるそう。一般的な「塾」の枠にはまらない、これらの場所はどうやって生まれたのでしょう。はじまりは、清水さんが大学生のときに遡ります。

死にたいって思っている人が減ったらいいな

清水さんは兵庫県の限界集落出身。近所とのつながりが濃い地域で育ち、大学進学を機に京都に来ました。その頃の夢は、公認会計士か銀行マンになり、お金を稼いで幸せな家庭をつくること。「売れる営業マンになるには“世間話力”と多様な価値観がいる」と考えた清水さんは、大学3年生のときにヒッチハイクで日本一周の旅に出ます。旅先でいろいろな人と出会うなか、人生の転機となる出来事がありました。それが、あるおじさんに言われた「次の世代たのむな」という一言。

清水さん その言葉が一晩中頭から離れませんでした。田舎では日常的に感じていた社会と自分のつながりは、都会に来てから薄れていました。そんな自分が社会で何をしたいのか、急に突きつけられ「死にたいと思っている人が減ったらいいな」と思ったんです。

振り返れば、僕は小学校4年生くらいから「24時間相談所」と銘打って友人の悩みをたくさん聞いてきました。大学生になってからも、就職や将来のことで悩んでいる友人が周りにたくさんいて。自死を選んだ人や、リストカットをしていた人も身近にいたんです。僕は基本、臆病で心配性で、目の前の人が何を考えているか、ということばかり考えてきた。そんな経緯もあって、みんなが「死にたい」ではなく「楽しい」と思って生きていけたらいいなって。そのためには、ちょっとした出会いやきっかけがあるかどうかだ、と思ったんです。

その後、京都に帰ってきた清水さんが始めたのは、大学生同士がつながる場づくりでした。つくろうとしたのは、損得勘定抜きに人が集まれて、多様な価値観に触れられる場所。事業性はなく、弟にお金を借りてまで、友人とともに多くの勉強会やワークショップを開催したそうです。やがて自分が生きていくための仕事の必要性を感じ始めた清水さんは、大学4年生のとき、縁あって出会った社会人の仲間とともに創業。大学生の居場所と学習塾を同じ場所でつくっていくことにしました。

「価値観はいっぱいある」を学べる塾

清水さんが当時住んでいた京都市・西院はもともと塾が多いエリアで、地域のニーズを感じたといいます。安く借りられる物件を探し、出会ったのが今の長屋でした。そして、2012年3月に個別指導塾「マナビノバ」がスタートしました。

「マナビノバ」時代の塾の様子。教室の奥で生徒が勉強し、手前では大学生がワークショップをしています。関西圏の学生の間で「大学生が対話を重ねる居場所」として広く知られていました(写真提供:なんかしたい)

小中高生が大学生スタッフから個別指導をうける隣で、大学生が勉強会をしたりワークショップで思いを語り合ったりする塾。勉強していると「社会のこと」「研究している学問のこと」「人生のこと」など、答えのない問いについてディスカッションする声が聞こえてきます。日常的に通う塾で、生徒は、大学生の先生たちも悩みながら生きていること、答えは人の数だけあることを自然に感じられます。

清水さん 「大人も悩みながらやっている。先生も正解ではない。価値観はいっぱいある」ことを染みつけたいんです。授業では10分間雑談の時間を設け、大学生と生徒が対話をするのですが、大学生スタッフには生徒に価値観を押しつけず、自分を主語にして自分にしかできない話をしてもらっています。

大学生スタッフにとって、生徒の状況を知ることは授業の質を高めることにつながるといいます。部活のこと、家で親に怒られたこと…心のモヤモヤを取り除くことも大切な仕事。雑談の時間をもつことは、結果的に勉強への集中力を高めているそう。

塾は口コミで生徒数が増え、長屋の横並びに教室を増設。2018年4月には「学童保育あそびのば」をスタートします。そして2019年1月、清水さんは「合同会社なんかしたい」として独立し、塾名を「まなびのさき」に変更しました。このとき、事業の目的をこれまでの「大学生のための居場所」から、「教育事業を通じて大学生も一緒にこの場所をつくり、子ども・保護者・地域にとって良いものをつくっていく」という方向に転換しました。

正社員のスタッフは、大学生の居場所に来てくれていた大学生が多く、村木さんもその中の一人です

何かあったとき、すでに相談できている状態を

長屋1軒から始まり、現在は7軒へと展開していますが、当初から計画していたわけではないそう。

清水さん 教室が手狭になったタイミングで大家さんが「部屋が空いたよ〜」と声をかけてくれて、必要な場所をつくっていく。その繰り返しです。

保護者や地域の人たちとの会話で悩みや困りごとを聞いては、必要なものを形にしてきたといいます。学童保育を始めたのも「小学校低学年の子どもたちの放課後の居場所を探している」という保護者の声があったから。来年7月に正式オープンする「まなあそカフェ」は、“新しい居場所”の必要性を感じたことから生まれたそう。

カフェのテーブルには学童に通う子どもたちがつくった梅シロップが並んでいます

清水さん ここを、子ども・保護者さん・地域の方々にとって、一つの安心できる場所にしていきたいんです。子どもたちがお腹を空かせたときに、家庭環境に関係なく安くて栄養があるものを食べられるようにしたいとずっと思っていました。それに、お酒を飲みながら喋れる場所があれば、保護者の方も子育ての悩みを話せます。卒業生がいつでもふらっと寄れる場所にもなるし、ご近所の一人暮らしの高齢者の方もここで一緒に食べたらいいやん、と思って。

