一人ひとりの暮らしから社会を変える仲間「greenz people」募集中!→

greenz people ロゴ

エネルギー問題を体感する、社会課題×コンテンポラリーダンスという実験。映画『Dance with the Issue』から生まれる未来に向けた対話

みなさんは、エネルギー問題と聞くと、どんなことをイメージしますか?

気候変動、高騰する電気代、再生可能エネルギーの導入や原子力問題、さらに、エネルギーに関わる既得権益のイメージや渦巻く感情など。身近な問題であるはずなのに、考えたり議論したりしようとすると、複雑さやわかりやすい答えの無さに、思考停止に陥ってしまう感覚はないでしょうか。

NPO法人ブラックスターレーベルは、アートやエンターテインメントの力で、社会課題の認知や行動変容を目指す映画レーベル。1作目となる映画『Dance with the Issue:電力とわたしたちのダイアローグ』は、レーベルの代表であり、これまでもさまざまなテーマの作品を生み出してきた監督の田村祥宏(たむら・やすひろ)さんが、コンテンポラリーダンスで社会課題を表現したいと感じたことから始まりました。

わたしがトレイラーを観て強く惹かれたのは、どのような学びを得るのか想像がつかないけれど、ダンスと社会問題、このふたつの掛け合わせによってあたらしい感覚に出会える予感がしたから。観終えた後に、エネルギー問題に感じる難しさや八方塞がりな感覚を打破してくれるのではという期待をもって、この映画を”体験”しました。

みんなが当事者であるという身体的な感覚

エネルギーの90%を輸入に頼る日本。そのため国際情勢に影響を受けやすく、エネルギーの安全保障は国として大きな課題です。また、日本における発電量の約8割を化石燃料に依存しています。

映画では、そうした事実を語るエネルギーの専門家へのインタビューと、ダンスパートが交互に展開していきます。冒頭に描かれるのは、生活の中に当たり前にある電気の存在。

ことばで伝えられる数字の情報と、電気が無くなると倒れこむダンサーのパフォーマンス。空気や水や食料と同じように、電気が生きるために必要不可欠なことを身体で理解し、無くなるのを想像すると苦しくなるような感覚を覚えます。

©︎BLACK STAR LABEL

インタビューだけだと距離を感じてしまう内容に、こうしたダンスパートが加わることで身体的な接点が得られ、自分との距離が縮まっていきました。

感じることでみえてくる、自分自身の大切なこと

インタビューに登場するのは、経済産業省、東京電力、シンクタンクの研究員や各地で自然エネルギーに取り組むキーパーソンたち。電力の仕組みや歴史、再生可能エネルギーの現状など、自らのことばでわかりやすく語っていきます。

連動するパフォーマンスは、時に演劇的に、あるいは美しいダンスとして、ことばとは別のかたちで観る人の心を揺さぶります。「何を表現しているのだろう」と思考し、感情移入することで浮かび上がってくる多様な視点。そこから自分なりの認識や感覚を選び取っていくプロセスのなかで、自分にとって大切なことの輪郭が見えてくるのです。

それぞれのダンスパートに「解はない」と田村さんは話します。たとえば、数人で岩を動かそうとする場面。動きそうもない大きな岩を押す人とそれを見ている人、途中から押す側に加わる人や離脱していく人たちの動きに、わたし自身は、一人ひとりの選択の持つ意味や責任を感じました。

都市と地方の関係性をイメージさせたパフォーマンス。それぞれに答えはなく、何を感じるかは自分次第 ©︎BLACK STAR LABEL

コンテンポラリーダンスの振付を手掛けたのは、東京2020開会式での振付も担当したダンサー・振付家の大宮大奨(おおみや・だいすけ)さん。「ストーリーに寄り添い、伝え切ることを意識して大奨さんと対話を重ね、表現は大奨さんに委ねました」と田村さんは話します。力強く美しい身体表現によって、「難しい」「複雑」「わたしとは関係ない」といった距離から解放されていきました。

対話し、選択していく未来

映画の持つ新しい可能性を目指し、『つながりのアップデート』をテーマに掲げるこの映画は、60分の映画パートのあとに、30分のリフレクション(内省)パートがあり、自分の内側に意識を向け、その後の対話を促す仕掛けになっています。わたし自身は、視聴後すぐ自分の想いを表現することに少し戸惑いを感じながらも、実際ことばに出してみて、また相手の感想を聞くことで、対話のハードルが取り除かれていくのを感じました。

上映劇場によっては、リフレクションパートを実施しない場合もあるそうですが、ワークショップなどの企画もあり、対話の場にも参加することでより体験を深められそう。また、教育現場での活用も期待されていて、この映画がさまざまな場所で対話を生み、広がっていく可能性を感じます。

最後のパフォーマンスシーン ©︎BLACK STAR LABEL

映画を通して受け取るのは、わたしたちが、いまの状況を認知し、対話し、選択していこうというメッセージ。エネルギー問題との接点を身体的に感じ、心が開かれていくことで、それは決して難しいことではなく、とても身近で、わたしたち一人ひとりに委ねられていることなのだと認識します。

わたしが最後のパフォーマンスから微かに感じたのは、変容の中で未来に向かう希望。
あなたはどんな感覚を味わうのか、ぜひ劇場で体感してください。

– INFORMATION –

『Dance with the Issue:電力とわたしたちのダイアローグ』

 
監督:田村祥宏
ダンサー:皆川 まゆむ / 大宮 大奨 / 高見 昌義 / 山中 芽衣 / 龍 美帆
インタビュー:山﨑 琢矢(経済産業省) / 平野 彰秀(NPO法人 地域再生機構) / 石橋 雄司(東京電力ホールディングス株式会社)/ 山田 純(会津電力株式会社)/真野 秀太(株式会社 UPDATER)/上野 貴弘(一般財団法人 電力中央研究所) / 柳 美樹(一般財団法人 日本エネルギー経済研究所)
2023年/日本/90分/カラー  
©︎BLACK STAR LABEL
公式サイト:https://dwi.blackstarlabel.org/

11月10日よりシモキタ – エキマエ – シネマ『K2』ほかにて順次公開

(編集: 廣畑七絵)