定期テスト期間中の「塾飯」。お出汁や漬物は京都のものを使います。「8年前からやりたかったことが、やっとできた」と清水さん(写真提供:なんかしたい)

また月に1回、子どもたちと家族がまちをフィールドに新たな体験をする「まなあそ縁日」を開催しています。それらの企画を担っているのが、村木さんです。

村木さん まなあそ縁日では、ハイキングやバーベキュー、京都のバスケットリーグ観戦や、京都市の行政の方とまちづくりワークショップなどをしてきました。興味は人によって違うので、企画内容も多様にしています。縁日の機会だから話せることもあって、イベントの後は親御さんの表情や雰囲気が変わるんです。

まなあそ縁日の様子。写真は、畑での収穫体験中にミミズを見つけた時の一コマ。教室を飛び出したからこそ見れる表情!(写真提供:なんかしたい)

ゲストに京都市の職員を招いたイベントでは、まなあそカフェでまちについて学んだあと、公園をよくするアイデア提案のワークショップをしました(写真提供:なんかしたい)

まなあそカフェや縁日を通して、保護者同士の関係性も生まれています(写真提供:なんかしたい)

清水さん 接点を増やし関係性をつくり、なにかあったときには“すでに相談できている”という状況を地域の中につくるのが大事だと思っているんです。そういう意味で、塾と学童は、一般家庭との接点をつくるのにすごく適している。悩みがあるから行く場所じゃない、気づいたときにはもう出会っていて、相談できる。

「幸せに暮らしている人を増やす」「死にたいと思うことがあっても、思い続けないようにする地域をつくる」ということを考えたとき、日常のつながりを増やす手段が縁日やカフェだと思っています。

人生の中で一つの“安心”になりたい

地域の人には「ここにいたら少子化なんて嘘みたい」「賑やかになってよかった」と声をかけられ、カフェでのイベントをのぞきにくることもあるとか。「地域に迎え入れていただきありがとうございます、という気持ちはずっとあります」と清水さん。

来年7月の正式オープンへ向け、この場所に関わる人たちが社会とさらにつながりやすい場にパワーアップするため、4月にはかつて塾でアルバイトをしていた大学生スタッフ2名が、社会人経験を経て社員として戻ってくるそう。自身も学生時代から関わる村木さんは「保護者さんとも“一人の人”としてつながれる環境がやりがいです」と語ります。

また、塾や学童の生徒たちとの関係は卒業後も続き、進学・就職・結婚など節目のタイミングで会いに来てくれることも多いといいます。

ここで過ごした時間は、元生徒や大学生スタッフにとってどんな時間となり、未来にどう影響していくのでしょう? 清水さんに伺うと、少し考えたのち、はっきりとした声で話してくれました。

清水さん 「自分は自分の人生を進んでいったらいい」と思っていてほしいのと、何かあったときに相談に行こうって思ってほしい。そんな場所は、人生の中で一つの“安心”になると思うので。でもまあ、その人自身が楽しく生きられたらいいなって。ほんとにそれだけです。

取材に伺ったのは、塾終了後に「よるカフェスナック」が開催される日。「今夜、12年前に塾をはじめたときの生徒とお母さんが来てくれるんです」と嬉しそうな表情で話してくれました

長屋で事業を展開してきた清水さんですが、これからやっていきたいことはあるのでしょうか。そう尋ねると、今度はすぐに「今パッと思い浮かんだので5個あります」と返ってきました。

その5点が、こちら。

⒈ 今以上に地域の関係づくりを活発にし、子ども・保護者・地域のみなさんがもっと来やすい場所にしたい
⒉「まなあそ縁日」を通して商店や企業と一般家庭のつながりを生みたい
⒊ 京都に住む子どもたちとまちの関わりを増やし、市政と家庭を近くしていきたい
⒋ 西院以外にも、塾と学童を拠点にした“顔が見える地域”をつくりたい
⒌ スタッフたちが健康的に幸せに働ける環境を整えていきたい

清水さん ぼくたちは「あなたとセカイをチカクする」をミッションにしているんですが、ここを訪れた方と、社会のあらゆるものとの距離が近くなればいいなと思うんです。学びや体験を通して、セカイのヒト・モノ・コト・バと自分の関係性が感じられれば、生きていく中での楽しみが増えるかもしれない。

「5個! 多いなあ」という村木さんとの息のあったやりとりも

誰にでも、困っているときに相談できず、世界でひとりぼっちになったような孤独を感じることや、不安に潰されそうなことがあるかもしれません。そんなとき、行ける場所があって、話せる人がいれば、それだけで心が軽くなり、前を向けるように思います。

だけど、そのような関係は一朝一夕には築けないもの。だからこそ「なんかしたい」のように、日常の中で接点を増やし、「先生と生徒・保護者」という壁を取り払い、人と人として関係を築くことの必要性を感じました。

人生には、よい時も、そうでない時もあるけれど、どんなときも自分の人生を、今ある命を、楽しみながら歩めますように。そして、誰にとっても安心できる場所が一つでもありますように。

(撮影:山下雄登)
(編集:村崎恭子)

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